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47 セイブルの鐘

 その後、アルバート・クロウリーは静かに永遠の眠りについた。

 かつての英雄の死は新聞を賑わせ、人々の噂にも一時上ったが、その死因にはただ一言――「老衰」とだけ記されていた。


 沈黙の英雄の生涯は、こうして音もなく幕を閉じたのだった。


◇◇◇


―――


敬愛なるエドガー・レイブンズ様


拝啓。

こちらは早いもので、もう白い雪が舞い始めております。

それでもノルドレアの青い空はどこまでも澄み渡り、穏やかで、美しいものです。

きっとオルドンの街には、今日も霧が降りていることでしょう。


旦那様には、大変よくしていただいております。

新しいお屋敷は白を基調にした、とても上品で静かな佇まいです。

バルコニーからは、きらきらと輝く湖が見えます。

その深い青色の水面は、いつかの貴方の瞳を思い出させてくれます。


――私のお腹の中には、新しい命が宿りました。

不安もありますが、それ以上に、あたたかな希望で胸がいっぱいです。

お祖父様と貴方が守ってくださったこの人生を、私は大切に、大切に生きていくつもりです。


貴方とお祖父様が守り抜いた“沈黙”を、私も守って生きてまいります。

ここに私の名は記しません。

けれど、聡明な貴方なら、これで十分伝わると思いました。


こちらの勿忘草の栞を同封いたします。

小さな青の花びらが、どうか貴方の記憶の片隅に咲き続けますように。

どうか、お身体をお大事に。


敬具。――ノルドレアの雪より。


―――


 エドガーは手紙を丁寧にたたみ、青い花の栞を指先で撫でた。

 ふっと、柔らかな笑みが唇に浮かぶ。

 それを机の引き出しにしまい、ゆっくりと立ち上がった。


 ダークブルーのコートを羽織り、帽子を被り、杖を手に取る。

 玄関の扉を開けると、霧の街の冷たい風が頬を撫でた。


 コツ、コツと黒革のブーツが石畳を打つ。

 その背で、長い黒髪が静かに揺れた。


 ――遠くで、セイブルの鐘が鳴る。

 その音は澄んで、どこまでも遠くへ届いていく。


 彼は今日も、霧の街オルドンで生きていく。

 沈黙を胸に、静かな青を纏って。

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