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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
116/212

第85話

「……おい」


 俺が騎士団本部に駆けて行くと。


「あんたら……そこで何してんすか?」


「見りゃわかんだろ? ランチしとるんだ」


 ここの地下室にある液槽に入れられているはずのニングブックとプロンシェンが、のん気に昼飯を食っていた。




 やられた。




「ちっ……ぴんぴんしてんじゃねぇか!」


 やってくれたな、舅殿!!


 中庭に面したウッドデッキに茣蓙を敷き、親父2人は胡坐をかき談笑しながら洗面器のようなでかい皿から豪快にパスタをすすっていた。

「ダルフェ、なんでここに……ああ、そっか! お前……セレスティスにひっかけられたんだろう!?」

 竜族の中でも長身の部類に入るプロンシェンは、俺より頭3つ程背が高い。

 その身体は縦に長く、そして横にも広がっている。

「……あんたら、ぐるだな?」

 茣蓙の上に無造作に置かれた携帯用電鏡は、鏡面が下になっていた。

 連絡をとる気が全くない証拠だ。

「はははっ! さすがダッ君、おつむの回転が早いな」

「ダッ君って言うな、この肥満竜」

 父親と同じ歳のこのおっさん竜が、俺は少々苦手だ。

「はいはい、分りましたよ‘ダッ君‘」

「あのなぁおっさん。……そんなに死にたいのか?」

「まさか! 可愛い孫娘につがいが見つかるまでは、おっさんは死にたくないんだ」

 角ばった頬骨のうえにちょこんとついた錆色の目玉を細めて、プロンシェンは笑った。

「あ、そうだ。これ似合うだろ? 先週の赤の大陸からの便で、エッ君が送ってくれたんだぜ!?」

 プロンシェンは青い制服の上に可愛らしいひよこのアップリケのついた、ピンクのエプロンをしていた。

 ひよこのようなほわほわした淡い黄色の髪に、ファンシーなエプロンをした巨漢の姿は滑稽を通り越して不気味だった。

 胸元に輝く黄色いひよこのアップリケは、親父の店『ひよこ亭』のトレードマーク。

 可愛いもの好きの俺の父親エルゲリストは、何故か特にひよこが好きだ。

 このエプロン、きっと父ちゃんとペアだな。

「……それ、多分うちの母ちゃんが作ったんですよ」 

「赤の陛下が!? うおおぉっ~、汚れる前に聞いて良かった! よし、これは家宝にしよう!!」

 巨漢おっさんプロンシェンは独身時代に、前陛下の命を受けて赤の大陸に渡った。

 その時に俺の親父と知り合い、意気投合。

 今でも頻繁に手紙のやりとりをする仲だ。

 息子の俺から見てもちょっと変わっている親父はひよこ頭のこのおっさんをいたく気に入り、<プーさん>と<エッ君>と愛称で呼び合うほど仲が良い。


 プーさんとエッ君……。 

 ひよこ好きのエッ君は、プーさんのほわほわひよこ頭が大好きなんだそうだ。

 

「すまんな、ダルフェ。心配してくれたんだろう? 安心しろ、俺等はあいつにぼこられるのに慣れてるが、ぼこられないように危険を避けることだって出来るんだ。じゃなきゃ、とっくの昔にセレスティスに殺られてる」

 二ングブックが皿を持ったまま立ち上がり、ウッドデッキの柵にもたれていた俺に近寄ってきて謝罪を口にした。

 最年長の青の竜騎士である二ングブックはこの数年で、顎の辺りで切りそろえた暗褐色の髪に白髪が目立つようになっていた。

 鉛色の瞳を持つ面長の顔を飾っているのは、銀縁の伊達眼鏡。

 一見すると品の良い紳士。

 が。

 なぜか箸でパスタを食っているし、しかもその手にある皿は洗面器みたいなんじゃなく。

 本物の洗面器だった。

「ミルミラが絡んでる時のセレスティスには、近寄らないのが一番なんだ。陛下は俺達にあいつを止めろとは<命令>しなかったしな」

 するわけないさ。

 そんな無理なことを、あの陛下が<命令>するはずがない。

「もうその件はいいですよ。……なんで洗面器で食ってるんすか?」

 気になるのは、こっち。

 洗面器でパスタ。

 フォークじゃなく、箸なのは問題無し。

 個人の好みだしな。

 けどなぁ、洗面器は有り得ないだろ?

 しかもそれ(・・)は。

 それはどう見ても、この建物の2階にある宿舎の風呂で使っているやつだぁああ~!

「なんでって、皿が無かったからさ。パスタを茹でてから気がついたんだ。昨夜、パスとオフが皿投げ競争して遊んで全部駄目にしたんだとよ。カイユにばれてぶっ飛ばされる前に、ヒンが同じの買ってきてごまかす計画らしいぜ?」

 そう言って。

 二ングブックは俺の目の前でパスタを勢い良く啜った。


 俺は、プロンシェンがエプロンを付けてた理由を悟った。

 そして家宝予定のそれを素早く外し、小さく畳んで制服のポケットに押し込んだ訳を身をもって知った。 


 ズゴズルズチョッという耳障りな音とともに、パスタが派手に踊り。


 はねたトマトソースが、俺の顔と胸部にヒットした。


「……」


 箸で食うとフォークのように麺を巻き取れないから、啜ることになる。

 だから俺は箸では食わない。


「あ、すまん」


 謝りつつ、二ングブックは再び箸でパスタを口元へと運んだ。

 ズゴズルズチョッというイラつく音が響く。


 そして俺はまた被弾した。

 

「まあまあ、気にするなダッ君。制服は蜥蜴蝶でできてんだから水かけりゃ落ちるんだしよ! ほれ、これ使えよダッ君」


 ひよこ頭のおっさんが俺に差し出したのは、どうみても飲みかけの水が入ったグラスだった。


「…………」

「ほら遠慮すんなって、ダッ君」


 陛下。

 俺がこいつ等を溶液送りにしてもいいっすか?



 



 俺は騎士団本部の前で、セレスティスを待っていた。

 20分程で目的の人物は現れた。

 南棟へと続く石畳の上を音を立てずに歩きながら、俺の姿に気づくと片手を揚げて……その顔には見慣れた微笑み。

「舅殿」

「ごめん、待たせちゃったね。僕の部屋で話そう」

 セレスティスはカイユが俺と結婚してからは、騎士団本部2階の独身寮で月の大半を過ごしている。

 ここにはヒンデリンとパス達も住んでいる。

 セレスティスは寮長兼生活指導係りみたいなもんだ。

 ヒンはともかく、パスとオフは歳のわりに餓鬼過ぎるから‘押さえ‘が必要だからな。

「ふふっ……ニン達、何してた?」

「飯食ってました」

 カイユの育った家に帰るのは月に2回ほどらしい。

 セレスティスは、ミルミラの死んだあそこを恐れているのかもしれない。

 幸せだった記憶を凌駕する、果てない憎しみと哀しみと孤独が。

 あの家でこの人の帰りを待っているから。

「トマトソースのパスタでしょう? あ~あ、まだ顎と胸元に少しついてる」

 <王子様>は白いレースのハンカチを差し出して言った。

「僕が朝四時起きで作ったんだよ。赤に赤(・・・)って、面白いかなと思って」

 おれの行動も、お見通しかよ。

「あんたねぇ」

 全部、舅殿の計画通りに進んだってことか?

 旦那もおっかねえけども、この人もやばい人だよなぁ。

「ごめんね、ダッ君」


 へ?


「ダッ!?」

 おい、なんであんたまで!?

「こないだ、プロンシェンが教えてくれたんだよ。お父さんには、未だにそう呼ばれてるんだってね」

「……部屋に行く前に、プロンシェンのおっさんをもう一発殴ってきます」

「そう? 一発と言わず好きなだけどうぞ」 

 ひよこ好きの父ちゃんよ。

 そっちに帰ったら覚悟しておけよ! 





 俺はおっさんを殴りに行かなかった。

 おっさんの追加分は‘貯金‘しておくことにした。

 セレスティスの部屋は2階の一番奥に位置していた。

 装飾の一切無い木製のドアを開けて、セレスティスは手招きした。

「どうぞ。……ごめんね、お茶は切らしてるんだ」

「いえ、おかまいなく」

 初めて入ったその部屋は、えらく殺風景だった。

 向かって右の壁に、扉が一つ。

 多分、クローゼットだな。

 かなり広い部屋なのに、向かって左の壁際にベッドと本棚があるだけだ。

 ベッドの上には、セレスティス愛用の刀が無造作に置かれていた。

 それだけが、ここの全てだった。

「座るとこないから、ここにどうぞ」

 ベッドに座ったセレスティスは、自分の隣をぽんぽんと軽く叩いた。

「ここでいいです」

 俺はセレスティスの前に立って言った。

 舅殿とベッドに並んで座るなんて、嫌だっつーの。

「お互い忙しい身ですから、さっさと済ませましょうや。で、旦那と話したんでしょう? どうでした?」

「う~ん、あの人ってかなり面白いね。想像してたのと違ってた」

 あの旦那を‘面白い‘か。

 ハニー、君の父親はすげぇなぁ。

「おちびちゃんは、まだよくわかってないみたいだね。まぁ、無理ないかな」

 セレスティスは頬に流れた銀の髪を耳にかけ、笑みを深くした。

「<監視者>のあれは、単なる嫉妬だね。……この世界の秩序や善悪がどうなんてご立派なものじゃないぶん、たちが悪い。まぁ、僕的には大歓迎だけど」

「嫉妬……ね」

 姫さんは、皇太子を恋愛対象と見ていない。

 旦那だってそれは充分に分かってるはずだ。

 分かっていても、どうしよもない……それが竜の雄なのだから。

 姫さんへの旦那の執着は、竜のそれを越えちまってる感があるけどな。

「まあ、今のあの子に言っても良い結果にはならないだろうから口にしなかったけど。僕の考えはおちびちゃんとは違う。ダルドが後悔し恐れたのは、自分がこの世界に大きな災厄をもたらしたことだ。自分の軽率な行いが、異界から<監視者のつがい>なんてこの世界にとって物騒極まりないモノを……ふふっ、太古にあったっていう大量破壊兵器の方が、よっぽど安全だよね?」

 災厄。

 姫さんはこの世界にとって『災厄』だとあんたは、あんたも(・・・)そう言うのか。

「……あの子は災厄でも兵器でもない。そうなるとしたら、それは……」

「そう。兵器と違ってあのおちびちゃんには意思があり、心がある。あの子がこの世界の災いとなるか救いとなるかは、僕達竜族と人間次第だ。無駄に賢く育ったダルドにはそれが分かっている。だからこそ、死んで逃げたかったんだよ」

 大きすぎる罪から。

「絶対に……逃がすものか。寿命が尽きるその日まで、苦しみのた打ち回ればいい」

 世界を覆いつくす恐怖から。

「あいつをこの世界で生かす(・・・)! 最高だよ、首ちょんぱなんかより数百倍も素敵だと思わない!? 胸のむかつきも治っちゃった! ああ、久しぶりに清々しい気分だよ、婿殿」

 いるはずの無かった<魔王>を、この世界に堕とした。

「気分爽快ついでに教えてくれるか? セレスティス」

 気になっていたことがある。

 この人なら、何か知っているかもしれない。

「なんだい? ダルフェ」

 先代の側近だったというセレスティスなら。

 あの件を。

「青の竜帝セリアールは、人間の女に竜族の子を産ませようとしてたんすか?」

 俺の問いに。

 セレスティスは涼やかな目元に人差し指をあてて、鼓動の速さでリズムを刻んだ。

「……セリアールねぇ。今日は懐かしい名前をよく聞く日だ。……ふふっ、どうしてそんなこと僕に訊くの?」

「以前<黒>の老いぼれと旦那の会話で、ちょっと気になる部分があったんすよ」

 黒の竜帝が気にしていたのは、旦那が人間の女を孕ませられるかということだった。

 爺さんははっきり言った。

 人と竜の混血実験を、先代がしていたと。

「なるほど、黒の竜帝か。あの人、意外と口が軽いんだね。ははっ……ねぇ、婿殿」

「セ……レスティス?」

 俺に向けられていた眼差しが、瞬時に変わった。


「あの糞爺も、さっさとくたばりゃいいのによ」


 カイユが冬の空なら、この人はその空を映した氷河のようだ。

 凍てついた心、そのままに。

 けっして融けない氷の瞳。


「竜族と人の交配? そんなくだらねぇことは、黄泉に行った後にクソババア陛下に聞きゃあいいんだよ」


 仮面が消え去り、苛烈極まりない本性が現れる。

 

「てめぇは俺のカイユジリのことだけ考えてりゃいいんだ。……時間はそう長くは残ってねぇんだろう、ダルフェ?」


 その言葉に。

 俺の疑問は吹っ飛び、先代の交配実験のことなど考える余裕が無くなった。


「あんた、な……んでそれをっ……」


 絶妙のタイミング。

 話をすげ替えられたってことは、俺にも分かってる。

 だが、そこから抜け出せない。


「ん? 大事な娘の結婚相手を調べる父親は珍しくねぇだろう? てめぇの親父はプロンシェンと仲が良いからな。そこんとこをちょっと利用させてもらった」


 意識せずとも。

 腰の剣へと、手が動いた。


 そんな俺に気づいて、セレスティスは苦笑した。


「大丈夫だ、プロンシェンは口が堅い。それに俺はカイユには言わねぇ……言えねぇよ」

「……俺……は、ま……だもちます」


 頭の中はこの事態に対処すべく、冷静に『計算』を始めてるのに。

 漏れた言葉は、取り繕えなかった。


「ま……だ、死ね……ない……」


 俺は。

 やらなきゃいけないことがある。

 まだ、死ねない。

 

「なぁ、ダルフェ。カイユは俺に似て腕っぷしは強いが、内面はミルミラに似て脆い娘だ。これ以上、あの子を追い詰めたくねぇんだよ」


 俺の愛する者とよく似た顔の、この竜騎士は。

 遺される者の哀しみを、容赦なく俺に突きつける。


 カイユ。

 俺は君を。


 父親と同じように。

 哀しみの世界に。


 愛しい君を、置き去りにするのだろうか?


「カイユが生まれた時、すごく嬉しくかった。ちっちゃなあの子が可愛くて、可愛くて……だからクソババアのせいですっからかんになっちまった財政を立て直すために、人間にだって頭を下げれた。餓鬼だった陛下と一緒に踏ん張って……必要なら何だってしてきた」


 俺達は、竜の雄は。


「クソババアの言ってた竜族の未来なんて、どうでも良かった俺だけど。カイユのために‘未来‘が欲しくなったんだ、必要になったんだ。こんなにあの子を愛してんのに、なんで俺は……竜の雄は、こうなんだろうな?」


 雌を想い過ぎるから。  

 

「あの子の為ならなんでもしてやりてぇって、心の底から思うのに。俺はカイユを‘俺の一番‘にしてやれないんだ」

「……俺だって、そうですよ」


 恋が、愛を噛み砕く。


「俺の‘一番‘はカイユです」


 ジリギエ。

 お前もいつか、わかるだろう。

 お前もきっと、知るだろう。


 狂気のような恋情に食い尽くされる、喜びを。


「なあ、ダルフェ」

 セレスティスはそのまま後ろに倒れ、ベッドに仰向けになった。

 水色の眼を閉じ、封をするかのように両手で覆った。

「俺、お前がカイユに求婚するつもりだって知った時、お前を殺そうと思ったんだぜ?」

 親だったら<色持ち>のつがいになんか、させたくないと思って当然だ。

「知ってましたよ。俺が入れられてた液槽の前で、あんたは何度も刀を抜いてたでしょう?」 

「はは、さすが<色持ち>! 気づいてたんだな」

 この大陸に来た時。

 旦那のせいで、俺の身体は生ごみ寸前だった。

「<色持ち>のてめぇには、先がないって分ってたのに。俺、できなかったんだ……」

 セレスティスじゃなくたって、<色持ち>の俺を簡単に殺せた。

「ごめんな、ダルフェ」 

「いえ……生かしておいてくれて、感謝してますよ」


 産んでくれた母さんにも、育ててくれた父さんにも。

 感謝することが、できる俺になれた。


 俺はつがいを探す気が無かった。

 こんな俺だから、相手の雌が不幸になるだけだと思った。


 それは格好付けた建前で。

 本心は、怖かったから。


 たった1人のヒトと、別れるその時が怖かったからだ。


 カイユに会って。

 俺は‘生きたい‘と初めて思った。

 心の底から‘生きたい‘と願った。


 アリーリア。


 もっと早く、君と出会いたかった。

 もっと長く、君と過ごしかった。


 アリーリア。


 俺。


 もっと。

 君と生きたいんだよ。


「おい、婿殿」

「っ!?」


 腹に。

 蹴り。


「……いきなり、なにすんですか」

 一応、抗議した。

「避けれるに避けないてめぇのそういうとこ、俺はけっこう気に入ってるんだぜ?」

 ベッドに腰掛けたまま伸ばした右足で俺の腹を蹴ったセレスティスは眼を細め、口の端をあげて笑った。

「笑えよ、ダルフェ」

 その笑みには王子様の‘お‘の字すらない。

「カイユとジリギエの前じゃ、そんな顔するんじゃねぇぞ? 俺にも出来たんだ、てめぇにも出来るさ。そんなしけたつらしてちゃ、男前が台無しだぜ」


 生きたい(オレ)と、死にたい(あんた)


「ほら、いつもみたいにへらへら笑えよ」

 言いながら立ち上がり、両手で俺の頬を数回軽く叩いた。

「セレスティス……へらへらは余計ですよ」

「そうかい? そりゃ悪かったな‘婿殿‘」

 俺の右足を踏みつける踵にさらに力を加えながら、舅殿は言った。

 この足の指の骨を押し砕く感じの絶妙な踏みつけ方……ほんと、そっくりな父娘だ。 

「ああ、そうだ。俺……じゃなくて僕、しばらく帝都に帰らないから後はよろしくね」

 王子様に戻ったセレスティスは何事も無かったように俺の足から踵をどかし、制服のポケットから手袋を取り出した。

 仕事中(・・・)しかそれをつけない俺と違って、この人は手袋をしていない時の方が珍しい。

 つまり。

 この青の竜騎士は、いつだって臨戦態勢……殺る気満々ってことだ。

「帝都を出るんすか?」

 あの時は反対にそれをしまった。

 セイフォンの皇太子が目の前にいるのに、だ。

 だから本当に手を出す気が無いのだと解った。

 それは竜騎士なら確認する必要の無い合図(サイン)

 今後、この人はもう。

 あの皇太子には手を出さない。


 結果(・・)に満足したからだ。


 生きる辛さを。

 生かされる辛さを、知っているから。


 誰よりも。


「それ、初耳なんですけど。どこに行くんですか?」

「クソバ……前陛下の息子の所に行って来る。さぁ~て、荷物作らなきゃ……鞄どこにしまったっけ? ああ、ここじゃなくて家の方か」  

「舅殿、先代の息子って……?」

 息子がいたのか。

 子供が残ってて当たり前だが……。

 セレスティスは俺に背を向け、手袋をした右手でベットの上に置いてあった刀を掴んだ。

 それを腰に戻しながら俺へと顔を振り返り、小首を傾げながら言った。

「あれ、意外だね。君、知らなかったの?」

「興味も必要性もなかったんすよ」

 ハニーにそっくりな端整な顔に、いたずらっこのような笑みが浮かんだ。

「ふふっ、メリルーシェ支店長のバイロイトだよ」

「え?」


 バイロイト。


 あのお節介狸親父かっ! 

*「先代の交配実験? なにそれ?」というお方はこちらをどうぞ。

『僕が、君のティアラ』

http://ncode.syosetu.com/n0004k/


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