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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
34/212

第33話

 ぶち切れMAXな旦那の【気】に押し付けられ、身体が動かない。

 その場にいる者全てがそうだった。

 幼竜達はすでに意識が無く、テーブルに倒れこんでいる。 

 支店長が姫さんに触れた意図は想像できる。

 だが、ちょっとやりすぎだ。

 旦那にとって姫さんは<聖域>だ。

 大事で大切で。

 傷つけるのを恐れるあまり、手を出せないでいる。

 その姫さんに他の雄が触れたんだ。

 そりゃ、怒るに決まってる。

 竜族だったら当然だ。

 でも。

 でもなぁ、旦那。

 連帯責任で幼竜どころか国まで潰すって?

 どんだけでかい連帯なんだよ!

 使い方、間違ってます。

 旦那を抑えられるのは、姫さんなんだが。

 なんとか眼をこらして姫さんの様子を確認すると……。


 泣いてた。


 <白金の悪魔>の笑顔を見て、ぽろぽろ……小さな子供のように。


 多くの美姫を虜にし、堕とした悪魔の微笑みを見て。


 悲しそうに涙を流し、悔しそうに唇を噛んでいた。


「そっか、そうだよ……なぁ」

 あんたの‘可愛いハクちゃん‘に、あんな笑顔は似合わないよな。


 たとえどんなに冷たい無表情な顔だって。

 姫さんを見る時の眼は、いつだって柔らかかった。

 金の眼はずっとずっと1日中、姫さんに囁いてたもんな。


 大事だ

 好きだ

 大切だ

 愛してる


 なあ、姫さん。

 つがい名は人前では使わないんだぜ、普通。


 特別な名前だから、隠しておくもんだ。

 愛しい相手と二人で過ごす時にしか使わない。

 二人だけの睦言。

 なのに旦那は姫さんとつがい名しか使わない。

 つまり。


 旦那にとって‘存在‘してるのは姫さんだけなんだよ。

 俺もハニーも、陛下も誰も彼も。

 旦那にとってはそこらの草や虫と同じなんだよ。

 旦那には姫さんしか‘存在‘してないんだ。

  

 姫さん。

 頑張れ!

 あんたの可愛いハクちゃんを取り戻せ!




「りこ。我の、りこ。りこ。我だけのりこ」

 私の名前を口にするのに、私を見ない。

 竜帝さんを離宮で踏み潰そうとした時より、様子がおかしい。

 寒気がするような冷たさと、眼にした誰もが囚われる様な艶めく微笑。

「どれだけ殺せばこの吐き気は治るのだろうか。どれだけ破壊すればこの苦しみは消えるのか。あぁ、りこ。我のりこから我以外の雄の匂いがする! りこ、りこ、りこよ」

 殺す?

 破壊?

 だめ、そんなの駄目だよ!

 匂いって?

 キスのせい?

 支店長さんが言ってたこと。

 もしかして、こういうこと?

 私が他の男の人に会うのがハクちゃんにとって、すごく嫌なことで。

 軽く触れただけのキスでこれだ。

 それ以上だったら?

 考えたくない!

 竜帝さんは言ってたよね。

 竜族がこれからは私をサポートしてくれるって。

 支店長さんは私に<自覚>しろって……。


 私がハクちゃんを傷つけ、苦しめる。


 私だけが。


「ごめんね」

 クッキー、すぐに食べてあげれば良かった。

「ごめんなさい」

 人目を気にして。

 ハクちゃんはいつだって私だけを見てくれてるのに。


 キス。

 言えなかった。

 抱きつくのが精一杯で。 

 竜族のハクちゃんが人間の私をそういう対象として見てるって、思わなかったから。

 だって。

 なんでお風呂に一緒に入りたいのって聞いたら……たおるぶくぶく(タオルに空気入れて沈める遊び)と、りこちゃん歌謡オンステージ(私がひたすら歌っている)が面白いからだって。

 その答えに確信したのよね。

 だから、よけいに言えなかったし言っちゃ駄目だと思ったの。

「ハクちゃん、ごめんね」

 そうだ。

 前にダルフェさんが言ってた。

 ハクちゃんは私の夫になれるんだって。

 そっか。

 そういうことだったんだ。

 私、よく分かってなかった。

 支店長さん。

 ありがとう。

 でも、もうちょっと穏やかな方法が良かったです。


「ハクちゃん。ね、ハクちゃん!」

 白い髪を引っ張ると妖しい笑みを浮かべた人外の美貌が私を見下ろした。

 こんな顔、させたくないよ。

 させたのは、私。


 あ。

 まずい。

 単語がわかんない。


 キスって単語。


 うっ。


 誰か言ってたよね。

 女は度胸、男は愛嬌って!

 ん? 

 ちょっと違うような気もしますが。

 今の私に必要なのは度胸だ!

「りこ。我は非常に気分が悪い。すぐに全て潰して……!!!」


 金の眼の中心にある瞳孔が開いて、真ん丸くなった。

 普段はちょっと縦長な瞳孔が。

 ひーっ!

 眼、閉じてよ〜ってか、私も閉じようよ!

 がぁぁ〜だめだぁ!

 緊張のあまり閉じれな〜い!




 ハクちゃんとの初ちゅーは、お互い眼を開いたまま。

 カチンコチンになり。



 気づいた時には屋上には私達だけしかいなくて。



 あわあわとした私にハクちゃんが言った。

「……りこ」

「ふわぁいいぃ!」

 てんぱった私からは変な声が出た。

 ぐぎゃーん、最悪!

 なんで、私ってこうなのよぉ〜。



「結婚してくれ」




 は?




「りこは人間だ。だから人間の男のように恋文で求婚しようと考えていたのだが……書きかけをセイフォンに忘れてきてしまったのだ。出る前はその、忙しくてだな」


 い、いま。

 今、なん……。



「恋文はやめだ。間に合わん」

 ハクちゃん。

 ねぇ、なんて言っ……。



「りこを我の妻に。……我と結婚してくれ。とりい・りこ」



‘結婚してくれ‘



「……はい。ハク」



 うん。


 私……ハクちゃんの妻になりたいよ。


「私と結婚して下さい。ハクちゃん」




 この世界に落とされた。


 貴方に会うために。


 貴方といるためだったら。






 どんなに堕ちてもかまわない。








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