メイはオリの中に
その日の朝。
オーガスト研究所は、人の動きでいつになくあわただしかった。恐竜の子がもどってきたうえ、二人の泥棒を警察に引き渡すということがあったからだ。
メイが誕生した部屋。
中央のテーブルには毛布がしかれ、その上に恐竜の子が寝かされていた。
そばでは博士とヤヨイがつき添って見ている。
「よく生きてくれてたわね」
「だれかがエサをやってたんだろうな」
「こんなに大きくなって。エサをやってたの、あの二人かしら?」
「それはまずないだろう。あの二人、催眠ガスで眠らせたと話しておった。おそらく、どこからか盗んできたんだろうよ。それに金が欲しいんなら、もっと早く連れてきたはずだ」
「なら、だれかほかに?」
「たぶんな。だがあの二人、そこのところをがんとして話してくれんのだ」
「そうなの……」
「だがな、こうしてぶじに帰ってきたんだ。それがなによりじゃないか」
「そうよね。でもこの子、目をさましたらあばれやしないかしら?」
「心配せんでいい。もうすぐ特注のオリが来ることになっておる。それに睡眠ガスを吸っておるんだ。いきなりあばれ出すことはなかろう」
二人が話しているところへ……。
キサラギ警部が本署からかけつけてきた。今回のことを詳しく聴取するためにである。
「博士、眠ってるんですか?」
キサラギ警部は部屋に入るなり、まず一番に恐竜の子の顔をのぞき見た。
「催眠ガスを吸っておるんだ」
「そうでしたね。ですが、これがダチョウのタマゴから生まれたとは……」
「どうだね、じかに見た感想は?」
「思っていたより、ずっとかわいいですね」
「まだ子供だからだよ。成長すれば、五メートルはゆうに超えるだろう」
「ええ、テレビでみましたよ。成長した予想図、ずいぶんこわかったですね」
「ところで、あの二人組。何者なのかわかったのかね?」
「ヤツらは以前、わたしが逮捕したことのある泥棒でした」
「やはりな」
「ですが、博士。あの二人が怪しいって、よくおわかりになりましたね」
「ヤツらの話がウソだって、すぐにピンときたからだよ。三千万円もの大金、みすみす渡せんからな。それですぐ、警察に連絡したんだ」
「で、そのウソっていうのは?」
「あの二人、近くの公園で見つけたというんだ。そんなこと、ありえん話ではないか」
「ですね。ここら付近一帯は、われわれが徹底的に捜索して、それでも発見できなかったんですから」
「それに見てのとおり、恐竜の子はかなり成長しておる。つまりそれはだな、エサをやっていた者がほかにいるということだ」
「いや、おみそれいたしました。署に帰ったら、あの二人、きつくしぼりあげてやります」
「ああ、頼むよ。で、このひと月。恐竜の子が、どこでどうしてたかを知りたいんだ。ぜひ、そいつを聞き出してくれんかね」
「もちろんです。ではさっそくですが、はじめから詳しく教えていただけませんか」
キサラギ警部が事件の本題に入る。
今回の事件――すなわちゲシロウたちが恐竜の子を連れてきてからのことを、博士は順を追って話し始めた。
そして、その話も終わろうとしたとき。
部屋の中に、タタミ一枚ほどもある大きなオリが運びこまれた。それは壁四面が鉄格子でできており、正面のトビラにはカギがついていた。
「ヤヨイ、用意をしてくれ」
博士は恐竜の子を抱き上げた。それからヤヨイが毛布をオリの床に広げるのを待って、恐竜の子をオリの中にそっと移し入れた。
トビラが閉められ、博士の手によってカギがかけられる。
「目をさまさないのは残念ですが、これから二人の取り調べがありますので」
小さく頭を下げてから、キサラギ警部はあわただしく本署に引きあげていった。
「すぐにでも研究を始めたいが、恐竜の体力が回復してからの方がよかろう。ヤヨイ、それまでオマエが世話をしてくれ」
博士はヤヨイにカギを渡した。
「でも、何を食べさせたらいいのかしら?」
「ドッグフードというわけにもいかんだろう。すぐにでも新鮮な肉を用意させよう」
「そうね、肉食恐竜なんですもの」
ヤヨイが恐竜の子を見やる。
恐竜の子――メイは、オリの中だということを知らず、ぐっすり眠っていた。