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四竜帝の大陸  作者: 林 ちい
青の大陸編
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第9話

「私としては豪華すぎると困るの。他の人達から見て反感を買うのは避けたいし、税金の無駄使いは良くないし。ここの生活水準が分からないけど、この服とか贅沢品でしょ?」

 こんなドレス……結婚式くらいしか着ることないよ。

 しかもこの触り心地の良さ! 結婚式の予約をしたホテルの貸衣装を選ぶ時には無かったな。

 ウエディングドレスもカラードレスもデザイン優先で素材は二の次って印象だった。

 ちなみに白ドレスは15万。レンタル代も高いもんだ。色ドレスは結婚式セットパックで数着の中から選んだっけ。お母さんの希望で淡いピンクのふりふりドレス。

 はっきり言って26の私には可愛過ぎるドレスだったけど、お母さんが喜んでくれるなら何だって着るつもりだった。お色直しで着ぐるみを着てみたいと高校生から考えてたんだけど。

 安岡さんみたいなタイプは絶対にひく……。

 あぁ、もろもろのキャンセル代。私の貯金から払ってね、お母さん。

「ふむ、贅沢品ではあるな。だが豪華ではない。黄の竜帝がいる大陸にあるリーセチル共和国の貴族を見たらセイフォンの衣装が質素に思えるぞ。豪華がすぎて道化の域に達していてる」

 道化? ピエロってことだよね? ちょっと見てみたいかも。おもしろそう。

 言葉を覚えたらこの世界の国々を観光(?)したいな〜。

 お金無いから働きながら旅して。

 先のことより……今は目の前の事を考えなきゃだぞ、私!

「他の国と比べるのは無しにしようよ。当分はここでやっかいになるつもりだから。ハクちゃんがセシーさんに伝えてね。豪華・贅沢は困るって。あ、角の立たない言い方でお願いします」

「まかせておけ!我もりこの役にたってみせるぞ」

 そういえば、竜帝って何? 竜の王様のことかな〜後で詳しく教えてもらおう!

 王様も……鱗がある竜だといいな。


『つまり、妬みを買わない程度の生活をご希望ってことですの?』

 セシーさんは綺麗に結い上げた髪からのぞく耳から下がっている赤い石のピアスを右手で触りながら……むむ、色っぽいなぁ……ハクちゃんと念話している。 白い肌。紅い唇。春の日差しのような柔らかな金髪に紅茶色の瞳……。

 ピアスをいじる細く長い指には整えられた爪。塗られたネイルは可愛らしい桃色。意外な色だったけど(真っ赤とか好きそうなのに)似合ってる。

 私……着替えの時に軽くメイクしてもらってるけど。セシーさんは口紅以外はそのままっぽい。なのにこの美しさ、色っぽさ!

 私が男だったら彼女にめろめろへろへろ〜んになるね、うん。ハクちゃんが竜で良かったぁ。 人類だったら私と彼女を比べて内心がっくりしちゃうよ。

 ハクちゃん、なんて言ってるのかな? 早く言葉を覚えて自分で会話したいな。

 英語が赤点の私だって生活に必要ってことになれば頑張れるはず!

『りこはお前と違って慎ましやかなのだ』

『慎ましいと言うより賢いというべきかしら。簡単に取り込めると思ってたのに、残念ですわ』

 紅茶色の眼が私をちらりと流し見た。

 なんだろう? ため息をついてるし。

 お、こちらに近寄って……私の左手をとって軽く撫でた。背が高いな〜。180はあるかも。 モデルさんみたい。

『貴女の手はとても綺麗な皮膚をしているわ。労働をしていない手ね。異界では恵まれた生活をおくっていたはず。こちらでそれ以下の生活をさせるわけにはいかないわ。それに貴女の生活費は殿下の私財を使います。国庫に関係ございません。……ヴェルヴァイド様、貴方様とてトリィ様に苦労をさせたくないはずですわ。貴族の姫のように何一つ不自由無く過ごして欲しいとお考えでしょう?』

 彼女は私から手を離さず、顔だけハクちゃんに向けて微笑んだ。

 蕩けるような美しさ。

 あぁ、いい香りがする。甘い香りの香水はセシーさんに似合ってる。

『りこが……苦労?』

 なんか身体がふわふわしてきた……。不快じゃないけど、なんか変。

『貴方様は人間の生活に疎い。若い娘を物質的にも精神的にも満足させる術など分かりますまい。第一、金銭さえお持ちで無い。トリィ様を路頭に迷わせるおつもり?』

 ふわふわでぽかぽかする。身体の中からあったまるよ……。

『トリィ様のためにセイフォンを利用なされませ。セイフォンも貴方様の‘つがい‘の君の後見という見返りがあります。それにダルド殿下は幼い面もありますが慈悲深く、責任感もお強い。トリィ様に総ての私財を消費されようと彼女を邪険に扱うことはないとこの‘魔女‘が保障致しますわ。トリィ様が生まれた世界に帰りたいなどと考えないような満ち足りた生活をセイフォンは提供するとお約束しますわ』

 セシーさんにとられた手がじんわり……冷たくなってきた。

 身体はぽかぽかしてきたのに、変なの。どうしちゃったの、私。

『確かに我は人間の生活には疎い。興味が無かったからな』

 ハクちゃんがふわりと飛んで、私に並んだ。金の眼がセシーさんと私の手を見下ろした。音を立てないホバリング(?)で……。

 うぅ、なんか瞼がぴくぴくしてるぞ私。身体が変!

『暫くはお前の策に付き合っても良い。りこをこの世界に馴染ませる為にもな。だが……』

 ハクちゃんが指を一本軽くはじいた。

 同時に……爆音。

 爆音? え!

『我のりこに触れたうえに<魅了>しようとしたな?この痴れ者が』

 一瞬で身体がもどり、意識もクリアーになった。

 でも、でも!

 ガス爆発でも起きたの? 部屋の中がめちゃくちゃ! 瓦礫の山、まさにそれ!

 天井が無いし! 青いお空が丸見え……って、そんなことよりセシーさんだよ!

「た、大変! セシーさん、セシーさん!」

 私は瓦礫を見回した。

 いた!

 うそ……正面の壁にめり込んでるよ、セシーさん!

 駆け寄りたいのに足が動かない。膝が震えて……立ってるのがやっと。

「ハクちゃん、ハクちゃん! どうしよう、セシーさんが」

「この女はそんなに軟ではない。わざと受けたな。我が手加減するのはお見通しか」

 な……手加減? 今のガス爆発(?)はハクちゃんの仕業なの?

『うふふ……』

 セシーさん?

 ぎゃあ! 自力で壁から手足を引き抜き、すたすた歩いてる!

 露出の多いドレスだったのに肌には傷1つ無い。ドレスには埃すらついてない。

 なんなの? セシーさんって、サイボーグ?

『あらあら。御眼がまん丸になって……。驚いたでしょう、御かわいそうに』

 扇子で口元を隠して優雅に微笑む姿に安心した。

 サイボーグだろうとターミネーターだろうと、無事でよかった!

「ハクちゃん、なんてことすんのよ! セシーさんは無事だったけど、部屋が壊滅状態だよ」

「我は悪くない。全く、悪くないぞ! この女が……」

「理由はあったって、こんなのダメ! 壊したもの、弁償請求されたら払えないよ!」

 ぐわっつ、大ダメージだよ!

 借金持ちに転落とは!

 総額はどれくらいになっちゃうのかな。ダルド君、申し訳ないけどお金貸してー!

 

  

『この部屋はもう使えませんから、変えましょう。そうですわ! 離宮に移って下さいな、ヴェルヴァイド様』

『最初からそのつもりだったのだろう、‘魔女‘。本当に嫌な女だ。先代の‘魔女‘は鬱陶しい存在だったが実害は無かった。だがお前は違う。我にとって邪魔だな』

 セシーさんは何事も無かったようにハクちゃんと念話している。

 彼女はサイボーグではなく、武将なんだそうだ。

 この世界で戦に出る人間は一般人よりかなり強く……頑丈なんだって。頑丈にも程がある!

 生まれ持った才能と鍛錬の成果で強くなるらしい。

 セシーさんのドレスの素材は特注品で蜥蜴蝶っていう貴重な生き物の翼の皮で出来てるそうだ。刃物でも切れない素材だから竜族の仕立て屋さんしか作れないドレスだってセシーさんが教えてくれた(ハクちゃんに通訳してもらった)。

「ね、セシーさんは何だって? 弁償の件は?」

 セシーさんが無事だった理由は教えてもらったけど、部屋を壊したことについては今後どうしたらいいのかな。

「部屋を移るぞ。離宮まで歩くには少し遠い。術式を使おう」

 

  ちょっと。

 私の質問は?

「部屋を壊したんだよ。ハクちゃんは! もうちょっと気にしようよ」

「確かに壊れた。だが過失はあちらにある。あの女も過失を認識している。りこが心配している弁償責任は発生しない」

 は?

「過失は我のりこに我の許可無く触れたことだ」

 はぁ?

「着替え等を手伝う侍女には必要なことだから許した。だが、あの女は確信犯だ」

 確信犯って……。

「あの女は我がりこの皮膚に直に触れられぬのを見抜いて、嫌がらせを兼ねてりこの手に触れたのだ。まったく忌々しい」

 へっ?

「我はあの女を殺さなかった。傷もつけなかった。りこがあの女を気に入ってるからだ。消してしまいたいが、我慢した。あれが死んだりしたらりこが泣くと思ったからだ」

「ハクちゃん……」

 うう、いい子だね。優しいんだよね。

 ちょっとずれてるけどさ。私以外にもその気づかいを使ってくれるとお母さん(?)は助かるんだけどなぁ。

 ま、借金が出来なかったことにはホッとした。

 今後はハクちゃんが物を壊したりしないように私が気をくばらなきゃだね。


 我は言わなかった。

 セシーが手をとった時、りこを<魅了>しようとしたことを。

 嫌がらせは‘おまけ‘だ。

 

 我は言えなかった。

 真っ青になり、震えながら‘魔女‘の心配をするりこの姿を見たから。


 我が言ったら。

 りこの心が痛むのではないかと推測した。

 

 人間の心が脆く傷つきやすいこと。

 我はこの数時間で学んだ。


 りこにはもう傷ついて欲しくない。


 人間共よ。


 生き延びたければ我らを放っておけ。


 もし薄汚い欲望を我の‘つがい‘に押し付け、りこが耐え切れず壊れたら。


 

 

 世界を終わらせよう。

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