2~3月の小話 ~セレスティスとジリギエ~
「ねえ、ジリ。おぢいの眼、どう? う~ん、見た目は朝と変わらないか。……不思議だね」
手鏡に映るのは、娘と良く似た自分の顔。
カイユと同じ水色の眼……の、はず。
僕のこの眼は。
色を失った。
無くしたのではなく、放棄した。
君を失ってから。
僕にとって、この世界は白と黒の濃淡でしかない。
なのに。
「おぢいね、さっき……とっても驚いちゃったんだ」
陛下の執務室で。
【色】を見た。
それは、金。
黄金の輝き。
「異界人か。あの子……こちらの人間とは、やっぱりどこかが違うのかな?」
<ヴェルヴァイド>も竜帝も。
全てが白黒。
なのに、あの子の眼だけが。
鮮やかな‘色‘を纏っていた。
「ミルミラにも、あの金色を……見せてあげたかったな」
君が去った、色の無い世界。
「ぎゅいぃ! おぢっ、おぢい!」
娘の中に、君の想い。
孫の中に、君の面影。
そして。
僕の中には、君の竜珠が遺ってる。
でもね、ミルミラ。
それじゃ、足りないんだよ。
「君がお姫様になりたいって言うから、僕は‘王子様‘になったのに。先祖返りの【獣】じゃなくて、お姫様の君にふさわしい王子様に……」
セイフォンの皇太子。
あれが災厄を連れて来た。
そして、君はいなくなった。
僕の側から、奪われた。
「ねぇ、ジリギエ。おぢいはもう、疲れちゃったんだよ。相手がいない‘王子様ごっこ‘なんて、不毛だしね……」
やめられないのは、君の竜珠が僕に囁くから。
-約束よ? セレを私の王子様にしてあげる。その代わり、私をセレのお姫様にしてね? ずっと、ずっとよ……。
「ジリギエ。お前に、お願いがあるんだ」
「ぎゅぎゃ、ぎゃっ!? おぢい?」
「誰にも言っちゃ駄目だよ? ふふっ……男同士の約束なんだからね」
きっと。
お前はおぢいよりも、強くなる。
「ジリ。お前は、どの竜帝にも縛られない存在になれるはずだ。ジリの<主>は……あの<魔王>なのだから」
<青の竜騎士>である僕は、陛下の命には逆らえない。
生きろと命じられたら、生きるしかないんだ。
「この生き地獄から、憐れなおぢいを救っておくれ」
あれは、希望の光。
幸福への、灯火。
「もう、独りは嫌なんだ」
金の魔王よ。
貴女のお慈悲を、どうか僕へお与えください。
*活動報告欄 2010・2・21 掲載。