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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
47/212

第45話

 竜帝さんがわざわざ庭で話すってことは。

 つまり、私に聞かれたくないって意味だよね。

 私に関係することかな?

 かなり気になるけれど。

 ま、仕方ないか。

 諸事情あるでしょうし。

ハクちゃんに、おまかせしようっと。

「そういえば……また、キスしてくれた」

 さりげに。

 ほっぺに。

「うっうわ〜、なんか照れちゃう」

 この数日。

 ハクちゃんがキスしてくれるようになった。

 手はにぎにぎしてるけど。

 かわいい小さな竜のお口で。

 チュッて、してくれるのだ。

 竜のハクちゃんに関しては変態の域に達しつつある(?)私には、すごく嬉しいことで。

「いかにも新婚さんって感じだよね……」

 家族に知ってほしい。

 ハクちゃんと結婚して、とても大事にしてもらってるって。

 一ヶ月以上行方不明で、きっとすごく悲しませて……とても心配をかけてる。

 警察にも届けただろうし。

 帰れなくても、私が生きて元気でいると伝えたい。

 お母さん達を少しでも早く安心させたい。

 私の世界に手紙を送る術式、早く完成して!

 ミー・メイちゃん、頑張って。

 ハクちゃんは異界関係の術式は専門外らしいから、貴女にかかってるの。


 品のいいノック音が響き。

 カイユさんが扉を開けて現れた。

「お待たせいたしました……あら?」

 まるでお盆を持つように、左の手のひらに大きな木箱を軽々とのせていた。

「カイユ、お帰りなさい。あ、ハクちゃん達はお庭で話を……わっ、すご〜い」

 床に置かれた木箱の中にはガラスのポットや瓶が沢山入っていた。

 色、大きさ、形も様々で。

「ハクちゃん、喜びます! ありがとうカイユ!」 

 私は窓に視線を移し、ハクちゃん達の様子を見た。

 ここからだと後姿で……ん?

 2人でじゃれて遊んでるのかな?

 青い竜の上に白い竜がのって……プロレスごっこしてるよ!

 プロレスごっこがお仕置きなのかな? 

 うわ〜、ほのぼのしてかわいいねぇ。

「ハクちゃ〜ん! カイユがいっぱい持ってきてくれたよ、入れ物。遊びは終わりにして、こっちに帰ってきて〜」

 私は窓を開けてハクちゃんを呼んだ。

 竜のハクちゃんは念話が使えるから、大声を出す必要は無いんだけど。

 ちょっと距離があったし。

 つい、ね。

 ハクちゃんはすぐに振り向き、ふわふわと飛んできた。

 竜帝さんは芝生の上にひっくり返ったままだった。

 その姿に私はちょっと心配になった。

 プロレスごっこだって、怪我することあるだろうし。

「ねえ、竜帝さん……動かないよ? お仕置き、やりすぎたんじゃないの?」

 ハクちゃんは金の眼をくるりと回して、言った。

「りこはランズゲルグをどう思う?」

 ランズゲルグ?

 誰?

「あそこに転がってる馬鹿の通り名だ。で、どう思うのだ?」

 なんだろう、突然。

「竜帝さん? どう思うかって言われても。うーん、まあ、ちょっとお子様っぽいけど嫌いじゃないよ? 口は悪いけど、私を気遣ってくれてるの分かるの。これから仲良くしていきたいって思うよ?」

 私の言葉を聞いたハクちゃんは、軽く頷いた。

「ふむ、‘これから‘か……分かった。カイユ! <青>を回収して溶液に入れろ。濃度を限界まで上げて放り込んでおけ」

 え?

 私は後ろを振り返り、カイユさんを見て……。

「カ、カイユ? 真っ青だよ、顔! どうしたの、具合悪いの?!」

 血の気の引いた真っ青な顔をしたカイユさんは、がたがたと震えていた。

 見開いた水色も眼は、1点を凝視していた。

 外?

 庭を見てる……竜帝さんを見てる。

 なんで、どういうこと?

「急げ。もたんぞ」

 ハクちゃんの言葉に、カイユさんは動いた。

 外へ飛び出し、竜帝さんを抱えて。

 そのまま足早に庭の奥に消えた。

 1度も振り返らなかった。

 私と……ハクちゃんを見なかった。

 カイユさん、どうしたの?

「ハクちゃん……まさか、竜帝さんに怪我させちゃったの?」

 木箱の中を覗き込んでいたハクちゃんは。

「少々仕置きしただけだ」

 怪我について否定しなかった。

 不安になってきた私を小さな白い手が、手招きする。

「心配無用だ。<竜帝>はとても丈夫な生き物なので、再生能力も高い。……どの入れ物がりこの好みだ? こちらに来て教えてくれ」

 私に向けられた金の眼は。

 お日様のように暖かく。

「カイユ、真っ青だった。震えてたよ?」

「カイユは<青>に仕えてる。主の怪我に動揺しただけだろう」

 私とお揃いの金の眼は。

 いつもと変わらず、優しかった。

「さぁ、我の側に。我のりこよ」

 私は白い手に引き寄せられるように、隣に膝を付いてハクちゃんの眼を覗き込んだ。

「竜帝さんに、酷いことしたの? カイユがあんなに真っ青になる位の怪我を……窓、ちゃんと閉めなかったから? 私が寒がったから? 私のせいでっ」

 ハクちゃんは優しい、とても優しい。

 私には、私にだけだ。

 だから気をつけなきゃいけなかったのに。

「そうか、窓の件の仕置きを忘れてたな」

 え?

 窓の閉め忘れでこうなったんじゃないの?

「今回の仕置きの理由は……我は言いたくないっ!」

 ハクちゃんは両手で頭を押さえ、吐き捨てるように言った。

 あれ?

 ちょっと、様子がおかしい。

「りこ、りこ! 我はりこに愛されてるのだろう? りこは我を愛してくれた。我を愛してくれている! だから違うっ! 我は、あの時、我はっ……我はっ!」

 あ。

 分かった。

 知ってたんだ。

 竜帝さんは。  

「我はっ!」

 支店長さんが報告したのかもしれない。

 お医者様が来たものね。

 私の眼の色も変わってるし。

 竜帝さん……ランズゲルグは。

 その事で何か言ったんだ。

 

 そして。

 ハクちゃんを怒らせたんだ。 

 

 とても。

 ハクちゃんを怖がらせたんだね?


「大丈夫。大丈夫だよ、ハクちゃん」

 私はハクちゃんを抱きしめ、胸に……心臓に押し付けた。

「ほら、ちゃんと音がするでしょう? 私、生きてるでしょう?」

 ハクちゃんの背中を、撫でながら。

「あの時、私達は愛し合ったんだもの。えっと、実は、その、細かいことは覚えてないんだけどっ……ハクちゃんが私に触れてくれたの、嬉しかった。幸せだった、すごく。私、嬉しいって思ったの。その気持ちはずっとずっと、忘れない」

「りこ」

 忘れない。

 ハクちゃんの愛を。

 私の罪を。

「あの時。お互いの意志で、私が望んで貴方にちゃんと愛されたんだって、あの餓鬼んちょ竜帝に自慢してやる! 誰にだって言えるよ、誇りを持って」

 大声で。

 世界中の人に言えるよ。

「私達、愛し合って結ばれたんだって。ハクちゃんは、ハクは私の……私だけの人になってくれたんだって、お城のてっぺんで叫んじゃおっか?」

 

「姫さん、そりゃ勘弁してくれよぉ。父ちゃん、なんか切なくなっちまう」


 へ?

「ダ、ダルフェっ!」

 ひえ、いったいいつからそこに居たんですか!

「ちゃんとノックしたぞぉ? 2人の世界に浸りすぎ。ちったぁ周りを気にしなさいって、あんたらは」

 にやりと笑ったダルフェさんはいつもと感じが違った。

 むむ。

 あ、服のせいか!

 セイフォンではわりとだらしない格好をしてることが多かった。

 今の彼は、違う。

 鮮やかな青の服は詰襟でかっちりとしたデザイン。

 膝までの長さがあり袖と襟には白いラインがはいっていた。

 腰には細身の剣。

 硬質な足音の正体は黒いブーツで。

 髪もきっちりと結ばれている。

 まるで、軍人さん……騎士?

 床にぎりぎりつかない長いマントは、まるで本の中の騎士みたいだ。

「か、かっこいい……! ダルフェ、その服って?」

 思わず、見蕩れてしまうほど。

 ダルフェさんは格好良くて。

 ああ、私。

 ちょっと制服フェチの気があるから……こういうの、弱いのよねぇ。

「あぁ、これかぁ? 仕事着だよ。俺、竜騎士なんだよ。一応ね」

 竜騎士?

 うっひゃー、本物じゃありませんか!

「……かっこいい?」

 あれ?

 地を這うような念話が……。

「我は‘かわゆい‘で、ダルフェは‘かっこいい‘だと?」

 私の腕からゆらりと飛んだ白い竜は。

 ダルフェさんの姿に頬を染めてしまった私と、ちょっとタレ眼だけど端正な顔を青ざめさせたダルフェさんをゆっくりと見て。

「‘かわゆい‘と‘かっこいい‘……どっちが雄、いや男として上級なのだ?」

 え、あの。

「りこ。どっちなのだ?」

 お、男としてって。

 そのですね、えっと。

「りこ」

 うう〜。

「りゅ、竜のハクちゃんはかわゆくて! 人型のハクちゃんはかわゆいプラス、ものすんご〜っくかっこいいです! とっても綺麗で美人な、世界一かっこいい旦那様ですぅ!!」

 がぁー!

 とうとう言ってしまった!

 おのろけのも程があると思って、心の中で思うだけにしてたのにぃ。

 こんなにべた惚れなんて、本人の前で……恥ずかしい〜!

 しかも綺麗で美人って、普通は旦那様に使わない褒め言葉では?

 でもね実際、ハクちゃんは作り物みたいに綺麗であって!

 悪役系の顔だけど、美人は美人でしてえぇぇ!

 うう〜っつ。

 こ、こういうのを世間では羞恥プレイっていうのかな?

 顔に血が集まって、熱い。

 きっと、真っ赤になってるよ。

「そうか」

 ハクちゃんはうんうん頷き。

「つまり……我は、かわゆくて・ものすんご~くかっこよくて・綺麗で美人。そして世界一りこ好みということだな」  

 ううぅ~、好みとは、言ってないんだけどな。

 西田敏行さんとか、タイプなんです。

 ほんわかとして、ふっくらして。

 ハクちゃんと間逆な……。

 で、でも!

 私が好きになったのは、ハクちゃんだったから……実は面食いだったのかな?

 いやいや、そもそも竜のハクちゃんに惹かれたってことでして。

「では、我は着替えてくる。 午後はりこを抱っこして、でぇとをするのだ」

 私が内心で、プチパニックしていたら。

 ハクちゃんがすばやく私の唇に、チュッとキスをして消えた。

 ハクちゃんって、ちょっとキス魔っぽいかも。

 ん……あれ?

 いま、なんて言ってた?

 着替えてくるって……そして。

「で、でぇと?」

 しか~も!

 抱っこで?

「あぁ、なるほどぉ! こないだ渡した<年の差なんて怖くない!年代別恋愛必勝法>を読んだんだなぁ。じゃ、次に読ませるのは何がいいかなぁ~」

「は?」

 私はダルフェさんを凝視した。

 今、なんておっしゃりました?

「まあ、取りあえずは昼飯にしましょう。ね、姫さん」

 持参した大きなバスケットを開け、ニカっと笑い。

「帝都名物の揚げ鯰のサンドだ! 姫さんの好きなダルフェさん特製タルタルソースがたっぷり使ってあって、美味いぞぉ~。この鯰は滋養に富んでて有名なんだ。 あの旦那の嫁さんになっちまったんだから、がんがん食って体力つけないとな。父ちゃんに任せなさい! 精のつく食材を揃えてやっからなぁ」

 と、父ちゃん?

 そ……それに精のつくって何?!

 

 ダルフェさん。

 変な新婚本といい、あなたのチョイスは少々難ありです!


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