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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
45/212

第43話

 カイユさんが朝ご飯を持ってきてくれたので。

 ハクちゃんは張り切って、あ〜んをしてくれていた。

 私はベットで上半身を起こして、あ〜んをされていた。

 ほんのりチーズ風味で、赤いお豆の入ったリゾット。

 冷ますためにスプーンを高速回転しようとしたハクちゃんに、‘ふーふー‘を教えてあげた。

 小さな手がスプーンを握り、真剣にふーふーする姿は。

 私が思ったとおり、ものすご〜くっかわゆかった。

 ハクちゃんに食べさせてもらいながら。

 ふと、考えた。


 こんな私って、もしや変態?


「りこ?」

 呆然とする私にハクちゃんが、首を傾げた。

 あぁ……めちゃくちゃ、かわゆいです。

 変態でも、いいや。

「なんでもない。もうお腹いっぱいになっちゃった。ご馳走様でした」


 食後はカイユさんが私の髪をブラッシングしてくれた。

 とても気持ちよくて、うっとりしてしまう。

「食欲もあるようですし、熱も無いですね。大事にならなくて、本当に良かったです」

「ごめんなさい、心配かけちゃって。もうぜんぜん平気です! あんな酷い天気の中、ダルフェさんは飛んでくれたんですね……お礼言わなきゃ」

 髪をサイドにまとめてから薄紫の花をつけてくれたカイユさんは、着替えのワンピースを私に手渡して言った。

「すっかり元気なようですし、病室とはさよならしましょう。ここは殺風景でトリィ様もつまらないでしょう? きっと、すぐに陛下が現れます。ずっとそわそわしてましたから。お嫌でなければ相手をしてやって下さいませ」

 カイユさんは、ハクちゃんに視線を移し。

「パジャマ、良くお似合いですわ」

 ちょっとずれた帽子を直してくれながらそう言い、微笑んだ。

 

 カイユさんは咽喉がちょっと痛い私のために、薬を調合しますと言って病室から出て。

 私は着替えを始めた。

 スリップドレスの上にちょっと厚めの生地で出来たワンピースを着る。

 ハイネックで袖は手の甲まで隠れるデザインで。

 全体が薄い紫で、袖と裾に白い花の刺繍。

 当然のように長い裾にも慣れて、踏んだりすることも少なくなった自分に関心してしまう。

 ちなみに。

 ハクちゃんの前で着替えるのは抵抗がほとんど無い。

 でも、さすがに下着を脱ぎ着する時は後ろを向いてもらってる。

 お風呂も一緒に入っている(竜体でだけど)仲ですが。

 目の前でパンツをがばっと脱いだりはいたりするのは……なんか、こう、ちょっとねぇ。

 パンツっていっちゃう私。

 大人の色気ゼロだね。

 せめて、ショーツか?

 なんか違うな、うん。

 色気は、あきらめよう。

 柔らかなシフォン素材の帯を腰に巻いて、端を間に仕舞って。

 帯止め用の細い飾り紐を結んで出来上がり〜っと。

 帯の締め方も、すっかり上手になりました。

「常々思っていたが……りこはすごいな。自分で全ての衣類を身に着けることが出来るとは」

「え?」

 この発言から。

 新たなハクちゃんの生態(?)が発覚した。


 

 私が着替えて数分程で竜帝さんが、ふわふわ飛びながら入ってきた。

 お行儀悪く。

 右手に持った大きなソーセージを齧りながら。


 そして。

 ふいた。

 

「おはよう、竜帝さん。もうっ、なにふきだしてるの。汚いなあ」

 吹き出すと同時にハクちゃんが振り返りもせずに、指をちょいって曲げたら。

 ソーセージの雨は全て、竜帝さんに集中して飛んでいったので私は被害ゼロ。

 ソーセージの残骸まみれの青い竜。

 情け無いうえに、非常に汚かった。

「だ、だってよ、じじいが妙な帽子を被った姿で服を畳んでるんだぜ? ぐっふふ、 高慢ちきで底なしの自己中俺様の! あ、あのヴェルヴァイドがっ!! 正座して嫁の脱いだ夜着を、たたんでるーっぎゃあはははぁ」

 床に転がって笑い続ける竜帝さんの言葉は早口で。

 聞きとれなかった。

 ハクちゃんは竜帝さんを1度も見なかったけれど。

 だが!

 私はぴんときた。

 こいつ、またハクちゃんの悪口を言ったに違いない。

 ハクちゃんのことに関しては、鈍い私も感が良くなる気がする。 

 実は。

 ハクちゃんは自分ではパジャマの脱ぎ着が出来なかったのだ。

 紐をといて、腕を抜く。

 袖口に腕を入れ、前の紐を結ぶ。

 ベストタイプだから、脱ぎ着は簡単なのに。

 なんでもないような事なのに。

 どうしてもうまくいかなかった。

 そして、驚くべき事実が!

 人型の時も自分では衣服が着れないらしいのだ。

 術式を使って済ましていたので、普通の着方を全く理解していなかった。

 手を使って着ようと思った事すらないと……。

 紐をリボン結びに出来ないどころレベルじゃない。

 さすがに言葉に詰まった私に。

「我は、これは出来るのだぞ? かなり上手なのだ」

 私が脱がしてあげたパジャマを丁寧に畳んで。

「うむ、完璧だ。我はなかなか‘できる男‘なのでな」

 得意げに言った。

 うう。

 あまりに可哀相で指摘できなかった。

 裏表、逆だよって。

 ハクちゃんは私の脱いだネグリジェを手に取り。

「りこのも、我が畳んでやろう! ふむ、りこが着ていた衣類……りこの、脱ぎたて……りこの……」

「え? あ、うん。ありがとう」

 頷きつつ、なにやら1人でぶつぶつ言いながら。

 ハクちゃんが丁寧に畳み始めた時。

 ソーセージ小僧がやってきたのだ。

 床にソーセージまみれで転がって笑う、この腹立つチビ竜が。


「竜帝さん、笑うのやめて下さい……なんかムカッってしちゃうし。それに床、汚れちゃったところは自分でお掃除して下さいね」

 私はハクちゃんの畳んでくれた服とハクちゃんのパジャマを持ち、ベットから降りた。

 足元には先の尖ったショートブーツが置いてあった。

 内側がもこもこしていて、暖かそうだった。

 カイユさんが用意してくれたそれは、セイフォンより帝都が寒い土地なのだと再認識させてくれた。

 今まではこじゃれたつっかけのようなサンダルを履いてることが多かったけれど……。

 帝都に着たんだ、私は。

 このソーセージまみれの小汚い竜帝さんが雇用主となるのだ。

 ちょっと、不安。

 んにゃ、かなり不安ですが。

「この服も、とても似合っている。りこは何を着ても綺麗で、愛らしいな」

 ハクちゃんが私の右袖を掴み、言った。

 金の眼を細め、翼をぱたぱたさせて。

 赤面するようなことをさらっと言えちゃうって、すごいよね。

 でも、嬉しい。

 ハクちゃんはお世辞が言えるほど器用な人じゃないから。

 他の人から見たら綺麗でも愛らしくも無い私だけど。

 ハクちゃんがそう思ってくれて、言ってくれて。

 すごく、嬉しいな。

「ありがとう、ハクちゃん。ハクちゃんもかわゆいよ。何も着てなくたって、1番かわゆい」

 ハクちゃんは尻尾をふりふりしながら言う。

「りこもだぞ! 何も身に着けていない時だって、我のりこは世界一綺麗で愛らしかった」


「がぁぶぶごぉっぶぶうー!」


 再び、盛大にソーセージを吹き出した青い竜を。

 今回は私も注意できなかった。

 



 オヤジっぽいぞ、ハクちゃん。












 〜おまけ〜 


 りこ中日記(りこ中心・中毒のハクちゃんの日記です)


 <x月x日>


 我は睡眠をとらない。

 りこが寝ている間も起きている。

 枕元に座り、寝顔を見ている。

 触れるぎりぎりまで顔を寄せ。

 肌のきめ細かさや。

 睫毛の長さや。

 時々ぴくぴく動く鼻や。

 柔らかそうな唇を観察し。

 そして。

 穏やかで規則正しい寝息を嗅いで、楽しんでいる。

 不思議なことに。

 我の眼にはりこがきらきら輝いて見える。

 まるで宝石のように。

 きらきらして、眩しくて。

 りこが眩しいので、最近の我はよく眼を細めるようになった気がする。

 

 りこは我の宝物だ。

 初めてであり、唯一の。


 我はそっと、りこの唇に接吻した。

 今宵もりこの側に居られることが、とても幸せで。


「おやすみ、りこ」


 おやすみの接吻キスは。

 明日も愛しい貴女と過ごせるための、おまじない。

 


 

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