第三話 宿屋で朝食を食べましょう。
宿屋で朝食を食べました。
俺はギルドで紹介された女の子二人と、冒険者ギルドの向い側にある宿屋で朝食を取ることにした。
宿屋の一階にある食堂はそれほど広くない。カウンターと四人掛けの長方形のテーブルが四つあるだけだ。カウンターの奥には厨房があるのだろう。
宿屋に入ると店主らしき中年の男性に不審者を見る目で見られたのは気のせいではないようだ。俺達三人がテーブル席に座ると三十代後半のがっちりした体格をした宿の主が来た。その態度は明らかに不審者に対する態度で、俺達を客として扱うつもりは今の所ないらしい。
「何か用かね?」
「食事がしたい」
「金は持っているのか?」
宿の主は胡散臭そうな顔でたずねてくる。
「ああ。三人分でいくらだ?」
「オート麦のカーシャ三人分で銀貨三枚だ」
粗挽きしたオート麦のカーシャはこのあたりの主食らしい。ちなみにカーシャとはお粥の事でほぼオート麦で作られる。南の方に行けばお金持ちでなくても白いパンを食べられる素晴らしい国があるそうだが、この国では白いパンは金のない冒険者には縁のない食べ物だ。
「林檎一個おまけにしてくれよ」
「しょうがないな」
俺は宿の主に銀貨三枚を渡すと、宿の主は小ぶりな林檎を二つに切って渡してくれた。女の子達はじっと林檎を見つめている。
「はい」
二人に林檎を半分ずつ渡すとマリが恐る恐る訊いてきた。
「ノゾムさんは食べないんですか?」
「今はいいよ」
「じゃ、いただきます」
軽く頭を下げてマリとエリは実に美味しそうにリンゴを食べ始める。俺も一口もらえば良かった、と超っとだけ後悔する。内緒だけどな。
「お待たせしました。カーシャ三人前です」
十二、三歳ぐらいの可愛らしいウェイトレスさんがお粥の入った三人分の木製の丼と木製の匙をテーブルに置く。結構、重そうなんだが慣れてるらしい。
「今日の夕食は何が出るの?」
「夕食はエールと塩漬けニシンと野菜のスープとキャベツの酢漬けだと思います。お昼は食べられないんですか?」
「多分街の外にいるからね」
「残念です。時間があるときは食べに来てくださいね」
そう言ってウェイトレスさんは厨房に戻る。しっかりした娘さんだな。
「食べようか」
「はいっ」
女の子達は薄い塩味のカーシャを美味しそうに食べているのだが、俺には正直微妙だった。おそらく日本人の転移者も少なくはないようだし、食事は期待できると思っていたのだが少々怪しくなってきたぞ。
「今日は一回森の遺跡を見に行ってみたい」
「見に行くって、今日は潜らないんですか?」
マリが少々意外そうに訊いてきた。
「うん。今日は君達の体力とか見てみたいから」
「大丈夫ですよ。こう見えても冒険者ですから」
マリがお気楽に断言するが、正直、冒険者に見えないから確かめるんだろう。難儀な子を押し付けられたなあ。
「明日は潜るんですか?」
「うん。明日は潜りたいな」
「解りました」
この後は会話が途絶えて、俺達は黙ってカーシャを食っていた。二人はかなり空腹だったようであっさりと丼が空っぽになる。
「この子らにオ-トミールのおかわりを」
「銀貨二枚になります」
娘さんがにっこりと笑って代金を要求する。しっかりしているのは親御さんの躾の賜物だろう。
「はい、銀貨二枚」
俺が銀貨二枚を払うと女の子が食べ終えた皿を厨房に持って帰り、オートミールの盛られた新しい皿を持ってくる。マリとエリは食べていいのか躊躇しているようだ。
「遠慮せずに食べて欲しい。腹が減ってたらいい仕事はできない」
「ありがとうございます」
冒険者ギルドで保護されてた割に空腹のようだ。食べさせてもらえなかったのか、遠慮して食べなかったのか。それとも空腹状態がこの世界のデフォなのか。そのうち嫌でも解るだろう。
「森に行くんなら薪をとってきませんか? 食事代ぐらいにはなると思います」
「まずは買い物に行こうか。」
俺達は食べ終わってから宿屋の隣の雑貨屋に入ってみる。やはり店主に胡散臭い人間を見る目で見られる。これは女の子達を早めに風呂に入れて洗濯するべきだな。
「冷やかしはお断りだ」
四十代半ばの店主が店の入り口の前に立っている。この店の店主も宿屋の店主のようにがっちりとした体格だ。冒険者ギルド直営の雑貨屋で店主をやっているんだから、このオヤジも冒険者あがりなんだろうな。
「背負い袋と水袋と旅人の杖と食器が二人分欲しい。全部でいくらだ?」
「まずは金貨二枚を見せてみろ」
俺は財布から金貨二枚を取り出して雑貨屋の店主に見せる。店主は奥に入って商品を持ってきた。左右の手に麻製らしい背負い袋と旅人の杖を持っている。背負い袋の中に水筒が入っているのだろう。
だが、店主が袋の中から取り出した水筒は俺の持っている革製の水筒ではなく、陶器の徳利のような容器である。コルクらしき栓がついている。
「背負い袋二つと水筒二つ。旅人の杖が二つ。木のスプーンが三つで間違いないな?」
「その水筒は陶器だろ?」
「水筒なら陶器の方が安い。それに水がないと死ぬようなとこまではいかんだろう」
「なるほどな。じゃ金貨二枚だ。」
「金貨二枚。確かに受け取った」
店主は無理やり銀貨を受け取ると手に持っていた背負い袋と旅人の杖を押し付けてくる。
「歯を掃除する道具はないのか?」
「辺境伯様じゃあるまいし、その辺の木の枝を使え」
そう言って雑貨屋の店主は店の中に戻っていった。
愛想だけではなく商売っ気も少ないようだ。新市街で雑貨屋はこの店しかないわけではないと思うのだが。まあ、歯ブラシは贅沢品らしいから取り扱ってないのかもしれない。
雑貨屋の店主から受け取った背負い袋等を女の子達に渡す。
「できれば軽戦鎚も欲しいです」
「武器はお互いに信用できるようになってからな」
マリの方は軽戦鎚を諦めていないらしいが、そんな物騒なものはそう簡単に渡せるわけがない。
「解りました。早めに信頼していただけるように頑張ります」
「じゃ二人とも行くぞ」
「はい」
俺達は新市街の正門である東門をくぐって森に行くことにした。
街道はナルヴァ川に沿って東へと続いてる。三十分も歩くと堤防らしきものもなくなった。都合のいいことに人の気配もない。
「ここで水浴びするかい?」
「命令でしたら是非もありませんが、そーゆーことは出来れば宿屋でしたいです」
マリは何か誤解している気がする。
「宿屋で水浴びすればお金もかかります。天気もいいですからここで水浴びさせてもらって、ついでに服も洗いましょう」
マリとは違い、エリの方は天然らしい。
「ですが……」
「殿方に水浴びを覗かれたぐらいを気にしているようでは冒険者と言えませんよ」
「水浴びと洗濯だけでいいんですか?」
マリの方は疑惑のまなざしで俺を見ている。信用がないといえば信用がないが、会って二時間も経ってないのだから信用がないのも当たり前だ。
「もちろん水浴びと洗濯だけでいい」
「ほらノゾムさんもああ仰ってますし、水浴びさせていただきましょう」
「覗かないでくださいね」
「覗くぐらいいいじゃないですか。減るものではないですし」
「良くないです」
そういいながら二人は服を脱いで水浴びを始める。
覗きたかったが周囲の警戒してたら覗く暇がなかった。非常に残念だ。
ありがとうございます。




