「真実」ですか
「おはよう、スノウ」
今日はやけにあっさりとした朝だ。スノウが顔の上に乗っていないゲーム内での朝は久しぶりである。
といっても、恐らくスノウが僕の顔から落ちただけだろうけど。
顔の真横に居るし。
僕の顔は横を向いているから。
「にゃ」
スノウの目醒めた後の行動は早い。
まず、僕の頭を前足でつつき、僕の準備を急がせる。
僕が準備している間に、昨日のうちから用意しておいた猫缶を食べるのだ。
僕が準備し終えたら肩に乗り、スノウの朝は終わる。
その後は僕が朝ご飯を食べるまでの間はずっと肩の上だ。
今日はメッセージが来る前に朝ご飯を食べれそうだ。
実際、僕がシチューっぽいものを一口食べたところでミツキとツグミが降りてきた。
この頃スノウは椅子の上で丸くなっている。
朝ご飯をとり終えた後、軽く雑談をし、時折スノウは相づちを打つ。
昨日の様に、最初は道具屋に寄り、いざ売却しよう、そこでようやくドロップアイテムに気付く、
「ミツキ、昨日のボスドロップっぽいクラウンがあるんだけど、どうすればいいと思う?」
「装備すればいいんじゃない?。売るのも勿体無いし。」
「そっか、それもそうだね、ツグミはどう思う?」
「着け、てる、とこ、見たい」
「オーケー、分かったよ」
今まで使っていた帽子に少し愛着はあるものの、初期装備だし、と割り切って王冠(ゴブリンクラウンという名前らしい)を装備する。
「へえ、アンタ似合うじゃない。」
「似合、う。」
「ありがと、ところでさ、このドロップ売り終わったら防具買いにいかない?昨日ツグミの負担が大きそうだったし、みんな初期装備じゃない?」
「そうね、この装備でも、そんなにダメージを受けなかったから放置してたけど・・・そうね、買い替えましょ、昨日みたいに戦ったんじゃツグミが大変だしね。」
「わた、しは、あれ、でも、いい、癒魔、法、のlv、が上がっ、たから」
「そうにもいかないさ、ツグミだって詠唱中は無防備でダメージを受け続けて痛そうだったじゃないか。」
「あり、がとう。」
ツグミは人に負担を掛けるのを良しとしないようだ。もしくは人の迷惑になるのを恐れているのかもしれない。
「よし、決まりね。売却後は防具屋に行きましょ、場所は私が知ってるから案内するわよ。」
今回の収入は一人当たり14080Gだった、初めての一万越えだ、僕たちのように、ペットがいるとドロップが分散されるので、本当に限界ギリギリまで持つなんてことは少なくなるようだ、そう考えると、テイマー系のクラスは強力だと思う。他の人の数倍狩り続けることが出来るんだから。
ちなみに、今回新しいドロップ品は、エリートゴブリンの証で、単価80Gもあったことから、ミツキは、ボスは美味しいわね・・・などとつぶやいていた。
鉄鉱石も売ろうと思ったのだけど、ミツキから持っておきなさい、と言われたので大人しく持っていることにする。
防具屋の店長はモノクルを装備した優しそうなおじいさんだった。他にも店員が何人かいて、店の中は少し大きなコンビニぐらいあった。女性陣は、店に入った途端に、どんどん奥へ進んでしまったので、僕は今一人だ。
「今日はどういった物をお求めでしょうか?」
「頭を除く装備一式を買い替えようと思ってるんですが。」
「そうですか、ご予算はどのくらいですか?」
「えーと。」
多少は残しておきたいから・・・
「15000Gまででお願いします。」
「了解しました。少々お待ちください。」
数十秒としないうちに戻ってきて、
「お待たせしました。お求めになるのは頭以外の装備とのことなので、マント、服、ズボン、グローブを用意させていただきました。」
出てきたのは灰色をした装備だった。・・・装備はどんなのが良いのか全く分からない・・・
「それらの商品の説明をしてもらっても構いませんか?」
「ええ、もちろんです。これらの装備はグレーベアーの素材を使っておりまして、耐久性に優れ、防御力は鉄に少し劣りますが、比べものにならない軽さで、行動を一切阻害することがありません。ですが、その代わりに、少しお値段が張りまして、こちらの四品で13000Gとさせてもらいます。」
「そうですか・・・よし、買います!」
「そうですか、お買い上げありがとうございます。」
「耐久力が減った際にはまたご相談ください。」
よし、こっちは買ったぞ、他の二人は・・・と、辺りを見回すと、おお、金髪の人が居る、珍しいな。いや、NPCなら珍しくはないけど、店員(女性)に話しかけてることからプレイヤーだろう・・・、いや、今はそんなことどうでもいい。
えーと・・・あ、いた、小さなツグミの姿は判別しやすくてすぐに見つかった。装備はもう変わっている。前までの茶色主体の装備が白に変わっていて、本人の体格も相まってウサギみたいで可愛い。
しかし、ミツキが見つからない。どう探しても他にプレイヤーらしき姿は金髪の人しかいないのだ。
・・・まさか?確かにミツキの髪を見たことはなかった、本人が顔すら隠れるぐらいにフードをかぶっていたから。もしかして・・・顔を見られたり、防御力を気にしてのあの装備ではなく、髪色を気にしていてあんなフードを被っていたのだろうか?確かに、金髪は珍しく、奇異の視線に晒されるだろう、とはいえ、ミツキはそんなことを気にするような性格ではないような気がする。いや、でも本人にとってとても重要なことなのかもしれ
「ねえ、もう買い終わったの?」
考えるために俯いていた顔を上げるとやっぱりというか、金髪のミツキ(だろうと思う)が居た。装備は、黒を基調とした肩までのローブで、本人の金色の髪が肩までかかっているのがよく見えるというか、隠すものがないのだから新鮮だ・・・、それに本人の顔をしっかりと見るのが初めてだ、目はパッチリと開いているし、鼻は高く、唇は柔らかそうだ。結論、可愛いのを認めざる負えない、
「買い終わったならさっさとゴブリン狩りに行きましょ。」
「え、うん。」
「ツグミも良いわよね?」
「ん。」
あれ?気にしてるのは僕だけだったの?少し確かめてみる。もし気にしてるようなら僕がカバーできる範囲でカバーするべきだと思うから。
「ねえ、ミツキ、その髪キレイだね。」
「フフン、そうでしょ。お母様譲りなのよ。」
ふむ、いらぬ気遣いだったようだ。・・・っていうか、今更思い出したけど、初期装備だから買い替えようって言ったの僕じゃん・・・、ミツキも否定してなかったからただ単に、装備の仕方のせいで隠れてただけだったのか。
「ねえ、わた、しは?」
くいくいと袖を引っ張られる、ツグミがほんとに小動物にしか見えない。
「うん、とても似合ってて可愛いよ。」
「あり、がと。」
ツグミの装備は頭まで白い布に覆われていて、なんかテイマーっぽいなぁ、と思う。
「ねえ、アンタは?買ったんでしょ?」
「ちょっと待って、今装備するから。」
・・・よし、これで変え終わった筈、女性陣二人の反応を見てみると・・・
「へえ、似合うじゃない、でも、少し男物っぽくない?。」
「カッコ、いい、よ?」
おお、好評のようだ。
・・・あれ?なんか変な表現なかったか?特にミツキ。ついでだが、心当たりはある。
「ミツキ、僕のことなんだと思ってる?」
「変な言動のボクッ子。」
くっ、やっぱりか、家族、友人、小さい時には先生にまで言われたのだが。
「じゃあさ、ツグミは?」
「気さ、くな、お姉、ちゃ、ん。」
これは止め・・・?、ミツキは僕が女だと思ったから最初PT組もうとしたんだろうし、ツグミが僕とPTを組みたいと言ったのは僕が女の子に見えたからなんだろうな。このゲームは今僕らにとってリアルなわけだし、変に男と組むのは、はっきり言って危険だからね。しかし、ここで事実を告げておくべきだ。今まで騙していたようなものだから、いや、騙してはいないけど。
「僕は・・・僕は・・・男だ!」
「ああ、そう、なら男の娘ね。というか、少し声量下げて?」
「お兄、ちゃ、ん。」
「にゃっ!?」
あれ?終わった。さっきからなんか空回りしてるな。スノウだけ反応がおかしいが。
「え?僕男だよ?PT組んで怖いな~、とか思ったりしないの?」
「今更じゃない」
「思わ、ないよ?。」
ですよね~。今更過ぎたか・・・しかし、僕の小学4年生からの男らしくあろうと努力した年月は無駄だった・・・?
いや、僕を男と見抜いた奴が居た!あの道具屋のおっさんは僕を男として見てくれた。この店の店長も僕に男物の服を用意してくれた!・・・いや、防具屋の店長は体格から判断したのかもしれないけど。
「どうでもいい事が分かったところで、さっさと狩りにいくわよ。次の狩場が見つかるまでは当分ゴブリン洞窟だからね。」
「わかったよ。新しい防具の性能も試してみたいしね。」
「ん。」
そうして、僕の(無駄な)葛藤と(ミツキ曰くどうでもいい)事実が分かったところで子鬼の巣窟に向かうことになった。
「にゃっっ!?」
スノウには驚愕の事実だったようだが。