壊れた悪女は空気に話しかける
世界を滅茶苦茶にした悪女がいた。
その悪女は、断罪され、牢屋に閉じ込められた。
世界の中でも、環境が特に悪いという牢獄の、その一室に。
そのため、悪女はすぐに心を壊した。
牢屋に収容される前にさんざんいたぶられ、罰を受けてきたため、その影響もあっただろう。
精神を病んだ悪女は、光のない瞳で空気に話しかけるようになった。
その会話の内容は、他愛もないものばかりだ。
「おはよう」
「おやすみ」
「いただきます」
「ごちそうさま」
「いってきます」
「ただいま」
耳にした看守の口からは、それらは悪女らしくない、ごく普通の少女の言葉に聞こえたという。
しかし一定の周期で始まりと終わりを繰り返しており、終わりに近づくにつれて、言葉の内容は暗くなるという。
「おはよう。なんてそんな言葉を聞いてくれるものはいないわね」
「おやすみ。だなんて、きっと言っても無駄だわ」
「いただきます。今日はあるのね」
「ごちそうさま。食べられるものは少なかったけど、あるだけましだわ」
「いってきます。きっとみんな帰ってこなければいいと思っているはず」
「ただいま。なんだ帰ってきたのか……って落胆の表情を隠しもしないのね」
悪女は確かに悪女だった。
罪を犯し、多くの者達を困らせた。
歴史書にのるほどで、多くの人が知っている。
「どうして誰もわたくしを見てくれないの? わたくしを見て、誰でもいいから」
しかし、その理由をしるものは、特別な牢屋を見張る看守以外はいない。




