試験に向けて
リアナは両親と一緒に村長の家を訪ねていた。
「村長さん、本当にいいんですか?」
「ああ、錬金術師の技術はすごい。彼らの作るアイテムは強力でモンスターを軽々倒せるものもあると聞く。傷を癒したり、空を飛んだり、家一軒分の荷物が片手で持てる袋に入ったり、そんな魔法のようなアイテムもあるらしい。 こんな辺鄙な村に彼らがやってくることはないが、リアナが錬金術師となれば、里帰りに帰ってくるだろう。リアナが得た技術はこの村の発展に大いに役立つだろう。それにリアナはこの幼さで大人より計算が速い。この村始まって以来の天才児と思っている。だから、試験にも期待している」
うわあ、過大評価されている。むしろ、数学苦手だから。この世界の人の計算能力が低すぎるんだよう。それに前世入れたらあなたより年上です
ズルをしている身としては騙しているようで心苦しい。
リアナは試験に絶対受かってみせると村長に約束して家へと帰った。試験まで三ヶ月。必死で出来る限りの勉強をした。
ううっ、王都まで二週間もかかるなんて遠すぎだよ。
リアナは馬車に乗って王都へと向かっているところだ。
村に定期的に来ている行商人に、村長がお金をお渡し、無理を言ってリアナを連れていってもらっている。
道中で食べる食事はいつも同じメニューだった。
カッチカチのパンに塩っ辛いだけの干し肉にはもう飽きた。みんな当たり前の顔して食べているし、これが普通なんだろうなあ。
リアナは不満をぐっと堪え、もそもそと口を動かす。
道が舗装されていないため、馬車も揺れすぎてリアナの小さな体はぴょこぴょこ跳ねる。行商人であるオルドはそれを見て御者になるべく揺らさないように、なんて無茶な注文をしている。
御者さんごめんなさい、でももうちょっと気をつけて欲しいです。
「モンスターが出たぞ! 準備をしろ!」
大きな叫び声が聞こえると、護衛の者達が武器をかまえて、獲物に飛びかかっていく。モンスターは大きな角を頭から二本はやし、その姿はバッファローによく似ている。
護衛の一人がうまいこと矢を目に当てた。モンスターは大きな声でうめきながら、角を振り回し暴れる。角に気をつけながら、大柄な男が一太刀あびせると、それに続けとばかりに男達は次々と攻撃を加えていく。やがて、モンスターの大きな巨体が地に伏せった。
「なかなかの大物だな。それにしてもよう、もうちっと体に傷をつけないように倒せなかったのか? これじゃあ、せっかく高い毛皮の価値も下がっちまうぜ」
「リーダー、無理っよ。戦っている途中にそんな余裕ないって。傷を負うことなく倒せたことでよしと思いましょうよ」
「しかし、リーダーの弓の命中力はホントすごいですね」
護衛のリーダーはまあな、と得意そうに胸をはり、ふてぶてしく笑う。護衛達は倒したモンスターを素早く解体し、売れる部位である角と毛皮、体内にある魔石をとる。それらは王都で売るらしい。
リアナは今までモンスターを見たことがなかった。なので村を出て初めてモンスターを見たときには、恐怖のあまり泣いてしまった。
本当に殺されるのかと思ったのだ。
想像して欲しい。動物園の猛獣が檻を破壊して襲いかかって来るのを。
幸運なことに雇われた護衛達は凄腕で、あっという間に倒した。
しかし、モンスターが次から次へと襲ってくるには驚いた。そのおかげで、まだ少し怖いが護衛達が戦っている間も冷静に戦力分析できるようになった。
村にはモンスターよけの結界が張られているようで、どんなに強いモンスターも入れない仕組みらしい。
外は危ない。村を出るなと口を酸っぱくして大人達に言われたが、なるほどそのとうりである。
いくつかの村を経由してやっと王都についた時には思わず違う文明なのではと馬鹿なことを考えた。それほど村と王都は別物だった。どこもかしこもきれいに道は舗装され、村ではいつもただよっていた汚物の臭いだってしない。広場には大きな噴水があり、水しぶきがきらきらと太陽の光に反射してきれいだった。
店がそこら中にあり賑わっていた。食欲をそそる肉の焼けた臭いや甘いお菓子の臭い。多くの人がおいしそうに何かを食べながら歩いている。
ぽかーんと大きく口を開けたままのリアナに、オルドはおかしそうに笑いながら説明してくれた。オルド曰く、この王都の豊かさと便利さは錬金術がもたらしたものだと。オルド自身も王都に初めて来た時はリアナと同じような反応だったと照れくさそうに笑った。
オルドが王都来るといつも泊まっている宿屋についた。ちょうどお昼時で店の奥からいい臭いがしてくる。店の女主人が気安い様子でオルドに話しかけてきた。
「久しぶりだね、オルド。おや、その子は......まさかあんたの隠し子じゃないだろうね」
「違うよ、女将さん。この子は僕が行商で立ち寄る村の子だよ。錬金術の試験を受けるために王都に来たんだ。村長に連れて行ってくれって頼まれちゃってね」
「ええっ! こんな小さな子が?」
「この子は幼いけどすごく頭がいいんだ。計算なんて僕よりも早いし」
女将はいまいち信じていない顔をしながら、頑張るんだよと励ましてくれた。お礼をいいながら、村長から渡されたお金を胸もとに入れている袋から取り出し渡す。一泊するだけで、村人の一週間分の収入だ。お金をくれた村長のためにも、明後日の試験を絶対受からねばと思う。
昼食も夕食も涙がでるほどおいしかった。今まで調味料なんかないと思っていたがちゃんとあった。やっぱり肉には胡椒がないと。金と同じ重さで取引された中世ヨーロッパの歴史はだてじゃない。重いお腹をさすりながら、就寝についた。




