2.3 過去の告白
深見の電撃的な行動に、金子だけではなく、近くにいた弘道や須藤、有里も一瞬にして凍りついた。金子は地面に叩きつけられ、その手から起爆スイッチが離れて転がった。深見は素早くそれを拾い上げ、安全装置を確認する。狂気めいた輝きを失った金子の目は、虚空を睨んでいた。
「金子くん、話してもらうぞ」。深見は、武沢が呼んだその名を口にした。武沢は、深見の行動に驚きつつも、どこか諦めたような表情で、ゆっくりと金子に視線を向けた。
金子は、うつろな瞳で天井を見上げたまま、唐突に話し始めた。まるで、溜め込んでいたものが堰を切ったように、言葉が溢れ出す。
「私はCIAの工作員です。なぜ私が送り込まれたかは、あなたの想像どおりです。あなたが指揮するこの部隊が確実に暗殺を遂行したか確認するために送り込まれました。途中で、この暗殺の目的に不信感を抱かないかどうか監視するのも、その目的の一つでした。あなたは任務を全うされた。そこまではよかった。だがその後、不信感を持った。この作戦に。そしてあなたは独自に調査をされた。それが戦線を離脱した理由。ゲリラに寝返った形でこの街に留まった。そしてついに、ゲリラ側から暗殺された首領と、米国のある高官とのきわどい関係を知るに至った。私はその事実を司令部に報告した。その結果、君たちが送り込まれた。それが真相だ」
そこまで一気に話すと、金子は薄ら笑いを浮かべた。その笑いは、彼の精神がすでに限界を超えていることを示していた。
「何を笑っている」武沢が、静かに金子に問いかけた。
「だって、おかしいじゃないですか。裏の裏として送り込まれた私の後ろに、さらに彼らという処理部隊という裏が登場し、そしてこの舞台の役者のすべてをひっくりかえす奈落の仕掛けがあったとは。国とは、政府とは、政治とは、奇々怪々ですな。ハハハハハ」
情報戦の裏の裏まで精通しているであろう金子の言葉は、そこにいるすべての者の心の奥底に、深く鋭く突き刺さった。彼らの使命感、彼らが信じてきた「正義」が、まるで欺瞞と狂気の連鎖の中に埋もれていくかのような感覚に襲われる。
「爆撃が始まる」。深見が、無線機から聞こえる微かなノイズに耳を澄ませながら呟いた。
「それですべてが終わる」。金子が、薄気味悪い笑みを浮かべながら幽霊のように言った。その顔は、精神が崩壊しつつある者のそれだった。
深見は、混乱の渦中で思考を巡らせる。武沢と金子の証言が真実ならば、彼らは単なる「裏切り者」ではない。彼らは、権力の暗部が生み出した「病原体」として、抹殺されようとしているのだ。そして、彼らと接触した自分たちもまた、その「感染者」として、同じ運命を辿る可能性があった。
「まだ、間に合う」。深見は、残された最後の希望にすがるように、そう口にした。