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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
赤の大陸編
183/212

青の大陸編SS~Moonlight Serenade~

青の大陸編での、ほのぼの小話です。

「ハクちゃん、今夜の月は満月ね……”月が綺麗ですね”、ハク」

 =ん? そうだな、綺麗……なのだ。

 居間の窓から夜空を見上げるりこの細腕に抱かれた我は、同意はしたものの内心では月を"綺麗”などと微塵も思ってはおらず。

 りこの、愛しい人の瞳の方が月などより遙かに美しく……。

「………………ふふっ、”月が綺麗ですね”って言うの、少し憧れだったのよね~。ねぇ、ハク。明日の夜、皆でお月見しない?」

 月見、とな?

 今、しておるだろう?

 =りこ?

 月を見ているのに月を見るというその奇妙な発言に首を傾げる我を抱いたまま、りこは夕食後の茶を準備しているカイユのもとに足早に向かった。

「カイユ! 明日の夜、お月見しませんか!? 皆で……竜帝さんやセレスティスさんも誘いましょう!」 

「お月見? トリィ様、それは異界の風習ですか?」

 ティーポットを手に首を傾げたカイユに、りこは言った。

「はい! お団子とすすきを飾って、お月様を鑑賞するんです……この世界にはお団子ってないのかな? おやつで出てきたことないし……」

「お団子、ですか? 東方の餅菓子の事かしら……申し訳ありません、帝都には団子を扱ってる店はないんです」

「団子? つまり丸い菓子ってこと? ん~、じゃあ、俺がマカロンを焼いてあげっからそれでもいい? 陛下と舅殿には俺が声を掛けておくから。姫さんの言う"お月見”ってのは前に言ってた"お花見”の月版だろ? よし、明日の夜は南棟の庭で月夜の茶会だな!」

「ありがとうございます、ダルフェ」

 幼生を頭部に乗せたダルフェの言葉に、りこが嬉しそうに微笑む。

 その顔を間近で見た我は、"綺麗”だと思った。


  ****


翌日の夜。

月明かりの庭に敷布を広げ、皆が集った。

「今夜は消えますからホットワインを用意しました。舅殿はシナモン多めので、陛下はこれ、カイユは林檎ジャム入りで、姫さんは果汁多めのやつをどうぞ♪」

 ダルフェはカットした柑橘が浮いたカップをカイユの父親に手渡した。

「ありがとう、婿殿。うん、オレンジとシナモンの良い香りがするね」

 膝に孫を座らせ微笑みながら受け取り、笑みを深くした父親の姿をカイユは穏やかな表情で眺め。

「さすが、ダルフェ! 俺様のにはちゃんと砂糖を多めに入れてくれたんだな! うん、美味い!」

 カイユの父親の隣に腰を下ろした<青>が、満足げに眼を細め頷く。

「うわ~……このホットワイン、飲みやすくて美味しい! 何杯でも飲めちゃいそうです! ダルフェがお団子の代わりに焼いてくれたマカロンも、すごく美味しくて、最高のお月見です!」

 我の隣でそう言ったりこの頬は、ワインのせいかほんのり赤くなっていた。

「…………りこ、飲み過ぎるなよ? まぁ、我はまた頭突きをくらって鼻血を出しても良いが」 

「っ!? あ、あれはお酒で酔ったんじゃないわよ!? 飲み過ぎるなんて、しないもの!」

「そうか?」

「そうです!」 

 我は飲み食いせぬので、"お月見”を楽しむ愛らしい妻の姿をワインの代わりに味わった。



「へぇ~。おちびの国では、月の模様をうさぎが餅をついてる図って言ってんのか。うさぎが餅つき……メルヘンというかシュールっつーか……異界人の感性ってすげぇな」

 菓子を食いながら、ランズゲルグが言うと。

「姫さん、俺達竜族は竜族の始祖の影が月に刻まれてるって言われてるんだ。肉体が滅びても影だけは月に残って、俺達を見守ってくれてるって……ねぇ、旦那。言い伝えによると竜族の始祖も、ヴェルヴァイドって名前でしたっけ?」

 ダルフェはそう言い、わざとらしく首を傾げた。

「………………さあな」

 始祖に関わることを我に訊くな!

 りこの前で余計なことを……始祖の事など、りこはまだ知らぬほうが良いのだ!

 まったく、我の手を握りべそをかいていた幼竜がこのように育つとは……ん?

「りこ?」

 我の右半身に柔らかく温かいが心地よい重みとともに……りこは我に寄りかかり、先程よりも色を濃くした顔で我を見上げ、言った。

「ハクちゃん、”月が綺麗ですね”って言葉には特別な意味があるのよ?」

「……意味?」

「うん、『**********』って意味があるのよ?」

「ッ!?」


りこが異界語で『**********』と言ったので。

意味の分からぬ者達は首を傾げたが。

我は、その言葉をりこに教わったことがあったゆえ。

愛しい妻を抱きしめながら、その言葉を口にした。


「……りこ。我も”月が綺麗ですね”、なのだ」


 愛しい貴女の瞳は我の太陽、我の月。

 見つめられると我の身が熱を帯び、視線に照らされると我の心は安らぎで満たされるのだ。

異界での”月が綺麗ですね”、は。


「うん。ありがとう、ハク」


 ”私はあなたを愛しています”、か……。 


 りこ、貴女を愛し。

 りこ、貴女に愛され。

 我は<ヴェルヴァイド>ではなく<ハク>になれたのだ。


 いつの日か、愛しい貴女に”始まり”の話をしよう。

 遠い昔の、戻らぬ過去の。

 始祖の竜<ヴェルヴァイド>と、我の出会いの話を……。






 


林の心身に余裕が無く、本編更新が滞り申し訳ありません。この場をお借りしてお詫び申し上げます……。

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