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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
赤の大陸編
169/212

第22話

「……それではっ」


 旦那の髪を洗うため、俺は後ろへと立ち位置を変え。


「いっきまーす!」


 手に持った洗髪料の瓶を逆さにし、一気に振り下ろして。

 中身を全部、世界最高齢なくせに薄毛や禿げとは永遠に無縁であろう嫌な頭頂部にぶっかけた。

 その瞬間、ベリー系の甘い香りの満ちた空間に、濃厚ながらも清潔感を感じる花の芳香が混じる。

 二つの香りは混じり合い、調和し、互いを引き立てあう……うん、なるほどね。

 これはセット販売狙いで開発したのかもなぁ~。

 瓶のデザインも、俺が赤の大陸にいた頃より洒落ている。

 くびれのあるグラマラスな形、表面に丁寧に彫られた花々や蝶……。

 容器の瓶自体が工芸品として、一級品だ。

 これは富裕層の人間に売るために作った製品だろう……やっぱ、手堅く儲けるなら富裕層狙いだな~。


「…………オカユイ所ハゴザイマセンカ~?」


 実家(?)の商売が今後もうまくいくことを願いつつ、俺は定番の文句を口にした。

 指先を立て、わざと必要以上に力をいれ、旦那の頭皮や毛根に少しでもダメージを与えられればいいのにねぇ~なんて考えつつ、がしがしと乱暴に動かし……ちょっと調子に乗って、言ってみた。

 湯船に顎まで浸かり、バスタブの縁から両足をどかっと行儀悪く出している旦那は俺の問いに。


「……かゆい? 我の頭部には蚤も虱もおらんのだから、かゆいところなどあるわけなかろう?」


 そう、答えた。

 あ~……うん、分ってますよ?

 あんたなりに真面目に答えてくれたんですよね?

 でもねぇ、なんつーか……ずれてるんだよな。

 だいたいさ、この世に旦那を噛める蚤がいたら怖いって!


「そ、そうっすか……はいはい、そうですよねぇ~。訊いた俺が馬鹿でした」


 姫さんとつがいになって、確かに以前よ旦那の口数は格段に多くなった……だから、この人が想像以上のド天然だったってことが、俺にも分かったわけで……うん、まぁ、これはこれで面白いんだけどねぇ。

 でも、これもぜひ言わせて頂きたい!


「オ湯ノ温度ハイカガデスカ~?」


 まぁ、お決まりってことで。

 一応これも、旦那に言ってみた。


「……温度? 冷水だろうが熱湯だろうが、我は気にせんぞ? ん? そういえば我は、凍傷も火傷も我は未経験なのだ。兵器で皮膚を溶かされたことはあるが」


 俺に髪を洗われ、顎まで泡風呂に浸かって喋る旦那の視線はバスタブから出ている自分の足に……爪先に向けながらそう言った。

 やっぱり、頓珍漢な返答っすねぇ~。

 ん? 

 兵器?

 それって、確か……。


「あー、シュノンセルの旦那に化学兵器使われたんでしたっけ? 黒の大陸で密造されたのをあんたに使うためにわざわざ密輸して……ったく、人妻を寝盗るからそういう目に合うんですよ! 自業自得ってやつです!」


 ドラーデビュンデベルグ帝国の女帝シュノンセルは、旦那の情人だった。

 情人……といっても、そこにあった情や愛は、シュノンセルだけのものだ。

 旦那は彼女の前で口を開くことすら無く、ただ、望まれるままに身体を与えただけの……。

 だが彼女は、この薄情を通り越して無情な男を本当に愛していた。

 だから、<監視者>の手で殺されることを選んだ。

 まぁ、実際は旦那が<監視者>として<処分>する時は“手”を使ってなんて丁寧に殺しちゃくれないけどね。


「我の自業自得? うむ、確かに“得”したのだ。長く生きてきたが、あのよう経験は、初めてだったからな」


 黄金の眼の先にある真珠色の爪を持つ足指を器用に親指から順に曲げていきながら、旦那は言った。


「……はい?」


 得の使い方、変ですっ!!

 うわぁ~、間違った方向にすげぇポジティブ思考っつーか……まぁ、いっか、面白れぇから。

 親指から順に動かしていた足の指の動きを不規則なものに変えた旦那に、今度はおふざけではなく、訊いてみたかったことを俺は口にした。


「………ねぇ、旦那。導師が俺に“向かない”って、あれってどういうことですか? 俺には狩れないくらい、導師(イマーム)は強い術士って意味ですか?」


 俺のほうが“弱い”、だから“向かない”。

 なら、それはそれで仕方が無い。

 それで傷つくような柔なプライドなんか、生憎俺は持ち合わせていない。

 だって、俺は生きたいから。

 一分一秒でも長く、カイユといたいから。

 単騎で勝てない相手に向かっていくなんて、馬鹿やってる余裕も時間も無い。


「……強い? 導師(イマーム)が、お前より?」


 不規則に指を曲げる足先に視線を向けたまま、旦那は首を少し傾げた。

 その動作に、泡だらけの頭部が俺の手の中ですべる。


「俺一人じゃ導師(イマーム)に勝てない。だから向かないんでしょ?」


 この手の中にある頭部を全力でひねれば、旦那の首を折ることが<色持ち>の俺にはできる……一瞬なら、折ることができるだろう。

 それだけ、だ。

 そう、所詮俺はその程度(・・・・)だ。


「いや。違うが、違わないのだ」


 旦那の右の頬には、首を傾げた時に付いたピンクの泡。

 俺とは肌質も色も違う白い頬に付いたその泡に、旦那は右手を伸ばし。

 指先で、そっと触れた。

 まるで姫さんに触れる時のように……そっと。


「はぁ? 分けが分からないんですけど? 俺のほうが弱いからじゃねぇってことっすか?」

「ダルフェよ」


 泡を潰さぬような触り方もできるその指は、その手は。

 簡単にこの世界の未来(さき)を潰すことができる、この世で最も恐ろしい手だ。


「先程、我は言っただろう?」


 けれどその手は、この世界を守ることもできる……やる気にさえなれば。

 旦那は異界人の嫁さんに気に入ってもらえるような、好いてもらえるような世界にしたいって気は確かにある。

 でもそれがどんなものなのか、この人には分らない。

 永い間“空っぽ”に近い状態で過してきたこの人には、人間の娘が望む世界のありようなど分るはずがない。


「お前はにゅーにゅにゃーより価値がある、と」

「にゅーにゅにゃーじゃなく、瑠璃鼠でしょう? ……まぁ、鼠より価値があるって言われてもなんだかな~って普通なら感じですけどね」


 旦那自身もその自覚があるから、とりあえずはあの子が気に入ったカイユや俺やジリを壊さぬようにとっておいて(・・・・・・)いる。


「不満か?」

「いえ、あんたは普通適用外なんで光栄っすよ?」


 鼠よりって言われて、俺としては正直微妙っすけど……話、変えやがったな?

 わざとだ、わざと。

 わざとだと分るように、やりやがったってことは。

 俺の質問には答える気が無いってことか。

 つーことは、これ以上は訊いても駄目だな。


「じゃあ、別の質問していいっすか? ……導師は黒の大陸なんすよね? 何処にいるんですか?」


 赤の竜族である俺は、黒の大陸に行った事が無い。

 知識は資料から得ただけだが、主な大国の位置や政治情勢位は把握しているつもりだ。

 導師がいるのが竜族と国交を持っている国なら黒の竜騎士を派遣して、捕獲は無理でも逃がさないように監視だけでも……。


「………………さぁ? 黒の大陸での正確な位置までは、我にも分からん」

「え~、マジですかぁ?」


 嘘くせぇな~。

 “見逃がしてやった”って、言ってたしな。


「……もしかして旦那()、導師に価値を感じちゃったんじゃないっすかぁ?」

「…………ダルフェよ」


 白い頬から手を離し、その手を顔前に移動して。

 旦那は指先についた泡を黄金の眼で見つめ……言った。


「“も”と言ったな? ………お前が先程言っていたのは、それだな?」


 開けられた窓から、緑の木々に熱を冷まされた大気が浴室に流れ込み。

 その爽やかな空気を運ぶ風が、白皙の美貌を撫でて消えていく。

 残るのは、浴室に満ちていく目に見えぬ圧力。


「そうで、すっ……」


 それを感じた俺の両足は、まるで血液が固まり、ぼろりぼろりと崩れていくような……その嫌な感覚を振り切り、俺は口を開いた。


「あんたにとって導師の珠狩りの術式は、“価値”があるんじゃないですか?」


 そう。

 価値、だ。

 価値ってのは……利用価値、だ。


「…………価値、か。……そうだな。確かに、導師には使い道が無いわけではないのだ」


 今の旦那の価値の基準ってのは、あの子が基準になっている。

 異界人の鳥居りこが、旦那の全てなのだから。

 旦那、あんたは姫さんを生かしたいだろう?

 ずっと、側におきたいんだろう!?

 ならっ……!


「じゃあ、旦那! 導師を<処分(ころす)>前に奴の頭から術式をっ……うわっ!?」


 俺の右手に、何かが触れた。

 手、だ。


「だ、だんっ……な?」


 その手は。

 温かな湯の中に身をおいているというのに……冷たかった。


あの術式(・・・・)、我は“いらない”」


 その冷たさは、触れられた肌を伝わり。

 俺の血肉をなぞり内部を侵食していく感覚は、悪寒を通り越し……絶対的強者に支配される快楽を、脳に捻じ込んで……嫌悪の吐き気と悦楽の眩暈を生み出す。

 それが故意かどうかなんて、俺には分らない。


「なっ……なに言ってるんすか!? なんでですっ!? それが使えれば、あの子は生きっ」

「我以外の竜珠がりこの中に入るなど、嫌だ」


 俺の言葉をぶち切って、旦那はそう言った。

 ……そう言うと思ってたぜっ!!

 雌への独占欲の強い竜の雄なら、当然の反応だ。


「嫌ってねぇ……ですが、このままじゃあの子は老いて死にますっ……外敵からは守れても老いは、寿命からは守れない! あんたの竜珠の影響で普通の人間よりは長生きするでしょうが、それだってうまくいって100年に数十年足されるかどうかでしょうがっ!?」

「りこは我のつがいだ、妻だ。我の、我だけ。我だけのりこなのだ。我はりこを手放す気は無い。あのひとの血肉も魂も我だけのものだ。未来永劫、永遠に」

「だったら我侭言ってねぇで、使えそうなモンは使えよっ!!」


 俺は旦那の手を払いのけ、泡だらけの頭部から両手を離し。

 バスタブの側面に移動し縁を両手で掴み、俺を見ない彫像のような顔に自分から寄り、覗き込んだ。


「あんた馬鹿ですか!? 自分で言ってたじゃないですか! 神じゃないから万能じゃないんだってっ!! 万能の神様じゃないんだから、このままじゃいずれあの子を失うんですよっ!?」

「……」


 金の眼球が。

 ゆっくりと動き……俺を映した。

 旦那の眼の中の俺は、俺の持つ<赤>は。

 黄金に呑まれ、色褪せて見えた。

 それは、死が俺の目の前に来ていることを強く俺に感じさせた。


「生きれるんならっ、生かす術があるならっ……あんたはそれを選択すべきでしょうがっ!? ヴェルヴァイドッ!!」


 叫んだ声が。

 揺らいでいたのは。

 その、俺の声が。

 湿っていたのは。

 

「……俺だったら! 生き、られるっ、なら……生きられる、ならっ……」


 諦めたんじゃない、覚悟を決めたんだと。

 そう言いきかしてきた俺の、俺の心の奥に閉じ込めておいたものが。

 旦那のせいで、漏れてしまったのかもしれない……。


「………………………………息子がこのような能天気な阿呆で、ブランジェーヌは大助かりだな?」

「……はぁっ!?」


 漏れてしまったそれに気付き、慌てて押し込める俺に。

 旦那は、そう言った。

 思わず間抜けな声を出してしまった俺の顔に、湯に濡れた白い顔が近づく。


「お前の母親であるブランジェーヌが。あの(・・)ブランジェーヌがりこを生かすためだけに、お前のその浅はかな考えにのったと思うのか?」


 唇が触れ合うギリギリの距離で、感情の見つからない平坦な声が……その“音”には、感情ではない別のものがあった。

 

「……どういう意味です?」

「<色持ち>として、お前が産まれた時」


 その“音”は呪詛のように、俺の耳穴をこじ開け進入し。


「父親は跪き、我に息子の延命を祈った。母親は自分の寿命を息子と取り替えてくれと願い、我に縋った」

「なっ……そんな、の、聞いてなっ……」


 纏った言葉を、俺へと打ち込んでいく。

 聞いてはいけないと、脳内に鳴り響く警鐘をあっさり砕いて入り込んでくる。


「ブランジェーヌは、自分の寿命をお前に与えたいと言った。我は神ではないので出来ぬと答えると、ブランジェーヌは怒り、責めた。出来ぬと答えた我ではなく。自分自身を怒り、責め、泣いたのだ」

「……ッ」


 ……か、あっ……さんが、泣いた?

 あの人が、泣いた?

 

「ダルフェよ。お前が目をつけた導師の術式は、人間と竜族の間でのものだ。が、竜族間で成立する可能性もあるのだぞ?」


 そこまで言われて。

 俺はやっと気付いた。

 確かに今、旦那は言ったよな?。


 ---ブランジェーヌは、自分の寿命をお前に与えたいと言った。


「……ぁ……だ、だん、なっ……、まさか、まさっ……母さ、ん、はっ?」


 俺は、姫さんの延命だけを考えてきた。

 それだけが、望みだった。

 それ以外、それ以上を考えもしなかった。


「そうだ。お前の母親は阿呆なお前と違って賢く……強かだぞ?」


 母さんは。

 母さんは……導師の術式で自分の竜珠を、命を……俺にっ!?


「……ま、さかっ……そんな、ことはっ……」


 だって、俺の寿命は<色持ち>として生まれたからには当然のことだ。

 俺が短命なのは、“自然”で“普通”なことで。

 なにより、俺が死んでも世界は何も変わらない……この世界のため必要な<鳥居りこ>の命とは同列じゃない、同等じゃない。

 まったく“価値”が違うし、俺がもうすぐ死ぬのは自然で普通で当然のことをなんだから、変えることなんて……絶対にするべきじゃない。

 そんなこと、母さんだって十分に分っているはずだ!

 その母さんがっ?

 母さんは赤の竜帝だぞ!?

 禁術をなんて……そんなはずはないっ!


「違うっ! 母さんはそんなことをするような、そんなことを考えるようなっ……」


 否定する俺に。

 否定したい俺に。

 赤の竜帝であるあの人を、信じたい俺に。


「賢いブランジェーヌは阿呆なお前と違い、術式が不確かな状態のまま自分の命を賭けたりしない。必ず“試す”、ぞ?」

「……た、、試す?」


 否定も。

 信じることも。

 旦那は、許してくれなかった。


「ダルフェよ。どうやって、ブランジェーヌは試すのだろうな?」


 ……どうやって?

 どうやって、試す……試すってなんだよ!?


「先代の<青>。セリアールは実験に必要な人間は専門の業者から買っていたようだ」

「……先代の青の竜帝?」


 陛下の前の、青の竜帝の実験……。

 詳しいことは分らないが、それは……たぶん、人間との交配実験だ。


「竜族とて、金次第で買えるだろう?」

「……竜族を、買う?」


 ……そうだ。

 竜族だって、闇市で売買されているのが現状だ。

 未だに数年に一回は幼竜がさらわれて……カイユの母親だって幼い時にさらわれ、売られて人間に飼われていたのだからっ……。


「ふっ……ふざけんなっ!! 先代の<青>が人間を買って実験したみてぇに、母さんが竜族を買って実験するってあんたは言いたいのかっ!?」


 あの人は、赤の竜帝だぞ!?

 竜族を守るべき立場にいるんだぞ!?

 母親である前に、四竜帝なんだぞ!?


「……ッ……そんなこと、あり得ないっ!!」


 掴んでいたバスタブの淵が砕け、湯がそこから溢れ出し。

 手の中の陶器の欠片が、俺自身の力によって掌の中へと突き刺さる。


「ほう? お前は我の思う以上に阿呆だったのだな?」

「俺の母さんは、そんなことは絶対にしねえよっ!!」 


 白いバスタブの側面に流れる赤。

 俺の血の上を、甘いベリーの香りの泡が滑って……。

  

「……ダルフェよ。当代<赤>のブランジェーヌは、先代の<青>セリアールとは真逆な性質(たち)の雌竜だ」


 それが床に落ちるさまを。

 黄金の瞳が追って、見て。


「お前を<色持ち>として産み落とした瞬間から。ブランジェーヌは四竜帝である前に、母親になったのだ」

「…………なっ……」


 その血を俺に与えてくれた存在との繋がりを。

 確認するかのように、その白い手を伸ばし。

 

「先代の<黄>はそれに気付き、危機感を抱いた。ゆえにブランジェーヌに忠告し、それを改めなければ我にブランジェーヌを処理(・・)することを求めたが、我はブランジェーヌを放置した。我にとっては竜帝は存在してさえいれば良いのだ。資質やあり様など関係無いからな」


 真珠色の爪に飾られた人差し指が、赤いソレをすっと撫で。


「ブランジェーヌは我のそれを理解し利用し、お前を育てた。赤の竜帝としてではなく母親として、お前を育てたのだ」


 その指を。


「お前自身が、お前への愛が。ブランジェーヌを堕としたのだ」

「ッ!?」


 俺の唇に這わせ。


「我はブランジェーヌを処理(ころ)すべきなのだろうな?」

「……、、、、ッ」 


 息をすることができず、咽喉を詰まらせる俺に。

  

「…………ダルフェ。我はりこが好きなのだ」


 旦那は、言った。

 さんざん聞かされた、その言葉を。


「好きで、大好きで。誰より何より愛しているのだ」


 それはとても。

 とても、小さな声で。


「ゆえに」


 まるで。

 内緒話をするかのように。


「お前を愛するブランジェーヌをどうでもよい、ではなく。“良い”と、思うようになったぞ?」 

「……っ」


 “恐怖”を俺に叩き付けておきながら。

 あっさりと、旦那はそれを破棄する。


「……ダルフェよ。お前に教えてやろう」

「…………旦那?」


 色素の薄い唇が。

 魅惑的な弧を描き。


「お前は」


 その身が湯に蕩けるような。

 愛の言葉を紡いだその口で。

 この世で最も恐れ敬われ、忌まれ乞われる<古の白(ヴェルヴァイド)>が。

 世界最強で最凶の竜が。


「最初で」


 惑う俺の心を。

 怯える魂を。

 誘い、捉えて、掴み、吞み込み。


「最後の」

 

 全てを熱く熔かし、甘い痺れを生む毒を吐く。


「我の竜騎士、だ」

「ッ……」


 この俺に。

 世界の深淵を知る白い悪魔の誘惑に、抗う術などあるはずがない。



















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