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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
赤の大陸編
157/212

第11話

*このページはR15・性的描写有りとなっています。苦手な方はご注意ください。

 ダルフェさんとカイユさんを残して。

 ハクは、転移をした。

 一瞬の浮遊感の後、着いたのは……彼に抱かれた状態の私には、室内としかわからなくて。


「ここは? ハクちゃ……っ!」


 尋ねようと開いた私に返されたのは。

 答えじゃなくて、ハクの熱。


「んっ………ぁ…んんっ……」

 

 熱を。

 有無を言わさず、唇から与えられたそれを。

 私が拒むなんて、有り得なくて。

 深く濃く、混じり合いたくて。

 夢中で、その熱にすがり。

 必死に、その熱を乞う。


「……りこ」


 甘い苦しさに、彼の腕をぎゅうと掴むと。

 呼吸を促すように、唇が動き。

 ほんの少し、彼と私の間に隙間が出来た。


「りこ」


 はぁ、と。

 自分の口から漏れるそれは。

 熱くて、隠しようも無く湿り、濡れ、艶を含んでいた。

 それを恥ずかしいと思う余裕など、私には無く……。


「りこ、我の……りこ」


 睫毛が触れ合いそうなほどの至近距離でも、黄金の瞳が閉じられることはなくて。

 胸いっぱいに、空気を取り入れる私を映す。


「りこ、りこ……」


 彼の腕の中では、空気は色も味も奇跡のように変わってしまう。

 色は、白金できらきらしていて。

 蕩けるような、甘い香りで……。

 

「ぁっ……」


 右の耳が、濡れた感触に包まれた。

 耳朶に軽く歯をたて。

 熱い舌先がなぞるように這い……蠢く。


 大きな手が。

 服の裾から入り込み、脚を愛しむように撫で上げながら進む…………ん?


「あ、ああっ……ぁっ、ん!?」


 …………ちょっ!?

 ちょっと、ちょっと、ちょっとぉおおお!?

 この手の動きは、本格的(なんていうべきなのっ!?)すぎますよ!?


「案じるな。我はりこを落としたりせぬ。りこは何も……感じ、悦がって……啼くだけで、よい」


 は?

 悦がっ……啼くぅうううう!?

 ひぃっ……まさか……この人、ここでこのままの体勢で最後までする気なんじゃ……きゃああああっつ手が、指がぁあああ!!

す、する気だ、本気で最後までするつもりだっ!

 ちょっとまま、ままま待ってぇえええええ~!!


 と。 


 脳内ではこの状況に焦りまくっているのに。

 まるで頭と身体が別々になってしまったかのように……。 


「ハク……ハ、ぁ、あ、……このまま、なんてっ……だっ、私っ、あっ、ぁ、、、」


 出た言葉も、声も。

 ふにゃふにゃにふやけて、どろどろに溶けていた。

 うわぁあああ~、これじゃ駄目よ!

 頑張れ、私!

 立ったままのハクちゃんに、抱っこされたまま最後までなんて……せめて、せめて、床でもいいからっ……う、ううん、そうじゃなくてっ、やっぱりベッドで落ち着いてしたいです!!




「立ったままなんてやめて。寝台を使ってちょうだい、ヴェルヴァイド」 




「ふぇ?」

 私の間抜けな声が。

 凍りついたその場に、情けなく響いた。

 ハクに抱き込まれた私からは、声の主の姿が見えない。

 でも、知ってる。

 この声は……。

「お帰りなさい、ヴェルヴァイド。こんにちは、トリィさん。ふふっ、竜体のほうが貴女には好ましいかもしれないけれど、前みたいにヴェルヴァイドが拗ねたら困るから、人型でいさせてね?」

 回り込むように歩み、ハクの正面に移動してきたその人は……。

 髪も瞳も。

 朱い、赤い、紅い……眩しいまでに鮮やかな、美しい女性。

 結い上げられた赤い髪には、煌めく金の簪。

 露出度の高いチューブトップの真紅のパイソンのドレスには際どいスリット。

 私では歩行困難に陥りそうな高さのピンヒールのサンダルはドレスと同じ素材で、足の指先はラメ入りのゴールドのペディキュア。

 「あ、いえ、は、はい!」

 うう、絶対、私は竜体フェチだって思われてる……否定できませんけどっ。 

「……<赤>」  

 ああ、やっぱりそうだ。

 この美しい女性は、赤の竜帝さん……ダルフェさんのお母さん……わ、若い!!

 カイユさんのお父さんであるセレスティスさんといい、ダルフェさんのお母様(お母さんよりお母様!)といい、皆様なんてお若く麗しい姿なの!?

 前に会った時は、可愛らしいおちび竜だったけれど……あのダルフェさんお母様なんだから綺麗なんだろうとは思っていたけど、想像以上の……。 

 四竜帝の一人というより彼のお母さんなのだという思いが先にくるのは、二人に共通する『色』のせい。

 私にとってこの『赤』は、ダルフェさんの『色』だから……目にすると、親しみと安堵が身の内からほわりと浮かぶ。

 そんな私とは対照的にハクの声はいつもより少し低く、不機嫌丸出しだった。

「…………出て行け、<赤>」

 そんなハクに全く怯むことなく、赤の竜帝さんは即答した。 

「嫌」

 私は見られてしまった恥ずかしさより、ほっとした気持ちのほうが強かったけれど。

 ハクちゃんは、その逆だった。

 つり目がさらにつり上がり、凶悪魔王顔になっていた。

「……ブランジェーヌッ」

「嫌よ」

 嫌よと言いながら、彼女はにこりと笑む。

 す、すごい。

 青の竜帝さんだったら、クソじじぃいいい~って叫びながら両手で頭をがしがししそうっ。

「貴方が帰ってきてくれて、ほっとしたわ。今回の事でトリィさんを人間からも私達竜族からも貴方が“隠して”しまうんじゃないかって、<黒>が危惧していたわよ?」

 ハクと私、そして赤の竜帝さんがいるのは外の緑が映える大きな窓のある部屋で、中央のキングサイズのベッドには緋色の寝具。

 壁も床も薄い朱色のマーブル模様を持つ光沢のある石で出来ていて、天井からは朝顔の形をした真鍮製の照明器具等間隔に三つ下がっていた。

 ベッド以外に置かれているものは無く、向かって右の壁に扉が一つ、左に二つ。

 つまり、他にも部屋があるってことで……。

 ハクちゃんは寝室に直行したってこと?

 赤の竜帝さんはそれを見越して、ここで待っていたってことよね!?

 うう、かなり恥ずかしいです……。

「トリィさんは乾燥地帯で保護したの? 可哀想に、髪にまで砂が……湯浴みと着替えをさせてあげなければ」

 言いながら、白い腕が私へと伸びる。

「ヴェルヴァイド。トリィさんを私に」

「………………」

 私を抱くハクの腕に、ぎゅっと力が加わる。

 言葉にはしなかったけれど、それが彼の答え。

「ヴェルヴァイド、ヴェル」

 真っ赤な瞳が無言のハクと私を交互に見て、左右に動く。

「駄目よ? 私がいるのが分かっていながら、お構いなし進めようとする今の貴方じゃ駄目。手酷く扱う結果になって、自業自得の貴方が後悔するのはかまわない。でも、トリィさんが心身共に傷つくのは“祖母”として許せない」

「お前はりこの祖母ではない。我はカイユをりこの『母』にしたが、お前を祖母にした覚えは無い」

「丁度良い機会だわ。いますぐ認めて。ねぇ、トリィさん。カイユは息子のつがいなんだから、私はトリィさんの“お祖母ちゃん”で良いわよね? あら、ここにも砂が……」

「え、あ、あのっ……」

 赤の竜帝さんの指先が、私の額に触れた。

 優しい動作と温か体温……それを拒んだのは私ではなくハクだった。

「我のりこに触れるなっ!」

 ぱんっ、という音に。

 私の心臓が飛び跳ねた。

 私に触れていた赤の竜帝さんの手をハクがはらった……ひっ!?

 はらわれた手、指が有り得ない方向に向いてっ!?

「あら、酷いわね。折れちゃったじゃない。あ、すぐ治るから気にしないでいいのよ、トリィさん」

 お祖母ちゃん発言とか、指があっちむいてホイ状態でぶらぶらしてるとかで脳内大混乱の私に構わず、強引なほどのマイペースさで赤の竜帝さんは話を続ける。

「ふふ。トリィさんったら、そんな顔しないで……大丈夫よ? ほら、もう治ったでしょう? ……トリィさんの目の前でこんなことをしてしまうほど、貴方は苛ついてるのよ? もっと自覚してちょうだい」

 私の目の前で指を動かして、折れた指の治癒が済んだことを証明してくれながら、彼女はそう言った。

「………………ダルフェといい、お前といい。親子揃って…………自覚? 自覚などっ……我はっ……」

 ハクちゃんの腕の力が、ふっと弱まったかと思うと。

「…………」

 横抱きにしていた私を、彼は赤の竜帝さんに差し出した。

 ぴったりと触れ合っていたハクとの間に急に隙間ができてしまい、私は途端に不安になる。

「ッ!!」

 とっさに。

 右手で彼の髪を掴んでいた。

「……りこ」

 真珠色の髪を強く握る私を見て、竜帝さんは目を細めた。 

「あら? ふふっ……可愛らしいこと。大丈夫、こちらにいらっしゃい」

「わ、私はっ……っ!?」

 私の身体は、ハクから離れ。

 豊かな胸を持つ赤の竜帝さんに、横抱きにされてしまった。

「りこ」

 私と彼を繋ぐそれを。

 ハクはすっと後ろに下がる動作で、するりと引き抜いてしまう。

「な、なんで……ハク?」

「……りこ、我は」

 私の手から引き抜かれた、一房の真珠色の長い髪。

 それをハクは両手のひらで受け止めて。 


「ハクちゃん?」


 顔を寄せ、口付けた。


「りこ。我は貴女が好きだ……」


 ハクの大きな手が合わさり。

 真珠色の髪を包み込む。


「好きなのだ……身も心も、魂までも喰らい尽くしたいと願うほどに……」


 まるで、祈りを捧げるかのように。

 拳に、ハクは額を押し付けた。


「我はりこが大好き、なのだ」

「……ハ……ク」


 その姿は。

 セイフォンに居た時の、彼を思い起こさせた。


 竜体時の鋭い爪や強い握力で私を傷つけるのを恐れて。

 触りたいのを我慢して、両手をぎゅっと握っていた小さな白い竜……。


「だから……我は……」


 ああ、この人は。

 なんて、なんて…………。


「ハ、ク……」


 なんて。

 愛おしい存在(ひと)




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