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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
105/212

2~3月の小話 ~ランズゲルグ~

じじいのつがいになったおちびは、異世界人だ。

本来なら<監視者>にとっては処分対象である【異界の生物】だが、おちびは生き残った……自分を殺しに来た<監視者>の‘つがい‘になったからだ。

つがいを得たじじいは、変わった。


いろんな意味で。


「へ~、豆で鬼を追い払うのか?  またへんてこな祭りだなぁ」


皿に盛られた豆菓子を食いながら、おちびの異界話を俺は聞いていた。

自分からはあまり故郷の事を話さないおちびだが、俺は異界文化に興味がある。

かぼちゃの祭りも興味深かったし、多少だが実益を生んだ。

だからこうして執務室に呼んで茶をしている時などに、さりげなく話をふって異界話を楽しむ。


「う~ん。お祭りっていうか、伝統行事かな? 小さい時は、毎年やってたっけ……」


膝に座ったじじいの腹を撫でながら、おちびが言った。

あの<ヴェルヴァイド>が、嫁に腹を撫でられご満悦……すっかり日常となったヴェルのこの姿を目にしたら、他の四竜帝もさすがに驚くはずだ。


「おちび、最近はしてなかったのか?」


数日前、おちびはカイユ達と南街に観光に行った。

その時に買ってきたのが、これだった。

乾燥させた豆を炒って、色づけした砂糖をまぶした駄菓子だ。


「うん。懐かしいな……お父さんを鬼役にして、力いっぱい豆を投げつけて……楽しかったなぁ~」


「なっ……なんだってぇ!」


 父親を豆で攻撃するのか? 家族なのに!?

 力いっぱい……人間だから許されることだな。

 竜族が力いっぱい投げたら、豆だって凶器だ。

 

「それでね、歳の数だけお豆を食べて……お父さんはお豆が大嫌いだから、いつもお姉ちゃん達と協力して無理やり食べさせたの」


 嫌いな食い物を、歳の数だけ!?

 歳の数……竜族だったら軽い拷問だな、そりゃ。


「豆まきとやらをしたいのか、りこ? ふむ、ランズゲルグを鬼役にするか」


 そう言いながら、じじいは数粒の豆菓子を手に取った。

 おちびに向けられていた金の眼が、俺様へと視線を移した。

 俺様は即、叫んだ。


「おっ、おちび! 豆は……これは駄目だ、勘弁してくれぇ!」


 このじじいに、フルパワーで豆を投げつけられたら。


 俺様、死ぬ。


 豆で死んだ初めての竜帝として記録に残るなんて、嫌だぁあああ! 


「? ええっと、はい。しません、しませんから……ちょっ、女神様っ!?」


 立ち上がり、とりあえずじじいの射程圏内から逃走した。

 おちびがなにか言っていたが、無視して執務室を飛び出した。


 しかし、あのおちびが……父親に豆をぶつけ、大嫌いな豆を強制的に食わせるなんてっ!

 なんてことだ!

 あのドSじじいの嫁になるだけのことはある。

 

「この俺様を一瞬で窮地に追い込むとは……さ、さすがじじいの嫁! 鱗フェチなうえ、もしや無自覚ドSなのかっ!? おちび、恐るべしっ!!」 


 どこかにいる、俺様のつがい。

 頼むから‘普通‘の雌であってくれー!


 廊下を走りながら、そう願った俺様だった。

*活動報告欄に 2010・2・3 掲載。

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