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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
赤の大陸編
180/212

番外編~Ma fille(2)~

*R15。ヒロイン以外との描写を含みます。苦手な方はご注意下さい。

 我の脳、頭頂葉の片隅で。

 薄い玻璃が割れるような感覚。

 ああ、また何かが異界から落ちてきた……落とされたのか。


「……」


 我が感じたくて、それを感じるのではない。

 異界からこちらへと何かが落ちてきた時に感じるこの独特の感覚は、<ヴェルヴァイド>が元々有していたものだ。 

 落とされた場所は……近い、な。

 セイフォン、か。


「…………」

「あぁ、んっ……か、<監視者>様? ど、どうなさっ……ぁんっ、いましたの? ……きゃああっ!?」


 寝椅子に横になっていた我へと覆い被さり、独りで快楽を貪っていた女の躯を押し除け立ち上がった。

 希少な白い虎の毛皮で作られた敷物の上に倒れた女は、露わになった乳房を隠そうともせず我を見上げ、紅の塗られた唇を酸欠の魚のようにぱくぱくと動かし、情欲で乱れた呼気混じりに言った。


「んっ……ふぁっ……お、お出かけになるのですか? あぁ、どうかお早いお戻りを……わたくしの元に、お帰り下さいませっ」

「……」


 お戻り?

 お帰り?

 何故、我がメリルーシェの竜宮に戻る必要があるのだ?

 何故、我がお前の元に帰るなどと口にするのだ?

 我には戻る場所も、帰るべき者も存在しないというのに。


「……」

「あぁ、<監視者>様っ……わたくし、貴方様を心底お慕いしておりますっ……」


 半裸で我を見上げるこの女は、メリルーシェの第二皇女だ。

 本人はまだ知らぬようだが父王は婚期の過ぎたこの女を臣下に下げ渡し、我には妹姫をあてがおうと考えているようだ……まぁ、どちらでも我はかまわん。

 <青>は異を唱えるが、我は女に興味がない。

 死ねんので次代を得る必要性が無いためか、身体は雄としての正常な機能を持ってはいるが繁殖への欲求が欠けているのだ。


「わたくしほど、貴方様を愛している女はこの世におりません。この身も命も、貴方様に捧げております。他の女達など、所詮は貴方様のお力が目当ての薄汚い獣なのですわっ……」

「……愛?」


 この言葉が本心からかどうかなど、我にはどうでも良い。

 お前と似た言葉を吐く女は過去も今も多いのだ。

 それこそ星の数ほど、な。

 まったくどの女も身体も思考も似たり寄ったりで、変わり映えせぬ……つまらん。


「…………では。お前が我のつがい名を呼べたなら、我の妻にしてやろう」

「ほ、本当でございますかっ!?」


 女が我の言葉に身を震わせ、涙ぐむ。


「我は嘘はつかぬ」


 あまりにつまらなくて、口にしたその言葉に偽りはない。

 嘘をついてまで得たいモノなど、我には無いのだから……。


「お前等と違って、な」


 その結果は。 

 半時ほど、女は必死の形相で喉を掻きむしりながら口を開け閉めし。

 気を失って、仰向けで倒れた。


「……やはり、一音すら出せぬか」


 お前の愛など、我は要らぬのだ。

 一方的に愛を与えられても、我はそもそも愛という感情を持ち合わせておらぬので理解できぬ。


「それで良いのだ。この世界に、我のつがいは存在せぬのだから」


 愛を持たぬ我に、つがいが存在するはずがないのだ。

 だが、もし。

 つがいが現れ、我が愛という感情を得たならば。

 竜族の雄達のように、盲目的につがいを愛してしまったら。


「我のつがいは、この世界に存在してはならぬのだ」


 この世界にとってそれは、災厄としかならぬのだから……。


「さて。<処分>しに行くか」


 我は竜体となり、セイフォンへと転移……しようとして、止め。

 金で装飾された窓を開け、翼を広げ夜空へと飛び、メリルーシェの王宮の上空で宙を見上げた。

 柔らかな月明かりが我の鱗を優しく撫で、穏やかな夜風が夜香花の薫りを我へと運ぶ。

 セイフォンまでは、転移すれば一瞬だ。

 急ぐ必要は無い。

 ……我が<監視者>などというつまらぬ奉仕活動を始めて、どれほどの時が経ったのだろうか?

 さすがに、我も飽きてきたような気が……。

 というか、飽きたのだ。

 まぁ、我には他にする事もしなければならぬ事も無いが。

 明日の予定も明後日の予定も……数ヶ月先も数百年先もなんの予定も入っておらぬ、<青>曰く世界一暇人の我なのだ。

 世界一の暇人……多分、それは褒め言葉ではない。

 いにしえの白、ヴェルヴァイドよ。

 貴様が我に押し付けたこの躯、我はもう要らぬ。

 いい加減、貴様に返却したいのだ。

 

 =なにが『お試し』だ、分離不可能になるなど話しが違うではないかっ! 我をたばかりおって……嘘つきめが!


 人間の術士共が、異界から我を越える化け物を落としてくれれば良いのに!

 化け物が存在せぬなら、兵器でも良い。

 兎に角、我を滅せるほど強いモノを所望するのだ!

 ベルトジェンガ。

 ブランジェーヌ

 ランズゲルグ。

 リンエルチィル。 

 死ねるお前等四竜帝が、我は羨ましい。

 我は、生きることに飽きた。

 存在することに、飽きた。


 =…………今回セイフォンに落とされたモノが、我を殺せるほどのモノである可能性はある。


 限りなく低いが、可能性はゼロではない。

 我を殺せるモノでなくとも、面白いと感じられるモノやもしれぬしな。

 少なくとも、女と交わるよりは暇つぶしになるのだ。

   

 =ふむ……あそこの竜宮も久しぶりだな。 


 ヒュートイル、我を化け物と呼んだセイフォンの王よ。

 お前の血肉を喰らい育ったデルの木は、まだセイフォンの竜宮にあるのだろうか?






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