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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
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第57話

 お風呂から出て。

 温室に戻って数分で、カイユさんがやって来た。

「カイユ!」

 アオザイに良く似たデザインの服は薄いブルーで、とても素敵。

 儚げで清楚な雰囲気の彼女の美しさが、ますます引き立って。

 艶やかな牡丹のような美人である竜帝さんと対照的な、睡蓮の花のような美しさで。

 ハクちゃんを抱っこしたまま、私はカイユさんに駆け寄った。

 会えなかった時間は丸1日……けれど、なんか久しぶりに会えた感じがして。

「カイユ、お仕事は? あっ! 竜帝さんを迎えに来たの?」

 細い腕で、ロッカータンスに車輪が付いたような大きな物を軽々と押している。

 相変わらず、見た目から想像不可能な怪力なのです。

 カイユさんは私の好きな、透明感のある微笑を浮かべて。

「私は溶液調整を担当していたので……溶液から出た後の陛下の面倒は、医療班にまかせます。トリィ様、カイユがお側にありますからご安心下さいませ。気の利かない雄共ばかりで、お困りだったでしょう?」

 カイユさんが居ない間?

 ま、まさか……ダルフェさんとハクちゃんの事?

「え、ううん! 大丈夫でしたよ! ダルフェもハクちゃんも、良くしてくれてるもの」

カイユさんは私のまだ、乾いていない髪に手を伸ばし。

「そうですか……さ、お部屋で御髪を結いましょうね。トリィ様に似合いそうな飾り紐を、幾つか持ってきましたの。生花もありますよ? ヴェルヴァイド様にも見てもらいましょうね。 ……陛下、この中に衣服が入ってますから適当にどうぞ」

 え?

 適当にって……それはまずいんじゃ。

 竜帝さんは怪我してるんだから、着替えを介助してあげなきゃっ!

 あんなに包帯だらけじゃ、身体が動きにくそうだし。

「カイユ。私のことより、竜帝さんを助けてあげて。あ、私も手伝いますっ」

 私の意見は本人により、速攻却下されてしまった。

「……俺様に止めを刺す気かよ? カイユ、おちびをさっさと連れて行け」

 

 

「我が<青>に手を貸そう」


 一瞬。

 誰もが幻聴かと……。


「我は<青>とこの場に残る。カイユ、我が妻には生花が似合う。そうだな……我の鱗に似た色の花が良い」

 幻聴じゃない!

 この念話はハクちゃんだっ!

「ハ、ハクちゃんが竜帝さんを……! 偉いよ、ハクちゃん! やっぱりハクちゃんって、優しいんだよね」

 感激だよう〜、ううっ。

 なんだかんだ言ったって、竜帝さんに怪我させたことを反省してたに違いない!

 包帯だらけの痛々しい姿を見て、後悔してたんだね?

「じゃ、私はカイユに髪の毛を結ってもらうから。ハクちゃんが言うように、白いお花をつけてもらうね! ハクちゃんは竜帝さんをお願いします」

 この時、私は。

 私以外には少々冷酷な所があるハクちゃんが、初めてみせた他人を思いやる言葉に感動し。

 カイユさんと竜帝さんの表情は、全く見てなくて。

「……では、ここはヴェルヴァイド様にお任せしましょう。トリィ様、参りましょうね」

 カイユさんの優しい手が背に添えられて。

「はい。ありがとうカイユ、行ってきますハクちゃん」

 あんまり嬉しくて、お風呂で気になった身体のこととかどうでも良くなって。

 それに。

 多少、身体が変わったとしても。

 私の事を1番に考えてくれるあの人が、私に害のあるような事をするはず無いんだし。

 時間とタイミングの良さそうな時にでも、質問すればいいし。

 他の人が居るところじゃ、ちょっと聞きにくい内容だし。

 支店での初エ……エ、エッチ(ひいえぇ〜!)が原因で、眼以外にも私の身体は何か変わったのかなんて。

 うう〜っ、皆さんの前じゃ聞けないよ!

 ハクちゃんは繊細で泣き虫なのに、デリカシー無いんだもの。

 ダルフェさん達に私……異界人の身体の造りは、こちらの人間の女性と同じだったって平気な顔で報告するくらいだし。

 恐るべし天然っぷりだよね、くっすん。

「りこ、カイユと行ってくるが良い。花を髪に飾ったりこは、とても愛らしい。我は大好きだぞ」

 ハ、ハクちゃん……地球に生まれてたらイタリア人だね、きっと。

 この言動は絶対、日本人じゃなーい!

 ハクちゃんは私の左の頬にキスをして、ふわりと飛び。

 竜帝さんの青い頭の上に、ちょこんと座った。 

 小さな竜を頭に乗せ、温室の床にぺたんと座ったちょっと膨れっ面の青い髪の美女……美人。

 なんか、すごく微笑ましくて。

 ハクちゃんは竜なんだし。

 同じ竜族の帝都に移動してきて、やっぱり正解だったな〜って思った。

 支店でも感じたけれど、竜族の人達はセイフォンの人達とは違う。

 カイユさん……特にダルフェさんは、ハクちゃんに始めからフレンドリーで。

 小さなミチ君達だって、ハクちゃんを怖がるってよりは興味津々って感じだった。

 セイフォンでは……セシーさん以外はハクちゃんを見る眼が、恐怖心に満ちていて。

 悲しかったし、こんなあからさまな反応は嫌だなって思ってた。

 ハクちゃんは<監視者>っていうお仕事(私は未だに、彼の仕事内容がよく分かっていない)してるらしいんだけど。

 理由無く他人を傷つけたり暴れたり、物を壊したりなんかもしないし。

 私の事で揉めなければ、基本的には大人しくて良い子(あの頃は大人だと思ってなかった)だったから。

 セイフォンの人達のあの眼、反応は……ショックだった。

 帝都……竜族の都であるここでは、ハクちゃんをあんな眼で見る人はいないよね?

 私さえ、注意して行動すれば。

 ハクちゃんと2人で……微笑みながら、穏やかに暮らせるはずだ。

 竜帝さんとも、なんだか良い関係みたいだし。

 友達……じゃなくて、歳の離れた兄弟?

 んー、なんか違うなぁ。

 

「トリィ様?」

 足を止めてしまった私を、カイユさんが……ちょっとだけ不安そうな顔をして言った。

「どこか痛みますか? ご気分は大丈夫ですか?」

 痛み、気分……。

 あれ?

 そう言えば。

 泥棒(?)のおじさんはどうしたかな?

 化け物に追われてたって言うのは、嘘だったんだよね?

 なんか、変かも。

 ハクちゃんは私に一言も聞かない。

 誰に頬を叩かれたか。

 約束したのに、どうして薬草園から出たのかすら聞かない。

 心配性で超過保護の、ハクちゃんが。

「へ……平気です。行こう、カイユ」

 私はカイユさん手をとり、早足で部屋に向かった。

 あの時、ハクちゃんは少々取り乱したなんて言ってたけれど。

 本当は、かなり危ない状態だったはずで。

 ハクちゃんの頭の中も、混乱しちゃっただろうし……だからかな?

 せっかく落ち着いてる状態に戻った彼に、わざわざその原因になった事をこちらから話すのもなんだし。

 見習い(?)騎士さん達が追って行ったんだから、捕まってるだろうし……。

 もう、ハクちゃんを刺激したくない。

 彼から何か言ってくるまでは、その事には触れずにいたほうが……うん、そうしよう。 

「この部屋、お気に召しました? 気に入らないところがあったら、遠慮なく仰って下さいね?」

 カイユさんは寝室にあるドレッサーの前に私を座らせてくれ、髪を梳いてくれた。

 優しく、丁寧に……。

「ここ、素敵です。でも、あの……そのベッドがっ。お、大きくてびっくりしちゃって! あ、お風呂も大きくて凄いなってっ」

 言いながら、顔が熱くなる。

 だって、だって……思い出してしまったのだ。

 今朝の事を。

 朝、起きて。

 ハクちゃんがパジャマを脱ぐのを手伝ってあげて、ハクちゃんが小さな手で丁寧に畳んで。

 私も着替えよ〜って……思ってたら。

 思ってたら……ハクちゃんが、ハクちゃんがぁあああ〜! 

 

 ハクちゃんって、変わってる人だとは思ってた。

 でも……あの人、ちょっと変なんだろうか?

 ちょっとどころじゃなく。

 もしかして、かなり変なんじゃ……。

 竜帝さんも、ハクちゃんの感性がどうのって言ってたよね?


「トリィ様? ……どうなさいました?」

「えっ、いえ! なんでもないです、うん! 問題無しです、た、多分っ!」

 思わず両手で、顔を隠した私に。

「……もし、‘問題‘を感じたら、カイユに仰ってくださいね」

 にっこり笑って、カイユさんは言った。


 カイユさんったら、勘が良すぎます!

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