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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
125/212

小話 ~白いひと~

 白い人。


 腰まで届く、真珠色の長い髪。

 つくり物みたいな、肌の色。


 この人は怖い。

 なんか、とっても怖いんだ。


 どこが怖いっていうんじゃなくて。

 全部が怖い。

 

 だから今までは、遠くからしか見たことがなかったけれど。

 近寄らないようにしていたんだけど。

 

 今日はとっても気になった。


 だから勇気を出して、声をかけてみた。


「あのっ……」


 もう夕方なのに、朝見た時と同じ場所に。

 まだ、そこにいた。


 今朝、窓の外から見えた白い人が、まだそこにいたから。

 思い切って。

 逃げ出したい思いを、踏みつけて。


 ピンク色に染まった後ろ姿に、話しかけてみた。


「ずっと、ここにいたの?」


 白い人は、白くなくて。

 白い髪も、白いレカサも。

 夕焼けと同じ、ピンク色になっていた。


「……あの、そのっ」


 幼竜の僕でも、腕を伸ばせば届く距離まで近寄ってるのに。

 返事が無いどころか、背を向けたままでぴくりとも動かない。

 これって、無視!?


「ねぇ、おじさんは……」


 ここでずっと何してるのって、言う前に。


「変わるさまを」


 お腹と後頭部にずんとくるような、深い声が聞こえた。


「え?」


 白いおじさんが、しゃべった!?


「紅から薄青」


 あ、わかった。

 それって、花の色の変化だ!

 

「もしかして、昨日の夜からずっとここで立って見てたの!?」


 この人が立ってるのは、アゼンチカの前だ。

 アゼンチカはママが大好きだから、城のいろんな場所に植えてある。


「そんなに気になるならその枝を切って、部屋で観察すればいいのに!」

「なぜだ?」


 え?

 いっぱいあるから、誰でも自由に切って持ち帰っていいってことになってるし……。


「なぜって……そのほうが観察が楽でしょう? 僕が切ってあげようか? 部屋に持っていって見ればいいよ」

「なぜだ?」


 なんで、また『なぜだ?』なの!?


「……僕、あなたのなぜの意味がわかんないよっ」


 ちょっと、むっとした。

 僕、親切で言ってるのに……。


「我は死なん」


 突然、なに?

 え~っと……この人、死なないの?


「千年ここに立ち続けても、何も変わらない」


 変わらない?


「ゆえに」


 変わらない……変わらないこの人が見てたのは。

 アゼンチカの花の、色の変化。


「我はお前の‘わかんないよ‘が分からんのだ、<赤い髪>よ」


 変わらないモノと、変わるモノ。


「そっか……うん、そうだね。その花は2晩でしおれちゃうから、切ったらかわいそうだよね」


 横に並んで。

 袖からにょきって出ている大きな右手に、左手でそっと触った。


「あのね。僕、ママとパパより先に死んじゃうだって」


 その手は僕の肌より白くて、真珠で作ったみたいな綺麗な爪を持っていた。


「僕は<竜帝>の出来そこないだから。他のみんなみたいに、長く生きられないんだって」

 

 冷たい手だった。

 パパが作ってくれた、アイスクリームみたいだった。

 お墓に入る時のガルガンデおばあちゃんの手より、冷たい手だった。


「僕はそれがすごく嫌で……とっても、とっても怖いんだ」


 見上げた先にあったのは、底の見えない黄金の瞳。


「ガルガンデおばあちゃんが言ってた。……生も死も……『世界』って不平等なんだって。ねぇ、そうなの? <ヴェルヴァイド>」


 あたたさも冷たさも。


「不平等?」


 なんにもない、金の目玉がゆっくりと動いて僕を見た。


「……不平等、か?」 


 それは花を見る目と同じ目で。 

 

「さあな、我にはどこが不平等なのか‘わかんないよ‘なのだ」

 

 同じ目で。

 赤の竜帝のママを見るときと、同じ目で。

 僕を見た。


「わかんないよなのだ!? あははっ、あなたが言うとおもしろいねっ! そんな賢そうな顔してるのに……ねぇ、本当はちょびっとお馬鹿なの!?」


 同じ目で、見てくれた。


「お馬鹿? ふむ、我はお馬鹿なのか」

「賢くなるには、ご本をいっぱい読むといいって黒のおじいちゃんが言ってたよ? ご本、持ってるの?」


 花の色はゆっくりと時間をかけて、今夜も変わるから。

 この人は、明日の朝もここにいるんだろう。


「ご本? ……無い」


 この先も。

 この人は。

 花を手折らず、見続けるんだろう。


「え~っ!? そうなんだ。じゃあ、僕はいっぱ~いご本持ってるから、貸してあげる!」


 ねぇ、ヴェルヴァイド。

 永遠も一瞬も。

 その金の眼の前では、同じなのかもしれないね。



*この小話はブログからの転載です。

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