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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
111/212

4~5月の小話 ~かわゆい?~

「目をつぶって10数えるの?」

 

 それは、お茶の時間の出来事だった。

 本日のおやつはパイ生地を小さくカットし、真ん中をひねってリボンの形にして砂糖をまぶして焼き上げたお菓子だった。

 食堂でパイ生地を少し分けてもらってきて、私が作ったお菓子。

 鳥居家ではお母さんがアップルパイを作った翌日に、必ずこれが登場する。

 あまった生地で作れる、簡単おやつなのです。

 私は『りぼん』と言ってるけど、正式には『パピヨン』というらしい……蝶っぽいからかな?


「りこ! 目だ、目!」


 小竜のハクちゃんは私の膝からふわりと飛び、向かいのソファーに座っていたダルフェさんの膝に移動した。


「ちょ、旦那!?」


 ハクちゃんを膝に乗せたダルフェさんは、口の右隅をヒクヒクと動かした。

 嫌そうですね~、ダルフェさん。

 きっと彼の脳内では人型ハクちゃんが、お膝にちょこんとしちゃった映像が流れているに違いない。


「ダルフェ、例のものを。さあ、りこは10数えるのだ!」


 小さな手を腰にあて、ダルフェさんのお膝の上で仁王立ちした可愛い姿に見蕩れていた私に、ハクちゃんは焦れたように言った。

 おっと。

 はいはい、了解です。


「う、うん。1、2~……」

 

 私は目を手で押さえ、数え始めた。

 なんなのかな?

 また、妙なサプライズとか……!?


「5~6~……」


 隣に座っていたカイユさんが、席を立つ気配。


「ギュィッ!? ギュブブ~ッ!」


 ジリ君の声、なんかこう……びっくりというか、笑ってるような?


「7~8~9……10。ハクちゃん、いい?」

「うむ、良いのだ。さぁ、目を開けて我を見、堪能するが良い!」


 は?

 また変なこと言って……え!?


「ハ……ハクちゃ……」


 見ました。

 見ましたとも。


「ううううううさっうさっ!?」


 ダルフェさんの膝からふわりとテーブルに移動し、私を見上げるのは。


「うさ耳~っ!?」 


 白いもこもこのうさぎの被り物つけた頭部からは、ぴょこんとした長いお耳。

 カチューシャタイプじゃなくて、すぽっと被るタイプだった。


「かっかかか……かわいぃ~~~~いい!!」


 私はハクちゃんを抱きしめ、ふわふわのお耳に頬擦りした。

 可愛い。

 めちゃくちゃ可愛いっ!

 サン*オさんからスカウトされてもおかしくないほどの、とんでもない可愛さなのです。


「どうしたの、これ……あ! こないだの!?」


 こないだのうさ耳がどうのって会話、私はすっかり忘れてました~!


「ハクちゃん、とっても似合う! やっぱり元が可愛いから、何でも似合っちゃうのかな~」

「気に入ったようだな。ダルフェに作らせたのだ。黒兎のものもあるのだぞ? あちらも見るか?」


 黒うさヴァージョンもあるの!?

 白いハクちゃんに黒うさ……パンダうさぎ風で、超ラブリーなんじゃないかな♪


「うわ~、見たい見た~いっ!」


 鼻息荒く答えた私に、ダルフェさんがぎょっとしたような顔で言った。


「ちょ、姫さんっ」

「ダルフェ?」

「よし。黒いのに‘お色直し‘なのだ。ダルフェ、お前の部屋に取りに行くぞ。こい」

「だ、旦那っ! あれは……うわっ!」


 何か言いかけたダルフェさんはうさ耳ハクちゃんに強制連行され、消えた。

 ハクちゃんはダルフェさんを連れて転移してしまった。

 そっか。

 一人じゃ付けれないから、さっきもダルフェさんに手伝ってもらってたんだ~、うんうん納得納得。


 5分後。

 ハクちゃんとダルフェさんが戻ってきた。


「ひっ……ハクちゃん!?」


 予想と違い、ハクちゃんは人型だった。

 真っ黒なゾロ~とした長衣に、黒うさ耳をつけて仁王立ち。

 しかも今度はカチューシャタイプ。

 うう~、バニーガールさんが付けてるのみたい。

 しかも2メートル越えのハクちゃんがピーンとたった長いウサ耳をつけたので、3メートル近くなっていた。

 威圧感4割増ですよ、魔王様。


「く……黒うさ?」


 違うよ、これ。

 パンダうさぎさんでも、黒うさぎさんでもない。


 確かに形はうさ耳なのに、なにかが違~うっ!

 うさ耳をつけてるのに、なんで禍々しくなっちゃうの~~っ!?


「ブギュギョッ~!? かかぁ~!」


 ジリ君は怖がってカイユさんの背中に隠れてしまった。

 カイユさんは氷のように冷たい視線をハクちゃんとダルフェに交互に送った後、深いため息を一つ。

 あぁ、カイユさんは絶対、あきれてるよ!?

 

「かわゆいか?」


 首をかしげて、訊く貴方。

 あ、眼がきらきらしてるかも。

 

「……えっと、あのっ」


 この凍りついた空気、感じないんだね。

 さすがです、ハクちゃん。

 ダルフェさんはハクちゃんの後ろで私に‘すまん、すまん‘と目で謝り、拝むように手を合わせていた。


「りこ? かわゆいだろう!? これはダルフェ渾身の作なのだぞ? も、もしや……かわゆくないのか!?」

「……え~っと」


 金の眼が細まった。

 むむ、この細まりかたは……まずい、これはちょっとご機嫌斜めっぽいほうです! 


「あの、そのっ」


 視界に入るダルフェさんの手の動きが忙しなくなった。

 拝むようにしていた手を、自分の首に水平にあててひいていた。


「……かっ、かっ」


 あれは、首ちょんぱ。

 首ちょんぱのジェスチャーでは!?

 

「かわゆいですともっ!!」


 やっとの思いでそう言うと。

 黒うさ耳のハクちゃんが、両手をにぎにぎしながら言った。


「さあ、りこよ。我を思う存分愛でるのだ。 先程のようにぎゅうぎゅうして、すりすりするが良い! ん? よし、今度我がしてやろう。遠慮は無用だぞ、りこよ」

「ううっ……は、はい。ありがとう、ハクちゃん」


 私をぎゅうぎゅうしてすりすりする黒うさ耳ハクちゃんの背後では。

 ダルフェさんの頭部に、カイユさんの踵が垂直に下ろされた。

 





<~おまけ~>


ダルフェ「あの、え~っと。これ、姫さんの分もあんだけど……どうする?」


りこ「え!?」


カイユ「ダ~ル~フェ(怒)!!」


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