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第二章:死と再生の砂漠  2.1 武沢の選択

「私はここに残る」。武沢は静かに、しかし揺るぎない声で言った。彼の目は、遠くを見据えるように虚空をさまよっていた。その瞳には、戦場の狂気と、それに囚われた者たちの絶望を悟りきったような、老僧にも似た諦観が宿っていた。「私は戦いに疲れた。静かに休みたい」。その言葉は、彼がどれほどの苦悩を背負い続けてきたかを物語っていた。


だが、武沢の言葉は、単なる諦めではなかった。そこに、かすかな希望が宿っていた。「一つだけ頼みがある。監禁されている仲間を解放し、ここから逃がしてほしい。それが最後の願いだ。聞き入れてくれるかどうかは君に任せる」。彼の視線が、深見へと向けられた。仲間たちの命、それが彼に残された唯一の執着だった。


「上層部は最後まで追い続けるぞ」。金子が、まるで亡霊のように薄気味悪い笑みを浮かべながら言った。その声には、死を弄ぶような冷酷さが滲んでいた。「逃げ切れるかどうかは彼らの運命だ」。彼にとって、人間の命など、情報戦の駒でしかなかった。


深見は、息をのんだ。武沢の願いは、あまりにも重い。彼が背負う「裏切り者」の烙印は、決して消えることはないだろう。だが、その願いは、この狂気の中で唯一、人間らしい光を放っているように思えた。


「彼らは何も知らないのだろう」。深見が、絞り出すように言った。彼の脳裏には、先ほど見た、怯えた子供の顔が焼き付いていた。


「そんなことは情報部は信用しない。疑わしきは処分するだけだ」。金子の言葉は、冷酷な現実を突きつける。「我々も同じということか」「そうだ」。深見の心に、絶望の淵が広がっていく。自分たちもまた、捨て駒に過ぎなかったのか。


「だが一つだけ方法がある」。金子が、突如として身を乗り出した。その目に宿る狂気めいた輝きは、深見をぞっとさせた。「我々二人を君が始末することだ。そしてその映像を送る。爆撃中止をさせるにはそれが唯一の方法だ。そしてそれが私の部下と君の部下が生き残る唯一の方法だ」。金子は、自らが死ぬことすらも、一つの情報操作の手段として捉えているかのようだった。


そして、金子は懐から何かを取り出した。それは、手のひらに収まるほどの、黒いプラスチック製の箱だった。その中央には、赤いボタンが一つ。「方法は簡単だ。ここに起爆スイッチがある。こいつを押せばすべてが終わりだ」。金子は、そのスイッチを深見の目の前に突きつけた。それは、自らの命を差し出す覚悟、あるいは、この狂気のゲームを終わらせるための最後のカードだった。深見の脳裏に、彼が聞いたばかりの「ゲームは時間切れになりそうだ」という武沢の言葉がこだました。そして、目の前の起爆スイッチは、この「ゲーム」を終わらせる、決定的な「結末」を意味していた。









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