表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/42

サンタラレス~商店街~

 月夜達は、今後野宿する時の為に必要な物や生活用品などを一気に買い込んでいた。

 異次元ホールは非常に沢山の物が収納できる上に、ルーシスだけでなくヴァイスもこの魔法を使う事が出来た。

 これまで月夜は必要最低限の物しか持ち歩く事が出来なかったが、二人のおかげで色々な物を持ち運ぶ事が出来るようになった。

 ――魔王(仮)とその側近を荷物持ち代わりに使っている彼女もまた、案外神経が図太いのかもしれない。とはいえ【巫覡】は本来月夜の世話係なのだから、むしろこれが正しい姿であると言えるのかもしれないが。


 また、彼女はとても倹約家であった。ケチと言ってはいけない、倹約家なのである。


 目当ての物を見つけてもすぐには購入せず、他の店で同じ物がより安い値段で売っていないかどうか細かく比較していく。また、同じ値段の商品であっても、より機能性の優れた物がないかどうかもチェックする。その為同じ店を何度も行ったり来たりしなければならず、ルーシスは何度も『またですか~?』とうんざりした声を上げていた。

 流石に値切る事まではしなかったものの、彼女はいつものなよなよとした雰囲気から一変し、主婦の目をしていた。仮にも今まで一人旅をしてきた彼女は、周りが思っている以上に強かな女性なのである。


 月夜は秋穂国のうどん屋で働いていたのでいくらか蓄えはあったのだが、やはり船代は格安とはいえそれなりに大きい出費であった。それに加えて旅の仲間が増えたのだ。しかもこの魔王候補様と側近様、お金をほとんど持っていなかったのである。


 百年眠っていたヴァイスはともかく、ルーシスは王族に仕えているにも関わらず、一体何故――……。


 月夜がそう尋ねてみたところ、どうやら魔王候補への国からの資金援助は認められておらず、王位継承における抗争中は自分達で資金を調達していかなければならないのだという事だった。


 長い買い物に付き合わされ、このような状況に一番文句を言いそうなタイプであるヴァイスは、意外にも嫌な顔一つせず黙々と月夜達の後をついて来ていた。と言うより、行く先々の店の商品を興味深げに眺めていた。恐らく万能包丁の実演販売を食い入るように見つめていた魔王(仮)はどこを探しても彼くらいのものであろう。

 その姿はまるで何にでも興味を示す幼い子供のようであった。


「ヴァイス様は人間の街にはあまり来た事が無いのですか?」

「人間の街どころか、城下町にさえほとんど行った事が無かったな。ましてや店を自由に見て回る事等、まず出来なかった」


 魔王候補である彼はずっと魔王城で暮らしていた。たまに外に出る際も、常に付き人達に囲まれ、スケジュールもきっちりと管理されていた。彼の目にはごくありふれた商店街の光景さえも、とても新鮮なものに映るのであった。

 そんな彼の様子を月夜は少しだけ可愛く感じてしまった。けれど慌てて首をぶるぶると振ってその考えを振り払う。


 ――この男は自分の食欲の為にうっかり人を生死の境に追い込むような奴なのだ、可愛げなどあるものか!


 顔を背けた先に、ちらりと雑貨屋の看板が目に入った。秋穂国からの輸入品を取り扱っている店らしく、故郷では見慣れている物だが、大陸ではなかなかお目に掛かれない品々が所狭しと並べられていた。


「あの……ちょっとだけ寄ってみてもいいですか……?」


 これからは秋穂文化とは縁遠い生活を送る事になるだろう。勿論無駄遣いは控えるつもりだが、今のうちに可能な限り故郷を感じさせる物を買っておきたい。


 彼女のそんな気持ちを察し、ルーシスとヴァイスは了承した。

 ……というより、既に買い物に疲れていたルーシスは今、ヴァイスの肩の上に乗っている。これはどうやら不敬罪には当たらないらしく、またヴァイスも特に気にしている様子は無かった。自分の力で飛んでいるわけではないルーシスには文句などないし、ヴァイスに関しては様々な店を回る事を楽しんでいた為、全く問題はなかった。


「あ、香り袋」


 紐付きの小さな布の袋を手に取って月夜が呟いた。


「……不思議な香りがする小袋だな」


 独特で、けれどどこか落ち着く香りがヴァイスの鼻孔をくすぐる。


白檀びゃくだんの香りですね。心を安らかにする効果があると言われています。ちなみにこれは懐に入れて持ち歩く形の物のようですね。私、この香り好きなんです。折角だし買っちゃおうかな……。あ、ついでに他にも何か買う物がないか奥の方も見に行っていいですか?」

「ああ、好きにしろ……」


 ヴァイスは既に香り袋からは興味を失くし、近くにあった起き上がりこぼしをつついていた。何度倒しても起き上がってくるその様子を不思議そうに眺めている。……表情は相変わらず乏しい為、大の大人が真面目な顔をしながら起き上がりこぼしで遊んでいる姿はなかなかにシュールな光景であった。

 ――まるで玩具にじゃれついている子猫である。人を猫呼ばわりしておいて、自分の方がよっぽど猫っぽいではないか、と月夜は思う。


 買い物が終わり、最後は宿探しである。

 サンタラレスは秋穂国と交流があるだけあって、土産物屋だけでなく、宿も秋穂風なものがちらほらとあった。ヴァイスとルーシスは宿に特にこだわりは無かったので、月夜の提案で秋穂風の宿に泊まる事に決まった。

 風呂好きの彼女は、出来る限り浴槽のある宿に泊まりたかったのである。

 そしていくつかある秋穂風宿屋の一つに。


「あ、猫!」


 宿屋の入り口で三毛猫がごろんと寝ころんでいた。どうやらこの宿の看板娘ならぬ看板猫らしい。


 その姿に吸い寄せられるかのように月夜は猫の元に行き、その頭を撫でた。


「……猫が好きなのか?」

「はい、実家でも飼っていました」

「……私にとってはお前の方が猫に思えるけどな」


 そう言ってフード越しに月夜の頭を撫でる。


「だ、だから私は猫じゃありませんってば!」


 特に起き上がりこぼしにじゃれついていた人には言われたくない。


『まあともあれ、月夜さんが気に入ったのならここにしましょうか』


 そんなわけで宿は無事に決まり、受付で手続きを進める。


「男性一人と女性一人、それに使い魔が一匹です。あ、お部屋は二部屋でお願いします」


 受付の仲居から鍵を渡され、二階にある各部屋へと向かう。


「……おい」

「何ですか?」


 スタスタと歩いて行こうとする月夜の後を追いながら、ヴァイスが声を掛ける。


「私は別に一部屋でも構わないぞ?」

「私が構うんです!」

「一部屋だけの方が経済的だと思うが」

「これは必要経費です」

「……寝る時寒い」


 やはりそう来たか。


「……そう仰るだろうと思いまして、貴方にはこれを差し上げます」


 月夜はそれまで胸に抱えていた袋をヴァイスに差し出した。それは先程の雑貨屋で香り袋と共に購入した物であった。


「……何だこれは……?」


 袋から中身を取り出したヴァイスは訝しげに眉をひそめた。


 銀色の金属で出来た枕程度の大きさの物。波状の凹凸が付いたその姿は、何となく三葉虫の化石を彷彿とさせた。

 ヴァイスにとっては異様な謎の物体以外の何物でも無かった。


「湯たんぽです。その中にお湯を入れてお布団の中にお入れ下さい。そうすれば寒くないはずです」

「………………」


 ヴァイスが何か言おうとしていた気がするが、月夜は構う事なく自分のあてがわれた部屋にとっとと引き籠ってしまったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ