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昨今の大学生の講義とは得てして適当なもので、その講義を受け持つ教授が「今日は休み」と大学内の告知サイトに書き込んで該当教室の黒板に張り紙の一枚でも貼ればそれで休みなのである。


もとより、無くなった分は土曜日にでもやらないと学生課と揉めるそうだが長期休暇の間にそれを突っ込むという荒業でこれも回避出来らしい。


これにより学生側は貴重な休日の時間を割かなくて済むし教授側も必要な仕事が少なくなるという両者が得をする魔法のようなことが起こるのだ。


何が言いたいのかというと、僕は今日暇だったのだ。




朝目が覚めケータイを確認すると1コマ目の始業時間をとっくに過ぎていた。


それは支度を終わらせ大学へ向かってもおそらく終わりのチャイムも聞けそうにないような時間である。


やっちまったな…とは思いつつも起きれなかったことを悔やんでもことは前進しない。


一人暮らしの大学生を起こしてくれる人物はおらず、アラームで起きれなければ即エンドだ。


こういう時彼女でも居ればモーニングコールが来るのかなと思ったが、たまの寝坊のために朝からわざわざ電話を掛けてもらうのはどうなのか。


そもそも本来副産物であるモーニングコールを主として考えている時点でガールフレンドなんて夢のまた夢であろう。


そういう訳で亡き女を想うこと、妄想をやめ間に合わないなら間に合わないなりにできることをしよう。


「『寝坊した。代筆頼む』っと」


ということで今できること、すなわち友人にメッセージを送信し出席の代理を依頼をした。


幸いにも本日最初の講義は教授が白紙の紙を回し生徒が自分の学番と名前を紙に書いて次の人に回すという古典的な出欠の取り方である。


出席さえ足りてればあとは学期末のテストで点数を取ればいいだけのお話。


ノートは字のきれいな奴にお菓子か何かと交換でコピーを貰えば無問題。


これも大学だから成せる技だ。


中学校や高校ではこうはいかない。


食パンをトースターにセットし、インスタントのスープでも作ろうと思い水をコンロに掛けたところで着信音が響いた。


ケータイをジャージのポケットから取り出し、画面を操作する。


『了解。学番教えろ』


とのメッセージ。


簡潔でいて要件がすぐ伝わる内容である。


男同士だと変な装飾がないから楽だ。


『110番 萩原な。荻原じゃないからな』


おそらくまだ紙は回ってきていないのだろうが、止めて教授に怪しまれるわけにもいかない。


なので手早く返信を送る。


それと漢字を間違えて欠席扱いになるのも癪なので一応催促の文を加えておいた。


ポケットへしまおうとした所で再び着信音が鳴ったので画面を確認する。


『わかってる。そういや2コマ目休校になった』


突然の知らせ。


それも良い報せの類だ。


本日の僕の講義は1コマ目と2コマ目の2コマしか無い。


つまり寝坊して出れなくなったのとたった今友人に休校と告げられたそれの2コマ。


これにより今日一日僕のやることはたった今なくなったのだ。


嬉しい気持ちを抱きながら、吉報をくれた友人にお礼のメッセージを送った。





と,いうことで冒頭に戻るのだ。


作った朝食を食べながらも考えていたが、男子大学生、講義もなくなりサークル活動等もなければ急なバイトのシフトが回ってこない限りやることなど無いのである。


平日ともなれば尚更だ。


「何したもんかなー」


口に出してみるもここは一人暮らし。


掃除してるんだからそこどいてという母の呆れ気味の声も、弟のゲームに誘ってくるやんちゃな声も返ってこない。


こういった不意の瞬間に訪れる一人暮らし故の寂しさは僕の心を的確に攻める。


これ以上考えてはダメだ、雲行きが良くない。


思考を一度リセットし、本来考えていたこれからのやることについてテーマを置く。


「しゃーない、掃除でもしよう」


頭の中のToDoリストには課題とかレポートとか他にもやるべきことは書いてあったが、そういう気分ではなかった。


幸いにも天気が良い。


窓も玄関扉も全部開けて掃除をしよう。


男の一人暮らしは汚くなりがちだからこの際本格的にやろう。




前回いつやったかも思い出せない掃除は、投げっぱなしになっていた服を洗濯機に突っ込むところから始めた。


そうやって散らかっているものをなくしていかないと掃除機を掛けられないほどに混沌としている部屋に我ながら呆れる。


家を発ち、自由になったという思いを胸にスタートした一人暮らしは思うように行かないことのほうが多かった。


自炊するにしても大変さと面倒臭さは付き纏うし、念願だった一人部屋も得た開放感や自由より失った賑やかさやぬくもりの方が大きい様に感じる。


夜、電気を消し寝ようとした時に聞こえる音が弟の寝息ではなく冷蔵庫の稼動音だった時は冬の寒さのようなものにさえ感じた。


そんな引っ越してきた当初のことを思い出しながら、片付けに勤しむ。


「それにしてもホントぐちゃぐちゃだな僕の部屋」


そう呟いた声は宙に消え、返事が返ってこないことに虚しさを感じる――はずだった。


「そうですねー、結構散らかってますね」


それは、とても可愛らしい声で。


この物が散乱とした1K物件には不釣合いで。


居るはずのない、僕以外の存在から発せられていた。


「男の子の部屋ってみんなこんな感じなんですか?」


一呼吸置かれて告げられた質問に応えることもせず、僕は積み上げられた雑誌の束の方、声の主の方向を振り返る。


そこには髪の長いふわふわとした雰囲気の女の子がちょこんと興味深そうに僕の部屋をきょろきょろ見回していた。


「えっと、どちら様です?」


「私斉藤って言います。そんなことより掃除、終わらせましょ」


「あ、はい…」


かくして、突然の来訪者と共に掃除は続行された。


今回は逃走しない…です

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