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46 報告

 クロウリー邸にて。

 ハーブティーの穏やかな香りが、部屋を満たしていた。

 暖炉の火がぱち、ぱちと弾け、その灯が二人の男の横顔を柔らかく照らしている。

 外の空気はまだ冷たいが、応接室には早春の花が飾られていた。


「閣下……やり遂げました」

 静かな声が落ちる。


「そうか」


 クロウリーの灰の瞳が、微かに細められた。

 深い皺の間に刻まれた笑みは、長い沈黙をようやく終えた男のものだった。


「最上の裁定だ」


 黒髪の青年もまた、ゆるやかに微笑んだ。

 時計の針がひとつ、時を進める。

 暖炉の音とともに、沈黙がふたりの間を穏やかに満たした。


 やがてエドガーが椅子を立つ。

 クロウリーもゆっくりとあとに続き、差し出された手を取った。


 二人は固く手を握り合う。

 年老いたその手は、乾いて硬く、しかし確かな温もりを宿していた。

 沈黙を生涯貫いた者の手。


 エドガーは深く一礼し、扉へ向かった。

 沈黙の誓いを胸にして。


 外では、青い空が広がっていた。

 枝先には小鳥のさえずりが響き、春の風が頬を撫でる。

 エドガーは並木道で立ち止まり、ひとつ、目を閉じた。

 そしてまた、静かに歩き出した。


◇◇◇


 エドガーの去った後、クロウリーはバルコニーに立っていた。

 手すりに触れると、冬の名残を含んだ冷気が指先を包む。

 空を仰げば、雲がゆっくりと流れていく。


「陛下……見ておられますか」

 静かに、しかし確かな声で。


「私は貴方の無理難題を――やっとやり遂げましたぞ」


 老いた頬を、一筋の涙が伝った。

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