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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
赤の大陸編
201/212

第45話(2017/10/01、下部にダルフェの小話追加しました)

10月1日、下部におまけのSS追加しました。ダルフェの赤の竜騎士時代のお話です。

「貴方の目覚めの知らせを、陛下も義父様も寝ずに待っていらっしゃるから……私、行ってくるわね」

「……ああ、頼むよ。母さんと父さんに、もう心配要らないと伝えてくれ」


 俺が目覚めたことを母さんに知らせてくると、カイユが部屋を出て行くのを俺は見送った。

 電鏡を使わずにわざわざ出向くカイユの行動に、少々引っかかりを感じつつ……それを指摘することはしなかった。

 カイユがそうしたってことは、何らかの理由があると思ったからだ。


「…………さて、まずは…………風呂にでも入るか」


 カイユが着替えさせてくれたらしい夜着を脱ぎ、裸足のまま浴室へと向かった。

 歩きながら、これからの予定を考えた。

 旦那に噛まれて意識がなくなった件は、今夜の舞踏会が終わった後に直接訊くとして。

 まずは今日の武闘会と舞踏会だ。

 俺のことを祝って開催されるとはいえ、完全な"お客さん”状態でいるわけにはいかない。

 出来る限り諸々の準備を手伝いたいし、すべきだと思う。

 多分、城勤めの竜族だけじゃなく、竜騎士も動員されてるはずだ。

 本来の仕事が多忙であっても、母さんのことだから竜騎士達も容赦なくこき使っているだろう。

 まぁ、竜騎士なら数日間不眠不休で働いても、寝込んだりしねぇけど……。

 

「……武闘会は午前九時からで、昼休憩(城の食堂でランチメニューを希望者全員に無料提供)を挟んで終了予定時間は午後四時。舞踏会は六時半からで、食いもんはビュッフェ形式での提供有り。昼も夜も仕込みは料理長のガンズが仕切ってるから、問題なしだな。両会場の設置作業は日の出までには終わらせるって感じで進めてんのかな…………ん?」


 浴室に向かう途中、壁に備え付けられた鏡に映る真っ裸の自分に気付き……あ、俺の尻。


「そもそも自分の尻なんて、興味ねぇからなぁ~。自分じゃ見ねぇし揉まねぇから、青の大陸にポイ捨てされる前の尻との違いなんて分かんねぇよ」


 鏡に映る尻を見ながら、試しに揉んでみたが。

 やっぱり自分では、以前の尻との違いが全く分からなかった。

 こんな真面目(?)に、自分の尻を見たこと自体が初めてだしな。


「ちょっと揉んだだけで、痩せたとか言いやがった……」


 母親って、ホントにすげぇな~。


「……まぁ、俺だって愛しのハニーのなら分かる自信あるけどな」


 つまり。

 それだけ俺は。

 母さんに、愛されてるってことなんだよな……。




 ※※※※※※※※※




 風呂から出て、用意されていた赤の竜騎士団の制服を着て身支度を済ませた俺は。

 武闘会と舞踏会の会場設営の進行状況を確認してから、母さん達のところに顔を出そうと両会場に足を向け…………結果、予想通り赤の竜騎士団の奴等が不眠不休で設営作業等で働いている現場に遭遇し、あれやこれやと手伝っているうちにあっいう間に時間が過ぎてしまった。

 舞踏会の会場は城内の大広間で、武闘会の会場となるのは竜騎士団の野外鍛錬場だ。

 武闘会の会場設営作業を終えると懐かしい面々に引き止められ、それをむげにも出来ず近況を順に聞いてやっていると……。


「探したわよ、ダルフェ! もうっ、主役がなにのんびりしてるのよ!」


 凶器のようなピンヒールに真っ赤なドレスの、露出狂熟女がものすごい勢いで駆け寄ってきた。


「うわっ、今日は一段と気合いの入ったすげぇ格好してんなっ! のんびりって……勝ち抜き戦だろ? 俺はシードだし、旦那との試合は最後の余興だから時間は余裕がっ……おい、ちょっと何すんだよ!?」


 母さんに腕を引っ張られ。

 ここ・・へと、強制連行された。


「……あれ?」


 俺が連れてこられたのは、会場のど真ん中だった。

 いつの間にか隙間なく埋まっていた観客席からの視線が、俺と母さんに集中した。


「…………あのさ、母さん。俺の知ってる武闘会と様子が違うんだけど?」


 違うと感じたのは……試合会場の隅に整然と並ぶ同族達だ。

 長く伸びた列の最後にはマスクをした(喉を潰されてまだ完治してねぇからな、喋れませんアピール用マスクだろう)ミカが、"整理券希望者は並んでください”と書かれた看板を掲げて立っていた。

 整理券……整理券って何のことだよ!?

 予定より遅れてしまった舞踏会の会場設置作業を大広間でしているはずのマーレジャルもなぜかそこにいて、並んでいる順に紙切れをせっせと手渡していた。

 同じく舞踏会の会場準備要員だったベッケルスが、赤の竜帝の印が中央に印刷された、ぱんぱんに膨らんだ手提げ袋を皆に配っていて……。

 あれ、なんなんだよ!?

 入りきらず上部が飛び出してるあれって、どう見ても酒瓶だよな!?

 あの瓶の色って……赤の竜族の大好きな高級蒸留酒の一升瓶じゃねえか!?

 あんなにぱんぱんってことは、酒の他にも何か入ってるよな!?

 並んでる皆は、それぞれいくつかの花を身体のどこかしらに飾っていた。

 服に花を四つ飾ったマーサおばちゃんも並んでるし、花で作った妙なかつら(?)を被ったエキザリもいやがる!

 うわっ、なんかもう嫌な予感しかしねぇんだけどっ!


「母さん、あの行列ってなにっ……げっ!?」 


 俺の視線に気付いたミカが、持っていた看板をクルリと裏返してこちらへと向け。

 その看板に書かれた文字を見た俺に、右手で"ごめん”と、ジェスチャーをした。


「ミカ、お前っ…………おい、母さん! "ダッ君総当たり戦申し込み受付中! 豪華参加賞あります!”って、何なんだよ、あれ!」


 ダッ君総当たり戦って……。


「え~、だって貴方、ずっと寝てたから言いそびれちゃったっていうか……」

「俺だってこのクソ忙しい時に、寝たくて寝てたんじゃねぇよ! ってか、つまりそういうことかよっ!?」


 俺の右腕に両腕を絡め、妖艶な笑みを浮かべ。

 母さんは、言った。


「うふっ。だって、皆がダルフェとしてみたい♡って言うから。希望者は八十人位いるみたいだから、お相手よろしくね♪」

「騙しやがったな、このくそババアッ!!」


 俺の罵声と共に、武闘会の開始を告げる音花火が。

 赤の帝都の、雲一つない青い空に響いた。




 


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~ダルフェ過去話SS『パパとダッ君』~



「父さん、閉店時間ギリだけどいいかな?」


 仕事先から真っ直ぐに、父さんのひよこ亭に顔を出した。

 今日の仕事は、密猟団の下っ端共を捕まえて『ちょっとお話を聞かせてもらう』だけだった。

 俺は部下達がやり過ぎないように作業を眺めてるだけだったから、今日は殺しはしていない。

 だから、制服のままひよこ亭に足を運んだ。


「あ! ダッ君!? お帰り!」

「ただいま、父さん」

「ダッ君は朝早く出勤だったから、今日は初めて顔が見れた! ふふ、竜騎士の制服を着たダッ君は本当に格好良いいよね、パパは鼻高々だよ!」


 厨房でフライパンを洗いながら、父さんが嬉しそうに笑った。


「父さん、今日は客が引くの早かったんだな。いつもこの時間になっても誰かしらいるのにな。……麦酒もらって良い?」

「何本でもどうぞ! お代はいいよ、パパのおごり♪」

「いいって、払うよ。あのな、父さん。赤の竜騎士団の団長やってる俺って、かなりの高給とりなんだぜ?」


 俺は厨房の脇にある保冷庫から麦酒の瓶を一本とりだし、王冠を歯で外し。


「……はぁ~、うめぇ♪」


 一気に、飲み干した。


「ねぇ、ダッ君。怪我してない? 今日のお仕事も、危険なお仕事だったのかい?」


 父さんは手を拭きながら俺に歩み寄り。

 心配そうに、そう言った。


「今日は現場監督みてぇなもんだから、危険ゼロだったよ。それにな、危険な仕事だとしても、怪我なんかしてないに決まってるでしょうが? 父さん、俺って赤の竜騎士で一番強いんだぜ?」


 自分で言うのもなんだが、事実だしな。


「う、うん! そうだよね!? 陛下がいつも言ってるものね! 四大陸の竜騎士の中で、僕のダッ君が一番強い竜騎士なんだって!」


 そう、俺は四大陸の竜騎士の中でも一番強い。


「……うん、そうだよ。父さんの息子が一番だよ」


 <色持ち>だから、どの竜騎士より強くて当然だ。

 ……でも俺は、一番じゃなくていいから、父さんと母さんを看取れる寿命が欲しかった。


「ねぇ、あのさ、ダッ君……ハグしていい?」


 口が裂けても言えないし、言わないけれど。


「ハグ? いいぜ、遠慮すんなよ。俺はあんたの息子だぜ?」


 父さん、ごめん。

 俺は、竜族の中で一番親不孝な息子だ。


「……父さん。俺、久しぶりに父さんのオムライスが食べたい。良いかな?」


 ぎゅうぎゅうと抱きついてくる父さんを、俺もぎゅうぎゅうと抱きしめながら言うと。


「もちろんだよ、ダッ君! すぐ作るから、座って待っててね!」


 父さんは俺の頭を愛おしげに撫でてから、厨房へ戻ってオムライスを作り始めた。

 俺は喜々として卵を割る父さんの顔を見ながら、今ここにいないあの人に心の中で問いかけた。


 ねぇ、ヴェルヴァイド。

 父さんのオムライスを、俺はあと何回くらい食べられるんだろうか?




「ダッ君、お待たせ!」

「……あれ? また少しでかくなってねぇか?」




 父さんの俺への愛に満ちたオムライスは年々巨大化し。

 久しぶりに食べたオムライスはチャレンジメニューを通り越し。

 ちょっとした拷問レベルにまで達していた。



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