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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
119/212

番外編 ~さよなら、ナマリーナ~

「ナマリーナ、ナマリーナ!」


 柄杓でこんこんと、池の淵を叩くと。


「あ、来た来た。うん、ナマリーナは良い子さんだね~」


 鯰のナマリーナ嬢は、私が考えていたよりもずっと賢かった。

 餌やりの時に‘ご飯の合図‘として柄杓でこんこんっと叩くことにしたら、ほんの数回で覚えてくれたのだ。

 今では餌が無くても、この合図をすれば底からゆっくりとあがってきてくれるまでになっていた。

 本当は時代劇みたいに……錦鯉に餌をやる殿様みたいに、手をぽんぽんと叩くのをやってみたかったけれどダー○ベー○ー姿では無理だった。


 そして今日、私は彼女に初タッチするつもりなのです!


「もうちょっと……もう少しこっちにおいで、ナマリーナ」


 私は柄杓を足元に置き袖をまくり、池に腕を入れた。

 驚かさないように、そっとナマリーナの身体に指先で触れてみる。


「いじめたりしないよ~、怖くないよ~。ちょっとだけ触らせてね?」


 ナマリーナの身体は、私の想像通りの感触だった。

 ぬるっとして、むちっと……むふふっ。

 鱗はないけれど、これはこれで……。


 ぬるむちっ。


 これは……今までに無い触り心地です!


「あ……なんか良い感じ。気持ちいいかも。かっわいい~!」


 新境地開拓って感じ!

 ぬるぬるしつつも、しっかりとした弾力があり……。

 ナマリーナが大人しいので、私は身を乗り出してさらに深く腕を池にいれた。

 ナマリーナのお腹、前々から狙っていたのよね~!


「良い子だね~。ここもちょこっと、触らせてくださいな」


 ぷりり~んっとして魅力的なお腹を、指先で撫でてみた。


「むふふっ……お嬢さんはぷりっぷりの、ぬるぬるだねぇ」


 こんなに触れるなんて思っていなかったうえ、妙にはまってしまいそうな独特な触り心地のせいせか変な笑いが……。

 うむうむ、悪くないの~。


「ナマリーナ、かわゆ……」

 


「……りこ。何をしている」



 ん?

 ハクちゃんの声。

 竜帝さんに呼ばれて出かけてたけど……帰って来たんだ!


「お帰りなさい、ハク。見て、すごいでしょう!? 私、ナマリーナに触ってるんだよ!」


 私のすぐ横に転移してきたハクちゃんに、ナマリーナの魅惑的なボディから手を放さず顔だけ向けて言った。


「ぬるぬるむちむちの魅惑的……ハクちゃん?」


 あれ?

 金の眼は私を見てはいなかった。

 池に……ナマリーナに向けられていた。


「あ! ハクちゃんもナマリーナを触ってみたいの?」


 私はぬるぬるむっちりボディーを撫で撫でしつつ、聞いてみた。


「りこの」


 切れ長の眼が、ナマリーナを凝視し。


「りこの‘なでなで‘は」


 大きな両手でがしっと私の手首を掴み。


「痛っ、ちょ……?!」


 ナマリーナから離して、自分の服に濡れた私の手を擦り付けて拭き。

 ひょいっと肩に担ぎ上げた。

 ちょっと! 

 私は米俵じゃな~い!


「り……りこの‘なでなで‘は夫である我だけのものだっ!」


 え!?

 なに言って……。


「この鯰めがっ……調子にのりおって! 今まで我慢してきたが、今回ばかりは許さぬっ……りこのこの手は、我のものなのだ!!」


 言いながら長い足で……嘘っ!?


「ハっ……きゃああ!?」


 ハクちゃんが大理石でできた池の淵を右足で一発、がっつ~んと蹴ったために池の淵が吹っ飛んでしまった。

 大量の水とともにナマリーナも温室の床をすべるように流れていった。

 ショッキングな光景に、呆然としちゃった私だったけれど。

 床でべろーんと動かなくなった黒い体を踏み潰そうとする大魔神様なハクの動きに気がついて、ぎょっとした。


「っだ、だめ! お願い、やめてハク!!」


 真珠色の長い髪の毛を思いっきり引っ張り、叫んだ。






 翌日。

 りこがシスリアと2階で‘お勉強‘をしている間、<青>の頭の上から池の修復作業を眺めていた。

 <青>の連れて来た雄の技術者が、手際良く作業を進めていた。


「ヴェル。なんであの鯰を逃しちまったんだよ? けっこう捕るの大変だったのに……」


 あの時。

 我はあの忌々しい鯰めを踏み潰せなかった。


 破壊音を聞きつけてやってきたカイユがすばやく鯰を抱え上げ、我から遠ざけた。

 我はりこの強い‘お願い‘により、動けなかった。

 足を中途半端に出したまま、りこという存在に縛られていた。

 りこの心の底からの‘お願い‘は、この我を縛るに十分な力があるのだ。


 りこは我を動かし、止められる唯一の絶対者。


 カイユは携帯用電鏡を懐からだし、ダルフェに桶を持ってこさせた。

 数分で木製のそれを抱えたダルフェが温室へと駆け込んできた。

 

 ダルフェの用意した桶にカイユが鯰を入れると、担がれていたりこは我の肩からおりたがった。

 我はりこを濡れた床に立たせるのは嫌なのだと断った。

 りこの目を見ずに言った我の頬を、りこは指先でつついた。


「じゃあ、抱っこにしてくれる?」

「……うむ」 

 

 我が嫌なのは濡れた床などではないのだと、りこには分ってしまったのだろう。

 我はりこを担ぐのではなく、抱っこの体勢に変えた。


 カイユが鯰が入った桶を抱えて、りこが伸ばせば触れられるほどに近づけた。

 これをどうするべきか。

 声には出さず、問うていた。


 もちろん。

 我ではなく、りこに。


 りこは水色の目玉を見て、一度だけ顔を横に動かしてから。

 鯰の入った楕円形の桶を覗き込み、言った。


「あなたが居てくれて、とっても楽しかった。……ありがとう」


 そう言って鯰へと伸ばされた右手は、それを撫でることはなく。

 鯰の頭部の上で、左右に軽く振られたのみだった。


「さよなら、ナマリーナ」


 りこのその言葉を聞き。

 カイユは桶をダルフェに持たせ、退室を促した。


 足元に目をやると。

 月が水面を泳いでいた。


「……我はあれを逃がしてなどおらぬ。りこが我からあれを逃したのだ」

「あん? おちびが? 意味わかんねぇ。ま、じじいが分けわかんねぇのは昔っからだけど」


 池を修復するのは、つがいを得ていない若い雄竜。

 りこが戻ってくる前に作業を終わらせると<青>が言うので、入室を許可した。


 我が嫌なのは、この雄が我のりこに懸想するといったものからではなく。

 りこが我以外の雄に惹かれてしまうやもしれぬのが嫌なのだ。


 我はりこの心を得たが、その心を縛ることは出来ぬのだから。


 人間であるりこは、我以外の雄……男も愛せる。

 他の者を、りこは愛せるのだ。


「あ! また前と同じ観賞魚を入れとくか!? おちび、あれ気に入ってたんだしよ」


 我はあの鯰……ナマリーナが大嫌いだった。

 我以外にもりこは易く名を、寵を与えた。


 この我の前で。

 微笑みながら、それは行われ。

 満足げなその笑顔に我は見惚れながら。


 脳髄が頭蓋を割って吹き出しそうだった。


「要らぬ」


 我のりこなのに。

 我のりこだと貴女はその口で言い、その唇で誓ってくれたのに。

 なぜ。

 貴女は他のモノも、その手で愛でる?


「あのなぁ……それじゃ、池の意味がねぇじゃん。からっぽじゃ、寂しいしよ。あぁ、四季咲きの睡蓮でも入れとくか!? 1つの株から4色の花が咲くやつ。去年かけ合わせに成功したんだ、新種だぜ? まだ市場にも出してねぇんだ」


 花。


「じじい、おちびはきっと喜ぶぜ? あいつ、花が好きだろう!?」


 好き。

 好き?

 好きだと?


「……そうだな」


 なんと忌々しい。


「りこは花が好きだ。花も鯰も菓子も……そしてお前も、りこに好かれている」

「じじい?」


 花も鯰も……竜も。


 貴女が好きなモノ。

 微笑みかけるものは全部、この世から捨ててしまいたい。

 すべて無くしてしまいたい。

 消してしまいたい。


 ケシテ シマイタイ


「……去れ、ランズゲルグ」

「へ!? ヴェル?」


 スベテ 消シテ 我ダケニ


「今の我は少々まずい。お前はりこの気に入りだ……壊したくない」

「壊すって……? おい、じじぃっ……おわっ!?」


 我は<青>を転移させた。

 我は我から<青>を逃がした。


「……」  


 消シテ シマエレバ ラクナノニ

 我ダケニ スレバ


「……りこ」


 寝室に転移し、枕の下からぱじゃまを取り出した。

 それに包まり、寝台に寝転がると。


「りこの匂い」


 あぁ、まるで。

 りこに抱かれているようだ。


 熟れて腐り落ちそうだった心が、穏やかになってゆく。 


「りこのいいに……おい、だ」


 我は大好きだ。

 りこの匂いが。


「……りこ」


 世界より我が欲しいと貴女は言った。


 本当に、我の全てをもらってくれるのか?


 鱗も髪も、冷たい血肉(からだ)も貴女は欲しいと言った。

 では、解けぬ矛盾を抱えるこの醜い心も。

 貴女は欲しいと望んでくれるのか?


 「りこ」


 かわゆくなく、綺麗じゃない我でも。


 貴女は愛してくれるのか?


「りこ」


 我ヲ モット愛シテ  


「我を」


 我ダケヲ

 愛シテ


 我ダケヲ




 ワレダケヲ

 アイシテ







「ただいまっ、ハクちゃん!」


 りこが帰ってきた。

 少々乱暴に寝室の扉を開け、早足で寝台へと歩み寄り言った。


「どうしたの? ベットにいるなんて、珍しい……まさかっ、体調悪いの!?」

「いや。……ここでころころをしておったのだ」


 我はぱじゃまを畳みながら答えた。

 この世界で我の体調などというものを気にかけるのは、りこだけだ。

 我は高齢なのだからいろいろ気をつけなければいかんと、りこは時々珍妙なことを言うのだ。


 我が思うに。

 りこの方こそいろいろ気をつけるべきなのだ。

 りこ自身は体調どころか身体そのものを我に変えられておるのというに、苦情の一つも言ってこぬ。

 かなり変わってきておるのだが。

 ……そろそろ気づいてもよさそうなのだが。

 鷹揚というより、無頓着。

 いや、鈍いと言うべきか。

 異界人だからではなく、りこだからか?


「あれ? パジャマを着て、ころころしてたの?」


 りこが右に首を傾げた。


「うむ」


 我もつられて首を動かしてしまった。

 りこは気づいてないようだが、我が首を傾げるという動作を得たのはりこからなのだ。

 りこは空っぽだった我に‘りこ‘を分けてくれているのだ。

 あたたかで、やさしいそれを。

 りこは我に与え続ける。


 底無しの我に。

 りこは、与え続けるのだ。


「いや。確認しておっただけだ」


 ぱじゃまを枕の下へと収納しながら答えた。


「確認?」


 想いを、確認していたのだ。

 我は寂しがりやさんなのでな。  


「確認……ふ~ん……」


 りこは多少の疑問を感じたようだったが、それを口にはしなかった。


「ハクちゃんは高齢だって聞いてるし、内臓が目からでちゃったり……いろいろ繊細だから、奥さんとしては心配しちゃうの」


 大地も空も我とたいして変わらぬ高齢だ。

 だが、りこはそれらの心配はせず我の体調だけを気にかける。


 心配。

 されると、嬉しい。

 我はりこの特別なのだと、そう思うことができる。

 だから体調などというよくわからんものは、我は持っておらぬことは内緒なのだ。


 心配。

 されると。

 胆の裏辺りが、良い感じになる。

 りこの飲む茶の湯気のようなものが、胆の裏から沸くような。

 なんともいえぬ、良い感じなのだ。

 それは。

 肉で感じる快楽とは、異なる不思議な心地好さ。


「我は、その……りこ」


 我は背伸びをし、寝台に両膝をつき我を覗き込んでいた愛しい女の唇に口付けた。


 触れる一瞬に。

 貴女がいるという、至上の喜びを得る。


「……ハクちゃん?」


 触れるだけのそれでも我は満たされ、そのまま後ろに倒れた。

 りこはこうして。

 いとも簡単に我を満たしてくれる。


 りこは我を満たし、尽きぬ飢餓を植えつける。

 慈悲深く、残酷な。

 我の女神。


「そ、そんな……私って、そんなに口臭ひどいの?」


 両手で自分の口を覆い。

 半泣きで、りこが言った。


 



「お池が直ってたね」

「<青>が新種の睡蓮を入れると言っていた」


 靴を脱いで寝台に上がったりこと、中央部分で向かい合って座った。

 なぜか、お互い正座だ。

 お互い。

 言わねばならぬことがあるからだろうか?


「え……そうなの!? うわ~、楽しみ! お礼言わなきゃ」


 笑った。

 りこが笑った。


 我はりこの笑顔が好きだ。

 笑んでくれるなら、我はなんでもしよう。


 このどうしようもないこの嫉妬心を、握り潰そう。


 まあ、時に失敗することもあるだろうが。 


 我は。

 今はまだ、それができる。


「楽しみ、か。そうか……良かったな。りこが喜ぶと我も嬉しいのだ」


 軽く首をかしげ、両手を頬で握った。

 これはダルフェの貸してくれた本に載っていた技だ。

 通常は幼女風のものがするらしいのだが……。

 先日りこに試してみたら、素晴らしい効果が得られた上級技だ。

 我は日々、かわゆい動作を研究しているのだ。


 うむ。

 けな気というやつだな。


「ぶふっ!? ハクちゃ……ううっ……かかかっ!」


 りこが鼻を押さえた。

 鼻血など出ておらぬのだが、りこはよく鼻を押さえる。

 癖なのだろうか?


「それっ、すごくかわゆ~い!」

「そうか」


 我はかわゆくなりたい。

 りこは<かわゆい我>が好きだから。

 世界で一番、かわゆくなりたい。


 もっともっと、貴女に好かれる我になりたい。


「ならば。りこよ、かわゆい我を抱っこするがいい」

「は、はいっ!」


 りこは鼻を押さえていた両手で、素早く我を抱き上げてくれた。


「りこ……りこ。ぎゅってしてくれ、もっと強く抱いてくれ」


 隙間のないように、強く。

 何者も入り込めぬよう。

 空気さえ、我等の間に入り込めぬように。


 強く、抱いて欲しい。


「ハク? ……どうしたの、竜帝さんと何かあった?」

「いや。あれとは何もない」


 あたたかな貴女に抱かれ、愛されて。

 優しい手で触れられ、その柔らかな唇で接吻をしてもらい。


「さあ、りこよ。遠慮せず我を怒るがいい」 

「ハクちゃん?」


 我に向けられる微笑みが、他のものに与えられている笑みよりも。

 りこが我に向けるそれが。


「我はりこの気に入りの鯰を捨てさせ、気に入りの池を壊した」


 特別なものだと、我にも分かっている……知っているのに。

 何故。

 暗い感情に囚われる?


 鯰も。

 竜も。

 花も。

 菓子も。

 空も、海も。


 世界も。


 全て消して。

 我だけの貴女にしたい。


 我だけに微笑んで。

 我だけを見て。


「なんで、私が怒るなんて……」


 だが。

 我は。

 

 我慢できる。

 きっと。

 耐えられる。

 せねばならぬ。


 貴女が我を。

 愛してくれていると、知っているから……分かっているから。


「りこは何故」


 貴女は我を、選んでくれた。

 我が貴女を、選んだように。


「何故、我を怒らぬのだ?」


 名を呼ばれるより先に、惹かれていた。

 竜珠を与えるより前に、囚われていた。


「なぜって……狭い池より広い湖のほうが、ナマリーナは幸せだもの。仲間だっているしね。それに……引越し前には湖に戻さなくちゃって、私は考えてたの」

「りこはあの鯰を捨てるつもりだったのか?」

「捨てるっていうのとは、ちょっと違うけど。……言っておけば良かったね」


 貴女の細い腕の中が。

 この華奢であたたかな体の中が、我の居場所。


「ごめんね、ハクちゃん。また……私が貴方を傷つけた。許してくれる?」


 許してくれ、だと?

 この人は、まだ解らぬのか?


 許されたいのは。

 貴女ではなく、我だ。


「では」


 貴女が我の世界。

 捕らえられたのは、我。


「ちゅうしてくれたら、許す」

「……ありがとう、ハクちゃん」


 りこは膝に乗せた我を撫で、冷たい鱗に覆われ鋭い歯を持つ口に柔らかな唇を与えてくれた。


「ハクちゃん、ハク……好き」


 我の全身にゆるゆると手を這わせ、りこはやさしく撫でてくれた。


「りこ……」


 こうしてりこに竜体を愛でられると、我は溶けてしまいそうになる。


「大好き、ハク」


 普段はもどかしいほどに奥ゆかしいりこであるのに、竜体の我が相手だと何故か非常に積極的というかなんというか……。

 まあ、竜体の我の嫁になりたかったほどこの姿に執着……愛着があるのだと言っておったしな。

 少々複雑な気もするが、これはこれでとても気持ち良いので追及はしないでおこう。


 顎の下をりこの指先で擦られると、我は脳の右下が弾けそうになる。

 ああ、我の‘ふぁーすときっす‘はりこなのだ。

 竜体の我に接吻する女など、この体に触れようとする者など居なかった。


 鱗があって、良かった。


 人型は前にりこが言っていた‘イケメン‘では無いので、自信が持てぬ。

 ん?

 りこはあの鯰の触り心地が気に入っていたようだったな。

 ぬるぬるがどうのと言っておった。


 ぬるぬる?

 鯰の表皮の滑るさまを指しているのだろう。


 うむ。 

 りこがぬるぬるが好きなら、我もぬるぬるに……いや、さすがに鯰のように皮膚から粘液は出せんな。


「りこ……あぁ、りこよ」


 ああ、こうして度々我は思い知らされるのだ。

 己の無力さを……。


「ん、なあに?」


 ぬるぬるは無理だが。

 むちむちは、この腹が多少はむちむちしとるのでこれで勘弁してもらうとしてだな。

 

「りこよ。我はあの鯰のようなぷりっぷりのお嬢さんにはなれぬ」

「へ? やだ、聞いてたの!? ハクちゃんたらっ……あははっ」

 

 声を上げて笑う貴女。

 我を照らす貴女のその笑顔が。


 まぶしくて。

 貴女がまぶしくて。

 我は目を細めてしまうのだ。


「りこ」


 貴女という光は、我の中に影を作り闇を生む。

 貴女を想う我のこの心は。

 いつかみた宇宙そらのように、果てなく暗い。

 だが、暗いそこに煌くものがあるのだと。

 今の我は知っているから。

 貴女を、幸せにするために。

 この胸にある宇宙そらに散らばる星をこの手に集め、愛しい貴女に贈ろう。


「りこの気に入りを一つ……気に入りの池を壊し、すまなかった」


 だから、もっと。


「ハクちゃん……」

 

 とりあえず。

 今は謝っておこう。


「我は‘ぬるぬるの魅惑ぼでー‘にはなれぬ。つるつるでごめんなさい、なのだ」

「ぶぶっ!?」


 もっと。

 笑って。

 我の、りこ。


 貴女を幸せできる、我になるから。 

 

 もっと。

 貴女を。


 愛させて。



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