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第四話 迷宮の入口に到着しました。

迷宮の入口に到着しました。

 女の子たちの水浴びが終わって服が乾くまでしばらく待つ。

 服がほぼ乾くと女の子達が服を着たのだが、普通の村娘ぐらいには見えるようになった。これで宿屋で不審者扱いさせることもないだろう。

「二人とも水浴びして美人になったな。これで不審者扱いさせることはないだろう」

「ありがとうございます」

 褒めるとエリは素直に礼を言ったが、マリの方は何か胡散臭げに俺を見ている。何か気に入らなかったのだろうか。

「早く出発しましょう。あまり一か所に長居しない方がいいです」

「それもそうだな」

「じゃ行きましょうか」

 マリは心配していたが特に何も起こらずに一時間半ほど真っ直ぐ歩いて森についた。森はブナやナラなど落葉広葉樹林らしい。針葉樹林になっていないのはそれほど高緯度ではないだろう、多分。

「次に来るときは枝打ち用の斧でも持ってこようか」

「それは止めておいた方がいいと思います」

「なんで?」

「斧を持って森に入るとゴブリンさん達に呪われます」

「ゴブリンさんねえ……」

 異世界生活の手引きによると、ゴブリンさんとは人間に好意的ではない妖精族の総称である。ゴブリンさん達は身体能力はヒトに劣るが魔法能力がヒトよりも格段に優れている。妖精族だけあってゴブリンさんの平均的な個体がヒトの最高位の魔法使いよりも強い魔力を持つ。できるだけ敵に回したくない相手である。

「遺跡の入口が見えましたよ」

 森に入ってすぐの場所に石造りの建物がある。古代文明の遺跡だから数百年以上放置されているのだろう。窓や扉があったであろう場所はすでに何もない。だが、平屋造りの建物は苔生してはいるもの正確な石組は堅牢な感じがする。

 問題なのは中から派手な嬌声が聞こえてくるわけで、宿代がない奴とか宿まで帰るのが面倒な奴が簡易宿泊所として使っているらしい。テレビもインターネットもない世界だから娯楽と言えばこれぐらいしかないので仕方がないのだろう。

「アレが本当に遺跡の出入り口か?」

「はい」

「覗いてみるつもりだったが遠慮したほうがよさそうだな」

「それがいいと思います。迷宮に潜らないのに入口の建物に入ったら単なる覗きですから」

「どうせなら私たちも参加しませんか?」

 エリが当然のようにとんでもない事を言う。俺を試しているんだろうか?

「遠慮しておこう」

「どうせ宿に帰れば同じことをするんでしょう?」

「ここじゃ法の加護は期待できない。ナルヴァの街の宿で馬鹿な事をする奴は少ないだろうが、ここで己の命を保証するのは己の力だけだ」

 面倒事に巻き込まれるのは俺ではないだろうが、放置しておくわけにもいかないだろうし。

「その慎重さは美徳です」

 エリは悪意のない微笑むを浮かべているが、マリの方が腹に一物ありそうな仏頂面で俺を睨んでいる。この凸凹コンビがどうやって出来たのだろう。家出したお嬢さんとお付のメイドあたりだろうか。

「そりゃどうも」

 などと思ってると女の子達は森の中で木の実や食べられる野草を採り始めた。

 俺も食べられそうな植物を探してみるのだが全く見つからない。仕方がないので、団栗と薪になりそうな木の枝を集めることにする。

 しばらくの間、森で好き勝手に作業していると日が南の方にまで昇ってきた。そろそろお昼だろう。

「ひとまず帰りましょう」

 マリが仏頂面で帰ろうと言い出した。

「まだ早くないか?」

「今日は野宿の準備をする必要がありますから、早めに帰るべきです」

「野宿するの?」

 野宿するなんて聞いてないぞ。つーか異世界転移した初日から野宿かよ。

「今日は実入りが少ないですし、そうそう宿に泊っているわけにもいきません」

 マリは仏頂面で答えたのだが、幸いエリが助け船を出してくれた。

「最初の日ぐらい宿に泊まりたいですよね」

「ギルドでも泊まれるらしいしな」

「じゃあお尋ねしますけど、どうやって冬の間、屋根の下で過ごすお金を稼ぐつもりですか?」

 マリが真顔できっつい質問をしてくる。

 俺は一般常識と書かれた薄い本の存在を思い出した。異世界の生活の手引きであるのだからアレに何か書いてあるだろう、多分。

 俺は背負い袋から薄い本を取り出して、目次を調べてみる。最初の方に「ナルヴァの森の遺跡」という項目があった。

「えーと、ナルヴァの森の遺跡と……。この遺跡の特産物は巨大蟻の皮とスライムの魔力石か」

 迷宮蟻は革鎧の素材として、冒険者ギルドで銀貨一枚で買取してくれる。

 スライムは内部に魔法石、呪文使用時にMPの代わりに使用できる、を生成するらしい。魔法石は冒険者ギルドで三個を銀貨一枚で買い取ってくれる。迷宮蟻六匹とスライムの魔力石が十八個あれば銀貨十二枚であるから、三人で宿に泊まって食事が二回出来る。貯金に回す金はないけど。

「なんですか、ソレ」

「これは異世界生活の手引きだ」

「公式攻略本って何ですか?」

「この世界の情報が纏められた本だよ」

「転移者って本当に便利ですよね」

 マリは本音では転移者が嫌いらしい。転移者特典が羨ましいのだろう。俺にも全く理解できないわけではない。だが、少なくとも俺にしてみれば羨ましいと思えるほどの転移者特典はもらってない。初期所持金にしても少なくはない金だという事は理解できたが、一か月分の生活費プラスアルファで異世界行ってこいとか、どんなテレビ番組だよ。責任者、出てこい!

「君は何も知らない異世界に、ほぼ身一つで放り出される事がそんなに羨ましいのか?」

「人生やり直せるチャンスでしょう? 羨ましくないわけがないです」

 非常にポジティブな考え方だとは思うが、お兄さんは十代半ばの若者の言うことではないと思うぞ。

「君は三か月分の生活費とちょっとした情報があれば、いきなり人か亜人か良く解らない連中の中に放り込まれても文句はないわけだな?」

「それはその……」

「それよりお金を稼ぐ方法は見つかったんですか?」

 女性はこの方面では本当にシビアだな、と思う。しかし、真冬に野宿の連続では南の島などのよほど環境がいい場所でないとまず死ぬだろう。俺もまだ死にたくはない。

「多分何とかなる」

「じゃ、街に帰って宿を取りましょう」

「そうだな」

「後で後悔しても知りませんよ」

 マリはあくまで反対らしい。

「大丈夫。冬の間は迷宮蟻が冬眠するから、最悪は遺跡の地下で寝ればいいらしい。それに今少々節約しても冬場を乗り切れるだけの金が確保できるわけがない」

 ナルヴァの森の遺跡のページの「冬の過ごし方」に書いてあった。

 夏場は寝ていると迷宮蟻に齧られるが、冬場は迷宮蟻は冬眠しているからそれほど危険はないらしい。生活環境は劣悪そうだが凍死するよりはマシだろう。

ありがとうございます。

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