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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
赤の大陸編
202/212

第46話(2017/11/22、下部にダルフェのSS追加しました)

 俺の意思に関係無く、ルールは変更され。

 "ダッ君杯”という、俺総当たりな武闘会が幕を開けた。


「……」


 鏡を見なくとも分かるさ、うん。

 今の俺が、どんなに間抜けな姿をしているか……。


「…………俺、なんか新種の変質者みたいじゃね?」


 黒の爺さんが見たら憤死しそう露出過多なドレスを着た母さんに、簡易テントで作られた控え室に連行された俺は。


「あら、何言ってるのよ~。うふふ、似合ってるわよ!」


 喜々とした母さんによって髪は勿論、胸部・背・胴・腰・四肢……全身にハンデ用の花を大量に付けられた。

 前の武闘会の時は俺は赤の竜騎士団の団長だったから、率先して祭りを盛り上げてやろうって意気込みもあったし。

 ある意味悪のりしてたから、気にならなかったけれど……。

 妻子持ちの立派なおっさんになった俺が、赤の竜騎士の派手な制服に可愛らしいベビーピンクの薔薇をいたる所にって……かなり痛いだろうがっ!

 いつもは、髪も服も赤いから目立つようにって、白い花を付けさせてたクセによ~。


「はっ? このラブリーな色が、雄でしかもおっさんに片足突っ込み始めた歳の俺になんか似合うわけねぇし! ったく、なんでこの色なんだよ!? こんな乙女チックな色じゃなくて、もっとほかにあんだろうにっ……母さん、武闘会中は俺のこの刀を預かっていてくっ……うわっ、この程度の動きで落ちるのかよ⁉︎」


 武闘会では模造刀を使うので腰の刀を外し、母さんへと投げた俺の身体からベビーピンクの薔薇が二輪落ちた。

 今回は俺が全員の相手をするため、ハンデとして他の参加者はピンやら接着剤やらで工夫して花が落ちにくいようにすることが許されて、それとは逆に、俺のほうはより落ちやすいように母さんが工夫・・したようだった。


「今回のルールでは、貴方自身のミスで花が落ちても相手の勝ちだもの。ダルフェ、これで貴方の動きはかなり制限されるわね? ふふふ、元・赤の竜騎士団の団長閣下様は、どう戦うのかしらね……」


 俺から落ちた薔薇を拾い。

 唇に添え。

 ぺろりと、舐めて。


縛り・・は強い方が、貴方も良い・・でしょう? うふふっ……貴方の身体の感度が試されるわね」


 ドS全開の妖艶な微笑みを、俺へと向けた。 


「ったく、なにが感度だ! 息子相手にそーゆー顔は止めろ! ……相手の模造刀が俺の花に触れなくとも、自分の動きで簡単に落ちる、か……なるほどね、うん。なかなか良い趣向じゃねぇか」

「ふふ、そうでしょう? ダルフェ、この模造刀を使ってちょうだい。重さは皆の物より20倍程度に加工しておいたわ」


 差し出された模造刀を受け取り、そのずしりとした重量を確認した。

 これだけの重さになると、扱うのに自然と力が入る。

 そうすると、筋肉の微細な張りや動きが振動となって俺に付けられた花が落ちるってわけだ……。


「20? 50越えでも良かったのに」


 俺がいつもの調子でやったら。

 この模造刀を一度ふるっただけで、半分以上の……いや、三分の二以上の花が落ちるだろうが……母さん、俺は落とさないぜ?

 自分でも惚れ惚れするぐらい、俺は器用っすからね~。

 でも、まぁ、うん。

 途中でわざと一つ二つは落としてやったほうが、盛り上がるか?


「さすがにそこまで加工することはできないわよ、残念ながらそれが限界だったの。それ以上にしたら厚みと太さが変わってしまうもの。……ねぇ、ダルフェ。このベビーピンクの薔薇、覚えてる?」


 母さんは、手に持った薔薇にキスをして。


「え? あ……あぁ、城で見たことあるな。確か……西庭の角にも同じ種類のが植えてあったよな?」

 

 そう答えた俺を映している赤い眼を細め、言った。


「ふふ、小さかったから覚えてないのね? 貴方がまだ幼生の時、庭から摘んできて私の髪に飾ってくれたのよ。"まま、とーってもかーいーね”って言って……だから私、この薔薇が大好きなの」


 言いながら、笑みを少女のようなものへと変えた母親を。


「………ッ」


 直視できず、俺は眼を反らした。

 覚えていた……おぼろげではあるけれど。

 それはまるで、深い夢の中のことのように。

 淡く揺らいだ記憶だけれど……。


「…………じゃあ、行ってくる。ジリと旦那の準備も頼むよ、母さん」

「ええ、任せてちょうだい」


 俺は母さんに背を向け、振り返らずに簡易テントの控え室を出て。

 一人目の対戦相手が待つ。

 武闘会の会場である、竜騎士団の野外鍛錬場へと足を向けた。


「……かーいーね、か……」


 なぜ。

 覚えてると、言えなかったのか。

 なぜ。

 覚えていたと、言わなかったのか。

 俺自身にも、分からなかった。

 分かったのは、心の動きではなく身体の変化で。

 一瞬、耳朶が熱を持った……気がした。


「…………」


 そんな俺を待っていたのは。

 試合開始の笛の音と。 

 晴れた空に弾け飛ぶような、観客の歓声と。


「ダルフェ団長~! よろしくお願いしま~すっ!!」

「…………」


 花で作った鬘を被った、エキザリだった。


「……ったく、最初がお前かよ。おい、エキザリ。俺はもう団長じゃねぇって何度言えば覚えるんだ、この鳥頭! しかも何なんだよ、ふざけたその頭はっ!」


 まぁ、俺も人のこと言えない状態だけどな!

 花で作った鬘を被ったこいつと、ベビーピンクの薔薇だらけの俺に向けられる同族達の視線が痛い……いやいや、皆は楽しみだと思って期待の視線を送っているのであって……痛いと感じちまうのは、俺の被害妄想であってくれ!


「これ、ナイスアイデアっしょ!? 造花の中に本物の花が四つ混ざってるんすよ! 目くらまし作戦っす! では、行きま~す! とうぉおおおお~……って、あれ?」


 意気揚々と、模造刀を振り上げ向かってきたエキザリの足元には。

 ぽとりと落ちた花が、四輪。

 もちろん、ダミー用の造花じゃなく本物の花だ。

 あのなぁ~、エキザリ。

 こんな阿呆な手、通じるわけねぇだろうが!

 竜騎士の視力、舐めんなよ!


「はい、終了。エキザリ、さっさと厨房に戻って料理長を手伝え」

「………え? だって、ダルフェ団長はまだ模造刀を抜いてなっ……あれ? いつの間にか抜いてるっつ!? どういうことっすか!? あれ? なんでっ!?」


 首を傾げるエキザリと。

 落ちた花と。

 俺の模造刀を見て。

 眼を瞬かせた観衆は。


「はい、次どうぞ?」


 模造刀の背で肩をトントンと叩いて、片眼をつぶってそう言うと。

 どっと歓声をあげた。

 その重なり混じり合った声の中から、姫さんの微かな声を拾って……それを追い。


 ーーあ、いたいた。


 最奥の観客席にいる、最強で最凶の竜を見つけた。

 姫さんを膝に座らせ、黒髪を愛おしげな手つきで優しく撫でながらも……その黄金の双眸は。


 ーー……ん~? なんだかちょっと、ご機嫌ななめ気味か?


 真っ直ぐに、俺へと向けられていていた。







゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜




 ~ダルフェ過去話SS『Nobody knows』~


 

 上弦の月の下、勤務を終えた俺が自室へ向かうために城の中庭を歩いていると。


「ダルフェ!」


 痩躯に似合わぬ野太い声で、俺の名を呼びつつ。

 顔馴染みの竜族の雄が、駆け寄ってきた。


「よ、ガンズ。どうした?」

「陛下にさっき聞いたんだ。ダルフェが明日、食堂のヘルプに入ってくれるって。明日は休みだったんだろ!? すまねぇな、新人のエキザリだけじゃどうにもなんねぇから、よろしく頼む! これ、受け取ってくれ」


 城の食堂の料理長をしてるガンズが、食堂のヘルプへの礼だと言って俺にくれたのは。


「お? これって……良く手に入ったな!? 俺がもらっちまって、いいのかよ?」


 某王族御用達ワイナリーの新酒だった。

 しかも、ラベルには限定品の印が……。


「ああ、もらってくれ。噂の彼女とでも飲んでくれ。すっげぇ美人の人間なんだってなぁ~。セルイ国でデートしてたんだろ?」


セルイ国で?

ああ、あの時か!

同族の誰かに見られちまってたのか。


「はぁ? 人間の女? 俺に彼女なんていねぇよ。誤解だ、誤解。あの女は仕事上のお付き合い・・・・・ってやつだよ。それに"すっげぇ美人”なんかじゃねぇし、顔も身体もたいしたことねぇ中の下程度の女だ。まぁ、あっちのほう・・・・・は玄人並みに巧かったけどな」

「う~わ~。相変わらず女にはゲスでクズいなぁ~、ダッ君は! ダルフェ、お前このままじゃいつか人間の女に刺されんぞ!?」

 

 料理長のガンズは、学習院の同期で。

 つがい持ちになる前は、"遊び仲間”だった。


「刺されるくらい、俺は別にかまわねぇよ。っていうか、おい! ダッ君言うなよ、ガッ君!」


 ガンズはつがいに出会って、先に"遊び”をとっとと卒業しちまったが。

 俺はその"遊び”が、今では仕事の一部になってしまったこともあり。

 異性(人間の)関係は、常に両手の指じゃ足りない状態の。

 ゲスでクズ、だった。



  ※※※※※※※※※※※※※※


 

 翌日。

 ランチタイムが終了し、人気のなくなった食堂で。


「さあ、俺等も飯にしようぜ。おい、エキザリ。グラスを二つ持って来い。ガンズからもらった酒、お前にも飲ませてやっからさ」


 テーブルに賄いを並べてから前掛けをとり、それを椅子の背にかけて腰を下ろし。

 厨房にいるエキザリへと、俺が声をかけると。


「俺も飲んでいいんすか!? それ、すっげぇ高いやつなのに……さっすがダルフェ団長、太っ腹っすね!」


 エキザリは棚から中ジョッキを二つ取りだし、いそいそと席に座った。

 おいおい、なんで中ジョッキなんだ!?


「……俺、グラスって言ったよな?」

「え? これもガラスでできってから、グラスっすよね?」

「………………………横着して自分で取りに行かず、お前に任せた俺が悪かったんだな。うん」


 俺は差し出された中ジョッキにワインを注ぎながら、呆れを通り越して諦めの視線を目の前の若い竜に送った……が。 


「今日はありがとうございましたっ、団長! 無事ランチ営業終了にかんぱ~い♪」

「……はいはい、かんぱ~い」


 部下の竜騎士達だったら俺の顔に浮かんだ失望の色を察し、真っ青になるところだが。

 この脳天気な若竜は幸せそうな顔をして、中ジョッキに口を付け喉を鳴らした。

 こんな良いワインを一気にがぶ飲みするような阿呆に飲ませちまった……ガンズ、すまん! 


「はぁ~、うめぇ! 高いと思って飲むと、何でも美味く感じるっすよね!」

「……」 


 最高の酒に、最低の感想だな。

 お前、調理員で良かったな。

 俺の部下だったら、問答無用でぶっ飛ばしてるぜ?


「ダルフェ団長にヘルプに入ってもらえて、ほんっと~に助かったっす! 俺以外、出勤できないから臨時休業するしかないって思ってたんすけど……」


 料理長のガンズとトッハルは学習院在学の子供の授業参観日、ベテラン調理員のキーエフは親の湯治の付き添い、ミルトネは三日前から蜜月期中。

 こんなにいろいろ重なるのは、珍しいことだった。


「たまたま俺が休みだったからな。食堂を臨時休業にすると、城で働く奴等に迷惑かけちまうもんな」 

「そうっすよね~……でも、ダルフェ団長ってめったに休みとれないのに、申し訳ないっす。……うぉ!? このパスタソース、めっちゃ美味いっすね! 余った材料でササッと作っちゃったとは思えないっすよ! 店を出せますって!」


 俺の作ったパスタを食いながら、エキザリは興奮気味でそう言った。

 店、ねぇ。

 俺が竜騎士じゃなかったら、<色持ち>じゃなかったら。

 父さんのひよこ亭を継いでたんだけどな……。


「これ、簡単だからお前にも作れるぜ? レシピ、教えてやるよ」

「さすが、元料理長のエルゲリストさん仕込みの腕っすよね~! 団長のつがいになったら、こんな美味い飯が毎日食えるんですよね!? 嫁さんになる雌がうらやましいっす!」

「あのな~、なんで俺が飯作るのが決定なんだ? 竜騎士団で毎日忙しく働いてる俺に飯も作らせる鬼嫁なんて、冗談じゃねぇよ! どんなに顔と身体が良くったって、ごめんだ」


 つーか、俺は結婚する気なんかねぇし。


「ははっ、確かに! そういや団長はどんな雌がタイプなんすか?」

「……そう言うお前は、どういう雌がタイプなんだ?」

「俺っすか? 俺は可愛い系っすね! それでもっておっぱいが……そうっすねぇ~、こんくらいは欲しいっす!」


 フォークを置き、エキザリは両手を自分の胸の前にかざして言った。

 ふ~ん、エキザリは巨乳が好きなんだな……。


「可愛い系で巨乳なら、マーレジャルなんてぴったりじゃねぇか?」


 俺は自作のパスタを嚥下し、ワインを一口飲んだ。

 うん、美味い!


「え!? マーレジャルっすか!?」 

「お前等、幼馴染みで仲良いんだろう?」


 竜族がつがいに出会うのは、一目で分かる場合もあればそうじゃない場合も多い。

 付き合ってみて、互いを知ってからや。

 身体の関係を持ってみて、分かることもある。


「俺だって早くつがいを見つけたいっすけど、マーレジャルは嫌っす! 無理っす! あいつ、胸もでかいっすけど、それ以上に態度がでかいじゃないっすか! 餓鬼の頃から乱暴で凶暴で横暴の、暴の三段活用みてぇな雌なんすよ!?」


 俺の提案を即却下し、エキザリは残っていたワインを飲み干し。

 ジョッキをドンッと、テーブルに置いた。

 あ、頬が赤くなってやがる……動揺してんな~、こいつ。

 多分、マーレジャルのことが好きなんだな。

 うんうん、良いねぇ~。

 若者は初々しくて。


「多少ぼこられるくらい、そういうプレイってことで良いじゃねぇか! 告れるように、俺がセッティングしてやろうか? マーレジャル、再来週は連休あっから、お泊まり旅行にでも誘ってみろって!」


 ある程度凶暴なのは竜騎士だから仕方ねぇが。

 マーレジャルは、竜騎士としてはそんなに強い個体じゃない。

 本人が気をつけて制御すれば、エキザリに怪我をさせることもないだろう。


「お、お泊まりっ!? 無理っすよ! ダルフェ団長がどうぞ! あいつ、いつも誰がいようが平気で『ダルフェ団長、大好きっ!』って言って、べったりねっちょりくっついてるじゃないっすか!」

「はぁ? あれは父ちゃんみてぇに好きってことだろ? あいつ、父ちゃんが早くに死んじまってるから」


 マーレジャルの両親は。

 前団長のせいで死んだ……そのことをマーレジャルは知らないが。

 知っている俺とクルシェーミカはついつい、マーレジャルには甘くなってしまっているわけで……。

 野営中に俺の毛布に潜り込んできても、風呂に乱入してきても。

 いまいち強く叱れないでいるんだよな~。


「父ちゃん!? 違いますって! あいつ、団長の操を本気で狙っていやがるんすよ!」

「み、操!?」


 操なんて言葉をお前が知ってたことのほうが、俺的には吃驚だぞ!?


「マーレジャルの奴、部下っていう立場を利用してやがるんすよ! こないだなんて、団長の大胸筋と上腕二頭筋の触り心地を俺に自慢しやがったんです! ずるいっすよね!?」

「俺の大胸筋と上腕二頭筋の触り心地!? いや、えっと……ちょっと……まぁ、うん」


 いやいや、それを真顔でずるいって言うお前のほうが俺的にはちょっと怖いっつーか、キモい!


「ダルフェ団長、マーレジャルの今年の目標を知ってるんすか!? "ダルフェ団長にあたしの初めてを捧げるの♡”っなんすよ!? あの凶暴肉食獣に襲われないように、お身体気をつけて下さいっす!」

「俺が襲われるって……あり得ねぇよ」


 おい、エキザリ!

 お身体気をつけて下さいの使い方、間違ってるぜ!?

 つーか、う~わ~っ、初めてを捧げる♡ってなんだよ!?

 おいおい、マーレジャル!

 無理、俺はお前とは絶対にしねぇからな!


「あ! それはそうと。団長って先月の中頃、すっげーおっぱいばい~んな人間の美女とセルイ国の夜市を歩いてましたよね? 彼女っすか!? 髪の色変えてても目立ってたんで、すぐ分かったんすよ! 俺も仲間と遊びに行ってたんです!」


 あ~、なるほど。

 お前等に見られてたのか。

 くだらねぇ噂の出所はてめぇだったのかよ、エキザリ!

 あの女はセルイ国宰相の情婦で、内部情報流してくれてたから、たま~にお付き合い・・・・・してたんだよな~。

 ま、もう用済みだから会うこともねぇけど。


「彼女じゃねぇよ。ただの仕事関係、単なる取引相手だ。つーか、あれが美女って……中の下だろ?」

「中の下!? 団長はおっぱいぼよよ~んな超美魔女陛下が母ちゃんだから、美女のハードルが高過ぎるんじゃないんすか!? 基準、鬼っす! 贅沢っすよ!」

「鬼って……いや、そんなことねぇと思うぜ? ってか、人の母親をおっぱいぼよよ~んとか言うな! 確かに露出過多なおばさんだがな、あれでも四竜帝なんだぜ!?」


 母さん。

 いい加減、乳の半分以上隠れる服を着てくれ!


「あ、すんません! ぼよよ~んより、ぶるぶる~んだったっすか?」


 ぼよよ~んより、ぶるぶる~ん……。

 息子としちゃどっちも嫌だが、あんな布面積の少ない服ばかり着ている母さんが悪い。

 まぁ、エキザリの頭も悪いけどな。


「……お前、本当にアホだな。もうぼよよ~んでもぶるぶる~んでも、どっちでもいいよ。エキザリ、後片付けは一人で出来るよな? 俺、四時から父さんの店を手伝う約束してるから、食ったら先にあがらせてもらう。悪いな」

「そうなんすか!? 団長がいるなら、今夜はひよこ亭に晩飯食いに行くっす!」

「残念ながら、今夜は赤の竜騎士団の貸し切りだ。半年に一度の慰労会なんだよ、だから俺が手伝うんだ」


 俺は皿に残っていたパスタを平らげ。

 残っていたワインを飲み、席を立ち。

 椅子の背にかけてあった前掛けを掴み。


「じゃ、またな! 仕事、これからも頑張れよ。エキザリ」

「あ、はい! 今日はありがとうございました! ダルフェ団長!」


 頭を下げすぎて、勢いよくテーブルに額をぶつけちまったエキザリに見送られ。

 城の食堂から街にあるひよこ亭に、俺は向かった。


 ……その時の俺は。

 思いもしなかった、していなかった。


 ==竜騎士団で毎日忙しく働いてる俺に飯も作らせる鬼嫁なんて、冗談じゃねぇよ! どんなに顔と身体が良くったって、ごめんだ。


 そう言っていた、この俺が。

 数年後ーー。

 青の大陸で、カイユ出会って恋に落ち。


「なぁカイユ。今日の晩飯は何が食いたい? 肉? 魚?」 


 毎日の飯どころか、菓子まで作るようになり。

 掃除洗濯等の全ての家事までも、喜々としてこなすようになろうとは。

 これっぽっちも、この時の俺は想像していなかった。

 未来さきのことは分からねぇよな~、うん。


 でも、俺は。

 カイユに飯を作って食べてもらえることが。

 すっげぇ、幸せだ。



゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜,゜.:。+゜





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