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創造神記  作者: した
■01 土砂降り、こんにちは
3/8

不思議、はじめまして

 自転車を持ち上げる彼の耳に、爆発音が聞こえた。

雷が落ちたところよりは遠くの、しかしおそらくこの公園内からする音。

命の危機などそうそう遭遇したことのない高校生が、アクションもののドラマや映画で聞いたような音。正確には爆発音かは分からない。

「なんだ…?」

音は断続的に聞こえているが、原因は見えない。それが彼の野次馬心を刺激する。

音のする方へと、自転車を押し進めた。

 自転車押す少年が進む歩道の横、雑木林を抜けたさらにその先にある道路で、3人の人間が一体の化け物と交戦していた。

少女が二人、少年が一人。

一人は少女は胸のあたりまでの黒髪を靡かせ、小走りで化け物に近づく。靡いた髪の奥、首筋にあざのような跡が見えた。

もう一人の少女は頭の下の方で髪を二つに結び、少し化け物と離れた所で直立し、化け物の動きを伺っている。こめかみのあたりに同じようなあざを確認できた。

直立した少女のさらに後ろ、メガネをかけた、真面目そうな印象を与える短髪の少年が二人の様子を見ていた。右腕には黒くて少々ゴツい、時計屋などではよく見かける高機能時計がはめられていた。

3人とも、それぞれ違った雰囲気を持った制服姿だった。

化け物は高さが人の5倍ほど、泥が集まったような外見で、知能を持っているとは思えない。

動くものに反応し、触手のような、腕のような日本の突出物を振り回す。

小走りで化け物に近づいていった少女に、反応して、腕を振り下ろす。

その時、立ち止まっていた少女が動いた。片手を頭に添えるようにして、一度瞬きに、叫ぶ。

「凍れ!」

瞬間、先ほどまで降下運動をしていた腕は凍りつき、その動きを止めた。

すかさず、近づいていった少女が地面を蹴る。その跳躍力は人間のそれを軽く超えていた。

「砕けろぉー!!」

2メートルほど軽く飛び上がった少女は、凍ったその腕猛烈な力で蹴り飛ばす。

腕は砕けて、地面に落ちる前に、消えた。

「千明、倒せる!この調子で続けて」

「了解」

化け物が動き出す中で声を掛け合い、タイミングをはかりなおす。

二人の連携プレーを見つめているだけの少年のそのまた後ろで、物音がする。

少年が振り返るが早いか、後ろの人物が口を開いた。

「なんだよ、これ…」



 音のする方へと進んでいた少年は、雑木林を抜けて一つ横の道へと出た。そして、呆然とした。

「なんだよ、これ…」

動揺と驚きの言葉の後、二の句を告げることができない。

彼の目の前に広がっているのは、10メートル近い化け物と、それと戦う2人の少女の姿、それを見ているだけの少年の姿であった。

化け物はこの世のものとは思えない、水分を多く含んでいそうな姿だった。

3メートルほど前にいた、自分を見て立ち尽くしたままだった少年が急に驚きから緊張へと表情を変えた。

その変化に気づきかけた瞬間、その少年は既に彼の目の前にいた。

「え?」

次の瞬間には、今度は彼も少年と共に20メートルほど離れた所に来ていた。

時差でぽつんと残された自転車が倒れ、音を立てた。

「どうしたの、源田!?」

「よく分からない!ただ、無関係な一般人が巻き込まれた可能性がある!!」

先ほど「千明」と呼ばれていた少女が、少年に問いかけ、少年は答えた。

同年代の少年に「一般人」と呼ばれるのはなんだか違和感を感じた。

「僕らみたいな人以外にアレは手を出さないはずだから多分大丈夫だと思うんだけど…なんかあったら大声で呼んで。」

「は?え?あ、おい!ちょっと!!」

彼の声には答えず、少年は再び元いた場所へとまたたく間に戻った。

「なんなんだよ…これ…」

彼はその場に取り残されてしまった。


 前方では未だに少女たちが戦いを続けている。

少年は見つめているだけだ。

孤独感の中で、少しずつ冷静さを取り戻した彼は考えた。そして思い至る。

先ほどの少年が言った通り、目の前で戦っている少年少女たちのような人物にだけ攻撃をしかけるのなら、少年が自分の元を離れたのにも納得がいく。

あの少年が自分の近くにいたら、攻撃がここまで及ぶかもしれない。「無関係な一般人」を巻き込まないためなのだろう。

しかし、なぜ少年は化け物と交戦しないのか。

見る限り、あの少女達と敵同士ではないようだし、むしろ信頼関係さえうかがえる。そして自分を「無関係の一般人」と呼称するあたり、少女達と同じ領域の人間なのだろう。

そうすると、不思議な力を持っているようだ。不思議な力…正体は分からないが明らかに人のもつものではない。

あの、瞬間移動のようなものが、少年の力なのだろうか…?

存外落ち着いた脳でそんなことを考えていると、一つの衝撃が彼の集中を解いた。


 バリバリバリッ―!!!

先ほど経験した、あの、大きな雷だ。しかし、今度は彼の近く、1メートルほどの位置に落ちた。

地面の水たまりに、電撃の余韻がただよっている。

普通なら、雷は進路をそれ、彼に直撃してもおかしくない。普通なら。

「なっ、」

なんでまた、と叫びそうになった時、もう他の声が響いた。

「やばい!そっちに行く!!」

彼が慌てて顔を前方に向けると、化け物がこちらに進路を変えていた。雷の衝撃でこちらの存在に気づいたのだろう。

少女達が止めにかかるが、化け物は進路を変えることはない。彼の元へと近づく。

少年は理由が分からず、動けずにいる。


動くことすらままならない。

恐怖。

焦燥。

恐怖。


疑問。


なぜ、あの化け物は自分の元へ襲いかかる?

無関係な一般人を襲うことはない、ではなかったのか?

何故?

何故自分はこんな目に?

だだの高校生がこんな目に?


―ただの?

もし自分が「無関係な一般人ではなかった」のだとしたら?

自分があの、不思議な力を持っていたとしたら?

少年は信じることにした。

彼の体に、雷が落ちた。


 バリバリバリッ―!!!!!

今日三度目の雷が森林公園に落ちた、生身の人間のもとに。

ただ、その人間は、黒こげになるわけでも、倒れるわけでもなかった。

瞳に強い光をたたえ、落ちた雷の電撃を身にまとっている。その力は、無関係な一般人のそれではない。

戸惑うことなく、彼は右手を前方へと向ける。指差し確認をするように伸ばした人差し指を、化け物の方角へ向けて。

のばした人差し指の爪、少女達の体にあったような小さなあざがあった。


  落ち着いた彼の、化け物の方角へ向けられた指から、凄まじい電撃が飛んだ。


 一瞬だった。彼の手から飛ばされた電撃は化け物を包んだ。

元々水分の多そうなそれは一瞬その大きな体をくねらせると、腕と同じように消えた。

彼は化け物が消滅した後、体の緊張を解いた。

「今のってなんなんだ…」と力についてか化け物についてか、はたまたその両方かに、独りごちた。その表情は先ほどまでとは違う、普通の高校生のそれだった。

沈黙の後、呆然としたままだった3人の中、少年が動いた。

腕にしていた高機能時計を外しながら、新たな仲間に声をかけた。


「少し、話を聞きたい。ついてきてもらえないか?」


腕時計をはずした手首に、同じようなあざがあった。

雨はもう止んでいた。

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