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港町~団子屋~

 数時間かけて港町にたどり着いた月夜は、早速迷っていた。

 道にではない、誰に聞き込みをするかについて、である。

 なるべくならば女性のほうが良いなと彼女は思う。


 実のところ、彼女は男性が苦手であった。

 うどん屋で働いている時も男性客と話す度に舌が回らなくなり、その度に客達に笑われていた。鉄郎との会話に慣れるのにも一週間近くかかった程である。


 場所はやはり飲食店辺りが良いだろうか。

 飲食店というのは様々な人達が訪れ、世間話からちょっとした商談まで行われる。そこで働く者ならば色々な噂話を知っているだろう、と彼女は考えたのである。

 丁度小腹が空いてきたのもあり、月夜はどこかの店に入る事にした。


 月夜が選んだのは、大通りから路地に一本入った所にある団子屋だった。大通りに面している飲食店だと昼時である今頃の時間は客の入りが激しく、聞き込みには向かないと判断したからである。


(それにお品書きに書いてある料理、全然分かんないし……)


 交易の盛んな港町ゆえか、大通りには大陸にあるというレストランと呼ばれる店が多く、異国料理に疎い月夜には少々行きづらいものがあった。


 団子屋はまずまずの込み具合だった。これならば少しくらい話しかけても問題ないだろう。幸い店員も若い娘であった。

 月夜は団子とお茶を頼む際、娘に尋ねた。


「あの、すみません、純銀髪(じゅんぎんぱつ)の男性について何か見たり聞いたりした事ってございますか?」


 娘は店内でも笠を脱がない月夜を一瞬訝しそうに眺めたが、この店は急ぎの客が多く、そういった者達も少なくはない為、そこまで気にはならなかったようだ。


「純銀髪? そんな客が来たら絶対覚えてるはずだけど…」


 娘は顎に指を当てて考える。


 純銀髪とは、この世界に稀に生まれる、銀色の髪の毛や羽毛を持つ存在のことを言う。

 単なる白髪でもなければ灰色でもない、真の白銀の輝き。

 その髪色には他者を魅了する魔性の力が宿っているとされ、生存競争の厳しいこの世界の生物が各々の種の繁殖を促し、繁栄させる為に得た特性であり、これもまた<契約>の一つであると言われている。

 大抵は突然変異として生まれてくるが、遺伝によって生まれてくる場合もある。彼女の探す人物――彼女の兄もまた、遺伝による純銀髪であった。


「あ、そういえば【白銀の風】の首領が実は純銀髪だって噂があるわよ」

「【白銀の風】……? それはどのような方々なのでしょうか?」

「えっ、【白銀の風】を知らないの!?」


 マジで!? と娘は目を丸くした。


「【白銀の風】は大陸を中心に暴れ回っている秘密組織として有名よ。何でも屋を生業にしてるらしくて、殺人依頼から呪詛にいくさの助っ人に情報屋、運び屋に草むしりに犬の散歩まで手広く行なっている恐ろしい奴らよ!」

「は、はぁ……」


 ……それはいくらなんでも手広すぎではないだろうか。後半はただのお手伝いさんである。そもそも秘密組織なのに有名とは一体。


「しかもその組織の従業員の多くは常世(とこよ)の住人だって聞くわ」


 この世界は≪二律≫という名で呼ばれ、二つの空間により成り立っている。

 一つは現世(うつしよ)

 海、陸、空の基礎的な3層に分かれており、比較的短命な種族が住まう空間である。今、月夜達がいるのがこちらである。

 もう一つが常世(とこよ)

 天界、仙界、妖精霊界、妖魔界、冥界など、非常に多くの層で構成されている空間であり、さらにそれらの層の中にも基礎3層が形成されている。また、常世の住人達は皆永遠に近い寿命を有している。

 それゆえ常世はかねてより、いわゆる人口過多状態に陥っているのである。

 二つの空間の壁は非常に不安定であり、至る所に綻びが生じている。それを利用すればこの二つの空間を行き来するのは割と容易である。ゆえに、常世の住人の中には現世への侵略を考えている者も少なくない。既に帰化種族として現世に居着いてしまっている常世住人さえいる。

 反対に、現世の住民が常世への侵略を考える場合も稀に存在するが……。


「けれどそいつらは現世、常世の住人関係無く仕事を引き受けてるらしいわ。要はお代さえ払うなら客は選ばないって事らしいわね。だからこそ、その首領が果たして常世の住人なのか現世の住人なのか、誰にもわからないんだって」


 娘の話を聞きながら、月夜は考える。

 兄がまさかそのような怪しい組織の頂点に君臨しているとは、流石に思えない。そもそも兄は自分と同じように『探し人』を求めて旅に出たまま行方知れずとなったのだ。何でも屋など開業している場合ではないはずである。

 だがこの娘いわく、その何でも屋は情報屋も兼ねているというではないか。ならば兄の居場所について調査してもらう事も可能なのではないだろうか。それだけ名の知れた組織であるならば、きっと腕は確かなはずである。


「その何でも屋さんにはどうすれば会えるのでしょうか?」

「さあねぇ。けど大陸で暴れてるって事は、大陸に行けばいいんじゃない?」


 娘はテキトーに答えた。あまり長く話していると店長にどやされてしまうので、そろそろ仕事に戻りたいのである。しかし。


「大陸ですか……。ここの港って大陸行きの船は出ていますか?」


 月夜は真に受けてしまっていた。


「え、あんたマジで行く気なの!? ……まあ船自体は大陸から往復の船が沢山出てるから、運が良ければ受付したその日のうちに乗れるかもしれないね」

「そうなんですか、ご丁寧にどうもありがとうございます。あ、ちなみに船乗り場はどちらにあるのでしょうか?」


 瞳を輝かせて尋ねる月夜に半ば呆れさえ感じていたが、同時に彼女を焚きつけてしまった事への責任も感じ、娘は船乗り場までの地図を書いてやった。


 月夜は普段、内気で大人しく、どちらかと言えば淑やかなほうである。

 しかし兄の事となると話は別だ。周りがすっかり見えなくなり、彼に会う為ならば例え火の中水の中、それこそ冥界の底にまで突っ走って行きかねない。それくらい彼女は兄が大好きだった。


 団子を食べ終え、お茶を飲み干すと、月夜は地図に書かれた場所へと向かった。

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