不思議な、謎な
「は?」
現代の若者らしい、それでいて間抜けな、どうしようもない返答をしてしまう。
英語で言うなら「What?」という所だ。
「そんな言い方したらこういう反応になるでしょう」
金井が呆れたようにため息混じりで言う。
源田が頭を掻く。
「そうか、それもそうだな。正確には、死にそうになった経験がある。」
前の一文でまともな訂正が来ると思って安心し、後の一文でどうも腑に落ちない気分にさせられる。
この源田という男はどうも人を混乱させる遠い言い回しが好きらしい。
俺はあんまり好きじゃない。
「私たちはね、生きてきた中で『このままでは死んでしまう』って状況に遭遇しているの。」
「死にそうな…事故とか?」
「その状況は人によりけりだから…あんまり聞かない方がいいかもしれないわ。」
この金井という人物はとても簡潔で分かりやすい話し方ををする。
こちらも素直に「分かった。」と答えておく。
「そんな状況で私たちはそれぞれ、その危機的な状況を切り抜けるための何らかの力を手に入れた。」
二人に続けて先ほど刑部と自己紹介をした女が続ける。
「力、分かる?」
昨日見たそれぞれの様子を思い出す。
「えっと、金井…さんは氷?凍らせる?」
三人の中では一番正解しそうな金井の力を挙げてみる。
能力が当たるか否かの自信の無さよりも、同年代の女子をさん付けで呼ぶというなれない状況に戸惑う。
「あたり。後、言いづらいようならさん付けはいらないわ。」
「一応…年上だし。」
「私たち程度の年齢差で気遣ってたら後大変だぞ?」
刑部に入れられたツッコミに唖然とする。
もっとたくさん人がいるのか…しかも年齢差の大きな。
「とにかく、私の能力については大体正解。私の力は『物体を凍らせること』ができる」
「しかも、触れずに、な。」
源田の付け足しは無視したいところだが、確かにあの時あの化け物には触れずにいた。
「じゃあ私は?」
刑部が自分を指差し問う。
こいつは確かあの時、凍った化け物に向かって人間に有り得ない高さまで飛び、そのまま蹴りを加えていた。
「刑部は…馬鹿力。」
「そんな言い方か!…あながち間違いではないけど。」
名前の呼び捨ては先の事を踏まえて気にしないでおく。
しかし、女性相手に馬鹿力は失礼だっただろうか。
「私は、身体能力とか、皮膚の硬度、その他もろもろの体の属性を人並み外れたものにできる。馬鹿力ってのも間違いじゃないかな。」
皮膚の硬度もあげられるのか…確かにどんなに運動神経が良くてもあの蹴りが生み出す強い衝撃がかかったら、女子高生でなくても足が折れてしまうだろう。
残るは後一人。
源田の力がよく分からない。
一瞬で目の前から消え、次の瞬間には別の場所に移動している。
全く反応すらできない。
「源田は…瞬間移動?」
「はずれ。」
「でもまぁ最初見たら瞬間移動だって思うよねー。」
刑部も過去にそう思っていたことがあるらしい。
瞬間移動でないとしたらあれはなんなんだろうか。
「じゃあ正解を言おう。僕の能力は『時間停止』だよ。」
珍しく溜めずに、源田がはっきりと言った。
「時間停止…?」
「そう。僕の動きが瞬間移動のように見えるのは、」
そう言うと、さっきまで俺の隣に座っていた源田は次の瞬間には窓際に移動していた。
「時間を止めている間に」
次の瞬間には元いた場所に座り直していた。
「移動してるっていうだけさ。」
こう細かく動かれると、はっきり言おう、ウザい。
だが、それならあの瞬間移動にも得心が行く。
その後、源田は気恥しそうに言った。
「ただ、止められる限界は5秒間だけなんだ。」
「で、俺は…その…電撃ってこと?」
「おそらくは、ね。」
「ここで使ってもらえばいいんじゃない?」
「こら、電化製品とか変になったらどうするの。」
「あ、そっか。」
女子陣は勝手に話し合い、そして終了。
さすがに電化製品の弁償はできない。
「んじゃ、俺はあの化け物に襲われた時に力に目覚めたってわけか。」
「そう…いや、おかしい。」
源田が俺の考えを制する。
「なんか変?」
「ああ、おかしい。三沢は電撃を放ったときのことは覚えてるんだろう?」
「はっきりと。」
そうだ。その後心労でひっくり返ったが、電撃を放ったときのことはしっかりと覚えている。
自分でも驚くほどよく考えて、驚くほど冷静だった。
「初めて力が発動した時の記憶ってのをみんなもってなかったり、あやふやだったりするんだ。」
「それは死にかけてたりしてたからじゃないの?」
「いや、そうじゃない。確かにそういう状況の人もいるが、そうじゃない。」
源田の面倒な言い回しが復活する。
「僕は交通事故に遭いそうになった時にこの力が生まれたんだけど、事故になる前に回避してるんだ。」
「つまり、5体満足で怪我もしてないから普通ならはっきり覚えているはずだ、と。」
「そういうこと。」
「じゃあ俺はその前に力が生まれた可能性が高い、と。」
「そういうこと。電撃を放つっていうより、電気を操れたり、それに耐性を持つってのが生きるために必要だったんじゃないのかと考えるのが妥当。」
なるほど。
源田、まともに話していれば分かりやすい説明だ。まともに話していれば。
だとしたらいつだろうか?
電撃を放つことで回避できるようなことはあっただろうか。
小学生の時だってコンセントに鉛筆を挿すなどという危険な遊びなんてしなかったし。
原因を見つけられずにいると、がちゃり、とドアの開く音が聞こえた。