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幻想茶飯事  作者: 宵月
4/4

取引と毒気

依頼を解決した杏華

星螺の未練を叶えることになり、家に連れ帰ることに

星螺に制服を着せる杏華だが……

「制服♪制服♪ふんふふーん♪」

「…はぁ」


依頼を解決しに学校へ行ったのが昨日。

そこから一夜明けて今。

目の前には制服を着て気分がいいのか、鼻歌を歌いながら歩いたりスキップしたりしている少女の姿がある。

そんな少女を前に、小さく溜息をこぼす。


少女の名前は清水星螺。

虐めに耐えかねて学校の屋上から飛び降りた結果、幽霊となってしまった小学生だ。

一度でいいから中学の制服が着たいという未練を叶えてから早1時間。

一向に成仏する気配がない。


「で、いつになったら成仏するの」

頬杖をつきながら話しかける。

すると星螺は動きを止めてこちらを見ると、視線を泳がせて口をもごもごとさせる。

まるで親に何かをねだろうとする子供のような姿に嫌な予感がして溜息が出る。

「成仏したくないって言いたいんでしょ。……まぁ、悪い幽霊ではないから別に」

成仏しなくてもいいと口に出そうとした時、タイミングがいいのか悪いのか襖が勢いよく開けられた。

「いいわけないだろ!だからあんたはいつまで経っても半人前のままなんだよ!」

「婆ちゃん…」


祖母である倉橋 知佐子(ちさこ)は凄腕の除霊師で、現在は人に取り憑いた霊のお祓いのみを行っている。

私に除霊のやり方とかを叩き込んだ張本人で、祖母でありながらも、師匠のような存在だ。

「いきなり霊を連れ帰ってきて未練を叶えたかと思えば、成仏しなくていいなんてぬかしおって」

やらかした。これはおそらく長時間説教コースだろう。

そして、この説教が終わった後、星螺を無理矢理祓うことになる。

さて、どうしたものか。



「あ、あの!」

祖母の声のみが聞こえる空間に、星螺のはっきりとした声が響き渡る。

声のした方を向くと、畳に両膝をついた星螺の姿があった。

「満足したら成仏するので、祓わないでください。お願いします」

床に手を付き、静かに頭を下げる。

少しの間沈黙が流れる。祖母の方を見ると何も変わらない顔で星螺の方を見ていた。

当たり前だ。情に訴えても祖母には効かない。

長年除霊師をやっている人間は情に動かされることは限りなく少ない。

己の有益性を証明するしか手はないのだが……


「なんでもします!雑用でもなんでも」

頭を下げてお願いし続ける星螺から目を離して、婆ちゃんがこっちを見る。

しょうがない、あの手を使うか。

星螺がここまでやっているのに、無慈悲に祓うというのは気が引ける。

そこが私が半人前と言われる理由だろうが、今はそれでいい。

「昨日婆ちゃんに伝えた理科室の件、それを解決してくる。それの交換条件として、悪霊化するか成仏するまで星螺のことを祓わなくていいことにして」

真剣な目でそう伝える。

婆ちゃんとの取引。成功したことは今までに一度もない。

過去成功率0%の大博打だ。


沈黙が流れる。その間、一度も婆ちゃんから目を逸らさない。

こうゆう時、目を逸らした方が負けだと随分昔に教えられた。

「……はぁ、しょうがないね。今回だけだよ」

初めて婆ちゃんが折れた。

驚きと嬉しさで言葉が出ない。星螺は余程嬉しかったのかすり足で私に近づき、そのまま腰に抱きついてきた。

「ただし、必ず解決させて帰ってくることだね。もし解決できなかったら、すぐにその幽霊を祓う。いいね」


──────


「さて、とんでもない約束をした訳だけど」

学校の廊下を歩きながらそんなことをこぼす。

依頼されたことの報告にと言って学校に入り、報告を終えると念の為見回りをしてから帰ると適当な理由をつけて理科室へと向かう。

「杏華姉様!」

しばらく歩いていると、理科室に到着した。

理科室前には先に向かわせていた星羅が立っていた。

「中には誰もいなかったよ」

「なら、簡単だ。さっさと終わらせて帰ろう」

鍵がかかっていないことは把握済み。

早速中に入ろうと扉に手をかける。


「何やってるの?お姉ちゃん達」

背後から聞こえた声に驚き動きを止める。

その声には聞き覚えがあった。

「またお前かよ、少年。昨日も言ったけど、こっちは仕事で」

また邪魔をされると思い苦言を呈しながら振り返るが、そこにいたのは少年ではなかった。

髪色や瞳、少年に似ているところは多くあるが、明らかに違うというのがわかる。


スカート履いてるし。

髪も昨日より長いし。


いや、今の時代、男もスカートを履くのだからスカートを履いてることをおかしいと思うのは良くないのかもしれない。

ただ、髪はどう考えてもおかしい。

明らかに1日で伸びる長さでは無い。


「杏華姉様?」

「!」

星螺の声を聞き、我に返る。

この少女が誰であろうと関係ない、とりあえずここから離れてもらわなければ。


……ん?

ちょっと待てよ。

この子、最初私たちを見てお姉ちゃん達って……


「……ねぇ。あんた星螺のこと見えて」

「あ!いた!」

またもや聞こえてきた聞き覚えのある声に話を遮られた。

声のした方を向けば、今度こそ昨日の少年がこちらに来ていた。


「あ、昨日のお姉ちゃん達」

「昨日のって、今日の朝話してた人?」

「そうだよ」

2人だけで会話を始める少年と少女。

このタイミングで、そういえば名前を聞いてなかったことに気づいた。

「あー、少年?とりあえず、名前教えて貰っていい?」

会話を続ける少年にそう言うと、少し考えた後に口を開く。

秋弥(しゅうや)

「そっちは?」

今度は少女に名前を尋ねる。

少女も1度目を逸らしてから口を開いた。

胡春(こはる)

「秋弥と胡春ね。で、関係は?」

「「双子」」

2人揃ってそう声を発する。

なるほど、双子か。

道理でそっくりな訳だ。

胡春が星螺のことが見えているのにも納得がいく。


ちなみに、星螺は暇なのか、間違い探しでもするように顎に手を当てながら、秋弥と胡春の周りをクルクルと飛んでいる。


「ねぇ、お姉ちゃんは何しに来たの?また悪い幽霊を祓いにとか?」

「ちょっと違う。というか、折角の休み時間なのに外に遊びに行かないの」

別の話題に移ろうと質問をすると互いに目を合わせた後同時に首を縦に振る。

邪魔をされないように外へ誘導しようとしたが、無理なようだ。

さて、どうやってこの2人を別の場所に移動させようか。

休み時間は後10分、早くしなければ次の授業が始まる時間になってしまう。

そうなれば、理科室への侵入が不可能になる。


……一か八か、正直にお願いしてみるか。


「ちょっとさ、別の場所に移動してくれない?」

なるべく丁寧にお願いしてみる。

すると、胡春がそれに反応する。

「じゃあ、理科室の中でお話しよ」

「あ、そうじゃなくて。理科室から離れて欲しいんだ」

「なんで?」

今度は秋弥が反応する。

「今から理科室でちょっとお仕事しないといけないんだ。だから離れてくれないかな」

子供相手だからとはいえ、嘘は良くないと本当のことを話す。

しかし、それが間違いだった。

お仕事という言葉を聞いた秋弥が目を輝かせる。

それを見て、やらかしたと分かったが、言ってしまったものはもう取り消すことができない。

予想通り、秋弥が食い付いてきた。


「お仕事してるところみたい!」

「ダメ」

「なんで!昨日は見せてくれたじゃん」

痛いところを突いてくる。

やっぱり、あの時翠にお願いして無理やり家に連れ返してもらえば良かったと後悔する。

そうこうしている内に、胡春も興味を示したようで私も見たい、なんて言ってくる。


チラリと星螺の方を見ると、何も理解していないようでこちらを見て首をかしげた。

翠には今は留守番を頼んでいるため、ここにはいない。

となると星螺が2人のことを守らないといけなくなる訳だ。

しかし、星螺はそうゆうのには慣れていないため、必然的に私が2人を守ることになる。

……やりたくない。


「お姉ちゃん」

「ダメ」

「どうしても?」

「どうしても」

「お願い!」

「ダメだ」

「邪魔しないから!」

「……」

最終的に私の腕を掴んでお願いしてくる2人。

まるで親におもちゃをねだる子供だ。

「杏華姉様、時間がないよ」

今まで私達のやり取りを見守っていた星螺が時間がないことを告げてくる。

駄々をこねる2人、時間、婆ちゃんとの取引、考えることが多すぎて脳が思考を放棄する。

自分の今後がかかっているため急かしてくる星螺と駄々をこねる秋弥と胡春に挟まれながら1つの選択をする。


「絶対に邪魔をしないこと、いいね!」

「「はーい!」」

結局、私が折れることにした。

最悪の場合は私が2人を守ると自分に言い聞かせ、理科準備室へと入る。


中に入ると、部屋の真ん中辺りにカーテンのようなものが設置されていて、一見するとただ薬品が置いてあるだけのように思えた。

しかし、カーテンの奥からは悪霊とは違うものの、禍々しい、悪意に満ちた雰囲気が漏れ出ていた。

私を先頭にカーテンの前まで行き、勢いよくカーテンを開ける。


大量の御札に降霊術を行ったであろう跡、そして机の上には人型(ひとがた)と釘が置かれていた。

人型には既に釘打たれた跡もあった。

昨日ほどではないものの、禍々しい雰囲気がある。

おそらく、夜になるとここに霊が集まり、昨日のような雰囲気になるのだろう。

まずはこの空間を清めようと印を結びながら呪文を唱える。

「青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女、急急如律令」


空間を清め、御札を回収する。

後で正しく処理する必要があるため慎重に壁から剥がす。

「さて、あとはこの人型を……」

「?お姉ちゃん、どうしたの?」

「しっ」

静かにするように伝え、聞こえてくる音に集中する。


コツ、コツ、コツ。


「!まずい」

足音だ。しかもこっちに近づいてきている。

考えている暇はなかった。秋弥と胡春を抱えて机の下に隠れる。

息を殺して足音が止むのを待つ。


コツ、コツ、コツ。


近づいて来る足音、それは理科室に入り、理科室準備室に近づいたところで聞こえなくなった。

「……星」

外の様子を見に行くように指示を出そうと星螺の方を向くと机の下を覗き込む人と目が合った。

「ッッ!」

「みーつけた」

机の下から飛び出し、子供たちを後ろに隠す。

「御札と降霊術に使った物、片付けたのはお前か」

「当たり前だ。人を呪うことを許容する訳にはいかない」


すぐに対応できるよう、相手から目線を逸らさない。

すると相手が一枚の札を取り出し、ブツブツと呪文を唱え始める。

「急急如律令!」

唱え終わると同時に札をこちらに向けて投げる。

それは、私たちの横を通り、後ろに置いてある人体模型に張り付く。

目が、腕が、足が、まるで生きているかのように動き出す。


擬人式神(ぎじんしきがみ)

物質に霊力を込めることで操る式神の一種だ。


「手段は問わない。私の邪魔をする愚か者を追い払え!」

動き出した人体模型、もとい式神がこちらに向かって歩き出す。

手には解剖などに使われるナイフが握られていた。


式神に一番近い距離にいるのは私ではなく子供たち。

考えている暇はなかった。

「星螺、式神の足止めを!」

「分かった!」

すぐさま星螺に指示を出し、子供たち腕に抱える。

星螺が式神を押さえつけている間に理科準備室から脱出する。


「星螺、そっちはもう大丈夫だから、子供たちを!」

子供たちをおろし、理科準備室に向かって叫ぶ。

すぐに星螺が飛んでくる。

星螺に子供たちを預け、理科準備室の方を向く。


時計は22分を指している。

時間はない、一回で決める。


理科準備室から式神が現れ、その後ろには先生が立っている。

三歩前に出て、その場で止まる。

目線は式神、少しも動かさない。


「まずはそいつからだ!」

指示を聞いた式神がこちらに向かって走り出す。

こちらは、動かずに向かってくるのを見つめる。


まさに攻撃を仕掛けようと飛び込んでくる式神をギリギリまで引き付ける。

握られたナイフが目の前まで迫ったその時、一枚の札を取り出す。

「っ!引け、それは罠だ!」

引くように式神に指示を出すが、もう遅い。

札はもう、式神の目の前に迫っていた。

「あるべき姿に戻り給え。急急如律令!」

簡潔に、それでいて正確な呪文を唱え、式神に札を貼り付ける。

カラン、と音を立てナイフが地面に落下する。


倒れた人体模型。それを見て崩れ落ちる先生を横目に、再び理科準備室に入る。

机に置かれた人型と釘を回収する。

部屋から出るとすぐに子供たちと星螺が駆け寄ってくる。


「杏華姉様!危険なことしないで!」

「いや、一回で決めるにはあれが一番確実だったから」

「だとしても!怖かったんだから!」

泣きそうになりながら訴えてくる星螺にまだ子供だなぁなんて思っていると、目を輝かせた子供たちと目が合う。

「お姉ちゃん、カッコよかった!」

「おー、そうか」

「ビュンって、シュって!」

「分かった、分かった。お前らそろそろ授業だろ。教室に戻れ」

時計を確認しパタパタと教室を去っていく。

残されたのは、私と星螺、そして項垂れたままの先生。


「人型は回収させてもらったから。もう二度とこんなことすんなよ」

「……なぜ」

「は?」

「なぜ呪詛返しをしなかった」

先生から出たのは呪詛でも負け惜しみでもなく、疑問だった。


呪詛返し(のろいかえし)

呪いを本人に跳ね返す術だ。

相手の呪いよりも自身の術が強くある必要があるが、成功すれば相手に同等の災いが降りかかる。

まさに、人を呪わば穴二つという言葉そのものだ。

しかし、危険な術でもある。


「あの式神は私のことを殺す気だった。そんなものを呪詛返しをすれば、あんたは死ぬ。どんな理由であれ殺人は犯罪だ」

「犯罪、か。呪いを用いた殺人は現代の法律では裁けないのにか」

「罪は罪だ。それに、人を呪ってもいいことなんてない。人を呪わば穴二つ」

「それがいいことであれ悪いことであれ、人に対する行いは必ず自分に返ってくる」

返ってくるなら、いいものでありたい。

呪術は人を守るために使うもので、人を傷つけるために使うものではない。

これは、私のポリシーでもあり、師である祖母の教えでもあった。


「……そうか」

納得したのかそう一言零す。

これで仕事は終了となるが、もう二度とこんなことをしないようにしなければならない。

とはいえ、式神を封印する方法はあっても、相手の呪術を封じる方法はない。

いや、もしかしたらあるのかもしれないが、今の私にはできない。

そのため、こうすることにした。


ポケットから紙で作った人型を取りだし、呪文を唱える。

「見張りとして精を宿し、この者と共にあり給え」

人型が手から離れ、先生の方へと向かう。

首からぶら下げた名札の裏に張り付き動かなくなる。

「それを監視として付けさせてもらう。あんたが呪術を使えば私に分かるようになってるから」

「もう使わねえよ。そもそもさっき使った札が最後の一枚だし、回収された物が俺の持ってる全てだ」

苦笑を零しながらそう告げる先生。

どうやら、嘘ではないようだ。

まぁ、一ヶ月くらいしたらやめてやろうと思う。


──────


「杏華姉様ー!」

婆ちゃんへの報告を終えて部屋から出ると星螺がものすごい勢いで飛び込んでくる。

約束通り理科室の件を解決させたため、星螺を祓わなくてもいいと正式に許可をもらった。

それに喜ぶ星螺と安心する私。

抱きついたまま離れない星螺、そのせいで扉の前で動けずにいると部屋から婆ちゃんが出てくる。

その手には首輪のようなアクセサリーが収まっていた。



「婆ちゃん、それは?」

「チョーカーだよ。これを星螺に渡そうと思ってね」

婆ちゃんは星螺を手招きすると、その首にチョーカーを付けた。

チョーカーには青色の宝石のようなものが付いていて、そこからは不思議な力が感じられた。

「その宝石にはあたしの術がかけられてる。まぁ、悪霊化を防ぐ御守りみたいなもんだ」

「あんたとの契約だけじゃ、心もとないからね」

引退したとはいえ、婆ちゃんの術は強力だ。

力を借りられるのはありがたい。


ちなみに、契約というのは今さっき婆ちゃんから聞いて初めて知った。

悪行罰(あくぎょうばっし)示神(しきがみ)と言って、過去に悪事を行った強力な霊を倒し、服従させて使役する式神。

星螺はそれに部類されるらしい。

どうやら、悪霊化を鎮め、未練を叶えたことが星螺の中では使役したことになっているようだ。


婆ちゃんからのプレゼントに鏡の前で飛んで喜ぶ星螺は使役している式神というよりは、妹というほうが正確だと感じた。

清水(しみず) 星螺(せいら)

虐めに耐えかねて自殺した小学生の霊

今は杏華の式神として契約している

制服が好きな女の子

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ここまで読んで下さりありがとうございます。

よろしければ、感想などいただけると励みになります。

今度ともどうぞよろしくお願いします。

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