第七話 みんなで一緒に冒険しましょう。
俺達は無事に街まで戻り、冒険者ギルドで魔法石を銀貨三枚で買い取ってもらった。来年からは控除がなくなるので税金を払う必要があるらしい。ファンタジー世界なのに税金とかせちがらすぎる。とは言うものの、社会の秩序を最低限維持するためだけでも少なくない額の金が必要だ。秩序や治安が失われた場合のデメリットを考えれば税金は支払わざるを得ない。
その後、いつもの宿屋で夕食を取った。宿泊でなければ食事は自由に食えるらしい。夕食のメニューはいつもの粗挽きしたオート麦のカーシャとエール一パイントである。エールはなんと宿の主人の奢りである。エールを奢ってもらったので意外といい人なのかもと思ったが、これからたっぷり儲けさせてくれ、の一言で全部ぶち壊しだ。
周囲を観察してみて解ったことだが、意外なことにこの宿の食事は美味いらしい。俺はまだこの世界の味に慣れないからそうは思わないが、エリとマリは美味い、美味いと言いながらカーシャを食っている。もしかしたら、こいつらは食えるものは何でも美味いと感じるのかもしれないが。
ああ、カレーとラーメンが恋しい。米も小麦粉も香辛料も南方からの輸入品なので、カレーもラーメンも簡単に食えるほど安くないだろう。だが、この世界では日本人の転移者が一般的である。日本人が存在する以上、カレーやラーメンが存在していない事は絶対にないはずだ。
かならず見つけ出して、カレーとラーメンを食ってやる。
などと妄想に耽りつつ、それなりに楽しい食事も終わったので俺達は街の外の野営地に移動した。この野営地は門が閉まる前に街に入れなかった隊商向けの設備で、ありがたいことに簡単な井戸もある。
俺たちは他のパーティのハルさんとアンさん、と一緒に近場の林で薪になりそうなモノを集めることにした。ハルさんは黒髪茶目で身長百七十センチぐらい、アンさんは茶髪茶目で身長は百五十センチぐらいだろう。二人ともほっそりした体格である。
薪になりそうなモノを探しに栗や林檎の林を歩いている間にいろいろ雑談したのだが、ハルさんは日本人の転移者でアンさんはこの世界の生まれだそうだ。本人の主張ではハルさんはこの世界に転移して約一年ぐらいで、何とか初心者を抜けつつある冒険者らしい。その言葉通り、ハルさん達は旅人の服に軽戦鎚というこの世界の初心者な冒険者の標準装備である。
「で、自分達に何か御用ですか?」
我ながら声に棘があるなと感じたが、ハルさんは全く気にしていないようで飄々と答える。
「タクミさんからできる限り早めに君達を使い物になるようにしろと言われててね」
「その理由は?」
「後三ヶ月もしないうちに冬が来て、冬が来ればオークさんとの戦が始まる。それまでに出来るだけの戦力を整えておきたいから」
「転移者も戦わないとダメなんですか?」
「当たり前だよ。僕達も現地の方と同じ社会インフラを利用してるんだから。オークの皆さんも転移者だから見逃してくれるわけでもないし」
ハルさんはにっこりと人当たりの良い笑顔でろくでもない事を言い出した。おいおい、そんな物騒な話は聞いてないぞ。
「生き残るためにはどうすればいいんでしょうか?」
「白魔法使いになるのが一番可能性が高いかな。前線に出なくていいからね」
低レベルの戦士系冒険者とか確実に捨て駒にされそうだな。ちなみに、白魔法しか使えない魔法使いが白魔法使いで、黒魔法しか使えない魔法使いは黒魔法使いである。黒魔法使いの数は極めて少ない。黒魔法使いはこの世界のほとんどの文明地で何もしなくても犯罪者扱いされるからだ。白魔法と黒魔法を両方使う大部分の魔法使いはシンプルに「魔法使い」と呼ばれる。
「それじゃどうすれば白魔法使いになれるんでしょう?」
「魔力値はどのぐらいある?」
「四です」
「残念だけど、魔力値は六ないと魔法使いは難しいよ」
せっかくファンタジーな異世界に来たんだから、魔法使いになりたかったんだがどうやら無理らしい。
「愚問だとは承知してますが、戦争は避けられないんですか?」
「狩猟採集民であるオークさん達に冬場の戦争をやめろという事は、お前らは飢えて死ねという事だよ。僕達は、少なくとも僕は他者の生存権を否定できるほどエロい人じゃない」
戦争とは一部の例外もあるがほぼ経済の破綻を糊塗するための行為だ。他人から奪い取って生き残るか、奪い取らずに死ぬかの状況であれば、奪い取らずに死ねという事は倫理的に正しくはないだろう。他者の生存権を否定する事は己の生存権を否定する事に等しい。
この問題の根本はオークさん達の生活様式では多すぎる出生数にある。しかし、この問題は彼らオークさん達が古代文明の生物兵器として人工的に開発された種であるからで、その責任は古代魔法文明を築いた魔術師達の子孫であるヒトが負うべきものであろう、多分。
「ハルさんは戦士系ですよね?」
「そうだよ」
「戦士系のメリットは何ですか?」
「自由度の高さかな。冒険者を続けながら騎士を目指して剣を振るうも良し。引退して開拓民として鍬を振るうも良し。商才に自信あれば商人として辣腕を振るうもまた良しってね。もちろん、冒険者を続けて気侭に生きるというのもありだし」
この世界で自由に生きていくためにはそれなりの力が必要って事か。騎士や開拓民ならともかく、商人までそこそこの戦闘力が必要なのか? 都市間を移動する交易商人なら当然ではあるが、都市部の治安維持機関が窃盗犯の逮捕まで手が回らない可能性があるよな。冒険者ギルドの近所にある商店もごっつい店主がいたし。
「ま、将来の目標を急いで決める必要は無いさ」
ハルさんは爽やかな笑顔で忠告してくれた。
それから宿代を節約する冒険者や閉門時間に間に合わなかった冒険者や隊商達が徐々に夜営地に集まってくる。余裕のある冒険者や隊商達はライ麦パンやチーズなどの保存食で簡単な夕食の準備を始め、腹を空かせた冒険者達は羨ましそうに彼らを見つめてる。
陽が西に傾き、空が暗くなり始めると冒険者達は夜の到来を待たずに愛を交わし始めた。リア充爆発しろ。
ちなみに不寝番の順番はエリ、自分、マリと決めておいたのだが、隊商の皆さんに任せておけば大丈夫という事でぐっすり寝た。何かあった場合、メインで戦うのは冒険者だからという不文律だそうだ。
翌朝、日の出の時間にマリに起こされる。こんな時間に起きる習慣はないのでもうしばらく寝かせてくれと頼んだが却下された。共用井戸の水で顔を洗って無理やり目を覚ます。
そのうちに門が開いたのでいつもの宿に移動して朝食を取る。オートミールと林檎で三人分が銀貨三枚である。
朝食を食べていると旅人の服と革鎧を身に着けたタクミさんが現れた。
「おはよう、ハル、ノゾム君」
「おはようございます」
「なんでタクミさんがここに?」
「そりゃ君達のお供をするためだよ。ハルとアンを信用してないわけではないけど、迷宮探索にはやっぱり白魔法使いがいるだろう」
「それはその通りですけど、患者さんを放置して大丈夫なんですか?」
「正直に言えば大丈夫じゃないけど仕方ないね」
タクミさんが何とも投げ槍に答えた。
「仕方がないで済むとは思えないんですが……」
通ってくる病人にすれば白魔法使いの存在は死活問題だろう。今日は迷宮にもぐるから休診です、で済むはずがない。
「心配ないよ。こーゆー時の為に冒険者ギルドがあるわけだから」
クレーム処理は冒険者ギルドに丸投げですか。とりあえず、責任が俺のところに回ってこないようなのでこの問題は放置するか。
「解りました」
「タクミさん、昨日注文があったお弁当のライ麦パンです」
宿屋のお嬢ちゃんが大きな袋に入った食料を持ってきた。
「ありがとう。これからしばらくお世話になるからよろしくね」
「はい!」
「もちろんタクミさんのおごりですよね?」
ハルさんがいつもの爽やかな笑顔で尋ねる。
「君以外はね」
タクミさん、なかなかナイスな切り替えしである。
「タクミさんのケチ」
「冗談はこのぐらいにしておいて出発するよ。保存食はハルとノゾム君が交代で持ってくれ」
「解りました」
「えーー。おごりじゃないのに持たされるんですかーー」
「真面目にやんなさい!」
「はい」
アンさんがハルさんの後頭部を本気っぽく殴り、ハルさんは仕方なさそうに袋の保存食を背負い袋にしまい込んだ。
「エールはどうする?」
「一人二パイントでお願いします」
「ああ。みんな、水筒出せ」
宿の主がそれぞれの水筒にエールを注いでいく。全員二パイントより大目だが宿の主はあまり気にしていない。身内に怪我人や病人が出たときの事を考えれば、タクミさんの機嫌を取っておいたほうがマシだからか。治癒魔法を使う魔法使いはいろいろ得するなあ。
全員の水筒が一杯になるとタクミさんが宿の主に銀貨を渡して、お釣をもらっていた。
さて、迷宮探索に出発しますか。
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