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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
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第4話

「やっぱり、夢落ちは……なしか」


 起きて、がっくり。

 爽やかな空気はちょっと寒い。

 外だしね。

 ま、晴れで良かった!

 うん。

 雨だったら部屋に毛布を戻しにいけないし。

 借り物だから濡らすわけにはいかないよ。 

 

 あ、ハクちゃん !


 抱っこして寝ちゃった、私?

「おはよう、ハクちゃん。ごめんね、窮屈だったでしょう?」 

体を起こしつつ、ハクちゃんを膝の上に置いた。

 ハクちゃんが夢じゃ無くて、良かった!

「いや、窮屈ではなかった。少し困っただけだ」

 ハクちゃんは私の膝の上に……変な格好で座った。

 お尻をついて両足を上げ、手はグーにして万歳していた。

 ありゃ、足先もグーにしてる。

 変だけど、かわいい!

 体重は軽い……恐ろしく軽い。 

 膝に乗ってるのを感じる程度。

 鳥とかって飛ぶために骨がすごっく軽く出来てるって、中学生の時に習った気がする。

 ハクちゃんもふわふわ飛んでたし。

 骨はすかすかで、肉はぱさぱさだったりして!

「ぱさぱさお肉か。……まずそうだね、ハクちゃんって」

 しかも乱暴に扱ったら、骨が折れたりして?

「我を食いたいのか? 味は保障できぬが良いぞ。どこが喰いたい? りこの好みの部位をもぐから。さあ、遠慮なく言え」

 ハクちゃんは両手両足をにぎにぎしつつ、ホラーなことを言った。

 私は絶句した。

 まずそうだねって言ったのに、何で食べたいのかって答えるかな。

 いやいや、つっこむのはそこじゃ無いし!


「た、食べたくない!」


「人間は朝食なる習慣があるのだろう? 異界人が竜を食べるとは知らなかった。竜の他は何を食べるのだ? 今後の為にも聞いておきたい。我の身体ばかりでは栄養が偏るだろう? ああ、我としては一番美味な部位を食させたい! りこが‘もうハクちゃんしか食べたくない‘と思ってくれたら!」

 私の食べたくない発言を綺麗にスルーしたハクちゃんは、握っていた手を開き自分の真珠の様な輝きのある体をせわしなく触り始めた。

 ぽっ。

 かわいいな~、この動き。

 かわいいからちょっと様子を見よう。

 訂正はすぐ出来る!

 この超かわいい姿を堪能致しましょう!

「どこも硬いな。しかも鱗があって、食べにくそうな……。鱗を剥がさねばりこの口腔が傷つく。ああ、人間は料理をし、食べにくい食材を食するに適した状態にするのだな。料理人を調達し、そやつに我の最も柔らかく美味そうな部位はどこか助言をさせるとしよう! りこ、すまないがちょっと待っててくれ。急いで料理人を確保し、速やかに調理させるゆえ」

 金の眼をくるっと回し、ふわりと浮かび背を向けたハクちゃんを私は慌てて引き止めた。

 この子の思考回路はどうなってんのよ!

 竜なんて食べないし、私の世界には存在しないし……てか、ハクちゃん死ぬ気?

 たかが朝ご飯のために自分を犠牲にするなんて、キリストも真っ青の博愛精神?

 そんなのノー・サンキューです!

「ごめん。ハクちゃん! 私の世界も竜は食べないし!朝食、今日はいらない。お腹すいてないし」

「遠慮はいらぬぞ? 我は竜族の中でも最高の再生・治癒能力がある。肉を取られたとて平気だ。試したことは無いが、確信している!」

 手を腰に当て、何故か偉そうに言うハクちゃん。

 そのポーズ、ナイス・ラブリー! ……じゃなく!

「ハクちゃん。私はあなたを食べるなんて無理だよ。もうペット感覚というより、友達みたいに感じてるんだから。それに私は肉は少し、苦手なの。気持ちだけで充分」

 私はちょっとうるっときた。

 ハクちゃんは私の為に自分を食料に……。

 ハクちゃんが人間だったら即・恋愛な気もする。

 竜だから友達だけど。

 待て、私! 

 そうだった。

 婚約者がいるんだった。

 こっちの世界で恋愛する権利が無いかも。

 私が帰れない場合、せめて手紙を送れないかな。

 お母さん達に無事を知らせたいし。                             


「りこ! りこは友達では無いぞ?勘違いしているな」

 

 なんですと?

 私の朝ごはんに立候補するほどだったじゃないのよ!

 あっ、ため息をつきましたね。

 ちょっと、感じ悪いな~。

 ため息姿も可愛いけどね。

「私が違う世界の人間だから、友達不可なの? 親切(なんか違うかな?)にしてくれたから私、てっきり……」

 ううう~。 

 へこんできちゃったよ。

 まさに‘凹‘って字な感じ。

「りこは‘つがい‘だ。友達関係ではない。……感情が暗くなったな。なぜだ?我はりこの思考を勝手に読むことはしたくない。我に向かって‘話‘をしてくれ。りこは大切な‘つがい‘だ。永遠の‘伴侶‘なのだから」

 ちょっと待て。

「人間社会では夫婦とも言うんだったな。ふむ。夫と妻か。だが人間は相手を自由に変えるが竜は違う。我の妻はりこだけだ」

 ちょ……ちょっと待って!

 ハクちゃんの言ってる内容って、かなり重要だよね?

 つがい・伴侶・夫婦・夫・妻……妻!

 このおちび竜の妻?

 妻って……こっちの世界って異種結婚ありってこと?

 いやいや、そこじゃなくてさ。

 いつ、ハクちゃんとそのようなロマンスに?

 まったく無かった気がする。

 高校生の時に呼んだ異世界トリップ小説だとラストはイケメンと結ばれるけど、その前にいろいろ主人公達の甘酸っぱいエピソードが……。

「落ち着け、私! 第一、私には安岡さんっていう恋人(一応)が、婚約者がいるじゃない。ハ……ハクちゃん、困るよ。私、秋には結婚が決まってるの」

 元の世界に帰れたらだけど。

 あ、早く昨夜のイケメン君と美少女に詳細を確認しなきゃ。

 帰れるのかどうなのか。

 すぐに帰れるのか、時間がかかるのか……帰れないのか。

「だから、ハクちゃんの妻には……!」


 固まってた。

 ハクちゃんが。


 私の眼を下から覗きこむ姿勢で。

 金の瞳を見開いて。

 精巧な人形のように。


「ハ、ハクちゃん。あの、その」

 罪悪感を感じた。

 きっと、私がこちらの世界のことが分からないから。

 知らないうちに私から、プロポーズ的な言動をしたのかも。

 思い当たるような甘いやりとりは無かったけど。

 きっと、なんか勘違いさせることをしちゃったんだ!

「えっと、そのね。あのね…あ」

 びっくりした。

 ハクちゃんの金の眼から小さな真珠? 

 みたいなものがぽろぽろと溢れ出て、地面に転がっていく。

 金の眼は瞬きすらしていない。


 金から純白が生まれる。


 とめどなく生まれ・溢れ・転がる……。

 幻想的で美しく……悲しい光景だった。


 ああ、泣いてるんだ、ハクちゃんが。


 綺麗なハクちゃん。

 綺麗な……綺麗な涙。


 朝の日差しが反射して、きらきら光ってる。

「ごめんなさい……ごめんね、ハクちゃん。私……」

 言葉に詰まっってしまう。

 なんて言ったらいいのか。

 どうしよう。

 傷つけた。

 私はハクちゃんを、とっても傷つけたんだ!


「……許さない」


 頭の中に強く響いた。

 痛いくらいに、強く、深く。

 怒ってるんだね、無理ないよね。

 瞬きをゆっくり一回した金の眼から、溢れていたものが止まった。

  

 「りこは我の‘つがい‘だ! りこを我から奪う者は<処分>する! りこが元の世界に帰るなら共に行く。恋人も婚約者も消す」


 なっ?


「りこを帰す術式は存在しないから、婚約者とやらの<処分>は後回しだ。禁を破って完成させる術士がいるかもしれんな。では、世界中の術士を殺してしまえば良い!才能のある者から<処分>するのがよいな。この国なら……まずはミー・メイからだ。うむ、よい考えだ」


 ハクちゃんは何を……<処分>とか殺すとか、どうしてそんな怖いこと。


「りこ、りこ!安心するがいい。我が憂いを片付ける。我は<監視者>。この世で最も力ある竜。これからは‘つがい‘であるりこの為に力を使おう!りこさえ居てくれれば世界の秩序などどうでもよい」


 ハクちゃんは私の否定を聞いてなかったの?


 ああ、そうか。


 受け入れなかったのね。

 どうして……私なんかに執着するの?

 女子高生みたいに若くないし、絶世の美女でもない。

 スタイルだって並みなんだよ?

 26年間、彼氏無し。

 恋愛経験無しの私なんだよ?

 ハクちゃんなら竜の女の子にもてもてで、選り取り放題なんじゃない?


「りこ。りこ!」


 ハクちゃんが私の顔に手を伸ばした。

 でも小さな手は触れる前に握られ、降ろされた。


「どうしたの?」


 今、気がついた。

 私は泣いてるんだ。


 この世界に来てから、泣いてばっかり。

 もしかしてハクちゃんは涙を手で拭いてくれようとしたのかな?


「すまぬ。我が泣かしたのだな、きっと。……拭いてやりたいのだが、できない」

「なんで?」


 ハクちゃん両手・両足を丸めてた。

 それ、よくやってるよね。


「……我の手は竜の手だから。硬くて鱗があり、爪が鋭い。りこを傷つけてしまう。我はりこを傷つけたくない。触れたいが……怖い」


 意気揚々と物騒な事を言いまくったハクちゃんは、身を縮めるようにしてつぶやいた。


 ああ、だめだ。


 もう完敗!


 この子はすごいよ。

 うん。

 敵わない。

 こんなに想われたこと、無いから。

 こんなに想ってくれる人は、きっともう現れない。


 ごめんなさい、お母さん・お父さん。

 安岡さん、許してなんて言いません。


 軽蔑してください。


「ハクちゃんの手、可愛くて好きだよ」


 私から手を伸ばす。

 硬い鱗。

 4本の指。

 真珠の爪は確かに少し尖ってるけどね。


「私は平気だけど。ハクちゃんが怖いなら……だんだん、慣らしていこうね。練習したら自信がつくよ」

 ハクちゃんの手を私の頬にそっと添えた。

 握ったままの小さな竜の手に、力が入ったのが分かる。

 緊張しなくたっていいんだよ。

 26にもなると、面の皮も厚いんだから。


「……柔らかいな」


 まだ洗顔すらしてない顔だけどね。ちょっと汚かったかもよ。


「りこは汚れてなんか無い。綺麗だ」


 駆け落ちする人の気持ち……ちょっとだけ、分かった。


 この時、ハクちゃんは自分自身についてけっこう重要なことを口にしたんだけど、私は理解してなかった。


 正しくは……聞いちゃいなかった。

 聞き逃していたことがけっこう大切で後々、大問題になってしまった。

 昔からよく、注意されたのよね。



 話はよく聞きなさいって。


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