おねがいします、おたがいに
結局鞄はバレることなく放課後となった。
HRが終わると、部活に行く者、帰る者、購買に昼食へ行く者などがそれぞれ教室を出て行った。
いつもの友人二人に昼食に誘われたが「雨に濡れて携帯が壊れたから修理に行く。」と言って断った。
頭に疑問符を浮かべたままの二人に簡単に挨拶を言ってその場を去る。
嘘は言っていない。本当に携帯は修理に行かなくてはならないし。
自転車置き場を出て校門の前まで来ると、昨日見た人影があった。
結局鞄はバレることなく放課後となった。
HRが終わると、部活に行く者、帰る者、購買に昼食へ行く者などがそれぞれ教室を出て行った。
いつもの友人二人に昼食に誘われたが「雨に濡れて携帯が壊れたから修理に行く。」と言って断った。
頭に疑問符を浮かべたままの二人に簡単に挨拶を言ってその場を去る。
嘘は言っていない。本当に携帯は修理に行かなくてはならないし。
自転車置き場を出て校門の前まで来ると、昨日見た人影があった。
間違いない、あいつだ。
昨日二人の少女が戦っている後ろにいた、瞬間移動のような不思議な動きをした、あの少年だ。
声をかける前に、向こうがこちらに気づいた。彼は少年との距離を詰める。
少年の着ていた制服は、この辺りでは最も頭の良い私立中高一貫校のものだった。
成績が全く足りないような人でも、名前と制服は分かるほど有名である。見た目真面目な少年にはなんともよく似合う制服だった。
少年の背は高めだが細身。年齢はそう違わないように見える。
「預かりもの、返すよ。」
少年の第一声はそれだった。同時に右腕をこちらに向ける。手首には昨日と同じ高機能時計だ。
「あ、俺の!」
少年が持っていたのはまさに自分の鞄だった。
「君のお母さんに渡すのは可哀想かと思ってさ。」
何を言っているんだ。こっちは教師に捕まらないために早起きしたり、結局筆記用具がなくて困ったりしたんだぞ。
そう思いながら鞄を開けると
「あ…」
こいつはまずい。
「ね?」
「…ありがとうございました。」
中に入っていたのはなんともアダルティな雑誌3冊だった。
昨日友人に借りたのを忘れていた。
「とりあえず、ついてきて欲しいんだけど。」
思春期特有の恩を売られてしまった身だが、簡単に着いていこうという気にはなれない。
話の途中から宗教臭いセリフが出ていたことが頭をよぎる。
警戒をとくことはできない。
「いや、鞄も返してもらったし、こっちの用事はないんだけど…」
「じゃあちょっと無理やりにでも」
そう少年が告げると、次の瞬間にはそこからいなくなっていた。
後ろから声がする。反射的に振り返った。
「ついてきたら、鞄返すよ。」
瞬間移動した少年の手には、さきほどまで自分の手の中にあった鞄があった。
少年は続ける。
「それに、知りたいでしょ?それ。」
少年が指さしたのは、彼の右手。
正確には、右手の人差し指。
昨夜から突如現れた、謎のあざ。
この少年は知っているのだ。これがどうして出来たのか。あの不思議な力が一体なんなのか。
「ついてきてくれる?」
彼は…俺は、無言で頷いた。
今回はしっかりと。意識が無くなることもなく。