舞踏会にて。枯れない恋を応援します
「メル・アルト公爵令嬢! 俺との婚約は破棄し、先代辺境伯のもとに嫁ぐよう命じる!」
舞踏会会場で下された宣言に人々は驚き、一斉に騒めいた。
"淑女の中の淑女、メル嬢との婚約を破棄? 殿下は正気か?"
"辺境伯には既に妻子がいるぞ?"
"先代と言った。つまり家督を譲り引退した……"
まさか十八の乙女を、七十過ぎの老人に嫁がせる気か!
確かに奥方は逝去しているが──。
周囲が騒然とする中、完璧と名高いメルは取り乱さない。
けれど心は正直なようで、彼女の瞳からは真珠のような涙がポロポロと零れ落ちた。
一体全体、彼女にどんな非があったら、そんな酷い命令を下すことが出来るんだ。
非難の目が王子に向かう中、「お待ちを!」と声が響き、若い貴公子が歩み出た。
広間を縫って、メルの前に跪く。
「王子殿下との婚約が消えたとなれば。メル嬢、貴女をずっとお慕いしておりました。ぜひ私の妻になってください」
それを皮切りに、次々に貴族の輪から手が挙がる。
「私こそメル様を幸せに出来ます。結婚はどうか私と」
「何を言う、メル嬢に求婚するのは僕だ」
途端に王子が叫んだ。
「却下だ! ぽっと出のお前達にメルは渡せん! 弁えろ!」
「なっ、殿下はたった今、彼女との婚約を破棄されたではありませんか」
「だからメルの嫁ぎ先を指定しただろう!」
「その嫁ぎ先が問題かと!」
騒ぎを、可憐なメルの声が遮る。
「お待ちください皆様。殿下は私の初恋を叶えようとしてくださっただけです」
"え?"
「私が昔、先代辺境伯様の剣舞に惚れ、"お嫁に行きたい"と願ったから」
人々の目が点になる。
メルが言葉を継いだ。
「殿下、私へのご配慮、有難うございます。ですがメルは疾うにフラレております」
「何? フラレた?」
「はい。殿下との婚約前、"娶って欲しい"と辺境に突撃し、失恋しました。亡き奥方様一筋だと。もう吹っ切れております」
「そうとも知らず俺は……。鍛錬を重ねても、お前の理想に追いつけないと焦って──」
「私は真面目な殿下が大好きです。どうか婚約続行でお願いします」
「メルっ」
「殿下!」
見つめあう二人に周囲は気まずく散り、"自室でやってくれ"と零した。
その後。
「老年にして尚、メル嬢ほどの美姫に惚れられるなら」と希望を抱く者が続出。辺境に修行志願者が殺到した。
舞踏会での一幕は、メルに懸想する輩を炙り出し、辺境の人員不足を解消する王子の策略だったのではと言われている。
……本当か?
「メル、愛してる」
お読みいただき有り難うございました!
なろうラジオ大賞2025! 今年も開幕ですね!
なろうでテーマ「舞踏会」といえば、婚約破棄!
そんなわけで、定番作品で投稿です。
書き終え直後は1600文字。そこから1000文字にするため削りに削りました。王子の名前や辺境シーンがなくなったのは字数制限のせい…ふふ。
ところで達人の演舞ってめっちゃカッコいいですよね! 老年なればこそ熟達した技には見惚れるものがあります。
メル…、公爵家の娘なのに突撃を許されたのは、公爵パパが先方が断るとわかってたので気の済むようにさせた、という背景があります。一世一代のわがまま(笑)
でもって辺境伯家ではメルの告白、ほっこりした思い出話になっています。
殿下は先代辺境伯を目標に励んだので、作中ではこんなですが、しっかり鍛えてる王子でした。
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