表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

ひとつ屋根の下

 かくれ家はマンションの三階にある。

 地下の駐車場に車を置き、ガンタンは外にある非常階段を歩いて昇った。エレベーターはあるのだが、こうして仕事帰りの夜は、マンション内の防犯カメラに写らないようにしていた。

 さて、恐竜のオモチャ。

 それはロボットでも防犯装置でもなく、どこをどう調べても本物の恐竜の子だった。

「オッカアー、マッテヨ!」

 ガンタンのあとをしつこくついてまわる。足元にまとわりつき、ひとときもガンタンのそばを離れようとしなかった。

「うるせえなあ。オレはおっかあじゃねえ、そう言ってるだろ」

 いいかげんうんざりのガンタン、つい大きな声を出してしまった。

「オッカアハ、オイラノ、オッカアダ!」

 恐竜の子が泣き始める。

 ガンタン、泣く子をあやしたことなどない。

 オロオロとまどううちに……。

「わかった、わかった、オマエのおっかあだ。だから静かにしてろ。オレは眠いんだ」

 やけっぱちになって、ベッドに倒れこみ頭から毛布をかぶった。

 あとを追って、恐竜の子もベッドに上がってくる。

「なんだ、オマエはあっちで寝ろ」

「イヤダ! オイラ、オッカアト、イッショニ、ネルンダ」

 恐竜の子が足をバタつかせる。

「静かにしろって!」

「イッショニ、ネテクレナキャ、オイラ、アバレテヤルカラ」

「もう好きにしていいからさ、だから、あばれるのだけはよしてくれ」

「ナラ、オッカアト、ネテモ、イインダネ」

 恐竜の子は毛布のすきまから、ガンタンのとなりにもぐりこんできた。そして体をピッタリ寄せる。

「しょうのねえヤツだな」

 生まれてすぐに親を失ったガンタン。幼いころ、だれにも甘えられなかった。だから恐竜の子の気持ちが痛いほどわかった。

「ところでオマエの名前なんだがな」

「名前ッテナンダ?」

「オマエ、オレのことをオッカアって呼ぶだろ。まあそんなもので、あれば便利だ。それでどうだ、今月の五月からとって、メイってのは? なかなかかわいいじゃねえか」

「カワイイ、カワイイ」

「じゃあ、これからオマエはメイだ」

「ウン」

 恐竜の子がコクリとうなずく。

「メイ、もう寝ろ。夜ふかしは体にドクだからな」

 その晩。

 ガンタンの腕の中で、メイは眠った。

 メイの寝顔を見ながら、いつかしらガンタンも眠りにつく。メイを金にしようと思った下心、このとき頭の中からすっかり消え去っていた。

 怪盗ガンタンと恐竜の子メイ。

 こうして……。

 ひとつ屋根の下で暮らし始めたのだった。


 朝になった。

「オッカアー、オキロ、オキロ」

 メイがベッドの上でとびはねている。

「うーん、もうちょい寝かせてくれよ」

「ダメダ! オッカアー、ハヤク、オキロ」

「わかったから、あばれるのはよすんだ」

 ガンタンがベッドに起き上がると、そのひざの上にメイはちょこんと座り、小さな両手で腹をなでた。

「オイラ、ハラヘッタ」

「なんだ、腹がすいてたのか。キッチンに行けば、オマエの食えるもんがなんかあるはずだ」

「ハヤク、クイテエ」

 メイがガンタンのズボンのスソをつかみ、キッチンへとずんずん引っぱっていく。

「ところでオマエには、どんなもんを食わせたらいいんだろうな?」

 恐竜に肉食と草食がいることは、むろんガンタンも知っていた。ただメイが、そのどちらなのかわからない。

「そうだ! こうすりゃ……」

 冷蔵庫の中の食料を肉類と野菜、それらを別々に分けて床に並べていった。

 片方には、魚、牛肉、トリ肉、それにハムといった魚と肉類。もう一方には、キャベツ、トマト、ニンジンといったぐあいにまとめられた。

「どうだ、メイ。オマエ、どっちが食いてえか?」

「オッカアハ、ドッチヲ、クウンダ?」

「オレはどっちも食う」

「ソンナラ、オイラモダ」

「むちゃ言うな。オマエ、どっちかは食えねえはずだぞ」

「イヤダ! オッカアト、オナジモン、クウンダ」

 メイが足をばたつかせ、肉と野菜の両方を指さしてダダをこねる。

「こまったヤツだな。そんなら、まずはためしにこれを食ってみろ」

 とりあえずニンジンを一本やってみた。

 するとメイはムシャムシャと、ニンジンにかぶりつくようにして食べ始めた。

「どうだ、うめえか?」

「ウン、ウメエ」

「てっことは、オマエは草食だな」

「ソウショクッテ、ナンダ?」

「こっちの方だけ食うってことだ」

 ガンタンは野菜の山を指さして教えた。

「イヤダ、コッチモ、クイテエ」

 魚と肉類の山にメイが手を伸ばす。

「ニンジンがうめえなら、そっちはまずいはずだ。なんなら少し食ってみるか?」

「ウン、クッテミル」

「まずかったら、すぐに吐き出すんだぞ」

 ガンタンが渡したスライスハムを、メイは口の中に放りこみ、あっというまに食べてしまった。

「どうだ?」

「ウメエ」

「そんじゃあ、どっちがうまかったか?」

「ドッチモ、ウメエ」

「うーん……。どっちもうめえってことは、人間みてえに雑食ってことかな?」

 ガンタンはメイの顔を見ながら首をひねった。

「モット、クイテエ」

「気分、悪くねえか?」

「ワルクネエ」

「そんなら、好きなだけ食ってかまわんぞ」

「ワァーイ」

 メイはパックに残っていたハムをたいらげてしまうと、次はキャベツをかじりながら魚をつまんで口に入れている。

「まあ、好き嫌いがねえのはいいことだ。そうだ、牛乳もある。なんなら飲んでみるか?」

「ウン、ノンデミル」

「じゃあ、ちょっと待ってろ」

 冷蔵庫から牛乳パックを取り出し、皿にたっぷり牛乳を移してやった。

 メイが皿に顔をつっ込み、舌でペチャペチャとなめるようにして飲む。

 そんなメイを……。

「乳を飲むのは哺乳類だけじゃ……」

 ガンタンは首をひねりながら、それでもあたたかいまなざしで見つめていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ