前世で好きだった人が、職場で甘えてきた件
ドッ!!アハハハハハ!!………『えー!そんなー…』
「ねぇ。。。」
「んー??」
「その番組、面白いの?」
「え、んー。普通、かな。。。?」
「じゃぁなんでこっちに来ないの?」そんな普通の番組を観ていないで、自分のところに来てほしい。そんな意味で言っている。いつも通り言葉足らず。
なのにプクッと膨れた頰が可愛い。色白のこの子の肌が朱に色づくのもなんだか艶やかで、どぎまきと、落ち着かない。
「え、だって貴女。さっきまでリモート会議してたでしょ??どうやってそっちに行くの。」
「……。それでも、貴女が私を見ていないのが許せないの。わかるでしょ??」
「いやいや。どうやって察するの?それに、貴女この後休日出勤するって言ってたじゃない。私が入る余地なんてのもないじゃない、、、」
「それでも、ホントは今日は、休みなのよ。私に構ってくれないなんて、冷たいじゃない。」
「もう。。。そんなことで冷たいとか、ホントに貴女って、思ったよりも甘えたよね。」
「いいじゃない。昔は甘えられなかったんだから。今世ではいっぱい甘えていくって決めてるの。貴女だって、甘えられたいでしょ?」
「えー。。。そんな言い方されたら、貴女に構い倒したくなるじゃない、、、」
はぁ、と溜め息を零しながら、この子の本音に顔が崩れて嬉しくなる。
それに、ひと時も離れず私と居たいと思ってくれている。それが分かるから、私も想いを返したくなる。
いつも、私を自由に翻弄する彼女。いつか仕返したいと思っても、すぐにどうでも良くなって彼女のペースに乗せられる。それが何だか解せないこともある。それでも、彼女がいれば、何もいらない。
私はそれを、識っている。
この子は、前世でも私の前にいなければ、しっかり者の上官だった。それは、今も変わらないところ。
他人の前では鉄面皮。誰も寄せつけない氷のような冷たさを周りに振り撒いていた。
だけど、仕事はしっかりこなすし、誰かがやらかしても直ぐにリカバリーに入るから、上にも下にも頼られる子だ。それは、前世も今世も変わらない私の自慢。
だから、彼女が私に甘えることがとても、誇らしい。誰にもあげられない、私だけの特権。絶対誰にも渡しはしない。それが、今世の私の決意。
「……。職場なんて行きたくない。なんで、私がフォローアップに入らなきゃならないの、、、貴女との時間を、奪ってまで必要なの??」
「拗ねないで。私だって貴女と同じ想いなんだから。それでも、貴女は上の人間になってしまって、クライアントがこの日までの解決を求めるんだから、進めなくちゃいけない。分かってるでしょ?早く終わらせて、私との時間を作りましょ??」
未だ不承ながらに表情はしかめ面をしているけど、緩慢に出勤の準備を進めている彼女。
「…早く終わらせたら、抱きしめて欲しい。」
「えっ?…えぇ、いいわよ?ちゃんと、終わらせて帰ってきたらいくらでも、抱きしめるわ。」
「良い子良い子も、つけて。」
「…………。わかったわ。」
「よし。それなら、行ってきます!」
まるで風のような速さで準備を終わらせ、職場に行ったあの子。現金な感じもするが、理不尽な仕事を頑張ってくるのだ。私も家にいる時は甘やかしたい。
そう、いつもあの子を思っている。
そんなこんなで、仕事を頑張ってくるあの子に、家の中ではどんな無理難題でも応えるつもりで甘やかしている私だけど、今のこの状況は、どうすべきかと困っている。
前日にクライアント対応のため、休日出勤した彼女。ベッタリと何をするにも私からずっと離れず、晩ご飯作りも四苦八苦したけれど、、、
あの子の頑張りを認めたくて、いっぱい甘やかしたつもり、だったんだ。
今現在、月曜日のお昼、食堂にて。
そう、他の社員の目もある中で、私の隣にピッタリと座り私にくっつきながら、ご飯を食べさせて欲しいと、艶やかな唇を大きく開きこちらを見つめている。
あれだけ昨晩甘やかしてベッタリと一緒にいて、何でも許していたつもりだった。
だけど、こんな衆目環視の状況で甘えてくるなんて、想定外だし、今まで求めてくることもなかった。
だけど、今この時は家にいる時のような甘え方をしているのだ。どうしよう?
周りに同棲していることは伝えてあるけれど、付き合っていることなんて言ってはいない。
ここで食べさせてあげたりなんてしたら、まるでカミングアウトしたみたい。
流石に私の神経はそんなに図太くなんてないし、あの子だって、煩わしいことが昔から嫌いなはずだ。どうして今ここで自分から首を締めようとしているのか?目で訴えてみたんだけど。
「どうしたの?早く食べさせて??」なんて、キョトンと私に聞いてくるだけ。
え?なんでこんなに冷静に言ってくるの??ザワザワとする周囲の喧騒が全部私たちを指しているのではないかと、心臓が跳ね上がり周りを見ていられない。
なんて、頭をグルグルさせていたら。
「……。周りに知られてもいいかなって。というか、知って欲しい。」
「え、なんで??」
「私の休日、独身だからって、皆んなどうでもいいと思ってるのよ。だから、昨日みたいな案件も私に回ってくるし、身軽だから対応出来ると思われている。それが、許せない。仕事を他人に押し付けておいて、自分たちは家族や恋人と時間を過ごしている。ずるいじゃない。私だけ、貴女との時間を奪われるのよ?私だって、休日を必要としてること、教えないと。それに、貴女って結構周りに狙われてるじゃない?だから皆んなに私たちのラブラブっぷりを見せつけて、虫除けした方がいいでしょ??」
プイとそっぽを向く彼女。自分から仕掛けといて恥ずかしくなったのか、耳を赤く染めながら、私の方を全く見ない。
ズルイ。言いたいことだけ言ったら、私の言い分なんて関係なしに、ベッタリ引っ付いて、いじけ出した。
周りにだって何事かと思われている。
でも、そんなことお構いなしにあの子ったら。
「だって、貴女を1番愛しているのは私なのよ、、、?だから、貴女との時間を1分1秒でも無駄にしたくないし、誰にも渡したくない。私が貴女の時間を全部もらうの。貴女にだって、好きにさせない。私だけの、貴女との時間なんだから。仕事だとか、お昼だとか、そんなことで煩わされるくらいなら、全部、私の好きにするわ。貴女といるためなら、どんな事も、どんな時だって、奪われることがないように、ここにいる人皆んな、誰にだって、押し通してみせるわ。。。」
なんて暴論。なんて暴君なんだ。
私を1番愛しているって、何よりも嬉しいと思ったのも束の間に、彼女ったら。。。
私の時間を私が使えないばかりか、周りも巻き込むなんて。全部あの子の時間になってしまったら、私はどうやって生きるのだろう?仕事だって、人付き合いだって、私は出来なくなる。
呆れる思いもあるけれど、それ程私を想っているのだと思うと、どうしようもなく嬉しくなる。
だって、私は今世でこそは、彼女とは絶対に、ずっと離れたくなんてない。ずっと一緒に生きていたい。
そうだ。私の全部は、彼女のものなのだ。私はそれを識っていたつもりだった。だけど本質は理解できていなかった。
彼女の私への想いは、こんなにも溢れかえっていたというのにだ。どうしようもないほど、強い想いが、私以上に、私のことを想ってくれていた。それが、とてつもなく、フワフワするくらいに嬉しい。
「もう。貴女ばかり私を愛しているみたいじゃない。私だって、貴女以上に大切な人はいないのよ?もっと、私に甘えてほしいって思ってるし、甘えたいとも思ってるんだから。だから、1人で全部、決めないで??これからは、私たち2人でちゃんと考えましょう?ここにいる皆んなにだって、教えても困らない気持ちなんだから、想いを伝えましょう?」
ね?って少し首を傾げながら、あの子に想いを届ける。だから、1人じゃない。私も一緒にいたいのだから、もっと頼って欲しいと、甘えて良いのだと、想いを言葉にのせた。
職場の食堂でなんて、って最初は思ったけれど、驚いている人はいたけど、思っているより周りは、受け入れていた。それに驚きもしたけれど、ここだから、今だから、伝えられる気持ちがあったのだ。それに気づくことが出来た。彼女の勇気が変えたのだ。
だから、彼女の気持ちを曇らせたくない。これからも、伝え続ける。これからを、大切にするために。
そう。彼女がいれば、それ以上何もいらない。。。
私はそれを、知っているのだ。
ああ、意味がわからない。
また私の対応案件?どうして??
本来この仕事は他の人のものだった。それを、休日対応が行えないからって、私の方へ振り直してくるなんて、上も自分勝手だし、担当者だってふざけている。
自分だったらやらないくせに、私なら許されると思われているのが悔しい。私の時間は無限とでも思われているのか?そんなはずはないというのに。
私の時間は全部彼女に捧げているのに、私の時間を他人に奪われていることが許せない。
それなら、私の時間は誰にもあげられないことを伝える必要があるのかしら?でも、どうやって??
自問自答してしまう。
ほんと、ズルイと思う。
堂々と周りに言うことができる人たちが羨ましい。なんて、思うけど、私がそれをしていないだけ。そんなことだって、分かってる。
ズルイなんてことは、ない。
私に勇気がないだけ。そんなこと、わかってる。彼女との時間を減らしているのは、私自身。
だからもどかしい。
もどかしい。そんな気持ちになるなら、こんなところにいることだって、必要なのだろうか?
わからなくなる。今の時間が悪いわけでもない。
親切な人だっているのだ。何も、ダメなんてことはない。そう、わかっている。
それでも、私の気持ちはもう、止めたくないのだ。
だから、私は言葉で、態度で、皆んなのいる前で、示したのだ。彼女との時間を奪われないよう、彼女自身を奪われないように。
そしたら、彼女ったら。。。
私と同じように気持ちを言葉にしてくれた。お昼時の食堂で、人のいるその時に、愛しさを伝えてくれたのだ。私の気持ちを受け止めて、返してくれる。こんな嬉しいことはない。これからは堂々として彼女といられるのだ。なんて、幸福。
昔から、彼女は私が欲しいものを欲しいタイミングで与えてくれる。エスパーのような彼女。
愛してる。何よりも、大切な彼女。
そんな彼女を困らせてしまったと思ったのに、彼女は、私を愛しいといってくれる。それが、何よりも幸せなのだ。ずっと、離れない。愛しい人。
私は知っている。
彼女が、何時、如何なる時も、私を優先し、私を愛し、甘えさせてくれることを。
ずっと、ずっと、共にいる、愛しい人。




