第十話 迷宮に潜りましょう。
主人公の意外な属性が明らかに。
昼食と休憩が終わり、俺達が再び遺跡に潜ろうとしている頃に、近所の村から年寄りの急患のじーさんが運ばれてきた。急患と言っても意識はあるし、苦しそうではあるが今にも死にそうという感じではない。
タクミさんが患者の爺と患者を連れてきた親族らしい若い男性にいくつか質問し、魔法石を使って患者に解毒の呪文をかける。爺は目に見えて回復する……わけはなく、呪文をかけられる前よりも呼吸が激しくなる。
タクミさんの説明ではこの現象は身体の治ろうとする力が強くなっているためで、正常な反応だそうだ。むしろ、呪文を使用したのに患者に全く変化がない方が問題があるらしい。患者に何も変化が起きないということは、患者に治癒するための体力が残っていない事を意味するからだ。
患者の親族は患者の変化を不安そうに眺めていたが、タクミさんの説明を聞いて安心したのか礼を言いつつ謝礼を支払った。
で、タクミさんは「お爺さんの呼吸が落ち着くまでは移動させないように」と親族の男性に言い残して、俺達再度迷宮に潜った。
「大丈夫ですかね、あの爺さん?」
俺は遺跡の地下二階に降りて、地上に声が届かなくなってからタクミさんに訊いてみる。正直に言って、俺にはあの爺さんはあんまり大丈夫そうには見えないのだが、タクミさんの反応を見る限り特に問題はないらしい。
「大丈夫だと思うよ。あのおじいさんはまだ現役で農作業してるみたいだし」
「やっぱり最後は体力ですか」
「そうなっちゃうねえ。魔法も万能というわけでなし」
医学が期待できない以上、魔法は万能であって欲しいのだが困った事にそーゆーわけではないらしい。盲腸とかどうするんだろう? 癌とか日本でも死ぬ病気ならともかく、虫垂炎とか日本ならば確実に治る病気で死ぬのは勘弁して欲しい。
「それで原因はなんでしょ?」
「食べたらダメなキノコ食べたんじゃないかな」
「あの爺さんだけが毒キノコ食ったんですか?」
毒キノコをシチューやスープに入れれば家族全体に影響が出そうだが。まさか家族全員毒キノコが入った料理を食って、あの爺さんだけが生き残ったわけじゃないだろうな。
「他の人達は症状が軽かったんだろうね」
「なるほど」
などと他愛もない会話を交わしつつ、スライムや蟻さん達をゲシゲシ撲殺していく。成仏しろよ、スライムさん。ここでは迷宮のようにスライムや蟻さん達が「再配置」される事がない。自然回復に任せるしかないので、乱獲は自粛するのがマナーらしい。
もちろん、この森に生えている植物もだ。薬草採取の依頼で馬鹿みたいな量の薬草を取ってくるのは馬鹿の印だからな。なぜ依頼に採取量が記載されてるか考えてから仕事しろよ。
陽が暮れる前に街まで帰る必要があるので、レベリングを早めに切り上げる事になった。
荷物になるので蟻さん達は出張してきた買取業者に買い取ってもらう。
少々ならず目減りするけど、街まで状態良く持って帰るのは面倒だからしかたない。何も考えずにずるずる引っ張ったりすると買取業者さんの方が高く買ってくれた、ということになるからだ。
俺達は遺跡に潜っては地上に戻る生活を六日間続けた後、一日休んでからタリンの迷宮に挑むことになった。
休みの日にタクミさんにラーメンを奢ってもらった。異世界で初めて食ったラーメンは想像してたのとはちょっと違っていたんだが、塩豚骨らしいスープに分厚いベーコンと細麺で素晴らしく美味かった。肉らしい肉を食った事自体が久しぶりだしな。
で、その翌日。
いよいよ俺達がタリンの迷宮に潜る日が来た。
このタリンの迷宮だが名前の通りタリンの新市街の内部にある。ということはわざわざ二時間以上歩いて遺跡に行くより、少々危険でも迷宮に潜った方が効率は良いはずだ。歩いて冒険者としての基礎体力を向上させるとかのブートキャンプ的な何かもあるのかもしれないが。
俺達六人、俺とエリ、マリ、タクミさんとハルさんとアンさんでいつもの冒険者の宿で朝食、おなじみのカーシャを食いながら迷宮に潜るための打ち合わせをしていた。
「最初に謝っておくことがある」
タクミさんがいきなり謝ってきた。ノリが軽いからそう大したことではないのだろう、多分。いや、大した事でないと良いなあ。
「なんですか?」
「迷宮はそれほど危険じゃない。どちらかといえば遺跡の方が危険なんだ」
そう大した事ではないらしい。この程度の事なら十分に許容範囲内だ。
「でしょうね。見当はついてました」
「最初から迷宮に行くとこの世界をゲームだと思い込む奴が出てきてね」
タクミさんが事情を説明してくれた。言い訳にしか聞こえないが仕方がないと言えば仕方ない。やらかした奴がいるのだろう。
「現地の方を殺したりするわけですか?」
「うん。ノンプレーヤーキャラクタを殺しても問題ないとか言い出してね」
「痛いですね」
「そりゃモンスターの死体が光って消えればゲームだと思うだろう」
「本当に死体が光って消えるんですか?」
「迷宮には二種類ある。第一種迷宮と第二種迷宮だ」
タクミさんが何か訳の解らない事を言いだしたが、とりあえず黙って聞いておく事にする。世の中訳の解らない事だらけだからな。
「第一種迷宮は神様が別の神様の世界運営を邪魔するために設置した迷宮で、数十階から数百階とやたら大規模だったり、放置すると拡大するような厄介な迷宮だね。こいつらは早めに掃討しないと世界が滅びて、魔族の巣窟である魔界になる可能性がある」
「これから潜る迷宮は違いますよね?」
「この世界では第一種迷宮は確認されてないよ」
「じゃ、第二種迷宮ってのはどんな迷宮ですか?」
「この世界を管理している神様が住民を訓練する為に設置した迷宮で、規模もそう大きくはない。大体十階前後で拡大したり、危険な魔族や不死が、あんまり危険じゃない不死は出るけど、出てきたりすることもない」
「ここの迷宮も第二種迷宮なんですよね?」
「うん」
「つまり、神様が住民の訓練用に作った迷宮にいる疑似生物だから、死んだら光って消えるわけですか?」
「多分ね」
「解りました。嘘がそれだけならさっさと潜りましょう」
「ありがとう。他に質問はある?」
「今日はどこまで潜るんですか?」
「予定では三階までかな」
「地下三階までって何が出るんです?」
「スライムと蟻さんが二種。地下四階からはアンデッドが出るからしばらくは降りない」
エリちゃんがお化け嫌いとか言っている。お化け怖いではないのが非常に気になる。俺か? お、お化けなんてこの世にいるわけないだろう。大体、馬鹿な奴がお化けより人間が怖いと間抜けな事を言っているが、死んだら諦める人間と死んでも諦めない人間なら死んでも諦めない人間の方が怖いに決まっている。だから、お化けは人間よりも怖いのだ。
ちなみに「のろってやる」は「呪ってやる」だからな。「祝ってやる」は「のろってやる」じゃないからな。人生最後のメッセージで書き間違えるとかなり恥ずかしいから、樹海に行く奴は気をつけろよ。
あれ……、ファンタジー世界にはお化けが実在するんじゃ……。
「今日はお弁当はもっていかないんですか?」
マリはお化けより食い物の方が心配らしい。マリらしいといえばマリらしいな。
「お昼は食べに帰るからお弁当はなし。おやつと非常食は銀貨二枚まで」
「食べに帰るってここですか?」
「予定ではね」
迷宮の中は暗いし臭いし食事に適した環境ではないので、街に帰って食事が取れるのは正直嬉しい。街の中じゃお化けはでないだろうし。いや、お化けじゃない。最近は数日以上泊まり込みで迷宮に潜るのがトレンドなのにそんなお手軽な迷宮でいいのか?
「エールはおやつに入りますか?」
「エールは飲料だから別計算で」
ハルさんは酒か。いや、問題なのは食い物とか酒じゃなくてお化けなわけで。物理攻撃が効かない相手には魔法しか……。
「タクミさん!!」
「何かな?」
「タクミさん、お化けを倒せる魔法が使えますよね!!」
「お化けの定義によるけど」
「非実体のゴーストとかレイスな奴です。ゾンビ系は物理的に破壊できますから大丈夫です!!」
「多分大丈夫だよ。白魔法の3レベルにアンデッドに追加ダメージを与える魔法があるから」
タクミさんが着いて来てくれて良かった……。
お疲れ様です。
お化けは怖いのです。お化けが怖くないと言っている人はお化けがプライムマテリアルプレーンに実存しないからそんな余裕のある事を言ってるのです。




