前世一級建築士の俺がニッチなダンジョン管理人になってみた
前世一級建築士の俺がニッチなダンジョン管理人になってみた
第一話 湿気と石積みの居心地――地下三階のリノベーション
ショウタは、足元の黒い水たまりを見つめながら、胸の奥に何ともいえない悲しさを感じていた。天井から落ちる水滴が泥を跳ね上げ、石壁には黒いカビが広がっている。冷たい湿気が麻シャツの袖口から忍び込み、鼻を突く腐臭に思わず顔をしかめた。これほど立派な石積みの迷宮なのに、誰も手入れをしていないのだ。
「もったいないなあ。本当にもったいない」
「ショウタ様、またそれですか?」
背後から呆れた声がした。黒猫の獣人ミュイが、真鍮のカンテラを掲げて立っている。藍色のチュニックに茶色い革のベストを重ね、腰には小さな道具袋を下げていた。黒い耳の先が湿気でしんなりしている。
「ここはダンジョンですよ。冒険者を怖がらせる場所なんですから、暗くてじめじめしているくらいでちょうどいいんじゃありませんか?」
「怖いのと不快なのは違うよ。ミュイだって、こんな場所で一日中働くのは嫌だろう?」
「それは……嫌です。足が冷たくなるし、毛に泥がつくし」
「だろう? それに冒険者だって、二度と来たくないと思うぞ」
「冒険者に何度も来てほしいんですか?」
「もちろん。お客さんが来なくなったら、ダンジョンだって困るだろう?」
ミュイは金色の目を丸くした。
「お客さん……。冒険者って、お客さんだったんですね」
「少なくとも、俺の担当区域ではそういうことにする」
ショウタは生成りの麻シャツの袖をまくった。膝当てのついた革の作業ズボンに、油を染み込ませた編み上げブーツ。腰には巻尺と玄能、特注の水平器を下げている。
前世では一級建築士だった。住宅も商業施設も設計したが、工期と予算に追われる日々のなかで、いつしか建物を造る喜びを忘れかけていた。それが異世界に転生し、魔王配下のダンジョン管理人になった途端、また石や木に触れたくてたまらなくなったのだから、人生とは妙なものだ。
「まずは通路の寸法だな」
巻尺を伸ばすと、金属の先端が石壁に触れて小さく鳴った。
「幅は一メートル八十、天井高は二メートル十か。大きな荷物を背負った冒険者には、少し窮屈だな」
「そんなことまで気になるんですか?」
「気になるさ。それよりミュイ、ここで一番嫌なのは何だ?」
「泥です。それから暗いのも嫌です。何かが隠れていそうで」
「よし。じゃあ、まずそこを直そう」
「私のために?」
「ここで働く仲間が嫌がる場所を、放っておけないだろう」
ミュイの耳がぴんと立った。その嬉しそうな顔を見て、ショウタまで元気が湧いてきた。
壁を調べると、目地の一部だけが妙に乾いていた。耳を寄せると、向こう側からかすかな風の音が聞こえる。
「この裏に空間があるな」
「壊すんですか?」
「いきなり壊したりしないよ。大事な壁だったら天井が落ちてくる」
「そ、それは困ります!」
ショウタは古い図面と石積みの状態を確かめ、荷重を支える部分を避けて小さな開口部を設けることにした。補強用の石材を組み、タガネを目地に当てる。
キン、キン、と玄能の音が響いた。
「ショウタ様、私もやってみたいです」
「いいぞ。手元に気をつけて、ゆっくりな」
ミュイが慎重に玄能を振るうと、石の隙間から細かな砂が落ちた。
「できました!」
「上手だ。その調子」
最後の石を外した瞬間、乾いた風が二人の頬を撫でた。カビの臭いが薄まり、ミュイの黒い髪がふわりと揺れる。
「わあ……風です! 地下三階なのに!」
「上のドワーフ坑道から流れてきているんだ。風の通り道を作れば、空気は変わる」
ミュイは何度も深呼吸した。
「気持ちいい……。私、ここで働くのが少し好きになりました」
ショウタの胸が温かくなった。前世では大きな建物を完成させても、そこを使う人の笑顔を直接見る機会は少なかった。今は目の前に、喜んでくれる相手がいる。
「よし。次は床だ」
「まだやるんですか?」
「もちろん。せっかく風が通ったんだから、足元も気持ちよくしよう」
水の逃げ道を確保し、二人は玄武岩の端材を運んだ。ショウタが下地を整え、ミュイが石を並べる。重い石を持ち上げるたび、彼女の尻尾が左右に揺れた。
「ショウタ様、この石だけ浮いてしまいます」
「下に小石が挟まっているな。取ってごらん」
「あっ、本当です!」
「いい床は、歩く人を転ばせない。見た目より先に、それが大切なんだ」
作業は夕方近くまで続いた。泥だらけだった通路には平らな石畳が伸び、壁の窪みに植えた青い発光苔が柔らかな光を投げかけている。光源を石の縁で隠したおかげで、目に直接光が入らず、薄暗い地下に穏やかな明るさが生まれていた。
「まるで神殿みたいです!」
ミュイは石畳の上を何度も歩いた。
「でも、神殿よりいいところがあるぞ」
「何ですか?」
「ここなら泥で滑って尻もちをつかずに済む」
「もう! せっかく褒めたのに!」
二人の笑い声が通路に響いた。
ようやく休憩所のベンチに腰を下ろすと、ショウタの腹が情けない音を立てた。
「しまった。昼飯を食べ損ねたな」
「私、もうお腹ぺこぺこです!」
ミュイが籠から麻布の包みを取り出した。ゴブリンの婆さんが作ってくれたライ麦パンのサンドイッチと、地下茸の温かなスープだった。パンには厚切りの塩漬け豚肉と野生のクレソンが挟まれている。
「いただきます!」
ショウタがパンにかぶりつくと、硬い皮がぱりっと割れた。豚肉の脂の甘みとクレソンの爽やかな苦味が口に広がり、思わず目を細める。
「うまいなあ。働いたあとの飯は格別だ」
「このスープもおいしいですよ!」
茸と干し肉の出汁が染みた熱いスープは、冷えた身体を芯から温めてくれた。
「ショウタ様、これ、昨日水路の脇に植え直した茸ですよね?」
「ああ。風通しがよくなったから、育ち方も変わるかもしれないな」
「環境が変わると、食べ物までおいしくなるんですね」
「そういうこともあるさ。建物を直すっていうのは、壁や床をきれいにするだけじゃない。そこで暮らす人が、昨日より少し幸せになることなんだよ」
「じゃあ、ショウタ様は私を幸せにしてくれたんですね」
「大げさだな」
「大げさじゃありません。今日は足が冷たくないですもの」
照れくさくなったショウタがスープを飲み干した、そのときだった。
通路の奥から、金属の擦れる音が聞こえた。
「……誰か来ます」
ミュイの耳が伏せられた。現れたのは三人の冒険者だった。先頭の戦士は傷だらけの甲冑をまとい、魔術師の少女は煤に汚れた灰色のローブを引きずっている。若い弓使いも肩で息をしていた。
「くそっ……また行き止まりか」
戦士はショウタを見るなり剣に手をかけた。
「お前、魔王の手下か?」
「まあ、ここの管理人です」
「管理人だと? 罠はどこだ!」
「この通路にはありませんよ」
「嘘をつけ!」
ショウタは困ったように笑った。三人ともひどく疲れている。魔術師の少女など、立っているのがやっとだった。
「まず、休みませんか?」
「……は?」
「足元は滑りませんし、風も通ります。そこのベンチを使ってください」
戦士は疑わしそうに石畳を踏んだ。泥が跳ねないことに驚き、天井を見上げる。
「なんだ、この空気は……」
「息がしやすい……」
魔術師の少女が壁に手をつき、ゆっくり腰を下ろした。
「ずっと頭が痛かったのに……ここ、静かで落ち着くわ」
その声を聞いたショウタは、胸の奥がじんと熱くなった。自分の仕事が、また一人を楽にできたのだ。
「奥には宿泊用の個室もあります。湿気を抑える結界付きで、一泊銀貨三枚。温かい茸スープもお出ししますよ」
「宿泊?」
戦士は目を丸くした。
「ダンジョンの中で泊まれるのか?」
「ええ。無理して進んでも危ないでしょう」
「……三人分、頼めるか?」
「もちろんです」
戦士が差し出した銀貨を受け取ると、ミュイがショウタの袖を引いた。
「ショウタ様、本当にお客さんが来ましたね」
「ああ。しかも三人もだ」
「じゃあ、明日は何を直すんですか?」
「まずは客室の寝床を柔らかくしよう。疲れた人には、よく眠れる場所が必要だ」
「私の寝床もですか?」
「もちろん」
「やったあ!」
ミュイの尻尾が大きく揺れた。
その夜、客室の寝具を整え終えたショウタは、もう一度通路を見回った。青い発光苔が照らす石畳の端に、まだ湿った一角が残っている。
「……おかしいな」
改装前からあった黒い水たまりだった。排水路を整えたはずなのに、石の割れ目から少しずつ水が湧いている。
ショウタはしゃがみ込み、指先で触れた。
「……温かい?」
地下三階の冷たい空気の中で、その黒い水だけが、かすかな熱を帯びていた。
ショウタの胸に、建築士としての好奇心がむくむくと湧き上がった。
「これは……明日の朝、調べてみる価値がありそうだな」
魔王がこの改装をどう思うかなど、すっかり忘れていた。
第一話 終
第二話 黒湯の湧く地下迷宮――魔王様、温泉営業は前途多難です!
ショウタは、昨夜見つけた黒い水たまりの前にしゃがみ込み、胸の高鳴りを抑えられずにいた。石の割れ目から湧き出す水は、濃い珈琲のように黒く、薄い湯気を立てている。鼻を近づけても腐臭はなく、湿った土と古い木を思わせる匂いがした。
「ショウタ様、朝からそんなところで何をしているんですか?」
ミュイが朝食の籠を抱えてやって来た。今日は薄桃色の麻のチュニックに焦げ茶色の革ベストを重ね、黒髪を青い紐で結んでいる。足元には昨日ショウタが用意した柔らかな革靴を履いていた。
「ミュイ、これを見てくれ」
「昨日の黒い水たまりですよね?」
「そう。でも、ただの泥水じゃないかもしれない」
ショウタは木の柄杓で水をすくった。光に透かすと、黒い水は赤褐色に輝いた。
「温かいんだ」
「えっ? こんな真っ黒なのに?」
「前世の日本には、黒湯という温泉があった。太古の植物などの有機物が長い年月をかけて変化し、その成分が地下水に溶け込むと、こんな色になることがあるんだ」
「黒い温泉……。魔女の薬みたいですね」
「見た目は怪しいけど、いい湯かもしれないぞ」
「じゃあ、入ってみましょう!」
ミュイが革靴を脱ごうとしたので、ショウタは慌てて止めた。
「待った! 温かいからって、安全とは限らない」
「ええっ、そうなんですか?」
「まず調査だ。温度も成分も、湧く量も確かめないとな」
ショウタは鑑定石を取り出し、湯に近づけた。淡い青い文字が浮かび上がる。
『地下湧水。水温四十一度。有害魔力反応なし。微量の塩分と有機成分を含有』
「よし。少なくとも有害な魔力反応はない」
「じゃあ、温泉ですか?」
「その可能性は高い。でも、鑑定石だけでは衛生面までわからない。まずは湧き方を調べよう」
ショウタは石の割れ目を観察した。黒褐色の地層を通ってきた湯が、少しずつ窪みに溜まっている。流れは細いが、途切れる気配はなかった。
「うまくいけば、地下三階に温泉を造れるぞ」
「本当ですか!」
「ただし、浴場を造るのは簡単じゃない。防水、排水、換気、湯の管理……考えることが山ほどある」
「ショウタ様、嬉しそうですね」
「そりゃあ、建築士の腕の見せどころだからな」
試験用の小さな湯槽を造り始めたのは、朝食を済ませてすぐだった。ショウタは石材を組み、湯が溜まるように底を整えた。ミュイも小さな石を運び、張り切って手伝った。
「これで足湯くらいならできそうですね!」
「まだ試験中だけどな。まずは水を溜めてみよう」
ところが、しばらくすると、ミュイが悲鳴を上げた。
「ショウタ様! お湯がなくなっていきます!」
見ると、湯槽の底から黒い湯が染み出し、石畳の隙間へ流れ込んでいた。
「しまった。岩盤に亀裂があるのか」
「温泉が逃げちゃいます!」
「慌てるな。まず湯を逃がして、亀裂を調べよう」
ショウタは仮設の水路を設け、石材の継ぎ目を一つずつ確認した。表面が丈夫に見えても、地下の岩盤には長い年月で生じた割れ目がある。湯槽を造るなら、防水層を設けなければならなかった。
「お風呂って、穴を掘ってお湯を入れるだけじゃないんですね」
「そうなんだ。見えないところほど大切なんだよ」
ミュイは残念そうに耳を伏せた。
「早く入ってみたかったのになあ」
「俺もだよ。だからこそ、安心して入れるものを造ろう」
しかし、問題はそれだけでは済まなかった。
「ショウタァ! どこにいる!」
昼前、赤銅色の髭を揺らしたドワーフの親方ガルドが怒鳴り込んできた。
「ガルド親方、どうしたんです?」
「どうしたもこうしたもあるか! お前のところから流れた黒い水が、下の鍛冶場の排水溝に入り込んだんだ!」
ショウタの顔から笑みが消えた。
「それは申し訳ありません。すぐ確認します」
鍛冶場へ降りると、排水溝の周囲に黒褐色の水が溜まっていた。炉の熱気が頬を焼き、鉄を打つ音が耳に響く。作業を中断したドワーフたちが、不機嫌そうにこちらを見ていた。
「ショウタ様……私たち、悪いことをしたんでしょうか」
ミュイの声が震えた。
「迷惑をかけたのは確かだ。俺の調査が足りなかった」
ショウタはガルドに深く頭を下げた。
「すみませんでした。温泉用の独立した排水路を設計します。熱い湯がそのまま流れ込まないよう、冷却する設備も考えます」
「口だけじゃ信用できんな」
「図面を持ってきます。親方にも確認していただきたい」
ガルドは腕を組み、しばらくショウタを睨んでいた。
「……ふん。そこまで言うなら見てやる。配管工事も手伝ってやらんことはない」
「ありがとうございます!」
「ただし、酒一樽だ」
「高いなあ!」
「迷惑料込みだ!」
ミュイが思わず吹き出し、ガルドも髭の奥で笑った。
ようやく一息ついたころ、ゴブリンの婆さんが昼食を届けてくれた。赤い頭巾に灰色の前掛けを着け、大きな籠を抱えている。
「今日はずいぶん騒がしいねえ」
「温泉を造ろうとしたら、問題だらけで」
「そりゃそうさ。商売ってのは、始める前が一番大変なんだよ」
籠には焼きたての丸パン、香草をまぶした鶏肉の串焼き、豆と根菜のスープが入っていた。ショウタが串焼きにかぶりつくと、ぱりっと焼けた皮から肉汁が溢れ、香草の匂いが口いっぱいに広がった。
「うまい……。生き返るなあ」
「ショウタ様、スープもおいしいですよ」
ミュイは陶器の器を両手で包み、嬉しそうに湯気を吸い込んだ。柔らかく煮えた豆と甘い人参が、疲れた身体を温めてくれる。
「ところでショウタ様、温泉ができたら、女の人も安心して入れるんですよね?」
「もちろん。そのためには男女別の浴室と脱衣所が必要だな」
「鍵も欲しいです。知らない人に着替えを見られたくありません」
「そうだな。目隠しも設けよう」
「それから、猫獣人は濡れた毛を乾かすのが大変なんです」
「なるほど。湯上がりに身体を乾かせる暖かい部屋も必要か」
ショウタは手帳に書き込んだ。ミュイの何気ない言葉が、設計図に新しい命を吹き込んでいく。
午後になると、昨日泊まった三人の冒険者が通りかかった。
「管理人さん! 温泉ができるって本当か?」
戦士が興味深そうに覗き込んだ。洗ったばかりの甲冑を着込み、昨日よりずっと顔色がよい。
「まだ工事中ですよ」
「いつ入れるんだ?」
「安全が確認できてからです」
「金なら払うぞ!」
「そういう問題じゃありません」
魔術師の少女も黒い湯を見つめ、ため息をついた。
「残念。私、もう三日もまともに身体を洗っていないの」
「完成したら、ぜひ使ってください」
「約束よ?」
「ええ、約束です」
ショウタは笑った。客が楽しみにしてくれるのは嬉しい。だが、期待に応えたいからといって、危険な施設を開くわけにはいかなかった。
夕刻、黒い甲冑をまとった魔王軍の監査官が現れた。
「ショウタァァァ! 貴様、また勝手なことをしているな!」
「監査官殿。ちょうどご相談したいことが」
「冒険者を宿泊させているだけでも問題なのに、今度は温泉だと?」
「はい。まだ計画段階ですが」
「ダンジョンは冒険者を倒すための施設だ! 休憩所を造り、宿を開き、今度は風呂とは何事だ!」
ショウタはしばらく黙っていた。監査官の言い分も理解できる。自分は魔王軍の管理人であり、好き勝手に施設を造ってよいわけではない。
「監査官殿、一つお願いがあります」
「何だ!」
「温泉の営業計画書を提出させてください。安全対策、工事費、収益予測、それから魔王軍への納付金も記載します」
「納付金……?」
監査官の眉がぴくりと動いた。
「つまり、冒険者から金を取るのか?」
「はい。宿泊と温泉を利用してもらい、その収益をダンジョンの維持管理に回します」
「……ふむ」
「ただし、許可が出るまでは営業しません」
監査官は腕を組み、長い沈黙のあとで言った。
「よかろう。三日以内に計画書を出せ。魔王様に報告する」
「ありがとうございます!」
「勘違いするな! 許可したわけではないぞ!」
監査官が去ると、ミュイは大きく息を吐いた。
「ショウタ様……温泉って、造るだけでも大変なのに、許可まで必要なんですね」
「ああ。しかも、まだ問題が残っている」
「えっ、まだあるんですか?」
「湧く量が足りるかどうかだ。お客さんが大勢来ても、湯が足りなければ営業できない」
ミュイは黒い湯を見つめた。
「じゃあ、明日も調査ですね」
「そうなるな」
「私、お手伝いします」
ショウタは彼女の笑顔を見て、疲れが少し軽くなるのを感じた。
「ありがとう。頼りにしてるよ」
その夜、ショウタはランプの下で図面を描いていた。防水、排水、換気、脱衣所、客室、そして湧出量の調査。考えることは山ほどある。それでも、鉛筆を動かす手は止まらなかった。
誰かが疲れを癒やし、安心して笑える場所を造りたい。その願いだけは、前世から変わっていなかった。
ところが、深夜。
地下三階の奥で、突然、低い地鳴りが響いた。
ゴゴゴゴ……。
ショウタは顔を上げた。
「……まさか、湧水の圧力が変わったのか?」
黒い湯の水面が、不気味に波打ち始めていた。
温泉営業への道は、まだまだ遠かった。
第二話 終




