4~5月の小話 ~お花見~
「ラパンの花は、桜に似てるの」
カップ描かれたラパンの花を、私の指先がなぞった。
「さくら?」
シンクにちょこんと座ったハクちゃんの金の眼は、私の指の動きを追っていた。
「お祖父ちゃんの家には大きな桜の木があって、花が満開になったらお花見をしてたの」
食器棚に片付けようと、洗い終わったカップを手にしたら。
そこに描かれたラパンの花を無意識になぞっていた。
なぞりながら、もう会えない家族の顔を淡いピンク色をした花びら1枚1枚に重ねて思い浮かべ……。
「花見とは、花を愛でるということか? ……りこは花見がしたいのだな?」
「皆で……家族皆で、お弁当を食べるの。毎年やってたのよ?」
前の日から下ごしらえをして、朝早くからお母さんの指示でお弁当を作った。
煮物に揚げ物、太巻きと甘く味付けしたお稲荷さん。
お祖父ちゃんの好物のエビチリに、お父さんの好きな春雨のサラダ。
りえちゃんの好物の杏仁豆腐。
メニューは毎年ほとんど同じ。
でも、飽きたなんて思ったことは無かった。
毎年同じってことが、私には嬉しかった。
「できる。この世界でも」
視線をカップからハクちゃんに移すと。
ハクちゃんは花柄のふりふりエプロンの裾を、ぎゅっと握っていた。
「ハクちゃん?」
大きな金の眼は瞬きもせずに、私の持つカップを見ていた。
「りこには夫である我だけでなく、【母】も【父】も【弟】もいる。りこが望むなら祖父も祖母も……【家族】を用意してやろう。……子以外なら、全て与えてみせる」
家族。
子供以外の家族を‘用意‘すると言う貴方。
家族は‘用意‘することなんか出来ないということが、貴方には分らない。
「……ハクちゃん」
カップを食器棚にしまい、シンクに腰掛けたハクちゃんの前に立った。
「ハク」
エプロンを握っていた小さな手を取り、頬擦りした。
きゅっと握られた4本指の手は、まん丸でとても可愛らしい。
なんだか、赤ちゃんの手みたい。
小さな貴方の手がとても愛しくて。
「ハク。私は、貴方がいてくれればいいの。それが私の望みなの」
愛しくて。
胸が、痛い。
「……ラパンの花が咲き、りこが花見を楽しんだらこの大陸を出よう」
ラパンの花が咲くのは春。
「うん。どこへだってついて行く。どこまでだって、世界の果てまでだって一緒に連れてって」
私達は、離れちゃ駄目。
「果て? 世界に‘果て‘など無い。この世界は竜珠同様球体で、‘端‘が存在せんのだからな」
「……なんで世界が丸いって知ってるの?」
カップを見ていたお月様のようなハクの瞳が、私へと視線を移し。
くりんと回って、細まった。
「独りで、暇だったからだ」
果ても端も無いこの世界。
「……今は忙しい。空の上の上に行く暇など、我にはもう無い」
ハクちゃんの尻尾が、ゆらゆら揺れた。
「ハクちゃん。ラパンの花でお花見をする時は、一緒にお弁当を作ろうね」
きっと、宇宙から眺めれば。
「では、我はりこの為に最高のゆで卵を作るとしよう」
「うん。ありがとう、ハクちゃん」
この世界も。
地球と同じ、青い星。
この可愛らしいお花の背景は、ねおばーど様にいだきました♪
ねおばーど様、ありがとうございました(^^)