表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファントム=ファンタズム  作者: sT油
1/5

始導

十年後

「は、あ――――――――――」

もう身体の感覚は無い。

痛みはとうの昔に脳が感じることをやめている。

目も随分前に視えなくなった。

口から声が出なくなって久しい。

嗅覚はソレを嗅ぎ慣れてしまって麻痺している。

何を嗅ぎ慣れたかなど考えるまでもない。

血だ。

それは自分のものもあれば当然、自分以外のものもあった。

恐らく――麻痺して解らないが――その異臭は現在進行形で私の鼻を凌辱しているのだろう。

―――随分と永い間、疾走ってきた。 息を継がずに泳げば死ぬのは必然。

だけど私は、十年前にそれを承知で飛び込んだ。 ならこの結末も、悪くはないのかもしれない。


――今の私は、あの時の、力を手に入れたばかりの幼い私のように、笑えているだろうか?




「魔法」と聞いて私が最初に連想したのは黒いフードを被って含み笑いをしているおじいさんだった。 「今、胡散臭い魔法使い連想しただろ」

「なんでッ!? トオル君は独身の人か!」

「字が違うッ! 言いたいのは読心術師だろ! というか俺達学生!」

「喋ってるのに字が違うって指摘、おかしいよね!」

「知らねえよ! 学生のくだりは無視か! この野郎!」

「ヤろうじゃないっ!」

「だから字が違う! 致命的に違う!その誤字はあらぬ誤解を招く!」

彼――近衛(このえ)トオル君と話すのはとても楽しい。 それが恋愛感情に因るものかどうかはまだわからないけれど、彼といると心がやすらぐの は事実だ。 私、(かえで)コノハは十五歳。私の知る常識では、もうそろそろ働き口を見つけなければならない年頃だ。

「いい働き口を知らないか、って訊いたよね? 私」

「ああ」

「それがどうしていきなり君の口から『魔法』なんて言葉が出るのかな!」

「いやさ、朝こんな広告もらってさ」

そういい彼が手に掲げる紙には次のようなことが書かれていた。

『求人! 魔導士、魔術師、魔法少女。そんな者になりたい人はこちらまで――』

「なにこれ! 面白そう!」

好奇心旺盛な私がここを就職先と決めるのはすぐだった。



「魔導の力は誰にでも宿り得ます。素質なんてものはないのです。ただ、扱う人に強い思い

さえあれば魔導師になることは可能です。そも魔導、いえ魔法というのは想念をカタチにし

たモノ。占いや預言も典型的な魔法です。あなたが思い描く魔法はそのままカタチになって

現出します。ソレは人によって弾丸にも大砲にも刃にも薬にも移動手段にもなり得ます。― ―――聞いてますか?」

「はい。聞いてます」

「理解してます?」

「してません」

「ですよね」

トオル君と来た面接場所、街中の普通のオフィスのなかで私と彼はごく普通のリーマンに しか見えない男の人から訳のわからないことを解説されていた。

「つまり、あれですか。思ったことを起こせる、世界は俺の思い通り!フハハハハハハ! ってことですか?」

「大いに間違っている――と言いたいのですがあながち外れてもいません」

トオル君は少しは話が理解できているらしい。

「と言うと?」

「これは求人理由にも繋がることですが、世の中にはその一見万能な力に溺れ乱用する人 間もいましてね。ここ最近の世界的な治安の悪化はそいつらに起因するのです」

ようやく私にも話が見えてきた。

「あ、わかった。つまりそういう人達専門の警察みたいなものがここってこと?」

「そうです。魔導を扱うことにおいて年齢は関係ありません。あなたがたには命懸け、死と隣り合わせの仕事をしてもらいたいのです。代わりに我々はあなたがたの生活の一切合切 を負担します」

「命懸けって、どのくらいです?」

「基本的な勤務内容は週に一度の定期連絡、緊急時の出動、そして稀に戦地への出張。これ

が一番危険です」

「あ、あの、そういうの言っちゃっていいんですか?」

「あとで『こんな仕事だなんて聞いてない!』なんて言われるのは御免被りたいので」

「そんなもんでしょ、治安維持組織って」

「コノハは随分とサバサバしてるなぁ」

そんなこと言われたってもう、胸のわくわくが治まらないのだ。わくわくし過ぎて体がテカってきそうだ。

「それで、あなたがたはどうしますか?魔法の力を手に入れますか?」

「はいッ!」

「では俺も」

「ではこれが契約書です」

「なんか俺、あなたがフェレットかなにかの小動物に見えてきましたよ……」

「? どういう意味です?」

「いえ、お気になさらず」

その日は契約書に調印だけしてお開きになった。




「さぁ今日からは魔法の訓練だ!」

「ありませんよそんなの」

「そうかぁ、ないのかぁ。――――はい?」

「こちらは指示とサポートをするだけです」

トオル君は言葉もない。

「こんなのゼッタイおかしいよ……」

「世界はこんなはずじゃなかったことばかりだ」

「顔を上げて下さい、コノハさん、トオルさん。何もいまから死地に赴く訳じゃないんですし」

「でも魔法なんて使ったことないです」

「そもそも魔法なんてホントにあるんですか?」

「まぁ疑うのも無理はないですね。いいでしょう。これをみてください」

そう言われて(相変わらず名乗らない)リーマンが手に持つ小石を見る。 するとリーマンは何も言わずその小石を投げた。

数秒後に悲鳴が聞こえた。

「「え?」」

「こっちのほうから聞こえましたね。行ってみましょう」

私とトオル君がリーマンに付いていくとそこには蹲るチンピラと腰を抜かしたOLがいた。

「「え? え?」」

チンピラのそばに落ちているのは先ほどの小石。

「ご推察の通り。そうです。わたしが投げた石がコイツにあたったのです」

「い、いやいやいや! あそこからここまでの距離こそ大したことないですけど路地を三 回くらい曲がりましたよ? 石があたる訳ないじゃないですか!」

「もしかして、これが魔法?」

「その通り。因果の逆転、といっても解らないかな」

流石にそれくらいは解る。因果の逆転、つまり過程より先に結果があるということ。

「投げた時点で当たることが確定している?」

「でもそんな出鱈目な……」

それを聞き、リーマンは微笑む。

「そう、それです、今日私が言いたいことはまさにそれですよ。魔法、魔導、魔術、そのす べては『影響力』というものに左右されていまして、それを越えた行使はできないんです」

そういえば面接の時も「一見万能な力」と言っていたなといまさらのように思い出す。



私達はOLを介抱してチンピラを公僕に突き出して、今は面接を行ったオフィスの前にい た。

「私が教えてあげられるのはここまでですね」

「「これだけ!?」」

「緊急時以外はこちらからコンタクトをとることはほとんどないので。あと、なにか欲しい ものがあればこの番号まで。それでは」

それだけ言うとリーマンはオフィスに戻っていった。



「……ま、お互い、就職おめでとう」

「おめでとう。トオル君」

カツン、とお互いの飲み物――私は缶ミルクティー、トオル君は缶コーヒー――をぶつけあう。 口にほどよい甘さの液体を含み、嚥下する。ホットを選んだので胸に熱を感じる。

「なんていうか、その、不安も混乱もあるんだけどさ」

そしてもう一口啜る。

「ずっとドキドキしてるんだ。私、非日常が好きなのかな」

彼はそういう私を呆れたような目で見る。

「別に非日常に限ったことじゃないだろ。お前はな、好奇心の塊なんだよ。目新しいモノが あるとすぐ食いつく。魚だったら長生きできねぇな」

「魚って……まいいや」

「いいのかよ……。そういえば魔法、使えそうか?」

「んー。魔法かぁ。たとえばこう、ポンッと手から火で…も…」

ポンッと音がした。 私の左手――つまり缶を握っていない方の手――にはオレンジ色の炎が揺らめいている。

「……んー」

「……んー」


夕焼けの空に二つの叫びが溶けていった――――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ