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2.どうやらサキュバスのようです




『お父様。異世人(イセイビト)の方々をお連れしました』

『おぉ、ミーシャ、よくぞやってくれた』


欧州人顔の人たちの先頭に立っていた美女が、玉座に座るおじさん…多分王様であろう人物の前に傅く。

どちらも綺麗な金髪だ。親子なのだろうか。同時に、美女の後ろにいたイケメンやおじさんたちがさっと王様を囲うように移動する。まるで持ち場が初めから決まっていたみたいだ。


私は黙ったまま、コツコツと足元の感触を確かめる。

…石でできているような気がする。しっかりしている気がする。こう、パカッって急に開いて落ちるってことはなさそうな気はするけど、所詮そんな気がするレベルだから正しくはどうなのか分からない。


次に頭上を仰ぐ。

檻のようなモノはない。上からなにかが降ってきて、ガシャンと閉じ込められそうなものはない。


(まぁでもこの世界に魔法とかあったらこんな確認全く意味ないんだけどね)


さて、どうしたものか。

視線を前へと戻すと、王様が私たちを見渡していた。


『異世人の諸君、よくぞ参られた。ワシはここリシュアルト国の王、シューギレウスだ』


重々しい、威厳のある声。全校集会などでよく聞く校長の声とは随分と違う。

現に、学校の全校集会中は眠たげにあくびなどをする彼らも緊張した面持ちで王様の話を聞いていた。

まぁ今は右も左も分からない状況だから、あくびなんてする余裕がないだけかもしれないけど。



王様はなんだが仰々しく長々と話していたが、まとめてみれば言いたいことは3つだ。


①この世界には人族と魔族と獣族と霊族(これは精霊とか妖精のことみたい)が存在する。

②魔族は他の種族と争っていて、これまでも何度も戦争をしてきた。

③魔族が魔王を召喚したっぽいから倒してほしい


他力本願も甚だしいが、まぁ国同士の戦争でなかった分、よかったのかもしれない。

少なくとも魔族という絶対的な悪が存在する間は、この人たちは私たちの敵にはならない…可能性の方が高いし。



『どうか世界を救うため、力を貸してくれぬか。救世主殿』

「っ…はい!俺が、俺たちが救えるなら、世界を救うために全力を尽くします!」


王様の問いに即座に返事を返したのは正義感と格好いい顔だけが取り柄の芦屋蓮(アシヤレン)だ。

勝手に私たちを巻き込んで総意にすんなよクソがと思ったが、どうせそれ以外に道はないのだろう。


しかしどうにか抜け道はないものか、と考えつつ。

目立ちたくはないからどうしたものかと思っていると、芦屋の隣にいた男が手を挙げた。

芦屋の親友の川上彰(カワカミアキラ)だ。…なにを言うつもりだろう。彼なら下手なことは言わなそうだけど。


「すみません。1つだけいいですか?」

『なんだ』

「俺たちに魔王を倒して欲しいと言ってましたけど、この国の強い人とかでは倒せないんですか?正直俺たちは戦闘訓練を受けてるわけでもないんで、その辺の騎士の人とかよりも弱いと思うんですけど」


『ふむ…。そなたの疑問も最もだ。まず魔王だが、この国の人間では倒せぬ。この世界の生命には成長限界というものがある。それは各種族ごとに決まっていて、人族は魔族に比べてその成長限界が著しく早い。他の種族ならあるいは倒せぬこともないだろうが霊族は滅多に姿を見せることはなく、獣族は魔法が使えぬからな。肉体面で魔族を凌駕しようと勝つことはままならぬ』


「――…俺達にはそれが当てはまらないんですか?」

『あぁ、異世人には成長限界がないと言われている。もちろん成長速度には個人差もあれば、与えられたジョブによっては戦闘の才がない者もいるからその者への戦いの強制はせぬ。ただし異世人はその能力の高さから捉えられ悪用させる可能性も高い。戦闘の才がない者は王城で保護しよう』


(なーんか保護とか感じのいい言葉使ってるけど、つまり戦闘の才能がなかったら戦わなくていいけど、閉じ込められるってことでしょ?監禁みたいなものじゃん)


他人のために戦わされるなどまっぴらごめんだ。滅びるなら勝手に滅びてしまえ。

そう心から思うのに、その発言すら許されないであろう立場の弱さが歯がゆい。



『…他に意見はないようだな。では、そなたたちにスキルカードを進呈しよう。…ディーン』

『はっ、かしこまりました』


打開策も浮かばないままに話は進んでいく。

王様の言葉に応えるように動いたイケメンの男から渡されたのは、手のひらサイズの真っ白な紙だった。



『それはスキルカード。この世界の者なら大抵が持っているカードだ。そのカードの先端に針のような形状がある。そこに指を刺し、一滴の血を染み込ませることでその血の持ち主の能力を判定する。…あぁ、大丈夫だ。血を染み込ませると言っても痛みはない。痛覚麻痺の魔法が刻まれている』


そうは言っても針に指刺せって言われたらそりゃあ抵抗があるでしょうよ。

内心で文句を垂れつつも、私は周囲を見渡しながら早くもなく遅くもないタイミングで針に指を刺す。

こういうのはタイミングが大事だ。遅すぎても早すぎても人の視線を集めてしまう。


イケメンの言葉通り、どうやら痛みはなかった。

痛みはないのにじわりじわりと赤い何かが白い紙を侵食していく様はまるでホラーだが、それはまぁいいだろう。

赤が染み込んだところにだんだんと黒い文字が浮き上がる。

黒い文字は見覚えのない外国語のようなのに、なぜだか内容を理解することができた。




端野恵美(ハシノエミ) LV1 魔族(サキュバス)

ジョブ:黒魔導師

HP 100

MP 200

攻撃 10

防御 10

敏捷 30

技能 50

魔攻 30

魔防 10

スキル 全言語理解 LV1/魅了 LV1/虚構創造 LV1/精気吸収 LV1

称号 異世人/サキュバス




カードの内容を理解した瞬間、表面上はなんの動揺も見せずにそっとカードの表面を手で覆った私の顔はまさに仏の顔をしていただろう。



(…まずいまずいまずい。いや、なにがまずいってなにもかもがまずい)


とりあえず誰か教えて。私はいつの間に人間をやめていたんですか。

え?サキュバス?サキュバスってあれだよね?なんか美女の姿で男誘惑して襲うモンスターだよね?私じゃどうやっても男誘惑とかできないよね?

あっ、でもサキュバスって男に理想の姿を見せて美女に見せるけど本当の姿は醜悪なんだっけ?なんだじゃあ私にピッタリじゃん、ははは…。



「恵美ぃ、私のジョブ:薬師だって…。もうこれ本当地味…。恵美はどうだった?」

「んん?………あー、ひみつ」

「はァー?」


さすがに友人と言えどバカ正直に答えるわけにもいかず答えを濁すと、彼女は納得いかないと言わんばかりに眉根をひそめた。…がすぐに呆れたようにため息を吐く。


「秘密って…どうせすぐに分かるじゃない」


ほら、と友人が視線で示す先では、芦屋がなにやら台座のような鉱石の上にカードを乗せて、その内容をホログラム化して宙に映し出していた。もちろん種族は人族だった。ですよね、そうそう人間やめてないですよね。

いやしかし見る限りカードの内容全部映してるみたいだ。プライバシーの欠片もないじゃないですかー。やだー。



(えー…これさすがにバレたらまずいよねぇ)


さっきまで王様、魔王を倒し、魔族を滅ぼせとか好戦的なこと言ってたんだよね。

種族が魔族ってこれもうどう考えたって死亡フラグですよね。


(スキルは全言語理解に魅了に虚構創造に精気吸収…ねぇ。なんとなく意味は分かるけど…ん?虚構創造?)


これ上手くいけば誤魔化せるんじゃない?と思いながらその文字に意識を集中させれば、まるで頭の中に直接書き込まれたように情報が開示された。


『虚構創造…本来は存在しないモノを作りあげ、指定範囲内のすべての生命を欺く』


どうやら創造通りの能力らしい。多分本来だったらサキュバスが自分の姿を美女に見せるために使ってるんだろうなぁ、と想像しながら、私はスキルカードの文字が変わるようにと強く思いながら眼力で念じる。

するとカードの文字がうようよと動き出したかと思うと、私の理想通りの文字へと変化した。



(え?え?ちょっとマジで?どうしよう私天才かも)




端野恵美(ハシノエミ) LV1 人族

ジョブ:狩人

HP 50

MP 20

攻撃 10

防御 10

敏捷 5

技能 5

魔攻 10

魔防 5

スキル 全言語理解 LV1/命中 LV1

称号 異世人


ちなみにステータスはちょうどホログラムで映し出されていたクラスメイトの者を参考にさせてもらった。これならどこをどう見ても普通だし、ボロはでないだろう。

初めて使用したスキルはその能力を遺憾なく発揮してくれたようだ。その後順番が回ってきて心臓バクバクの状態で前へ進んだが、ホログラムで映し出されても、私が偽造した内容と同様のものが表示された。


安堵しながら元の場所へと戻ると、友人が憮然とした表情で仁王立ちしている。


「なんだ普通じゃん。なんで見せてくれなかったのよ」

「…なんか狩人より薬師の方が頭よさそうで癪に障ったから」

「なんだとこらっ!」


ぐりぐりっと友人の拳が私のコメカミを刺激する。

痛い、痛すぎる。なんだこの暴力女。

ここにくる直前まで私に膝枕をしてくれた君の優しさはどこへ行ってしまったの。


やめろと言いながら友人の腕をどうにかして引きはがそうとしていると、周囲のクラスメイトが急に騒めいた。なんだなんだと聞き耳を立てていれば、聞こえてくるのは『神薙(カンナギ)』という名前。





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