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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
赤の大陸編
192/212

第36話

 電鏡の原材料になる特殊な鉱物は、青の竜帝が所有している鉱山から採取されている。

 四大陸の中でも、その鉱山(所在はふせられている)からしか採れない。

 加工、製造方法は青の竜帝と青の竜族の専任技術者しか知らず極秘とされ、年間生産量も公表されていない。

 手の平サイズの小型の携帯用電鏡は、人間にも販売しているが……王侯貴族であろうと、おいそれとは買えないような金額だ。

 四竜帝は輸入したそれを、原産国の青の大陸の数倍以上の値でそれぞれの大陸で販売し、利益を得ている。

 電鏡は超高額商品だか、それでも欲しいという金持ちが多く、確実に儲かる。

 だが、人間に販売するのは竜族が使っている現行型ではなく旧型のみ。

 そして、大型電鏡はどんなに金を積まれても人間には売らない。

 各大陸で四竜帝だけが、大陸間通話可能な高性能の大型電鏡を所持している。

 大型電鏡で密に連絡を取り合っている竜族は、四大陸間で強く結びついているが、人間はそうじゃない。

 同種族であろうと大陸間で独自に交流する術を持たない人間は『分断』していて……それは、長い時間を掛けて四竜帝が構築した『分断』だ。

 各大陸の人間がひとつにまとまり、竜族と対するようになるのを避けるための……。




  ※※※※※※




 電鏡の間にある、青の陛下専用の大型電鏡の中で俺を待ち構えていたのは。


「僕、三分も待っちゃったんだけど?」 


 カイユに代わり青の竜騎士団の団長に復帰した舅殿、セレスティスだった。


「……お待たせしてしまい、申し訳ありません」


 俺は深々と頭を下げ、詫びた。

 三分も待った……そんなこと言われてもな~。

 たった三分なんだからいいじゃないですか! 

 なんて、この人には言えねぇし。

 青の陛下が相手なら、即効ツッこんでましたけどね。

 そもそも、細かな時間を決めていたわけじゃない。

 俺としては、まずは大型電鏡に通信入れて、そこから舅殿の持っている小型電鏡に受信連絡がいって……俺が、舅殿を待っているつもりだったんだけどな……確信犯だな、絶対に。


「明日、ジリギエとカイユに会わせてくれるなら許してあげるよ?」

「はい、赤の陛下に電鏡の間の使用許可を申請しておきます」

「ふふ、ありがとう。婿殿」

「いえ。……特例措置が各四竜帝からでています。今後どの大陸であろうとも、電鏡の間での家族との面会に上限ならびに制限は一切ありませんから、いつでもお申し出ください」

「さすがに<監視者>殿絡みだと、半端なく優遇されて助かるよ」


 誰もが好印象を持つに違いない優しげな笑みを浮かべていうこの雄竜は、まさに"王子様”だ。

 女子供が憧れて夢見るような、絶対に実在しない理想の王子様。 

 肩で切り揃えられた前下がりのワンレングスの銀髪に、澄んだ水色の瞳……誰が見てもカイユの血縁者だと分かる秀麗な顔立ち。

 姫さんが言うように、人間から見たら娘であるカイユと並ぶと親子ではなく兄妹としか見えないだろう。

 兄妹というか、カイユと舅殿は双子みてぇに似てるもんな~。


「……婿殿。いい加減、頭を上げなさい」

「…………はい」


 ゆっくりと頭を上げた俺の眼に。

 青い騎士服の上に、同色の外套を羽織ったその姿が映り込む。


「うん、顔色は悪くないね。安心したよ、婿殿」

「舅殿こそ、腕はどうなんですか?」


 当然ながら。

 メリルーシェで導師と対峙したさいに失った両腕は、まだ再生されてはいない。


「ああ、これ? うん、まだまだだね。待ってられなくて、昨夜から活性促進剤を飲み始めたんだ」

「服用タイプの活性促進剤!? あれは副作用が酷いってことで、製造中止になったんじゃっ……」


 組織の再生速度を限界以上に高める代わりに、猛烈な副作用が使用者を待っている。

 服用後数分で吐き気と目眩が始まり、やがて全身を切り刻まれるかのような激痛が表皮と内臓を絶え間なく襲う。

 痛みに慣れた竜騎士ですらそれに耐えられず失神したり、過去には発狂する事例もあったため、五年くらい前に製造中止になっていたはずだ。

 在庫も残らず焼却処分されたって、カイユから聞いていたが……。


「薬事課長をちょっと脅し……じゃなくて、頼んで作らせたんだ。あ、カイユには内緒だよ? 怒るから。カイユが怒ると、すごく怖いからね」


 本当は、怒るからじゃなくて。

 悲しむから、だろう?


「休んでなくて、いいんですか?」

「平気だよ、これくらい。僕は普通の竜騎士より、痛みに強いらしいから」


 また、そんな適当なことを言って。

 見え見えな嘘だけど、見逃してあげます……『嘘』は、お互い様っすからね。


「陛下がよく許可しましたね?」

「あの子には言ってない。我が主は、優しすぎるからね」


 カイユと俺が抜けた青の竜騎士団は、たった六人だ。

 いくら少数精鋭とはいえ、六人で城外と城内の警備と地方巡回をこなすのは厳しい。

 在籍数八でもなんとかなってたのは、カイユと俺と舅殿で竜騎士十数人分の働きをしていたからだ。

 俺とカイユがいなければ、全ての負担が舅殿一人にのしかかる。

 溶液に浸る時間も無いほど、舅殿は忙しいってことで……。

 だからといって、あんなヤバい薬を服用するなんて無茶苦茶だ。


「遅かれ早かればれますよ? 陛下、きっとキレます」

「だろうね………………おい、ダルフェ」

 

 王子様は、気品すら感じさせる優しげな笑みを。

 一瞬で、本来のものへとすり替え、言った。


「俺のことより、てめぇの身体の心配をしろよ。せっかく実家に帰ったんだ。母ちゃんと父ちゃんに甘えて、楽させてもらえよ?」

「ええ、そうさせてもらってます」

「そうか、そりゃ良かった」


 薬の副作用は相当なものだろうに、まったく顔に出さねぇなんて。

 やっぱ、舅殿はすげぇよ。

 カイユ、君の父親は本当に格好良いな。

 ……俺の父さんとは、真逆っつーか……。

 晩婚だった父さんは、中年期中頃の立派なおっさん竜だ。

 人間で言えば、初老か?

 舅殿は青年期後半を終えて壮年期に入るかどうかってとこで……舅殿は父さんより俺との方が、年齢が近い。

 でも、この人は俺の何倍も密度の濃い……壮絶な生を送ってきた人だ。

 この人からすれば俺なんか、餓鬼にしか見えないんだろう。

 俺はこの人になら頭も下げるし、跪くことも抵抗がない。

 基礎スペックは<色持ち>の俺が『上』だが、格はこの雄竜が『上』だと、そう思っているからな……。


「ダルフェ。てめぇはしっかり養生して、一分一秒でも俺の娘と孫のために長生きしろよ? いいか? 絶対に俯くな! いつだって顔上げて、胸張ってろ! てめぇが揺らいだら、それがつがいのカイユに伝わっちまう。俺のカイユを泣かせやがったら、寿命で逝く前に俺がてめぇをブチ殺すぞ!?」


 ……すみません、舅殿。

 本当は、実家に帰って来てから毎日すげぇ忙しくて、ちっとも養生してません。

 毎日実質睡眠時間が三十分あるかないかなんて、口が裂けても言えねぇっ!


「大丈夫ですよ。俺がカイユを泣かせるのは、ベッドの中でだけですから」


 まぁ、これは嘘じゃねぇもんな、うん。


「はぁ!? 父親に面と向かって言うことかよ!? これだから赤の竜族の雄ってのはっ……ったく、そっち・・・がそんなに元気なら、あと五~六十年は余裕で生きられるんじゃねぇか!?」 

「ええ、おかげさまで」


 でも、これは。

 嘘、だ。


「俺も、そう思います」


 セレスティス、舅殿。

 嘘つきな婿で、すみません。


 でも、嘘つきは。

 お互い様ですから、ね?







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