10~11月の小話(2) ~初めての餌やり~
「これがナマリーナ嬢のご飯なの!? ……ぶぐっ」
目の前に置かれた金属製のバケツの中には、謎の物体が入っていた。
灰色の粘土にマーブルチョコが加えられ……ううっ、なんか気持ち悪い。
それに、臭~い!
思わずハクちゃんの背中に隠れた私に、女神様は言った。
「失礼な奴だな。これはな、俺様が作ったスペシャル配合飼料だぞ! おちびの鯰なんだから自分で餌をやれ。で、これからはいろんな配合をナマリーナで試すから、食いつき等のデータをとっとけよ?」
そういう竜帝さんだって、ごっついマスクしてるじゃないですかー!
でも、言えなかった。
私は自分の口・鼻をしっかりと押さえていたので……。
竜帝さんは今日は特に忙しいらしく、足早に去って行った。
ナマリーナ嬢、お腹空いてるだろうし……がんばれ、私!
「りこ。大丈夫か?」
ハクちゃんの白皙の美貌は、全く変わらない。
平然として、臭いとも言わない。
鼻がいいのか、悪いのか……謎だよね。
「う、うん。なんとかなる……します!」
ハクちゃんの背中から出て、ハンカチを簡易マスクにしてバケツに近寄った。
ぶぶおうっ!?
目に匂いが染みる~、なんて強烈!
「よいしょっと……」
池の淵にバケツを移動し、腕まくりをしてからスコップを手に取った。
え~っと、ナマリーナ嬢は……底にいる。
金魚と違って動きが無いなぁ。
夜行性だから?
ま、とりあえずこの竜帝さん特製スペシャルご飯を……。
「く、くさ……とうっ!」
竜帝さんの指示に従い、スコップ山盛り4杯を池に投入した。
ナマリーナ嬢がちゃんと食べてくれるか気になって、池を覗き込んだ。
あれ?
無反応?
「ナマリーナ! ご飯だよ~。食べなよ、おいしいよ……多分」
身を乗り出し、水面すれすれで声をかけた私に悲劇が起こったのは数秒後。
「きゃあっ!?」
「りっ……!」
いきなり浮上したナマリーナ嬢が、水面にぷかぷか浮いていた餌に激しくアタックしたのだ。
全身で水をはね上げ、がつがつと餌を食べ始めた。
私はその水しぶきをまともにかぶってしまい……。
顔に、水以外のぺたりとした感触が……ひぃぃ~!!
顔も髪も……上半身がびしょぬれ、しかもあの激クサ飼料まみれになってしまい。
「うぅ……ひどいよ、ナマリーナ」
「り、りこが! 我のりこがぁああ~! なまっ、なっままま!?」
私以上にハクちゃんがびっくりしたようで。
びちゃびちゃでクサクサの私を抱えて、お風呂に転移してくれたものの。
湯船に直接転移してしまい。
上半身どころか全身びしょぬれになってしまった。
ナマリーナを殺すだなんだと物騒な事を言うハクちゃんをなだめつつ。
ふと、気がついた。
鯰の餌やりは。
スコップじゃなくて、柄杓にすべきなんじゃ……。
明日、社長に進言することにした私だった。
活動報告・10月23日掲載