第1話
殴った側も心が痛いんだ……とか、青春ドラマで言うよね?
実際、殴ったら心よりまず、手が痛かった。
ぐーで殴ったから第一関節が痛いかも。
だいたいさ、殴った私が逆にダメージを受けてるし。
床に座り込んで痛い右手をかばいつつ、涙がどんどこ溢れて……。
痛い・寒い・怖い・恥ずかしい……もう、ごちゃごちゃだ。
鼻水をずずっとすする音が、静まりかえった室内に響く。
最悪だよ!
きらびやかに着飾った外人達の姿が涙で歪んだ眼に映る。
映画で見る様な……舞踏会かなんかなの?
『これは……どういう事だ! ミー・メイ!!』
私に殴られた青年が大声で怒鳴った。
言葉はわかんないけど、怒ってるのは口調と表情で分かった。
その青い瞳は殴った私を見ていなかった。
私の……左?
あ、気がつかなかったけど……女の子が立ってる。
『ミー・メイ! お前は……異界から人間を連れてくるなどしてはいけないことだ! すぐにこの娘を返還しろ』
青年が女の子に、言葉を叩きつける。
すごい剣幕だから私は左にいる女の子が気の毒に思えて……他人が怒られ(?)てるからか涙も止まり、頭が冷静になってきたかも。
ちらりと女の子の様子をうかがう。
かわいそうに。
可愛らしい顔が真っ青!
妹がいるせいか年下の女の子に弱い私は、彼女が気の毒になった。
何か言いたげな唇は震えて声が出てこない。
まだ高校生位の歳に見える……妹より下かな。
「ちょっと、青年! やめなさいよ。可哀想だしさ!」
思わず意見してしまった。
石の床に座りつつね。
青年はぎょっとした顔でこちらに顔を向けて……あたふたと自分の肩からマントを外して、私にかけてくれた。
片方の膝をつき、そっとかけてくれたマントからはふわりと柑橘系の香りがした。
初めてちゃんと確認した青年の顔は……。
「……イケメン君、殴ってごめんなさい」
さっき殴った顔は俳優みたいに整っていた。
私が殴った程度では、赤くすらなってなくて安心した。
イケメンだけど顔は硬くて丈夫なんですね!
『貴女は被害者だ。わが国の術士のせいで異界から連れてこられてしまった。言葉は通じてないようだが……。セイフォン・デイ・シーガズ・ダルド、心の底から謝罪する』
はあっ? イケメン君、何?
全く理解不能だよ……あ、頭を下げた。
謝ってる感じがする。
ひえ、女の子が私に土下座したよ!!
なんか……こうまで謝られると逆に怖いんだけど。
言葉を勉強し始めてから知ったのよね。
事の詳細を。
あの日はダルド殿下の二十歳のお祝いで……王宮術士であるミー・メイが余興で異界の物を出す術式を披露したんだって。
出すのは害の無い小さめな無機物のはずが、私が出てきてしまったわけだ。
ミー・メイは異界から引っ張ってきた物を返すことは考えてなかったから……。
一方通行の未完成な術式は禁術に指定され、私は殿下のお客扱いで王宮生活になった。
自分の誕生日の余興で私の人生をめちゃくちゃにしたと彼は後悔しているから、私にとっても良くしてくれた。
あれから10年たったけど、今もそれは変わらない。
10年たって、私は毎日とっても幸せだけど……殿下とミー・メイとも仲良くしてるけど許してはいないの。
こんな理不尽なことが二度とおきてほしくないから。
だから私は、彼らを許さない。
私はここで本当に愛する存在を手に入れたけど、私を失った家族の嘆きを想うから。