表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
69/212

第66話

 竜帝さんを呼んで欲しいとのお願いに、ハクちゃんは……。


「嫌だ」


 と言って、そっぽを向いてしまった。

 絶句する私をよそに、持っていたスプーンをぎゅっと握り……ぐにゃって、折ってしまった。

 ちょっとだけ細めた金の眼で、折れたスプーンを数秒間ジーっと見て。

 そして、ポイッと放り投げた。

 こらっ、お行儀が悪いよ!


「……何故、この場に他の雄が必要なのだ?」


 好感度ゼロの冷たい美貌は、相変わらずの無表情。

 でも、私に向けられた瞳は……ん、この感じは。

 あれれ……なんか、拗ねちゃった?


「おい、カイユよ。我のりこに触りすぎだぞっ、とっとと離さんか。ダルフェ、呆けとらんでカイユを連れて行け。……ここで出産させる気か?」


 ハクちゃんの言葉に、ダルフェさんがピクリと反応した。

 ゆっくりと立ち上がり、小さな声で言った。


「そうですねぇ、はは……ここじゃぁ、ちょっと無理ですねぇ」


 力の抜けたような声。

 いつも笑顔が絶えない端正な顔は苦しげに歪められ……私の視線に気づいたダルフェさんは、両手で顔を隠して言った。

「情けないねぇ。みっともねぇ顔してんでしょ、俺? ハニー……カイユ、カイユ」

 ダルフェさんはカイユに歩み寄り、私に巻かれた腕をそっと外してカイユさんを抱きしめた。

「カイユ、ごめん……俺、ちっとも気づかなかった。ごめんな……アリーリア」


 アリーリア。

 カイユさんのつがい名?


 ダルフェさんは私の前で、その名前でカイユさんを呼んだことは一度もなかったのに……。

 カイユさんの銀色の長い髪を撫でる彼の手は小刻みに震えていて、私はますます不安になった。

「……何を謝ることがあるの? なんで、貴方が謝るのよ。おかしな人」

 カイユさんはダルフェさんの腕の中で、不思議そうに……小さな声でつぶやいた。

 そうだよ、赤ちゃんが産まれるってとってもおめでたいことだよね?

 なんでダルフェさんは……。

 おかしいよ、変だよ。

「ハクちゃん、とにかく竜帝さんを呼んで来て! ね、お願い……ハク」

 ハクちゃんは私を見て……数回、瞬きをした。

 な、なに?

 私の顔になんかついてるの? 

「お願い? りこのお願い……わかった」

 顔を寄せ、私の唇に軽いキスをしてから転移した旦那様にほっとしつつ。


 ふと、気がついた。


「あ。……ハクちゃん、ガウン1枚着てるだけだった!」

 ご飯の前に着替えてくればって言ったのに、面倒だからいいって言ってそのままだった。

 私のお父さんも面倒くさがりで、お風呂出た後はトランクス1枚で家の中をうろうろしちゃう人だったから、ハクちゃんの格好があまり気にならなかったけど。

 (パンツ一丁のお父さんより、ガウンのほうがましだし)

「……もう行っちゃったんだし」

 あんな姿でふらふら歩いてるのを見られたら、通報されちゃうのかな?

 でも、転移なら廊下をあのだらしない(しかも妙に色っぽい。無表情だから抑えられてるけど、あれが男の色気というやつだろうか?)格好も、人目に触れることはないはず。

「へ……平気だよね?」

 手遅れだしね、うん。



 私はさっきまで使っていたクッションを、急いでソファーに並べなおした。

 出産が近いカイユさんを立たせておくなんて……よし、ばっちりなのです。

 ここに横になってもらおう。

「ダルフェ! カイユをここに……」

 ダルフェさんは頷いて、カイユさんをそっと横たえた。

「ハクちゃんが、竜帝さんを連れて来てくれますから。……ダルフェ、大丈夫ですか?」 

 彼は手の震えもおさまり、顔色もかなり良くなっていた。


 でも、私の不安は消えない。

 

「姫さん、ありがとな。旦那が戻ってくるまで俺と……父様と一緒に母様の側にいてやってくれ」

 父様?

 父様って……ダルフェさんまで、どうして?

 よく冗談で自分のことを‘父ちゃん‘って、言ってたけれど。

 今のは、そんなんじゃないよね?

「わ、私……カイユっ?」

 ソファーの前に膝を付いてカイユさんを覗き込んでいた私を、カイユさんは腕を伸ばし引き寄せた。

 胸に抱き、髪を優しく撫でてくれながら言った。

「私の可愛いお姫様。そんな不安そうな顔をしないで、母様は大丈夫よ。……さっきから、どうしたの? いつもみたいに母様って、呼んでちょうだい。私、あなたの母様なのよ? 私はお腹のこの子とあなたの、2人の子供の母親なんだもの。私はあなたの母様……母様なの」

 混乱したように言うカイユさんをなだめるように、ダルフェさんが長い銀髪を手に取り口付ける。

「出産が近づいて気が昂ぶるのは分かるが、娘を不安にしちゃ駄目だよ? 母親の君が取り乱したら、この子が心配する。この子もまだ幼いんだから……親である俺達が、しっかりしなきゃ」

 鮮やかな緑の眼を細め、優しく……優しくカイユさんのお腹を撫でながら言った。

 柔らかな笑みなのに。

 それを見た私の心は切なく……ううん、痛くなった。


「……母様」


 私はカイユさんを力いっぱい、抱きしめかえした。


「母様」


 なぜカイユさんが私を娘と間違えてるのかは、分からないけれど。


「母様。お産、頑張ってね。弟ができるの、私……とっても嬉しい」


 貴女がそう言うならば、それでいい。


「母様。少し休んで落ち着いたら、ダ……父様にお産の場所に、連れて行ってもらおうね。あ、ハクちゃんに術式で送ってもらう?」


 抱きしめ、抱きしめられて。

 体中に、心に、貴女の優しい香りが満ちる。

 不安だった気持ちが……安らいだものに変わっていく。


 ああ……そうだったんだ。

 やっと、分かった。

 カイユさんのあの懐かしい香りは……お母さんの匂いだったんだ。 


「……母様。母様がいない間、お城から出ない。母様達が帰ってくるのを、ハクと待ってる」


 お母さん。


 二度と会えない、大好きなお母さん。


 私はずっと、お母さんの娘。

 それは永遠に変わらない。


 いなくなって、ごめんなさい。


 苦しめて、ごめんなさい。


 私、なんて酷い娘。


 忘れないでって、覚えていて欲しいって思ってしまう。

 お母さんを苦しめるの、分かってるのに。


 私、なんて酷い娘。


 お母さん。


 お願い。


 お母さん。


「ねえ、母様」


 忘れないで。


「弟の名前、なんていうの?」


 私を。


 忘れないで。





  

  


「来い。りこが呼んでいる」

 執務室に転移した我は机の上の書類に埋もれていた青い頭を左手で掴み、そのまま持ち上げた。

「うおっ!? またてめえか、くそじじい!」

 <青>が足をばたつかせたので使っていた椅子が音を立てて倒れ、乱雑に重ねられていた本や書類が執務机から落ち床に散乱した。

 インクがこぼれ、周りに黒い染みを作った。

「ぎゃあっ、せっかく仕上げた書類がー! やっと終わって飯が食えるはずだったのに……しかも、んな格好で現れやがって! くおらぁっヴェル、猥褻罪で牢にぶち込むぞ!」

 目的の物体を手にした我が、すぐ転移しなかったのは<青>が暴れたからではない。

 もちろん、猥褻罪がどうのと<青>が喚いたからでもない。


 邪魔が入ったからだ。


 執務室の内部に外への転移を防ぐ術式が展開され、天井の照明によるものではない薄青の光が細かな点滅を繰り返し室内に満ちていく。


「陛下は大怪我をしている……貴方のせいで。手荒なまねはやめていただきたい」


 居たのはわかっていたが、用があったのは<青>なので気にも留めていなかった。

 <青>の竜騎士達と同じ騎士服を身につけた、人間の男……契約術士クロムウェル。

 彫りの深い顔立ち。

 浅黒い肌に濃茶の目。

 白髪混じりの黒髪を短く刈り上げ、鍛え上げられた大柄な身体は竜族の<青>よりも長身で……体躯的にはちびの<青>より、この男のほうが竜族のようだ。

 猛禽類を思わせる容貌には、以前には無い皺が加えられていた……白髪も無かったな。

 

 人間が老いるのは、やはり早い。


「この馬鹿っ、下がれクロムウェル、死にてえのかっ!」

 

 アンデヴァリッド帝国の将軍の地位も大貴族としての名も捨て、ただのクロムウェルとして<青>の契約術士になったこの男は、術士としても武人としても優秀な人間だが。


「愛しい貴方をこのように傷つけた男に、文句の一つくらい言わせて下さい。貴方に恋焦がれ、帝都に移住して24年。この方にはいろいろ苦労させられましたが……今回の<監視者>殿の仕打ちは目に余る。あのような惨いことを……陛下は私の未来の花嫁なんです。万が一、死んだらどうするんですか?」


 我から見ても。

 少々、変わっていた。


「誰が花嫁だ! そんな未来は存在しねえっ。あのなぁ~、クロムウェル。何度も言うが俺様はつがいの雌を嫁にもらうんであって、お前の嫁にはなれねえよっ! 24年間ずーっと言ってんだろうが!」


 この男は<青>に‘片思い‘しているのだと、ダルフェが言っていた……楽しげな笑みとともに。


「つがいに出会うまででかまいません。人間の私は後数十年で死ぬんですから、少しくらい付き合ってくれても良いと思います。貴方が結婚して下さらなかったから私は独身のまま、今年で52になってしまいました。情人にすら、してくださらない。貴方は理想の女王様です。……絶対、諦めません」


 クロムウェルよ。

 お前は我に、文句を言いたかったのではないのか?

 我の存在を無視しておる気がするのだが。


「じょ、女王様!? 気持ち悪いこと言うな! さすが、あのダルフェのマブダチだな……もう喋るな黙れ、変態! 第一なぁ俺様は男は駄目だ、嫌だ。ごつごつした岩石みてぇなお前より、乳のでかい女が良いに決まってんだろうがっ!」


 <青>は乳にこだわりがあるのか。

 ふむ。

 やはり、まだ子供だな。


「愛の前には性別や巨乳なんて、関係ありません」


 躊躇い無く言い切ったクロムウェルに、<青>が叫んだ。


「かっ、関係大有りだーっ!!」


 ダルフェ、そしてりこよ。

 これが‘変態‘というものなのではないのか?

 世情に疎い我では、他に変態の見本に心当たりが無い。

 男色家であることが変態だと思わぬが、クロムウェルは変態だと<青>が以前からよく言っていたので、我の中では変態=クロムウェルなのだ。


 この男は帝国からの使者として<青>に謁見し、その場で即求婚した。

 異種である竜族に、しかも竜帝に衆目の前で堂々と言ったのだ。


 ー陛下、私と結婚してください! 婚姻が不可能ならば、情人でもかまいません。あぁ、私はこれより生涯……この命尽きるまで、美しく気高い貴方様の<愛の奴隷>です。


 土下座し<青>の足に口付けた大柄な将軍は、瞬時に<青>に蹴り飛ばされたが。

 血反吐を撒き散らしつつ……何故か恍惚とした表情を浮かべ、さらに大声で愛を誓った。

 

 アンデヴァリッド帝国の将軍としてだけでなく、優れた術士と軍人の才を兼ね備えた傑物として有名だった男の異様な行動・発言に、城内は騒然となり……その醜聞は大陸中を駆け巡った。

 その後、国を出奔したクロムウェルは契約術士として<青>に自分を売り込んだわけだが。


 <青>は頷かなかった。

 理由はこの男が本物の変態だからだと、<青>は言った。


 <青>が変態だと指摘する、よくわからん性癖はともかく。

 術士としても武人としてもなかなかの逸材であったので、渋る<青>にこの男を買えと我は言った。


 <青>の貞操問題など、はっきり言って我はどうでも良いからな。

 つがいを得るまでこの男を情人にしようが奴隷にしようが、我には関係ないことだ。


「相変わらずだな、術士クロムウェル。お前の趣味は我には全く理解できん。これのどこにそんな魅力があるのか、さっぱり分からん。女王? 成長不良でちびの<青>だが、れっきとした雄竜だ。確かに哀れなほどささやかなものしか、こやつには付いとらんがな」


 我の言葉に、<青>が暴れだした。

 またも顔が赤くなっていた。

 りこが顔を染める姿はとても愛らしく、我の繊細な心臓は‘どきどき‘してしまうのだが、こやつが赤くなっても我の心臓は‘どきどき‘しない。

 ふむ。

 りこは、我を‘どきどき‘させる天才だな!


「ぐぎゃーっ!! な、な、何を言って……てめぇっぶっ殺すぞ、じじい!」

 <青>が我を蹴ろうとしたので、右手で両足首を一纏めに掴んだ。

 まったく、手間がかかる。

「は、離せ〜ヴェル!俺よりちょっとでかいからって、いい気になりやがって! 鍛える、俺様は筋肉だるまになってやる!」

 的外れな文句を言う<青>に、クロムウェルが言った。

「やめてください。貴方はそのままでいいんです。それに鍛えたって、肝心な場所は変わりません。で、<監視者>殿は何故そんなことを知っているんです? 男は駄目だと、以前に言っていたと思うのですが……何故です?」


 剣呑な視線を隠さず、我に問うてきたので答えてやった。


「<青>を不能にしようかと思ったので、成り行きで確認するに至っただけだ。ふむ……男だけでなく女も、我はりこ以外は全て駄目になった気がするな」


「貴方の下半身事情は、訊いとりません」


 クロムウェルは、なかなか面白い。

 この男は我が竜体だろうと人型だろと、我に向ける<眼>が変わらぬ。

 


 これは竜帝を……<青>を全く恐れない。

 それは生物として異常なことだ。

 人間という種は、強者である竜を本能的に恐れるものだ。

 好意を持とうと、根源にあるものは無くせない。

 竜族に恋情を抱く人間も多いが、それは竜族が人型を持つためにおこる【錯覚】に近い現象だ。

 竜としてではなく、自分と同じ<人間>として好意を抱く。

 脳の表面では竜と認識しているのに、同時に竜であることをその脳内で否定し受け入れていない。

 心の奥底では竜族本来の姿……人間共が大蜥蜴と皮肉る竜体には畏怖と恐怖、そして嫌悪感を持つ。


 ‘竜族だろうとかまわない‘

 竜に愛を囁く人間の使う文句には、竜族という異種への抵抗感がよく表れている。

 <青>もそう考え、クロムウェルに暫く竜体のみで接したが……この男は竜体の<青>にも愛を告げ、変わらず欲情した。

 つまり。

 この男の目には人型も竜体も、<青>という個体として認識されている。

 生まれて初めて遭遇した【変態】の扱いに困り果てた<青>に乞われ、これの頭の中を視たが……<青>への恐れが、存在しなかった。

 

 これは少々、面白い。

 そう思った。


 人間であるりこをつがいにした我にとって、クロムウェルの脳は以前よりも興味深い。

 我はりこの頭の中を視れぬ。

 視ようと思えば可能だが、それはしてはいけないと強く思う。


 何より……怖くて無理だ。

 

 りこは竜族である我を夫として受け入れ、愛してくれている。

 知っている、分かってはいるが……りこは人間であり、異界人なのだ。


 我の【気】と体液の影響で意識の半分がまどろんだ状態のりこに、我は問うてみた。


 ーりこ、りこよ。我が人型を失っても、夫でいさせてくれるか? 竜体の我とも、こうして交わってくれるか?


 自分で聞いておきながら、なんだが。

 りこの答えには、さすがに驚いた。


 りこは躊躇いなく答えたのだ。


 ーうん。竜体のハクちゃん、好き……大好きだもの。


 我に向けられた金の眼は蕩け、潤んで……我はとてつもなく‘どきどき‘してしまった。

 どきどき真っ最中の我に、りこは自分から‘ちゅう‘をしてくれた。 


 竜体の我を、非常に好んでおるのは知っていたが……そこまでとは。


 嬉しかった。

 嬉しかったが……。


 むむっ?


 自分で自分に、嫉妬してしまいそうだ。

 己のライバルは己だ、という言葉を聞いたことがあったが……このことなのだろうか?

 

 恍惚とした笑みを浮かべ我に身体を撫でられるりこを見ていたら、この状態はいつもと逆だなと思い。

 軽い気持ちで訊ねたのだが……。


 竜体での交尾は不可能だ。

 言ってみただけで、実際には有り得ない。

 

 すまん、りこ。


 がっかりさせてしまったな。

 期待に添えない、不甲斐無い夫を許してくれ。

 その分、人型で頑張るのでな。

 ん? そういえば。

「クロムウェルよ。お前は<青>の竜体にも欲情しておったが、どう扱うつもりだったのだ? 参考までに教えろ。実演するならこれを使え。我が許可する」

 <青>を差し出した我に、変態術士は言った。

「私がするんじゃないです。道具……とりあえず鞭を部屋から取ってきます。陛下は他に何か希望がありますか? なんなりと、仰ってください」


 道具?

 鞭……はて?

 全く想像ができん。

 が、こやつは我の参考にならん気がする。


「て、てめえら! ふざけたこと言ってんな、腐った会話は止めてくれ~! じじいっ、さっさと連れてけよ。いかにも事後ですってままのヴェルを寄越したんだからな。よっぽどの事なんだろうし……何があったんだよ? ってか、てめぇ~、おちびに嫌がられるような変なことしたんじゃねぇのか? じじいの下半身についての苦情なら、勘弁してほしいんだけどなぁ。いくら竜帝だって、どうすることもできないからな」


 そうだった。

 りこの‘お願い‘は<青>を連れて来ることだったな。

 変態と会話している場合ではないのだ。


「おい、術式を解けクロムウェル! このじじいは、お前にどうこうできる相手じゃない。反対に跳ね返ってお前が怪我するだけだ。自分でもわかってんだろう? ……下がれ、術士クロムウェル。俺の命令がきけぬならお前は首だ。帝都から出て行け」

 表情を消し、感情を抑えた<竜帝>の顔で<青>は言った。

 クロムウェルは<青>の髪を一房手に取り口付け、深々と頭を垂れた後。

「<監視者>殿。ふしだら極まりない貴方に育てられたのに、陛下はなぜこのように真面目でまともなんでしょうか?」

 我に茶の眼を向け、不満を隠さぬ声音で言った。

 確かに、他の四竜帝と比べると<青>は‘真面目でまとも‘だが。

「我は、これを育てとらん」

 我は<青>を育ててなどいない。


 ただ‘居た‘だけだ。


「俺、育てられてねぇし!」


 本人もそう言っておるぞ?

 お前は面白いことを言うな、クロムウェルよ。


「……自覚が無いって、恐ろしいですね。陛下、私は食堂に行って夜食を用意してきます。なるべく早めに帰ってきて下さい。新婚夫婦の所に長居するものではありません」

 変態は、そう言って笑った。

 笑うと目元の皺が、深まった。






「さっさと行こうぜ、ヴェル。おちびが呼んでんだろう? よしっ! 鬼サド男の嫁になっちまったおちびの愚痴を、俺様が聞いてやろうじゃないか!」

 我に頭頂部と両足首を掴まれた状態のまま、<青>は妙に晴れやかな笑顔を浮かべて言った。

「違う。カイユが産気づいたのだ。雄しか孕んでいなかった事が分かりダルフェが使い物にならんので、りこはお前を使うのではないか? 我と交尾後の艶やかなりこを、雄竜であるお前に見せるのは非常に気に入らんが……りこのお願いには、我は逆らえんからな」

 笑顔が消え、困惑気味に青い眼が我を見た。


「え? ちょっと待て! ダルフェの……<色持ち>の子は双子のはずだろうがっ!」


 ダルフェの子は双子。

 雄と雌。

 誰もがそう思っていた。


「今回は双子でなかったようだな。そんなことより……我はカイユをりこの<母親>として、黒の大陸にも同行させる。手続きをしておけ<青の竜帝>よ」


 この城の、この大陸……世界中の竜族がそう思っていた。

 カイユの周り全てが、双子だと決め付けていた。


 母体であるカイユと、異界人であるりこ以外は。


「母親? な……なに言ってんだよ? それに雄だけって!? 双子ができるから、<色持ち>の寿命は……どうしてだよっ、そんな! なぁ、教えてくれよっ、ヴェル!」


「さあ。我は知らぬな」


 双子であるべきは胎の子は、雄しかおらず。

 体と心に開いた穴を、カイユはりこで埋めた。


 <色持ち>のダルフェは数十年で死に、カイユと子は残る。


 それだけのことだ。


「知る必要も、興味も無い」


 我は忙しい。

 いろいろ、途中なのだ。


 菓子でのあ~んが途中であるし。


 何より……りこの身体が【途中】なのだ。


 りことしては力を込めて、我をクッションで叩いたのだろうが。

 あれでは羽虫も殺せまい。

 そよ風のようで、心地よいほどだった。


 今回も。

 肉体強化は、うまくいかなかった。


 やる気など。

 やはり、当てにならん。


 やる気だけでは、竜体で交尾することもできぬしな。


「カイユの子も貰っていく。……雄というのが、気に入らんがな」



 ラパンの花が咲いたら、この大陸を出よう。


 我と、りこ。

 そして。


 りこの竜騎士達と共に。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ