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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
30/212

第29話

 罰ゲームのような食事を終えると、カイユさんがお風呂を勧めてくれた。

 起きたばかりは手足が少しだるかったけれど、食事を終えるころには治っていたので入浴に支障はなさそうだっだ。

 ハクちゃんは私が1人で入浴することに対して体調面での心配は口にしたけれど、一緒に入るとは言わなかったのでほっとした。

 自分のせいで私の体調がおかしくなったことが、かなりこたえているのか……いつもより若干おとなしい気がする。

「りこ。我は扉の前で待っている。体調に異変を感じたらすぐに呼べ」

「うん。ありがとう、ハクちゃん」

 ハクちゃんが……まともな事を言ってるし。

 まともなハクちゃん。

 なんか調子が狂うというか。

 正直に言うと、ものたりないというか。

 う〜ん。

 私もすっかりハクちゃんの強烈&奇天烈に慣らされてるなぁ〜。


 

 カイユさんに寝室の隣にある浴室に案内され、大急ぎで髪と身体を洗い用意されていたワンピースを着た。

 白地にカラフルな小花の刺繍が裾から太もも辺りまで丁寧に施された可愛らしいデザイン。

 長袖で、丈はやはり長い。

 竜族の男性は奥さんが露出の高い服を着るのを嫌がるという事で(奥さんなのかな?私も一応は)セイフォンで用意されたのも、長袖で裾の長い物ばかりだった。

 首・胸元もしっかり隠れるデザインは見た目ほど苦しくも暑くも無い。

 きっと素材や縫製方法に工夫がされているんだと思う。

 私の趣味とは違うけど、せっかく与えられたものにけちをつけるほど子供じゃないし。

 衣食住全て面倒見てもらっている立場だし、与えられてる物や環境がとてもお金がかかってるレベルの物ばかりなのは私にも分かっていたし。

 このワンピースだって、文無しの私が着るものとしては高級過ぎる滑らかな手触り。

 竜帝さんの会社でお給料はどれくらい出るのかな?

 お給料が出たら自分の服を買いたいかも。

 この1ヶ月、さし出された衣類を身に着けてきた。

 久々に自分の意志で洋服を選んでみたいな。

 今まで出されてきたような上等な物じゃなくて、身の丈にあった服を。

 お手ごろな価格ラインで商品を揃えてるお店が帝都にあるといいんだけど。

 まぁ、それは置いといて。

 私としては記録的な速さで入浴を終えた。

 離宮のお風呂より狭い浴室だったけれど、内装は豪華で湯船には薄いブルーの花びらが無数に浮かんでいた。

セイフォンとは違い、湯船はバスタブタイプでは無く床と一体になった固定式。

 深さがあり、座ると鼻下までお湯に浸かってしまう。

 花びらを掻き分けると隅に腰掛用らしき部分があった。

 つるりとした滑らかなラインをしていて、ここに座れば長湯するのに快適そう!

薄いブルーの花びらはミチコ(同じ名前の先輩が職場にいたっけ)といって、保湿効果のある美容成分が出てるらしい。

長風呂派の私に最適な低めな湯温。

 あぁ、もったいないな〜。

いつもの私だったら1時間はかる〜く入るのに。

 ほんのり甘い香りが素敵だったけれど、ゆっくりはしていられない。

 濡れた髪をタオルでふきふき、空いた手でドアにを開けようとしたら……。

 私が開ける前に反対側から引かれ、全開状態になった。

「りこ、りこ! 無事か? 転ばなかったか? だいじょうぶか?」

 ハクちゃんが私に伸ばした手をにぎにぎしながら言った。

「わ、我は心配で心配で。りこが風呂で溺れたらどうしようかとっ!」

 溺れるか!

 パワーダウンしているようだったけれど、やっぱりハクちゃんは超過保護だ。

「心配しすぎ、ハクちゃん。それに私は泳ぐの得意。だから溺れません」

「そうなのか? りこは泳げるのか。なら、安心だな」

 両手をにぎにぎしつつ首を傾げる美形無表情男に嫌味は通じていなかった。

 言った私が自己嫌悪を感じるほどの素直さで。

「手……にぎにぎしなくていいよ。力加減、うまくなってるし。触っても平気だと思うよ?」

 心配されて本当は嬉しいのに、嫌なこと言っちゃった。

 ハクちゃんみたいに素直になれない。

 私、嫌な女だね。

 ハクちゃんは「ゆっくり入浴してくるがいい。人間は風呂で疲れがとれるのだろう?」って言ってくれたのに、私はすごく早く出てしまって。

 うう〜、恥ずかしくて、言えない。

 

 ハクちゃんの姿が見えないから……早く出たなんて。

 

 意識の朦朧としていた2日間、私はずっとハクちゃんにくっついていたらしく。

 その影響か……私はちょっとおかしいのだ。

 ハクちゃんから離れるのが怖い。

 ハクちゃんの姿が見えてないと不安で。

 これって分離不安ってやつだろうか?

 小さい子供とか室内犬がなっちゃう症状だよね。

 お母さんや飼い主にべったりした生活を送っているとなるって聞いたことがある。

 考えてみると……この2日間だけじゃない。

 出会ってから1ヶ月、まさにべったり生活だったかも!

 お手洗い以外は常に一緒。

 竜のハクちゃんはとにかくラブリーだったから抱っこしまくりだったし。


 分離不安。


 やばい。

 26の大人として、それってどうよ!


「りこ?」


 私は無言でハクちゃんの左手を握り、居間に向かった。

 照れと焦りで早足になってしまったけれど、歩幅が違うハクちゃんはゆったりとした動作で私のなすがままについて来てくれた。

 ハクちゃんの手はひんやりしていたけれど。

 どんなに冷たくても。

 離したくないと思ってしまう私はかなり、重症かもしれない。


 これが分離不安によるものなのか。

 恋愛感情から発生するものなのか。

 

 どうやって見分けたらいいんだろう?


「トリィ様。今日は大事をとって休みましょう。明日、支店従業員に会う時間を作りますね。市内観光を午後にして……夕食後に出発いたしましょう」

 バイロイト支店長さんや他の人に挨拶をしたいと言った私に、カイユさんが今後の予定を話してくれた。

 私をソファーに座らせ、何枚ものタオルを使って丁寧に髪の水分をとってから結い上げて仕上げに鮮やかな黄色の生花を挿してくれる。

 モモチというこの花はさわやかで優しい芳香にリラックス効果があるそうだ。

 リラックス。

 カイユさんから見て、今の私はリラックスが必要だと感じる状態なのかな。

 手鏡に映ったカイユさんと眼が合い、ドキリとした。

 ばれてるのかな。

 うう〜。

「だいじょうぶですわ、トリィ様。もう【繭】は使いません。ヴェルヴァイド様と駕籠に乗ってのんびり帝都に向かいましょうね」

 優しく微笑むカイユさんの眼は、私の右手の様子をしっかりと確認していた。

 うっ……ちょっと、あの、これはですね〜。

 私はハクちゃんの指を握っていた。

 だって、どこか触れてないと不安というか……。

 白く長い指には真珠色をした爪がついている。

 人差し指をぎゅっと握られているハクちゃんは、相変わらずの無表情。

 長い足を組んで大きなソファーに並んで座り、なにかの書類を見ている。

 私に指を握られてるのも全く気にならないらしく、特になんのリアクションも無い。

 好きにさせてくれてるんだか、無視してるんだか……。

 無視は無いかな、うん。

 だって私が手を伸ばさなくても握れる位置に手を置いてくれてるもの。

 こういうさり気なく優しいところが大人の男って感じ……大人どころか竜帝さんがいうには、おじいさん年齢らしいけど。

 見た目は若くて、思考も子供っぽくて。

 でも、かなりの高齢。

 ききづらくて確認してない……歳はいくつかって。

 

 ま、いいか。

 異世界なんだし。

 細かいことは、流そう。


「トリィ様。お茶の支度をしてまいります。この支店は珍しい茶葉を取り扱っていますから、楽しみにしていてくださいませ」

 私から手鏡を受け取りながら言うカイユさんに、ハクちゃんが書類から眼を離さず声をかけた。

 そういう俺様態度が違和感無いどころか似合ってしまうハクちゃん……。

 こんな感じの悪い人を好きになちゃうなんて、以前ならありえない。

「カイユ。メリルーシェ皇室から使者が来たら追い返せ。第2皇女は我が国内に入ったことを察知している。あれは術士として使えんが探知能力だけは並以上だからな」

 単語……難しい。

 よくわかんないや。

 ま、いいか。

 私の名前が入ってないから関係ないことだろうし。

「承知致しました」

 カイユさんもいつもと同じ感じだし。

 問題が発生したわけじゃないってことだよね。

「カイユ。髪、ありがとう。お茶、ダルフェも誘ってね」

 起きてから、彼にはまだ会ってないし。

 ダルフェさんが竜体になって、運んでくれたらしいからお礼を言わなきゃ。

 ダルフェさんの竜体。

 見たかった!

 あ、次の出発の時に見られるか。

 楽しみ〜!



 

 ハクちゃんの策により、ダルフェさんの竜体を全く見ることが出来ずに帝都に着いちゃうことになるなんて思いもしなかったけど。




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