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第二話 冒険者ギルドで登録しましょう。

冒険者ギルドで登録しました。

「こんにちは、登録に来ました」


「登録費用に大銀貨一枚かかりますがよろしいですか?」


 カウンターにいた美人のお姉さんが事務的な声で訊いてきた。大銀貨一枚という登録料は一般的な人間ならばそれほど高いわけではない。だが、一般的ではない人間には少々ハードルが高い気がする。登録者をフィルタリングするのに丁度いい額なのだろう。


「結構かかりますね」


「むやみに冒険者を増やさない事もギルドの仕事のうちです。冒険者ギルドの登録証は身分証としても使用できます。従って問題を起こしそうな方に冒険者ギルドの登録証をお渡しするわけにはいきません」


 茶色の髪の背中あたりまで伸ばしたお姉さんは俺の嫌味を完璧にスルーして淡々と答えた。確かに新規参入者を制限して過当競争を防止するのは同業者組合としてのギルドの本来の仕事ではある。しかし、冒険者ギルドがカムカムエブリバディという状況ではないのは少々意外だ。冒険者の死亡率が高くないわけがないからな。


「そうですか……」


「実戦経験がない方は森で鍛えてからの方がよろしいかと思います。いきなりオークと戦って勝てる方々はまずいらっしゃいませんから」


 逆に言えばいきなりオークと戦って勝てる冒険者はいないわけではないらしい。だが、俺は勝てる自信がないので「森で鍛えてから」にしよう。森でウサギとかの大人しそうな草食動物と戦うんだろうか? それはそれで戦える自信がない。


「お止めになられますか?」


「登録します」


 まじめに耕す畑も商売するほどの金もないんだから仕方がない。よく考えてみれば酷い話だよなあ、異世界転移って。


「こちらにどうぞ」


 カウンター席に座って必要書類を書いておく。名前、性別、年齢、出身地は転移者でいいらしい。転移者って本当に一般的なんだな。

 俺は冒険者ギルドへの登録料である大銀貨一枚を支払い、受付のお姉さんから文庫本サイズの木片を受け取った。登録証には支部名と登録番号と割符用の焼印が押されている。


「登録証を紛失したら出来る限り速やかに報告してください。再発行料は大銀貨一枚かかります」


「解りました。ここで買い物は出来るんですか?」


「武器は左隣の店で売ってます。その向かい側が治療用ポーションなどの消耗品を扱っている雑貨屋です。当ギルドと提携しておりますので出来るだけ利用してください。商人街の同業者よりも安く販売しております。食事はできませんが宿泊は当ギルドでも出来ます。大部屋なら一泊銀貨一枚です」


 一泊銀貨一枚の価値が今一解らないが、おそらく安いのだろう。ギルドメンバーへのサービスだろうし。


「わかりました」


 何か登録したばかりの初心者向けの仕事はないだろうか? カウンターの椅子から立ち上がって初心者向けの仕事を探そうとすると丸テーブルに座っていた冒険者らしい人物が話かけてきた。


「こんにちわ、新人君。少々時間をいただけないかな?」


 話しかけて来た男性から悪意は感じられない。中堅の冒険者なのだろう。俺のシミ一つない真新しい服とは違い、彼の服は洗濯では落としきれないのであろう汚れが少なからずある。冒険者には中二病と言われようが黒い服が必要だな。


「何か用でしょうか?」


「僕はタクミ。ここの二階で医者の真似事をしている白魔法使いでね。そこに座るといい。手短に済ますつもりだけど、立ち話で済むほど簡単な話でもない」


 正直言って面倒だが、俺も医者の代わりをしている白魔法使い氏の機嫌を損ねるほど馬鹿ではない。いずれ世話になるだろうし、ここは余計な事は言わずに拝聴しよう。


「解りました」


「君は魔法使い志望かな?」


「いいえ」


「それなら怪我をしたら必ず僕の処にくる事。正直、他所よりは高いけどその分安全だよ」


「なんで他所より安全なんですか?」


 正直、自分で言う「よそより安全」なんて言葉は胡散臭い。


「この世界にも病原菌はいるけど細菌の概念は存在しない。一般的な医者は細菌の存在を知らないから怪我を洗うぐらいでまともな消毒をしない。壊疽や破傷風が怖いなら他所にいっちゃだめだよ」


 やはりファンタジー世界は恐ろしい所だ。転移や転生したいとか馬鹿な事を言う奴は絶対に考え直した方がいいぞ。魔法があるとは言え、知識が中世レベルということは基本的な医療技術も中世レベルだからな。


「生意気な事を言ってすいませんでした」


「そう気にしなくていい。他所より高い理由だけど消毒に沸騰したお湯と蒸留酒を使っている。これが結構お金がかかってね。申し訳ないけど出せる人には出してもらうことにしている」


 日本だと一般常識レベルの知識が異世界ではチートになるらしい。明治の日本でも脚気で死人が出たし、日清戦争では弾に当たって戦死するより脚気で死んだ兵隊さんの方が多かったそうだからな。


「それは仕方がないですよね」


 継続して医療を提供するために金儲けは重要だ。蒸留酒は高いし、お湯を沸かすための燃料も安くはない。しかし、金持ちにしてみればコストの差を無視できるぐらいの治癒率の差があるはずだ。


「うん。これで僕の話はおしまいだよ。引き留めて悪かったね。あ、ごめん、食事の後に歯磨きは忘れずにね。虫歯で地獄みたくなかったら。最悪、虫歯の菌が脳みそに回って死ぬ可能性があるらしいからね。ついでに言っておくけど、受付のお姉さんはエリナさんだよ」


「解りました。こちらこそよろしくお願いします」


 名前が出て来たエリナさんが座ったまま軽く一礼する。

 俺もタクミさんに情報のお礼を言って頭を下げる。虫歯にならない為に食後の歯磨きは絶対に忘れないようにしよう。歯ブラシの代わりは雑貨屋さんで買えるんだろうな。

 仕事を探してみようと壁の方にある張り紙の中身を調べてみる。中級者用オーク討伐、中級者用オーク討伐、上級者用オーク・ウォリアー討伐……。これはあかんわ。そういえば受付のお姉さんが初心者は森で鍛えてからと言っていたはずだ。


「少々お尋ねしたいのですが」


 再び、お姉さんのいるカウンターに座る。


「なんでしょうか?」


「初心者は森で鍛えるそうですが?」


「近所の森に古代文明の遺跡があります。今は機能していませんが、スライムと迷宮蟻の巣になっていますから、初心者向けのダンジョンになっています」


「近所ってどのぐらいですか?」


 これが肝心だよな。ファンタジー世界だから近所というのが歩いて三日とかもあり得るわけだし。


「東方街道を歩いて二時間ほどです。転移してきたばかりの方はもう少し多めに見ておいた方がよろしいかと思いますが」


「一人で大丈夫でしょうか?」


「本来はスライムと巨大蟻しかいませんが、オークが入り込んでる可能性があります。お一人で探索するのはお勧めしません」


「パーティを探した方がいいんですか?」


「メンバー募集中のパーティなら紹介できますよ」


「どんな方ですか?」


「あなたと同じ初心者です。会ってみますか?」


 テーブル席の方でタクミさんがにやにや笑っていたが、エリナさんに睨まれて口を噤んでいる。悪意が感じられないのが救いだが正直かなり怪しい。


「土地勘無しに冒険者はできません。それに獲物を持ち帰るためには十分な人数が必要です」


 エリナさんはやたらとごり押しをしてくるわけで何か裏でもあるのだろうかと勘繰らざるを得ない。


「解りました。会ってみます」


「少々お待ちください」


 受付のお姉さんがスタッフルームに引っ込んで、汚れ……、状態の良くない服を着た女の子を二人連れて来た。二人とも歳は十五歳前後だろうか。痩せていてあまり栄養状態が良くないようだ。しばらく洗濯していない村人の服と麦藁のサンダルぐらいしか装備らしきものは持ってない。

 はっきり言って、二人とも冒険者には見えない。


「マリちゃんとエリちゃんです。可愛がってあげてくださいね」


 受付のお姉さん、エリナさんは俺がパーティに加わるという前提で話をしている。二人とも黒髪のセミロング、エリちゃんと呼ばれた子は結構美少女だが髪を黒く染めているようだ。食事もままならないのに髪を染めてるとか面倒事の匂いがぷんぷんする。


「よろしくお願いします」


 二人が声を揃えて挨拶をして、頭を下げた。面倒事は嫌いだがここで逃げると余計に面倒な事になりそうな気がしないでもない。


「僕はノゾム。こちらこそよろしく。ところで一つ聞いてもいいかな?」


「何でしょうか?」


 マリが不安そうな顔で答え、エリはマリの後ろに隠れるように動く。


「君達は冒険者だね?」


「はい」


 マリと呼ばれた少女が即答する。そうは言っても冒険者には見えないのが困ったところだ。


「オークに食われる覚悟は出来ている?」


「どういう意味でしょうか?」


「殺されるかもしれない場所に、殺される覚悟がない奴は連れていけない」


 できればこれで諦めてくれる嬉しいんだがそうはいかないだろうなあ……。


「オークは見かけほど持久力がないですから、走って逃げれば大丈夫です」


 答えられない女の子達を見かねたのかエリナさんが割って入ってきたのだが、その発言は逆効果じゃないだろうか。タクミさんも面白そうに笑ってるし。後で聞いた話だが、オークは持久力そのものは決して低いわけではない。ただ、体格に比べて体重が重い個体が多いので長距離走が苦手らしい。


「それなら一人で大丈夫ですよね?」


「最初に言いましたが、土地勘も荷物持ちもなく冒険者はできません。それに食事の準備や洗濯に夜の相手も必要になります」


 言われてみればその通りか。……夜の相手?


「僕とパーティを組んでくれるかい?」


「私達も正直に言いますが、ノゾムさんはかなりマシなパートナーです。私達に断れるほど余裕はありません」

 マリちゃん達の様子を見ればこの言葉は嘘ではなさそうだ。


「じゃ、ご飯食べに行こうか。おすすめの場所はある?」


「おすすめの場所じゃないですけど、ご飯は向かいの宿で食べられます」


「ちなみにいつもはどんなを食べてるの?」


「蕪とキャベツのスープとリンゴぐらいです」


 やはり女の子達はあんまり良い物は食べていないようだ。だがこの世界では日本人の転移者は一般的らしいし、日本人がいるということは食い物に関して問題は少ないだろう、多分。


お疲れ様です。

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